魔術師の少年
保健室に到着すると、先客がいた。
「だ、だれ?」
ノックをせずに扉をあけたのでビックリさせてしまったようだ。
「いや、ちょっと顔面にボール喰らって、鼻血が……」
「そう。先生ならトイレ行ってるよ。すぐ戻って来ると思う。はい、消毒液と脱脂綿」
先客の女子生徒に消毒液と脱脂綿をもらう。鼻血なのにどうしろと。
とりあえず、脱脂綿に消毒液をつけず、鼻に詰める。
改めてスケスケの魔眼で彼女を見ると、透けていない。
「……男?」
「心は女よ。クラスで浮いてるから保健室通いしてるの。どうしてわかったの?」
彼女は、そこらの女子よりも美人だった。
「いや、なんとなく。そんな気がしただけだよ」
「スカートの制服をバッチリ着てる私を見抜くなんて……それと、貴方から魔力を感じるわ」
「魔力かぁ。昨日、黒いドレスのお姉さんも、そんなこと言ってたっけ」
女装男子の彼?彼女?がギョッとする
「昨日!?黒いドレスのお姉さん!?」
「うん、魔力分けてって」
「それで、分けたの?」
「分けたよ、ちょっと疲れる程度だったし、良いこともあったし」
女装男子は、鼻からため息をついた。
「……魔力切れまで追い込んだのに逃げられた理由は、君だったのね」
「悪い人なの?あのお姉さん」
「そうじゃなくて、需要参考人として招集している天才魔術師なんだけど、自由奔放な人だから逃げられちゃったのよ」
「へぇ~、そうなんだ」
僕の魔眼の封印を解いておいて『それじゃ魔力ありがとう』でバイバイだったもんなぁ。
「ところで、魔法とか聞いて全然驚かないんだね」
「ん~、まぁ昨日から色々あったから」
そんなことを話していると、先生が戻ってきた。
「どうしたの?怪我?ああ、鼻血ね。もう止まってるわ。打ち身もないわね、大丈夫」
「先生のトイレが長いから……ウンコ?」
「うるさい。女性に失礼ですよ。とっとと帰れ」
スケスケの魔眼で保健室の先生を見ると、お腹の肉が変な形をしている。矯正下着ってヤツだな、下の毛の手入れはしておらずモジャモジャだった。アラフォーで彼氏もいない感じ。
「じゃぁ、僕は失礼します」
「また、話聞かせてね」
女装男子に声をかけられた。
「オッケー、またな。」
と、答えると……
「ちょっと、待ちなさい」
「なんですか。『きょうせい』は下着だけにしてください」
「やっぱ、かえれ……いや、君達、話してたの?」
「はい」「そうだよ」
女装男子と僕は答える。
「この子のことわかってて、話したの」
「女装男子でしょ」
「服だけじゃなく心も女です」
「……分かった上で、普通に接しているのね。自己紹介はしたの」
「いや、別に」「してないけど」
「口の悪い君……この子と頻繁に会ってあげられない?」
「いいけどさ。僕は2年2組の森川 隆司」
「私は、3年1組の、二宮 真澄です」
「ふぅん。マスミ君じゃなくて、マスミちゃんって読んだらいいのかな」
「えぇ、そうしてくれると嬉しいわ」
「オッケー、それじゃ、また」
「はい、よろしくお願いします」
女装男子は、1つ先輩だった。僕が廊下を去っていくと、
「後輩だけど、貴方に友達ができそうでよかったわ」
と、矯正下着着用の保健室の先生の声が聞こえた。
そして、体育館に僕が戻ると……
男子はバレーボールコートの片付けを、女子はマット運動のマットを片付けていた。
「くおぉおおお、終わっちまった」
残念がる僕に。
「ブリッジで、体操服が捲れて、ナオミちゃんの臍見えたぜ。羨ましいか、ふふん♪」
と自慢された。
「そうか、僕も見たかった」
と相槌をうちつつ、やっぱり開脚前転の後の側転が見たかったと思った。
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残りの授業も終わり、放課後になった。
僕は相変わらず、眼鏡をあげたり、もどしたり。むらむらテント注意報がでたら、もどさないとね。そして、たった1日しか経過していないのに、僕の価値観は変わってしまった。昨日までの僕なら、階段を移動するとき、ラッキーパンチラとかを期待していたのに。スケスケの魔眼を手に入れた今となっては、もう、そんな期待すら抱かなくなっている。開脚前転は凄かったなぁ。
そんなことを思い出しながら、廊下を歩いていると、保健室で出会った真澄ちゃんが、ちょっと怖い系の女子達三人に囲まれている。
「オカマスミ保健室帰りぃ?男の格好したらぁ?タマついてんだしぃ」
「お願い。やめて」
真澄ちゃんの懇願にもかかわらず、スカートが捲られ、女性用の下着では隠すのが難しい、膨らみがそこにあった。
「きっも。オカルト好きだっけ?魔女のコスプレぇ。はやく魔法で女の子になればぁ」
泣きそうな顔で、真澄ちゃんがスカートを戻した。
僕は眼鏡を外して、真澄ちゃんを助けに向かう。
「……先輩方どうもぉ。通りすがりの魔術師の後輩です」
「はぁ?魔術師ぃ。このオカマの仲間かよ」
「オカマのナカーマ。マジうける」
ギャル気取るなら、もうちょっとダイエットしろよ……。と、スケスケの魔眼で、三人の裸体を拝ませてもらいつつ。
「じゃぁ、ちょっと証明しますね」
「魔法でも使うってぇの?」
「そうですよ。『敏感ホーミング』」
僕は、両指を突き立て、胸の敏感な突起二つと、下半身の敏感な突起一つを
ツンツンツン、ツンツンツン、ツンツンツン
「「「きゃぁ。なに。ヘンタイ」」」
「でも、全部、正解でしょ」
「「「嘘よ、まぐれよ」」」
「じゃぁ、もう一回」
ツンツンツン、ツンツンツン、ツンツンツン
「「「いや。どうしてわかるの」」」
「そういう魔法なんですよ。『敏感ホーミング』」
実際は、スケスケの魔眼で裸が見えているからツンツンしているのだけれども、ハッキリ言わない方が良いだろう。なかなかの突き心地でした。
「だから、魔法はあるんですって」
「何コイツ。うっざ、帰るわよ」
そうして、真澄ちゃんをイジメていた中心人物の先輩が帰ると、他の二人も帰って行った。
「……タカシ君、ありがとう。魔法使えたんだ。凄く変なのだけど」
「ん~と魔法っていうか、実は魔眼なんだけどねぇ」
そうして僕は眼鏡をかけた。
「魔力を感じるわ。その眼鏡……魔眼殺し?」
「そう。この眼鏡がないと、女の人の服が透けて見えるんだよ」
「な、なんてハレンチな魔眼」
「スケスケの魔眼って僕は呼んでるけどね」
真澄ちゃんは胸を下腹部を隠して
「わ、私の服も透けて見えるの」
と聞いてきたので。
「いや、全然。だから保健室で男?って思ったんだよ」
「スケスケの魔眼には『男』認定されているのね」
「でも、魔眼がなかったら、男ってわかんなかったなぁ」
「そっか」
「それでさ、魔術について教えて欲しいんだけど、いいかな。関わりだしたのが昨日の夜からだから、全然知らないんだ」
「いいわよ、私の知ってることなら、教えてあげる」
「じゃ、混み入った話だし、ファミレスよりカラオケかな」
魔術師少年の僕と魔術師少女?の真澄ちゃんは、近所のカラオケショップで密談をすることになった。