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四、殺人者

 西宮が客室の庭に戻り、そこで待っている李残花と李祁に事情を説明すると、李残花は驚いた。「つまり、唐枯を殺したのは唐邪だと?昨日楚嬢さんを治してくれたあの娘?」

 西宮はため息をついた。「その通りだ、俺も信じられないが」

「あり得ない」と李残花は首を横に振って断言した。「昨日彼女が手当てしたところ、あんたたちも見たんだろう。そんな医者が人を殺さないとは言えないが、少なくとも病人がまだ完治していない間に殺人なんかしない、さすがに辻褄が合わない」

 李祁は言った。「拙者はそうとも限らないと思います。昨日唐邪はまた薬を二回飲めば完治だと言いました。薬を煎じることくらい誰でもできると、彼女が思うかもしれません」

 李残花は李祁に目を向けた。「ほう、あんたは本当に彼女がやったと思うか。それはちょっと意外だな」

 李祁は苦笑した。「信じたくはありませんが、今の状況では、間違いなく彼女の嫌疑が最も高いです。何より本人が罪を認めましたから」

「本人…ね」と李残花が呟き、何かを考えているところ、李祁はため息をついた。「とにかく、これは唐門の家事です。拙者が今心配しているのは、やはり搖光が受けた毒です」

 この時、庭の外から唐霊の声が伝わってきた。「それはご心配なく、妹さんの毒は唐門が必ず完治させるから。もちろん、妹さんがこの薬を飲む度胸があるならね」

 その話し声が消えると、四人が庭に入ってきた。

 先頭に立っているのは木皿を持っている唐邪、木皿の上に椀が一つあり、椀の中には湯気が立っている薬湯やくとうがある。

 唐邪の左右には見知らぬ二人の唐門の弟子、後ろには唐霊、三人とも影が身に添うようにしっかりと唐邪の傍に付いている。

 唐邪は言った。「これは今日の薬です。冷めないうちに楚嬢さんに飲ませたいですが、宜しいですか」

 西宮と李残花は李祁を見て、李祁は暫く黙って、頷いた。「拙者は医者としての唐邪嬢さんを信じます。拙者に付いて来て下さい」

 諸人が楚搖光の部屋の前に立ち止まり、李祁は唐霊に言った。「部屋が狭い、ここは唐邪嬢さんと拙者、二人で入りましょう。この部屋の出口はここしかありません、唐邪嬢さんは逃げられません」

 唐霊は首を横に振った。「いいえ、いつでも、少なくとも一人が彼女を見ていなければならない。そうさん、あなたが付いて行って下さい」

 唐邪の右側に立っている同じ年頃の少女が応じた。「はい」

「やはり用心深いですな。では、拙者に付いて来て下さい」と言って、李祁は先に部屋に入り、唐邪と唐霜も従った。


 楚搖光は寝床で座っている、目が覚めているが、元気がなさそうだった。三人が部屋に入ったのに気づき、楚搖光は目を向けて微笑みを見せた。

 李祁は寝床に近づいて聞いた。「搖光、起きたか、体調はどう?」

「もう、大丈夫だよ。心配させちゃったね」と楚搖光は言ったが、その声に隠し切れない疲れが聞こえた。

 唐邪は手に持っている木皿を差し出して言った。「これは今日の薬です。どうぞ、冷めないうちに飲んで下さい」

「ありがとう」と言って、楚搖光は椀を手に取ろうとしたが、上げた手は震えて止まらなかった。

「無理しないで、俺が持ってあげよう」と李祁は言ってから、椀を手に取って楚搖光の口元に運んだ。

 楚搖光が口を開けて、一口飲んだら、眉を顰めた。「苦い」

 唐邪は言った。「薬の味にも意味があります、この薬は苦いからこそ効くのです。どうぞ我慢して飲み干して下さい」

「分かった」と言って、楚搖光は再び口を開け、一気に薬を飲み干した。

 それを見て李祁はほっとして、椀を木皿に戻した。「よくやった。では君はゆっくり休んで、俺たちはこれで…」と言いながら李祁が立ち上がろうとした時、ふと袖が掴まれた。

 李祁が振り返って見ると、その袖を掴んでいるのは楚搖光の右手、そして彼女は左手で胸元を押え、苦しそうな顔をしている。

 李祁は血相を変えて驚いた。「搖光!どうした」

 楚搖光は口を開けたが、言葉より早く血を吐き、目の前の布団を赤く染めた。

 李祁は立ち上がって唐邪の腕を掴んだ。「お前、何をした!」

 唐邪の表情は変わらなかった。「何もしていません」

「ではなぜ…」と李祁がまた言おうとした時、袖がまた引っ張られた。振り返ると、楚搖光は彼を見て言った。「大丈夫、私はもう大丈夫だから。今血を吐いたら、大分すっきりしたわ。ただし、この布団は台無しだけど」

