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ナイトメア ~希望の在りか~  作者: 仲仁へび
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第11話 止芽久理沙



 隔壁の内部は改造されたのだろう。

 想像よりもずっと広かった。

 だが、日の光は存在せず、風も流れてこない。

 そこにいる人々にとっては外の方がうんといいはずだろう。


 佐座目達はその地下施設を歩いていく。


 未来世界に住む人間達は皆、一様に暗い顔をしていた。

 

 廃材を持ちこんでつくられた急ごしらえの家屋、そこに窓から見える住んでいる者達は、生気を失くしたような顔つきだ。


 通りを歩く人間達は少なく、談笑など聞こえてこない。


「最近まではこれ程までではなかったのだ。しかし、こうなってしまったのは我々がリンカ・コア作戦に失敗してしまってからだ」

「それで今度また挑むという話でしたよね」

「ああ」


 思いつめたような表情を見せる美玲、美人なのにもったいないことだ。

 きっと明るい表情も彼女には似合うというのに。


「おや、美玲さんじゃないか。今日はどうしてこちらに?」


 歩いていると、たまたま家の前に出ていたらしい中年の男性に話しけられた。


「少し、様子を見ておきたくて」

「どうもこうもないよ。皆、ずっとこんな感じでね。私も戦えればいいのにねぇ」

「気持ちだけありがたくいただいておきます。お体を大事にして下さらないと、お孫さんが悲しみますよ」

「そうだね、もうそんなに私も若くないからね」


 他愛もない話をしたのち男性と別れて歩みを再会する。


「今の方は?」

「元エージェントだ。怪我が原因で組織を離れたんだ」

「そうでしたか」

「いくら人手が足りないといっても、使い潰すのを前提で組織に戦力を置いておくなど、私は反対だった。名目上として彼を、このシェルターの防衛要員としてここに送らせたが、本当に名前だけだ。まともな戦闘はできないだろう」


 言葉を聞くに、あの人の処遇の決定について美玲は相当苦労させられたようだった。

 佐座目の作戦への強制参加についても聞かされているが、余裕のない世界だとあらためて思った。


「……、随分と」


 変わるものなのだな、世界は。


 分かっていた事だが、自分がいた世界とはまったくの別の世界だ。

 エージェントとして使い物にならなくなった者まで、置いておこうなどと十年前の佐座目のいた世界では考えられない事だ。


「私はこの状況を変えたい」


 物思いに沈んでいるところを引き上げる、美玲の声は強い決意に満ちた言葉だった。


「皆ここにいるものは、これ以上事態が好転するとは思っていない。思えないと言った方が正しいだろう。この世界からはもはや希望など失われたものなのだと、そう思っている。私はそこに、幽かでも良いから明かりを灯したい。こんな閉塞した環境で人は、長くは生きられるものではないからな」


 美玲はナイトメアウイルスやナイトメアよりも、人は絶望に殺されると言っているのだろう。


「確かにこのままでは、まずいでしょうね。貴方達の心中お察しします」


 非常によろしくない状況だと思う。


 もし、確率的にはあり得ないほど低いが、何もかもうまくいったのならその世界で美鈴が笑っている姿を見てみたいと思った。


「……」


 そう佐座目は、美玲達が示したいものを正確に読み取ったはずだが、それでも彼女等の表情は優れなかった。


「他人行事なのだな。それだけか」

「……?」

「何か起こってもまるで人ごとのようなその態度、やはり……、やはりな。分かってはいたんだ。期待し過ぎていた」

「美玲さん?」


 心なしか、彼女の発する言葉が渇いて聞こえる。


「やはり、お前はディエスなのだな。記憶を失っても変わらない。自分に関係のない人間のことなど、どうでもいいと切り捨てられるそんな人間なのだな」

「何か気に障る様なことでも言いましたか」


 どうしてこんな反応が返ってくるのか分からず、さすがに混乱する。


 そんな事はない、出会った頃ならまだしも。

 今は美鈴やアルシェの事はそれなりに、できる範囲で力にはなってやりたいとは思っているのだ。


「いや、すまない。お前は記憶をなくしているというのに……」


 謝る美玲。自分が悪いわけではないが居心地が悪かった。

 そんな空気を読んでくれたのか、偶然なのか、


「それより良いのかい? そろそろここを離れないと面倒な事になるよ?」

「彼女か……」


 今まで黙っていたもう一人の同行者アルシェが、周囲を気にするそぶりを見せた。


 その瞬間、彼女が近づいてきる。


「牙!」


 長い髪を両サイドでまとめた、女性だ。

 その人物には見覚えがあった。記憶の中の姿よりも成長しているけど。


 どうして彼女がここに?


「理沙さん……?」


 止芽久理沙とめめりさ


 その人は、知り合いのお姉さんその人だった。



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