第12話 砂魔法
二人は、この前と同じ宿泊所に来ていた。
町を出たのが昼過ぎだったので、夜の戦闘を避ける為に早めに床に着くことにしていた。
エリーのパンを焚き火で軽く炙りながら、ライラが言う。
「朝一で出れば、昼前には辿り着くか?」
「縄張りには着くはずだ。会えるかどうかは奴さん次第だがな。」
途中で仕入れた肉を喰らいながら、ディケンズが答えた。
「野郎も夜は寝てるだろうから、そう遠くには行かねぇだろ。」
「多分な。」
「初手は様子見で動くか。」ライラもパンを齧った。
「あの辺りは隠れながら戦うのは難しい。尻尾が驚異なら、前後で挟み込んで後ろの奴は尻尾に注意して、避けに徹するってとこだな。」
「アタシの魔法なら潜って、不意打ちも出来ねぇことはないぞ。」
「奴は二足歩行だからな。尻尾と同じくらい脚も強靭なはずだ。考え無しに突っ込むのは危険かもしれん。」
「なるほどな。」
「そういや、お前の砂魔法って一体何が出来るんだ?」
ライラの使う砂魔法は一般的に外魔法と呼ばれる。
神々が造り出した光魔法。そして悪魔たちが造った闇魔法。対をなす2つの魔法は、全ての根源として「真魔法」と呼ばれている。
そして、そこから派生するように生み出された火、水、風、雷、氷、土の6種類の属性魔法が「周魔法」と呼ばれる。
その外側にあるとされる魔法。それが「外魔法」だった。
一般的に言われている定義としては、外魔法は無から魔法を生み出す事は出来ないとされている。だから、ライラも砂がないところでは使うことが出来ず、適した環境のみで力を発揮する。
しかし、真魔法や周魔法に比べて研究は進んでおらず、公的な定義は無い。
その為、真魔法、周魔法に含まれないものを全て外魔法としているので、学者たちの中には外魔法は突然変異的に生まれた、その者自体の特殊能力だとする者もいる。
「何って、大したこと出来ねぇよ。」
そう言って、手を地面に翳す。
地面の微量の砂が集まり、小さな玉を作り出す。
「こうやって、玉を作って投げる。まぁ、目潰しにしかならねぇな。」
ライラが魔力を解くと玉が弾け、ただの砂に戻った。
「後は短時間、砂に潜れるのと・・・」
ライラが腰から短剣を取り出す。
「こいつが砂の上なら多少は自由に動かせる程度だな。」
デザイルと呼ばれるその短剣は、砂中に生成される「デザーグ結晶」という鉱石から作られた蒼白い短剣で、砂魔法の触媒としての力を持つ。
「それから、こいつの剣身に砂を集めて、デカい剣に見せ掛けることも出来るけど、所詮は砂だからな。人間相手のブラフなら兎も角、魔物相手じゃほとんど意味ねぇな。」
「直接的な攻撃は無いって事か。」
「そうだな。ほぼ陽動か撹乱だ。」
「普通の魔法みたいに、鍛練で強くなったりはしないのか?」
「どうだろうな?砂を動かしやすくなるとかはあるけど、新しい魔法ってなると、正直分かんねぇや。」
「魔法研究所で訊いてみたらいいんじゃないか?」
「あぁ~。アイツら、アタシを研究材料にしようとするからな。ちと面倒なんだよな。」
「そうは言っても、これから先の事を考えれば、使えるもんは使っといた方がいいだろ?」
「まぁ、確かにな。暇が出来たら行ってみるさ。」
「武器も新調しねぇとな。鉄の剣と鉄の斧ってわけにもいかねぇよな。」
ライラはカットラスを見ながら言った。
「だな。だがミスリル鋼ってなると値が張るぞ。」
「そうなのか?」
「ギルニアじゃあ、良質なミスリル鉱石がほとんど採れないからな。採れたもんは、優先的に騎士団に回される。」
「なるほどな。」
「狩った魔物の素材で見繕うしかないだろうな。それでも多少の鉱石いるだろうけどな。」
「あっ!」
「どうした?」
ディケンズの言葉に、思い出したように持ち物を探る。
「そういや、ウィーグテイルの甲殻で籠手を作ろうと思ってな。素材リストを貰ったんだけど・・・どこやったかな。」
手当たり次第探っていると、くしゃくしゃになった紙が出てきた。
「あぁ、これだこれだ。」
紙を広げて、中身を確認した。
「まぁ、大体店で手に入るか・・・ハルマ鉱石って店で買えるよな?」
「買えるが、そこそこするぞ。メイリスの近場でも採れるから、自分で採りに行けばいいんじゃないか?」
「鉱夫たちが黙っちゃいねぇだろ。」
「地上はそうかもしれないが、砂の中なら文句は言わねぇさ。」
「そう言うことか・・・確かにありだな。」
「ハモンドも欲しがってたぞ。」
「じゃあ、適当に採って、残ったもんを売り付けるか。」
「案外、そっちの方が儲かるかもな。」
二人はその後も下らない話をして、眠りについた。
翌朝、早いうちから宿泊所を出た二人は西に向かった。
外観を岩に似せている宿泊所の周辺は、比較的岩石の多い地帯だが、西に行くにつれ、それは少なくなり、そして草花すらほぼ無い、開けた砂地に辿り着いた。
遠くまで見渡せる砂の大地に乾いた風が吹いている。
「ここらだな。」ライラが見渡しながら言う。
「ああ、こんだけ視界が開けてりゃあ、すぐに見つかるだろう。」
「言った傍からだぜ。」ライラが顎で指した先に大きな魔物が見えた。
「ほんじゃ、行きますか。」
二人はモウズを走らせた。
少し距離を取った場所でモウズを降り、離れさせる。
そのタイミングで前方の魔物もこちらを視認した。
「さてと。」ディケンズが言う。
「狩猟開・・・うぉ!」
ライラが言い切る前に、アルドギドスは威嚇をすることもなく、口から火球を飛ばす。
二人は左右に大きく飛んで避けた。
「あの野郎、情緒ってもんはねぇのかよ!」
「そんなもん、魔物に求めてどーすんだ。さぁ、蹴散らすぞ。」
「おうよ。」
そうしてアルドギドスの狩猟が始まった。




