第11話 メイリスの一日②
夜の酒場は賑わっていた。
21時を回り、一般の客は帰路につき始め、客のほとんどは生活のサイクルが定まってない狩人だった。
ディケンズ、ルッソ、そして狩りを終え、戻ってきていたハモンドの三人がテーブルで飲んでいるところへライラがやって来る。
「オッス。」
ライラが今日は初めて会うハモンドに挨拶をした。
「おう。」
「今日は出てたのか?」
「ああ、ちょっとニグに行く予定があってな。小物の依頼だったから、ついでに終わらせてきたんだ。」
茶髪で細身なルッソに対し、ハモンドは長髪の黒髪に顎髭を蓄え、肉付きがいい。ほとんどが筋肉だが四十を前にして、それなりに腹が出ている。
「ディケンズから話は聞いた。相変わらず、とんでもねぇことを考えるな。」ハモンドが太い声で言う。
「ああ、つまらねぇ人生に色をつけてみたんだよ。」
「んで、アルドギドスをやるってか?」
「小手調べにな。戦ったことあるか?」
「まさか、こちとら家庭持ちだ。そんな危ねぇ橋渡らねぇよ。」
「アルドギドスって言えば、何年か前にニグの狩人が殺されたな。」
ルッソが横から言う。
「尻尾の一撃でアバラをやられて、そのまま持ってかれたって話だったな。」ディケンズが繋いだ。
話の途中でルネラが料理を持ってくる。
「はい。お待たせよ。ライラちゃん、いらっしゃい。何にする?」
「とりあえず、何でもいいから酒をくれ。」
「はいよ。」
「相変わらず、酒に拘りがねぇな。」ルッソが溢す。
「酒なんて酔えればいいんだよ。アタシは酒を嗜む自分に酔いてぇんじゃなくて、酒に酔いてぇんだよ。」
「格好良いねぇ。」ルッソが口笛を吹く。
「何だこいつ。もう出来あがってんのか?」
ルッソの顔は赤らんでいた。
「まぁ、ルッソは好きだけど、弱いからな。」ハモンドが答える。
「それで?策はあるのか?」ハモンドが話を戻し、ディケンズに聞いた。
「さぁな。正直、あんまり情報もねぇしな。」ディケンズが答える。
「まぁ、出たとこ勝負だな。」ライラが続く。
「はっはっ!大したもんだよ。お前らは。」
「ランクBが、如何ほどのもんかだな。」
「ランクってのは何なんだ?」ライラの言葉にハモンドが尋ねる。
「王都で制定してる民に対する危険度らしい。」代わりにディケンズが答えた。
「へぇ、他にはどんなのがいるんだ?」
「あぁっと、何がいた?」
「あん?」ルネラが持ってきた酒を受けとると一口飲み、ライラが答えた。
「確か、ルブンドヒルとかデルタパドムが入ってたな。」
「化け物ばっかりじゃねぇか。」
ハモンドが思わず驚く。
「ああ、張り合いが出るだろ?」
「張り合いよりも死相が出そうだな・・・」
「まぁ、ヤバくなりゃあ、逃げちまうさ。流石にこんな初っぱなから、死ぬわけにもいかねぇしな。」
「死んだら、その大砲は俺が貰ってやるよ。」
「はっ、冗談きついぜ。」
ディケンズは笑いながら酒を煽った。
「それで、いつ出るんだ。」
「まぁ、どうせ明日は昼くらいに起きるだろうから、そっから準備してって感じだな。」
「そうか。精々気を付けろよ。」
「任せとけ、アルドギドスの肉を奢ってやるよ。」
「おう。宜しく頼むぜ。」
そうして三人は、酔い潰れたルッソを余所に酒盛りを続けた。
翌日。
シャワーを浴び、身支度を整えたライラが酒場に入る。
いつも通りカウンターに座ると、エリーがハーブティーを出した。
「何、食べます?」
「いや、いい。変わりにパンを何個か保存袋に入れといてくれ。」
「ん?じゃあ、今日は遠出ですか?」
「あぁ、ちょっとな。」
「いいなぁ。私も一度、モウズに乗って砂漠を旅してみたいです。」エリーは言いながら、手際良くパンを準備する。
