第14話 敗走の先で
モウズで走り続ける二人。
辺りの様子も変わっていき、大きめの岩やサボテン、乾燥に強い草木もちらほらと見え始めた。
縄張りから離脱したことを察したディケンズが、ライラを確認する。
モウズにもたれ掛かるように身を預け、垂れ下がった左手に巻かれた包帯は赤く染まっていた。
ディケンズはモウズを止め、二つの大きい岩の間にライラを寝かせると、大きい素材を入れる袋を破り、岩に引っ掛け日除けを作った。
「済まん・・・」
「気にするな。この辺りならルルたちのいるガルートが一番近いが、あそこじゃあその傷は治療出来ん。少し休んだら、ニグまで行くぞ。」
「ああ。」
辛そうではあったが、横になった事で少し緩和されたように見える。
「ディケンズ、水はあるか?」
「ちょっと待ってろ。」
ディケンズはモウズに付けてある水筒を取り、ライラに渡した。
水を飲んだライラは少し落ち着いた。
「・・・負けたな。」
「ああ。」
「くそったれ。」誰に言うでもなく毒づいた。
「仕方ないさ。言っただろ?小手調べだって。その結果、まだ勝てんと分かったんだ。」
「小手か・・・武器屋に頼む、籠手が出来てりゃあ、こいつは免れたかもしれねぇな。」
ライラはそう言って左手を上げ、痛みに顔をしかめた。
「俺達自身も装備も鍛えていかねぇといけねぇって事だよ。」
「それを知る代償にしちゃあ、ちとデカいけどな。」
フッとライラが笑う。
「そろそろ行けそうか?」
暫く休んだ後、ディケンズが声を掛けた。
ライラの体力を考えると日中の砂漠の日差しの中、移動し続けるのは厳しい。だが、時間が経つほどにライラの傷が酷くなっていくのは明白だった。
「ああ。大丈夫だ。水もそんなに残ってねぇし、ニグまでノンストップで構わねぇ。」
ライラが身体を起こそうとした時。
ブォーンという独特な羽音が聞こえた。
二人の動きが一瞬止まる。
「・・・おいおい。」
「アタシたちは何もしてねぇぞ。」
「そもそも、まだ蜂蜜の時期じゃねぇだろ。」
「たまたま出会ったってか?」
「タイミングは最悪だな。」
二人は羽音だけで全てを理解し会話を進める。
この羽音はルルたちが退治しているギルニアビーと言う蜂の魔物が、敵対した相手に出す威嚇音。
ガルートの村を守る為の防衛ラインはもっと村に近い。
つまり、相手はルルたちとは別の何かになると言うことだ。
ディケンズが岩影から顔を出し覗く。
「・・・案の定か?」
ライラが上体を起こしながら訊く。
「ああ、案の定だ。」
ディケンズの視線の先には、ギルニアビーが5匹が翔んでいる。
体長は20cm程あり、丸々とした身体で温厚。砂漠では数少ない花の蜜を集める魔物。決して攻撃的な魔物ではないが、臀部には天敵向けの鋭い針がある。
そして、ギルニアビーの輪の中で一頭の魔物が両手を大きく上げ、威嚇をしている。
ロックロックス。2m程の体長で、一見すると灰色の毛皮を持つただの熊とそう変わりはない。
ただ、この魔物は厄介な能力を持っていた。
一匹の蜂がロックロックスを狙い、鋭い針で攻撃する。
後方に跳んで躱したロックロックスが全身を震わせてから、砂浴びをするように全身を地面に擦り付ける。
するとみるみる全身の毛が硬化していき、岩のように硬くなる。まるで岩で出来た鎧を纏っているかのようだった。
ロックロックスの体内で生成される特殊な液体は、毛先から分泌され、砂と混じる事で岩のように硬くなる。これがロックロックスの最大の武器であり、攻撃力と防御力が格段に向上する。
また、この分泌液は口から吐くこともあり、相手にかけて、動きを鈍らせたり、地面に吐いて作った岩を投擲物として使うこともある。
「何とかやり過ごせそうか?」
「いや、近すぎるな。厳しいかもしれん。」
ライラの質問にディケンズが答える。
「水もそんなに残ってねぇぞ。」
「ニグまでに道にオアシスはないからな、使いたくないところだ。」
ロックロックスの弱点は水である。硬化したものは水を掛けることで軟化する。
この魔物に挑む時は大抵の場合、水魔法を使える者を同行させるか、大量の水を消費出来る準備をしておく為、ランクCに位置付けはされているが、比較的簡単に狩れる。ただ、素材に旨味が無い為、好き好んで狩る者は少ない。
「とりあえず、蜂と遊んでる間に見つかる覚悟で走るか。もう硬化してるから、素早くは無いだろう。」
「だな。」
二人はモウズに乗り込み走り出す。
飛び出した瞬間に羽に岩が付着し、飛べなくなった蜂が目の前に投げ飛ばされてきた。
ディケンズがロックロックスを見て言った。
「くそ!もう蜂を始末してやがる。ライラは前を行け。」
「済まねぇ。」
二人は暫く逃げ続けたが、魔物は必要に追ってきた。
次の瞬間、魔物が吐いた分泌液がディケンズの乗るモウズの脚に当たる。
砂が纏わりつき硬化したことで転倒し、乗っていたディケンズも投げ出された。
「ディケンズ!」
ライラもモウズを飛び降りた。
「お前は行け!」
「そう言うわけにはいかねぇよ。大丈夫だ。躱すだけなら何とかなる。陽動くらいなら出来るはずだ。」
ディケンズは岩が付いて脚を引き摺っているモウズの頭を撫でて「済まねぇ、後で治してやるからな。」と言うとソールオングルを取り出して離れた。
「そいつでいけるか?」
「最大出力なら、装甲は剥がせるはずだ。」
「了解。」
ライラは駆け出し、囮になる。
身体が硬化し、小回りが利かないロックロックスの速度ならば、手負いのライラでも回避に徹すれば何とか立ち回れた。
ライラが引き付けている内に、ディケンズは出力を調整して構えて狙いをつける。
頭を狙って放たれた光弾だったが、微妙に外れ肩に当たった。
爆発とともに肩の岩が弾けたが、肉体までには傷は至っていなかった。
「くそ!やはり装甲だけか!」
「もう一発、同じ所にぶちこめ!」
ディケンズに標的が向かないよう、正面に回ったライラが言う。
「無茶言いやがる。」ぼやきながらも再度構える。
タイミングを見て、再び放つが今度は脇腹に当る。
その時、弾け跳んだ岩の一部がライラの左腕に当たった。
「ぐっ!」
ライラの動きが鈍った事に気付いたロックロックスが分泌液を吐く。
咄嗟に横っ飛びをしたライラだったが、その足に分泌液が掛かる。
地面に転がると同時に足に岩の塊が纏わりついた。
「ライラ!逃げろ!」再び、構えながらディケンズが叫ぶ。
「む、無茶言いやがる。」
走ろうとするも岩に足を取られて転倒する。その拍子に左腕をぶつけ、激痛が走った。
呻き声を上げ、左腕を押さえながら倒れたライラにロックロックスが迫る。
「くそったれ!」ディケンズが慌てながらも三度光弾を放つ。
流石に連続で当てられていた事もあり、警戒していたロックロックスはバックステップでそれを躱し、大きく跳躍して、ライラに向かい岩を纏わせた腕を振り上げた。
「ライラっ!」