 李祁は唐邪を掴んでいる手を離し、寝床の傍にしゃがみ、楚搖光の顔をよく見て聞いた。「本当か、本当に大丈夫か」

「もちろん本当だ」と答えてから、楚搖光は唐邪を見て言った。「ありがとう、医者さん」

「そうだ、君はまだ知らないね。この方が唐門四傑の唐三嬢さん、唐邪だ」と李祁は紹介した。

 唐邪は淡々と応じた。「礼には及びません。楚嬢さんは静養して下さい、私は明日また来ますから」

 李祁は立ち上がって唐邪に謝った。「すみません、先程は気が早くて、つい唐三嬢さんに悪いことをしてしまいました」

 唐邪は軽く首を横に振った。「構いません、私が事前に説明しておかなかったせいです。ではお先に失礼します」


 唐邪が部屋を出ると、また来る時のように、三人に囲まれて庭を出て行った。

 間もなく、李祁も部屋を出たのを見て、西宮は聞いた。「楚嬢さんの状況はどうだ」

 李祁は答えた。「今薬を飲んで、大分良くなったみたいです」

 西宮はほっとした。「それは良かった」

 李残花は庭の扉を眺めて何かを考えているようだった。

 それを見て西宮は聞いた。「何を考えている」

 李残花は言った。「間もなく死刑に処される人として、彼女はさすがに冷静過ぎだと、思っている」

 西宮は言った。「確かに、俺もちょっと納得できない。後で俺がまた調べるから、新たな手がかりを見つけるかもしれない」

 李祁は言った。「或いは、彼女は既に目的を達成したから、未練がなくなったのではありませんか」

 李残花は首を横に振った。「あり得ない、毒を盗める者が唐邪と唐霊しかいないなら、殺人者は唐霊に違いない」

 西宮は聞いた。「ほう、その根拠は?」

 李残花は答えた。「女の勘だ」

「そうだね」西宮はため息をついた。「女の勘が断罪の証拠になれないことは、俺も実に残念だと思うよ」

 この時、庭の扉から大きな木皿を持っている女中が入って来た。「門主の命を奉じて、昼食を届けに来ました」

 李残花は女中に目をやって言った。「君は、今朝来た人ではないね」

 女中は答えた。「はい。今朝来たのは唐霊公子に属する女中の唐英、私の名は唐葉とうようです」

 李残花は聞いた。「あの唐英さんはなぜ来ないのかしら」

 唐葉は首を横に振った。「知りません、彼女がどこへ行ったか分からないから、私が代わりに来ました」

 李残花はまた聞いた。「ほう、失踪か。では君たちは探したか」

 唐葉は答えた。「一通り探しましたが、どこにも見つかりませんでした。唐枯公子のこともありますし、皆あまり気にしていませんでした。彼女は唐家堡からこっそり抜け出したかもしれません、或いは…」