「旅ってほど遠くはいかねぇし、ただ暑いだけだぞ。」
「それでも憧れますよ!」
「なら、狩人になるか?今からでも遅くねぇぞ。」
「あぁ~それはちょっと。私の道はこっちなので。」
そう言いながら、皿を持ち上げる。
「料理か。」
「ハーブです。」
「ハーブかよ。」
そこへディケンズがやって来る。
「ライラ、準備は出来たか?」
「ああ。今、喰いもんを仕入れたところだ。」
エリーと挨拶を交わしながら、ディケンズが薬と包帯をライラに投げる。
「エドゥリアのところで仕入れた傷薬だ。一応、火傷に効くやつを見繕っておいた。」
「おう。ありがとよ。」
「なんか仰々しいですね。大物なんですか?」
「ああ、もしかすると死ぬかもしれねぇな。」
「えーっ!嫌です。死なないで下さい!」
「あぁ、心配するな。いざとなれば逃げ・・・」
「これ以上、売上が落ちたら、お店が大変です!」
「そっちの心配かよ。」ライラが突っ込む。
「へへっ。冗談です。ちゃんと帰ってきて下さいね。」
エリーはイタズラっぽく笑った。
「勿論、そのつもりだ。」ディケンズが答える。
「豪華な食事を用意して待ってます。」
「ああ。でも多分、飯は夜の酒場で喰うけどな。」
ライラが返した。
「えぇ~!じゃ、じゃあ自分の為に豪華な食事を作ります!」
「うん、まぁ、それは好きにしてくれ・・・」
暫しエリーと会話した二人は酒場を出て、町の入口にあるモウズの小屋へ向かう。
それぞれ自分のモウズを呼び、装備を乗せる。
「流石にでけぇ袋がいるよな?」
「ああ、最悪、二頭に繋いで引きずる事になるだろうな。」
準備を整え、二人はモウズに乗り込んだ。
「んじゃ、行きますか。」
「だな。」
二人はメイリスを出て、南西に向かった。
砂漠と一重に言っても、様々な場所がある。
オアシスは勿論、草花のない砂地や、サボテンなどの乾燥に強い草花が点在する地帯。大小様々な岩が露出している岩石地帯などがあり、それぞれの場所に適応した者たちが縄張りにしている。
二人が目指すのは、メイリスとルルたちが向かったガルートの丁度中間地点辺り、ほぼ砂地で出来ている地帯だ。遮蔽物のないその地帯は、見通しが良いと同時に隠れる場所もない。
進み始めて、一時間ほど経った頃、二人の右手に見覚えのある一団が見える。
イルミドールに向かったミゲイル率いる王国騎士団だった。
交差するようにすれ違う時、先頭のミゲイルにライラが声を掛けた。
「よぉ!小隊を連れてった割には遅いご帰還だな。もしかして敗走か?」
ライラの軽口に怒るかと思われたミゲイルは、淡々と答えた。
「我々は勝った・・・」
その表情と声には疲労が見てとれる。
「随分と疲れてるな。普段からふんぞり返って動かねぇか・・・」
「おい。」ライラの皮肉をディケンズが止めた。
「何だよ?」
ライラが振り返ると親指立てて、隊の後方を指差す。
隊の最後尾には、誰も乗せていない二頭のモウズがいた。
それぞれのモウズはハーラル王国のシンボルカラーである黄土色に塗られた木箱を引きずっている。それは丁度、人一人が入るサイズであった。
気付いたライラは口を止めて黙る。
ディケンズは通りすぎて行く兵士たちの顔を目で追い、あの時、発煙筒を渡した新兵がいないと分かると目を閉じた。
「なぁ、ディケンズ。」
「何だ。」
「これが民に取っても、国に取っても最善策の結果かよ・・・」
ディケンズは何も答えなかった。
「・・・解せねぇな。」ライラは吐き捨てた。
ディケンズは小さく祈りを捧げ、ライラは一行が砂埃に消えて、見えなくなるまで見つめていた。




