第10話 メイリスの一日①
翌朝。
朝とは言っても、夜中に寝た為、もう10時を回っていた。
酒場に入ったディケンズはエリーに朝食を頼んだ。
エドゥリアに渡された説明書を読んでいると目の前にティーカップが置かれる。
「本日のハーブティーです。」
エリーが笑顔で言う。
エリーはハーブティーを布教するため、どの客にもタダで提供する。彼女自身に全く悪意は無いため、ハーブティーが苦手な者も苦笑いで対応している。
ディケンズは香りを嗅いで、一口啜ったところで思いだして「ちょっと待っててくれ。」と言い酒場を出ていった。
暫くして、戻ってきたディケンズがハーブを渡す。
「わぁ!ありがとうございます!」
受け取ったエリーは喜びながら香りを嗅ぐと、自分の名札が付いている棚にハーブを仕舞った。
「確か・・・グラス何とかだ。」
「グラシスニードですよ。」
言いながらエリーが肉を焼き始める。
「ああ、そうだったな。乾燥が必要とか言ってたぞ。」
「はいっ!大丈夫です。前にも何度かやったことがありますから。」
「後、やはりローゼルがここに顔を出すのは難しいらしい。」
「えぇ~!それは残念です。」エリーは悲しそうな顔で答えた。
「ただ、エリーの方でエドゥリアの店に来てくれだとよ。」
「ホントですか?やったぁ!」
「ローゼルの事だ、多分ケーキくらいは出すだろう。」
「でも、突然行ったら迷惑ですよね?」
「いや、良いんじゃないか?」
エリーの質問に答えたつもりだったが、エリーには聞こえていなかった。
「でも、呼んで下さったって事はいいんですよね。あぁ~何着ていこう!ニグに行くなら変な服着れませんよね。新しいの見繕って貰おうかな。あっ!でもでも、ただのお茶会に呼ばれただけなのに、新品の服なんか着てったら田舎者丸出しですよね?それにそれに、折角呼ばれたのお土産も持っていかないなんて失礼かも!」
「あぁー、エリー?」
一人で問答を繰り返すエリーの前で肉がどんどんと焼けていく。
「お土産って言ってもメイリスにハーブティーに合う特産品なんて無いしなぁ。でもお茶会で食べる必要も無いのか。なら何が良いんだろ?そもそもこんな沢山のハーブを揃えれるくらいだから、珍しい物なんてあまり無いかも。なら、純粋に美味しい物が良いかなぁ。」
「エリーっ!!」
「はいっ!」
張り上げたディケンズの声にエリーが我に帰る。
「肉、焦げてるぞ。」
「あ・・・」
結局、焦げた肉を堪能したディケンズは酒場を出る。
酒場は町の中心部にあり、目の前は大きな広場になっている。人々の住居は、この広場に繋がる為、必然的に多くの人の集まる。そこには親たちが談笑しながら見守る、子供たちも遊んでいる。
ディケンズが通り過ぎようとしていると、後ろから一人の少年が声を掛けた。
「ディケンズさん!」
「お、ハモンドのせがれじゃねぇか。」
ハモンドはメイリスの狩人の一人で、ディケンズと同じく斧を使う。
「稽古してよ!」
言うと同時に持っていた二本の木の棒の一つを投げ、ディケンズはそれを受け取った。
親が狩人の子供は、親と同じ狩人を目指す者が多く、小さな頃から訓練と言う名の決闘ごっこをしている。
「仕方ねぇな。」
そう言ってディケンズが構える。
考え無しの正面からの連撃を受けながら、ディケンズは後退していく。
タイミングを見て、手の力を抜くと、切り上げた子供の攻撃が木の棒をディケンズの後方へ飛ばした。
ディケンズが振り返り、木の棒を拾おうとすると、後ろから「隙あり!」と声が聞こえた。
しかし、切りかかろうとする子供の足元にディケンズの尻尾が飛び、足払いを掛けられた子供が転んだ。
そこへ拾った木の棒を向ける。
「残念だが俺の勝ちだ。」ディケンズが笑う。
「尻尾を使うなんてズルいよ!」
「何を言ってる?狩人に成りたいんだろ。俺たちの相手はほとんどが人間じゃない。相手の姿形を見て、どんな動きをするか予想し、それに対応するのも狩人の大事なことだ。武器の使い方や力が全てじゃないぞ。」
ディケンズは木の棒を返す。
「あと、隙が出来た時に『隙あり』と叫ぶのは止めろ。それは馬鹿の戦い方だ。」