「或いは?」と李残花は更に問うた。

 唐葉はふと神秘的な笑みを見せた。「或いは、彼女は今、唐霊公子の部屋に閉じ込められているかもしれません」

 ちょっと考えて、李残花も軽く笑った。「ふふ、どうやら君も色々分かっているね」

 唐葉は自慢そうに少し胸を張った。「もちろんです、私はこの唐家堡に来てから既に一年ですから」

 李残花は言った。「もう一つ聞きたいけど、唐英が唐門に入ったのはいつかしら」

「そうですね」唐葉は少し考えて答えた。「二ヶ月前、唐霊公子がどこかから連れて来たのです。『唐英』という名前も唐門に入った後、唐霊公子が付けたようです」

 李残花は頷いた。「なるほどね、色々教えてありがとう。食べ物はここに置いていいわ」

「はい、ごゆっくりどうぞ、後で私が片付けに来ます」と言ってから、唐葉は木皿を置いて庭を出た。

 唐葉の後ろ影が消えた後、李残花は西宮を見た。「彼女の話、どう思う」

 西宮は答えた。「とても興味深い。しかしそれは一体どんな意味があるか、また深く考えるべきだ」

「そうだね。でもお腹が空いたら深く考えることもできぬ、まずはご飯にしよう」と言って、李残花は先に座った。


 昼食後、西宮は庭を出て、李祁は楚搖光に付き添って、李残花は自室に戻った。

 黄昏の頃、西宮が帰って来ると、李祁と李残花も部屋から出て来た。

 夕食の間、李残花は西宮に聞いた。「で、一日調べて、何か分かったか」

 西宮は言った。「殆どは既に分かったことだ。唐邪は裏切り者の娘とか、唐英の失踪とか。そうだ、厨房で聞いた話だけど、今日唐霊が持って行った食べ物はいつもより多いようだって」

 李祁は言った。「ほう、兄の新喪にいもなのに、食欲が増したとは、おかしいですね」

 西宮は言った。「俺もそう思っている、だから唐英が唐霊の部屋にいるという噂は恐らく本当だ。唐枯の死と関係があるかどうか分からないが」

「では今早速唐霊の部屋を調べますか」と李祁が聞くと、李残花は止めた。「いいえ、それは打草驚蛇だそうきょうだの恐れがある、とりあえず明日まで待とう。私に考えがある、後で唐嬢様に相談して来るわ」

「ほう、それはどんな考えか、聞かせてもらおうか」と西宮が聞くと、李残花はただ軽く笑って言った。「天機てんき洩らすべからず」

 夕食後、李残花は庭を出て、門番の弟子に唐敗との面会を申し出た。間もなく通報に行った弟子が帰って来た。「門主は面会を許しました、どうぞ付いて来て下さい」

 唐敗の住み処は唐家堡の奥にある庭、庭の中に竹が沢山植えられている。庭の入口で道案内の弟子は立ち止まった。「門主はこの中で待っています、ここから先はお一人で行って下さい」

「分かったわ、お疲れさん」と言って李残花は庭に入り、間もなく姿が奥深い竹藪たけやぶに消えた。

 長い時が経って、月が高く昇った時、李残花が竹藪から出ると、案内の弟子はまだ元のところに立っていて、まるで一歩も動いていないようだった。

「お待たせ、帰ろう」と李残花が言うと、案内の弟子は言わず語らず、ただ頷いて、李残花を元の庭まで案内した。


 翌日、朝食後、西宮は庭を出た。そして前日と同じ時に、唐邪はまた楚搖光の薬を運んで来た。彼女の周りにも前日と同じように、唐霊、唐雨、唐霜の三人が影身に添っている。

 楚搖光の部屋の前に立ち、唐霊は言った。「これで最後だ、早速済ませておこう。念のため、今回はお二人とも付き合って下さい」

 唐雨と唐霜は頷いて、唐邪に従った。李残花も従って部屋に入り、李祁は彼女を一目見たが、止めなかった。

 楚搖光はまだ寝床で座っているが、血色が大分良くなって、全く病人には見えなかった。

 唐邪は薬の乗った木皿を楚搖光の前に差し出して言った。「これを飲めば完治です、どうぞ」

「はい」と答えて、楚搖光が椀を取ろうとした時、ふと李残花は言った。「待て」

 その話を聞くと、楚搖光は手を止め、唐雨と唐霜は李残花を振り向かって、唐邪は手が思わず震えて薬湯を少し零した。

 そして唐邪は聞いた。「どうされましたか、李嬢様」

 李残花は言った。「その薬、君自分が先に一口飲んで下さい」

 唐邪は応じた。「私には毒に中たっていません」

「しかしその薬には猛毒が入っている」と李残花は言って、唐雨と唐霜を見て続けた。「君たちは唐門の弟子なら、それが何の毒か、嗅ぎ当てられるはずだ」

 部屋に入ってから、唐霜は淡い花香を嗅いでいた。今薬が零した故、その香りが濃くなり、李残花に言われると唐霜はすぐにその香りの名前を思い出し、思わず口に出した。「月下香げっかこう

「その通り、日を見れば無事、月を見れば即死、いつ中っても夜に発作する猛毒、月下香だ」と言いながら、李残花は白い狐面を外すと、その下に隠されていたのは唐敗の顔だった。

