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23話 観察時計

 何の前触れもなくモノクロの世界へ隔離されるのには、もうすっかり慣れてしまった。少しの間を置いてエースがふわりと現れることも、もはや日常茶飯事となりつつある。


「やあ、アリス」


 しかし、一応これは『誘拐常習犯』と揶揄されても仕方がない行為だと思うのだが、彼は全く悪びれる様子もなく人の良さそうな笑顔を私に向けてくるのだ。


「……夢を見たわ」

「夢?」


 彼の顔を仰ぎ見てそう切り出すと、私が夢を見ることは彼にとって予想外だったのかそれともよほど意外な事態だったのか……「おや?」と少し間の抜けた表情を浮かべて顎に片手を当てる。


(……ちょっと失礼なんじゃないかしら)


 細やかな苛立ちを覚えたものの、悪意を持って発言した様子には見えなかったため、口から飛び出そうになった文句はとりあえず飲み込んだ。


「そうか……本来、“私が管理している限り”アリスは夢など見ないはずだが……そこまで干渉してきたという事は……ジョーカーは、よほど焦っているのか……? いや、それとも案じているのか……」


 エースは私から目線をそらして一人でぶつぶつと呟いていたかと思えば、嘲笑するように喉の奥で小さく笑う。


「……それって、サタンの話?」

「サタン……? ああ、いや……アリスが探している、本物のジョーカーの話だよ」


 緑色の瞳をまっすぐに見据えて首をかしげると、エースは私と目線が交わるなり誤魔化すような微笑みを浮かべた。


(今日は機嫌が良いのかしら……)


 そんなことを考えていると、いつもの仏頂面……いえ、彼のポーカーフェイスが頭をよぎる。

 最近、他に目にしたのは……無表情、仏頂面、しかめっ面。なんだか、こうしてよくよく思い返してみると彼はまるで、


「私と彼……サタンを一緒にしないでくれないか」

「あら、ごめんなさい?」


 挑発するようにくすりと笑えば不機嫌そうに眉をひそめるものだから、なんだかエースが幼く見えて思わず吹き出してしまいそうになった。


「あ、そうだ。そういえば……少し前に、あなたが持っているのと同じ物を時計屋さんにもらったの」


 ポケットから針のない懐中時計を取り出し「ね? 同じでしょう?」と手のひらにのせて見せつけると、


「これを?」


 エースはなぜか少し驚いた様子で私の手の中を覗き、自分の首から常にぶら下げている針のない懐中時計を自身の顔の高さまでふわりと浮かび上がらせる。

 重力がなくなってしまったのではないかと恐る恐る片足のつま先で地面をつついた私を見て、エースは楽しげにクスクスと笑い始めた。


「なるほど? 時計屋もなかなかいい趣味をしている」

「……? たしかに、針がないことを除いてはデザインも素敵な時計だと思うけど……」

「いいや。見た目の話ではないよ、アリス」


 エースは鳥のような身軽さでふわりと地面に足を着けると私の隣へやって来て、未だふわふわと宙に浮く懐中時計を片手で取り目の前に持ってくる。


「な、なに……?」

「ほら、よく見てごらん」


 瞬間――どこからともなく長針・短針・秒針が表れ、懐中時計の周辺を眩しい光が飾り付けていった。そして、瞬き一つの間に文字盤がスーッと消えてしまい、入れ替わるように表示されたのは英文の列。

 速読が得意なわけではないため、なんとか読み取れた範囲でそこに書かれていた内容はこうだ。


『アリス。ワンダーランドに滞在中、約三ヶ月目』

『現在地・公爵固有空間。公爵と落ち合い、会話中』

『アリスに命の危機はなし。補足、特になし。以下、会話内容の記述――……』


 これは、


「……な、に……? これ……」


 こんなもの……どう見ても、誰が見ても――私の、観察記録でしかない。

 私がいつどこで誰と何をして、どういう状況でどんな会話をしていたのか。それら全てが監視されていたのだ。

 いいや、それだけではない。英字の後ろに、少しずつ映像が映し出されているではないか。


「あ、あなた……エース!! あなた、四六時中……っ、私を監視していたの?!」


 もしかして、時計屋さんも?

 しかし、彼は私に『これ』を譲ってくれたため、恐らくその線は薄いだろう……と、思いたい。

 それじゃあ、つまり……現状、エースだけが……?


「……『ルール』である私は、アリスを含めたプレイヤー全員が、ルールに背く行為を行っていないか……常に見ていなくてはならないんだ」

「そんなの、冗談じゃないわ!!」


 監視されていたという事実を遠回しに肯定され、あまりの気味の悪さに鳥肌が立った。

 気持ち悪い、気持ち悪い。気持ち悪いことこの上ない。


「アリス、落ち着いてくれ。話を最後まで聞いて……」

「……っ、触らないで!!」


 こちらに伸ばされたエースの片手を払いのけ、蔑みの感情を込めて思いきり睨みつける。瞬間、モノクロの世界は音もなく消え去った。

 いつもなら、割れたステンドグラスのような砕け散り方をするというのに。


「不快にさせてすまない。私のミスだ。これはまだ、アリスに与えて良い知識では無かったようだ」


 そして、エースはゆっくりとした足取りで私に歩み寄ると、耳元に口を寄せて子守唄に似た声音で小さく囁いた。


「さあ、アリス。嫌なことは、忘れてしまおう……全て、時計屋に委ねるといい……」




 ***




「……あれ?」


 今までいったい何をしていたのか、全く思い出せない。

 たしか……目が覚めて、体を起こし布団から這い出て、身支度を整えてから扉を開けて……、


「……それから?」


 その先を辿ろうとすると、頭の中が真っ白になってしまう。だが、それが不快ではないのが不思議でたまらなかった。


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