「は~い。」
「父ちゃんを越えたいなら、しっかり励めよ。」
そう言い残し、ディケンズは広場を抜けた。
広場を抜けた奥に、子供用ではない狩人たちの訓練所がある。狩人たちが誰となし金を出し、或いは自作した訓練用の器具などあり、純粋な筋トレや武器の試し切り、模擬戦などを行う。
先程の広場よりは小さいが、開けたその場所を囲うように土嚢や丸太で壁が作られ、右手の壁の前には試し切り用の雑に作られた案山子が幾つかあり、反対側には筋トレ用の器具などがある。
ディケンズが入ると、中央で模擬戦をしている者の影が見えた。
「隙ありぃ!」
叫びながら、ライラが切りかかる。
背後を取られていた相手は、咄嗟に前転して躱す。
追撃を仕掛けるが、振り返った相手は右手の盾で攻撃を往なし、左手のショートソードで反撃に転じる。
攻撃を往なされバランスを崩していたライラだったが、類い稀無い体幹で、横振りで来た斬撃を背面飛びの要領で躱した。
「相変わらず、人間離れした動きだな。」
「基本に忠実なルッソには、ちと難しいかな?」
「うるせぇよ。」
ルッソは先程の子供の父親であるハモンドの相棒で、ショートソードと盾と言うオーソドックスな武器を持つ。
狩人の中で、盾を使う者は珍しい。
一番の要因は騎士団と同じ武装を嫌うと言う子供染みた理由だが、多くの者は魔物を攻撃を受けるより、躱す事を選択し、その分まで攻撃に振る。
だが足を取られる為、重い鎧では厳しい砂漠に於いて、咄嗟に攻撃を防げる盾はかなり優秀な部類に入り、堅実な戦い方が好きな者の評価は高い。
「朝から精が出るな。」
ディケンズの言葉に二人が振り向く。
「よぉ!おはようさん。」ルッソが手を上げて挨拶する。
「やっと起きてきたか。」とライラ。
「正直、お前の事だから、昼過ぎまで寝てると思ったが、意外と早く起きたんだな。」
「いや、寝てねぇだけだよ。」
「寝てないのか?」
「ああ。戻ってきてシャワー浴びて、軽く飯喰ってから、ずっとここで鍛えてたさ。これからの事を考えると、少しでも体力付けときたいからな。」
「まぁ、お前の自由だが無茶はするなよ。」
「あいよ。」
「んで、ディケンズも一戦やるか?」ルッソが言う。
「いや、俺はこいつの試し射ちに来たんだ。」
そう言ってソールオングルを掲げる。
「そういや部品が来たんだったな。」
「どうなったんだ?」
「見せてやるよ。」
ディケンズが案山子に向けて構える。
ライラとルッソはその後ろで見ている。
「先ずは、今まで通りの奴だ。」
バシュー!という音ともに光弾が飛び、案山子にあたり爆発した。
「いつものだな。」ライラが言う。
「そんで、こいつが出力を上げた奴だ。」
ディケンズが取り付けたツマミを調整して、再び放つ。
今度は収束された小さな光弾が先程よりも早く飛ぶ。
案山子を貫通し、その向こうの土嚢の壁を爆発させた。
「おぉ!」二人が声を揃えて驚いた。
「貫通力、速度が上がる。多少飛距離も伸びるな。」
「表面的爆発じゃなく、甲殻を貫いて、中で爆発させれるって事か?」
「甲殻の硬さにも寄るがな。んで、最後が・・・」
再びツマミを調整すると、射つ瞬間にディケンズが目を瞑る。
今度は目の前で大きく光が弾ける。
目の前の閃光に二人は目をやられた。
「うわぁ!」
「おい、バカ!」
「へへっ、こいつは危ねぇときに目眩ましに使うんだ、距離は出ないから接近でしか使えねぇがな。」
「目がぁ!」ルッソは目を押さえて悶える。
同じく目を擦りながら、ライラが「先に言えよ。」とぼやく。
「お前にはこないだ、話したろ。」
落ち着いたところで、ディケンズが言う。
「兎に角、これで使い分けが出来るようになったって事だ。」
「でも、戦闘中にサッと切り替えれるのか?」
ルッソが問い掛けた。
「それを今から鍛練するのさ。」
「何なら俺が想定敵をやってやろうか?」
「頼めるか?」
「ああ。でも本当に射つなよ?」
「分かってるよ。」
「んじゃ、アタシはそろそろ帰って寝るわ。」
「了解。」
「夜に酒場でな。」
「おう。」
そうしてライラは去り、ディケンズは鍛練を続けた。