 それを見て唐雨と唐霜はびっくりした。「門主、これは―」

「李嬢様と服を交換しただけだ。それより、今聞くべきことは、君はなぜ楚搖光に毒を盛るか」唐敗は唐邪を見て言った。「いいえ、その前に、君は一体誰だ」

 唐邪が答える前に、ふと李祁はため息をついた。「はあ、是非もなし」

 話すと同時に李祁は手を剣の柄にかけ、話し声が消えた途端、李祁は腕に力を入れて猛然と抜くと、ちりんと一声、柄と鞘を繋ぐ二つの細い鉄の鎖が一斉に断たれた。しかし鞘から現れたのは前に言った折れた剣ではなく、眩しい清光を放つ絶代の名剣だった。

 長剣が鞘を出ると、李祁は間を置かずに絶技ぜつぎを放った。李祁が手首を振ると、長剣は三つの剣光けんこうとなり、唐敗、唐雨、唐霜三人に向かって突き出した。

 意外な攻撃に不意を突かれ、唐敗は一歩退いてその鋒鋩ほうぼうを避けたが、唐雨と唐霜は間に合わず、唐雨の脇腹と唐霜の肩が長剣に貫かれ、血が泉の如く湧き出た。

 一振りで三人を退かせ、機に乗じて李祁は唐邪の手を引いて彼女を背に乗せた。「しっかり掴め」と言って、李祁は部屋の扉を蹴り開けて飛び出した。

 唐敗は指で唐雨と唐霜の傷口の周りの経穴を素早く衝き、流血を止めてから、李祁を追って部屋を飛び出して見ると、唐邪を背負っている李祁は軽功を発動して、既に庭の扉まで着いた。唐敗は手を上げて暗器を数枚射ったが、李祁の速さには及ばず、十数丈飛んだ後、力尽きて地に落ちた。この時、李祁の後ろ影は既に見えなくなった。

「早い」と呟いて、唐敗はもう追い付けないと分かり、立ち止まった時、西宮は庭に駆け込んで言った。「今李祁が誰かを背負って唐家堡を飛び出したのを見たけど、何があった。いや、あなたは…唐嬢様?」

 唐敗は答えた。「この件は後で李嬢様に聞けば良い」

 西宮は言った。「分かりました。でもちょうど良い、唐嬢様に知らせたいことがあります」

 唐敗は言った。「というと?」

 西宮は隣に立っている唐霊に目をやって言った。「実は先程、拙者が唐霊公子の部屋を調べましたが、そこで人事不省に陥った唐邪嬢さんを見つけました。今唐笑おじさんが彼女を介護していて、大事はなさそうです」

 それを聞いて唐霊は血相を変えた。「お前、何事を…」

 唐敗の目つきがのように鋭く、唐霊を睨んで言った。「霊ちゃん、言え」

 唐霊は目を逸らし、躊躇いながら言った。「叔母さん、俺…」

「まだ白状しないか!」と唐敗が怒鳴ると、唐霊は膝の力が抜けて地に跪き、頭で地面を叩き続けた。「ごめん、本当にすみません。俺…俺は詩意城に騙されたのだ」

 この時、楚搖光の部屋から唐雨、唐霜が出て来て、楚搖光も後ろに付いた。庭の光景を見ると、三人とも驚いた。

「詩意城だと」と唐敗は言った。「詩意城はどうやってあんたを騙したか、最初から言え」

 唐霊は頭を下げたまま答えた。「はい、二ヶ月前くらい、ある女が俺を訪ねた。彼女は影と名乗って、詩意城の者だった。彼女は俺に力を貸すと約束した」

「何事に力を貸すか」

「それは…」

「唐門の門主になること、だろう」

「…はい」

「それで?続けろ」

「そして、俺は彼女の言った通り、彼女を唐門に連れ込んで、唐英という偽名を付けた」

「なるほど、唐英が詩意城の者か」

「そうだ、そして彼女の言葉に従って俺は花園に通い始め、色んな毒の在り処を覚えていった。それに唐邪が熟睡していた間、俺たちは彼女の顔の型を取って、人皮仮面を作った」

 ここまで聞くと、唐敗は何が起きたか段々分かってきた。「そしてあんたは花園から月下美人と桜を盗み出し、それを使って唐枯を殺したのか」

 唐霊が黙り込み、唐敗はまた言った。「どうした、あんたはまだ我が唐門の者なら、自分がやったことくらい素直に認めろ」

 暫くして、唐霊は小声で言った。「はい」

 唐敗は言い続けた。「そしてあんたは薬で唐邪の意識を失わせ、彼女を自分の部屋に閉じ込めてから、唐英は人皮仮面を使って唐邪に変装して、殺人の罪を認めた。処刑の日になると、薬で本物の唐邪の正気を奪って、二人を元通りに取り替え、本物の唐邪を受刑させるつもり、違うか」

「はい」

「唐枯を殺し、唐邪に罪を被せ、そして唐冢はそもそも門主の座には興味がない。これで門主の座があんたのものになる、と思ったのか」

「はい」

 唐敗は暫く黙って、長いため息をつき、ゆっくりと言った。「唐霊、あんたは本当に私を失望させた」

 唐霊はまた頭で地面を叩いて命乞いした。「自分が過ちを犯したことをしった、絶対に二度としないから、どうか今回だけは、許して…」

 唐敗は言った。「私が最も憎むことは何か分かるか、それは兄弟同士の殺し合いだ。殺人の罪は命でしか償えない、あんたの母の顔を免じて、全屍ぜんしを残してあげよう」

 唐霊は慌てて言った。「そ、そうだ、俺は母は唐涼だ。俺は一人っ子なんだから、俺が死ねば彼女の血が絶えてしまう。どうかご慈悲を、せめて俺が子孫を残すまで」

「いいだろう、機会を一つ与える」と言って唐敗は真っ黒な丸薬を取り出した。「これは冢ちゃんが雲南に行く前に残した新しい毒、名前はまだない、除く方法もない、だが致命の猛毒には違いない。あんたがこれを呑んで生き残れるなら、命だけは許してあげよう」

 唐霊は立ち上がって、その丸薬に向かって手を伸ばしたが、その手が震えて止まらず、結局届く寸前で手を引っ込めた。

「どうした、呑まないか」と唐敗が聞くと、唐霊は再び跪いた。「冢兄さんの腕前は知っている、彼が作った毒を呑めば死ぬに違いない。叔母さん、どうか、どうかご慈悲を」

 唐敗はため息をつき、黒い丸薬を懐に戻して、桜色の丸薬を取り出した。「分かった、ではこれを呑め、命取りではないけど、七日間あんたの体は死ぬほど痛くなるのだ」

「分かった、その罰を受けよう」と言って、唐敗の気が変わるのが怖くて、唐霊は早速その丸薬を取って呑み込んだ。

 唐敗は隣に立っている唐雨と唐霜に言った。「君たち、先に下がって、傷を治せ」

 唐雨と唐霜が離れた後、唐敗は楚搖光と西宮を振り向いて言った。「お前ら、庭の扉に下がれ」

 唐敗の意図を掴めないが、二人は一目見合って、やはり言われた通りに庭の扉まで退いた。

 そして唐敗はまた唐霊に向かったが、何も言わずにただ彼を見ていた。唐霊は毒の発作を待っていたが、ふと眠気に襲われ、あっという間に眠り込んだ。唐敗は倒れている唐霊の体を支えて、注意深く地に横たえた。

 庭の扉に立っている二人がまだ何が起きたか分かっていないが、唐敗は爪先で地を蹴り、素早く扉に向かって来た。

「二人とも、息を止めて、外に出ろ」と唐敗が言うと、西宮はすぐに楚搖光の手を引いて外に出た。最後に出た唐敗は庭の扉を閉めてから、長い息を吐いた。

 三人のところに向かって一人の老者が駆けつけた。それは唐雨と唐霜が傷を負ったのを見て、花園から様子を見に来た唐笑だった。

「門主、何が起きた…」唐笑が近づくと、ふと唐敗の体から漂って来た極淡い花香を嗅いで、顔に怖い表情が浮かび、思わずに二歩退いた。「この香りは、月下美人、門主、これは…」

「殺人者の唐霊は、自分が使った同じ手段によって、既に処刑された」と唐敗はゆっくりと言った。「おじさん、よく来てくれた。この庭をしっかり見張ってくれ、誰も近寄らせるな。そして二つの時辰じしんの後、庭の扉を開けて、彼の屍を拾ってあげよう」

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