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闇に足を取られた日常で  作者: うめー
伝家の宝刀
9/34

絶命間際の乱入者

「ってちょっと待て。作戦くらい決めるぞ」

「シヅキ空気読めよ。今のは行くところだろ」

「ノリ的にはそうですが、シヅキくんの意見はもっともですね」


 その場の勢いだけで化け物に挑もうとした三人は一旦足を止めた。

 祠の前にいた化け物は右手のほうへと移動を始めている。


「大した攻撃もできない私が向こうの縁側から出て先回りをし、化け物の気を引きます」

「大丈夫かよ? 俺たちの中で一番の怪我人が囮役なんて」

「逆に一番遠い場所にいたほうが安全かもしれねぇけど、うーん」


 シヅキとフューは乗り気でない返事を返す。


「お二人が化け物を背後から襲ってくださればそれで大丈夫ですから」

「放っておくだけ化け物とミタカの距離が縮まるか。やるぞ、シヅキ」

「しょうがねぇな。ミタカ、他の化け物が近づいてないか気をつけろよ」


 言い合って三人は二手に分かれた。


 ミタカは入って来た池の見える縁側から出ると、小川を挟んで化け物と対峙する。

 歪んだ耳目しかない化け物は、それでもミタカという獲物を認識した様子で動きを変えた。

 その後ろで、シヅキとフューが足音を忍ばせて近づいていく。

 ミタカに近づくことに集中しているのか、化け物は背後から近づくシヅキとフューには無反応だった。


「おら! あ、くそ!? 刃が滑った!」


 シヅキは刀で切りつけたものの、血で汚れた刃は滑ってあまり深い傷はつけられなかった。


「ナイフみたいに振っても駄目みたいだな」


 そう言いながら、フューは愛用のナイフで化け物を深々と斬りつける。

 突然の攻撃に動きを止めた化け物に、ミタカは麻袋を使って抑え込もうと動いた。

 しかし小川を越えるという動作を挟んだことで化け物に動く隙ができ失敗に終わる。


「余計なことするな、爺!」

「怪我人は引っ込んでろ!」

「お二人酷すぎませんか!?」


 ミタカが動く間に折り畳みナイフを左手に取り出したシヅキが攻撃を行う。

 利き手ではないこともあり攻撃事態に威力は乗らなかったものの、化け物の横からミタカへと駆け寄った。


 フューは文句を言うことに意識を割いたせいか攻撃を空振りさせる。


「年上を敬わないと罰が当たると我が国では言うんですよ、フューくん」

「一つしか違わないだろ! っていうか、お前狙われやすいんだから退いてろって!」


 まるでフューの言葉を理解したかのように、化け物はミタカを狙った。

 ミタカより前にいたシヅキは自らが狙われたと勘違いして防御態勢を取る。

 一瞬遅れて狙われていることに気づいたミタカは回避を試みた。

 しかし傷の痛みに体が硬直し自ら化け物の触手の強打に身を晒すような格好になってしまう。


「「ミタカー!?」」


 ミタカ本人も、触手の動きを見ていたシヅキとフューも、その一撃が致命の力があることが見てわかった。


 疑いようのない死の予兆に、ミタカは何もすることができない。

 ただ、迫りくる化け物の手を見ていた。


「諦めないで!」


 突然四人目の声が響き、ミタカの前に飛び込む者がいた。

 迫っていた触手に自ら握った棒を叩きつけ、強打を横へと逸らす。


 ミタカを庇ったのは明るめの褐色の髪の青年で、穏やかそうな雰囲気の整った顔をしていた。


「イツキ!?」

「兄ちゃん! 今は化け物見て!」


 シヅキとの短い会話で相手が誰かを悟ったミタカは動いた。

 イツキの死角から飛び出すと、伸びきった触手を捕まえ麻袋で締めあげる。

 次には捻って地面に抑えつけ、膝で本体部分の一部を強く踏みつけた。

 そして麻袋を絞って触手を捻り上げる。

 化け物は苦痛のためか灰緑色の肌をうごめかせた。


「だからお前は、もう!」


 一番近くにいたシヅキが慌てて化け物へ攻撃を加える。

 するとそこが急所であったかのように、化け物は一突きで痙攣し、そのまま動かなくなった。


「シヅキ、宝刀で倒すって話だったろ」

「あ! 悪い…………」


 怒りの表情を湛えたフューの声は低く、素直でないシヅキも小さく非を認める。


「そしてミタカ、爆発する前に言え」

「今のは、その、行けると思ってしまって、つい」

「お前は本当に人の忠告も聞けない頭の固い爺か。んで、シヅキの弟」

「お、俺?」

「助かった。恩に着る」


 見上げるほどの大男であるフューに怯えていたイツキは、言葉の意味を理解すると途端に目に涙を溜めた。


「い、生きてて良かったー! 俺、俺、また見殺しにしちゃうんじゃないかって! うわーん!」

「おい、黙れ! 泣くな馬鹿!」


 兄であるシヅキは乱暴にイツキの口を覆う。

 けれどイツキは気にせずシヅキに抱きつくと涙を擦りつけるように抱きついた。


「はは、兄弟感動の再会のところ悪いけど移動するぞー。話も聞きてぇしな」

「では座敷に戻りましょう。シヅキくん、弟さんを連れてきてください」


 さっさと移動を始めるミタカとフューに、シヅキはイツキを引き摺るようにして移動しなければいけなくなった。


「改めてお礼を申し上げます。どうぞ、私のことはミタカと呼んでください。お兄さんにはいつもお世話になっています」

「俺もフューでいい。日本人は言いにくいらしいし。で、確認だが。これ書いたのお前でいいのか?」


 フューはまだ目を擦るイツキの前に炭で書かれたメモを並べた。


「俺のことはイツキって呼んで。…………あ、良かったぁ。戻った時に紙も炭もなくなってたから消えちゃったのかと思ってたよ」

「本当にこれ、お前が書いたのか。つまり、さっき見殺しにしたってのは、一月前ここに来たからなんだな?」


 シヅキの指摘にイツキは辛そうに顔を歪める。


「…………うん。その宝刀、全然知らない人が持ってて、俺は通りかかった時に鞘から抜かれた刀を見たんだ。同じように通りかかっただけの知らない人が俺を含めて三人。刀の持ち主とその友達も合わせて五人で気づいたらここにいた」


 言いながら、イツキは背負っていたリュックを降ろす。


「お互い知らない同士でわけわかんないし、使える物もろくに持ってなかったから今回は用意して来たんだ。薬局とか回ってたらだいぶ時間かかっちゃって」


 イツキがリュックを開くと、そこには手当てに必要な薬や包帯、身を守るために使えそうな物や、水と食料が入っていた。


「薬局回った時に確か、あ、あった。はい、痛み止め。一時間くらい効くって書いてあるよ。それと水ね。ここ水もないから」

「これはありがたいですね。では遠慮なく」

「水ならそこに池と小川があるだろ? あ、あと台所のほうに井戸があったな」


 シヅキの何げない言葉にイツキは顔色を失くす。


「の、飲んじゃったの!?」

「飲んではいねぇけど、その反応、飲んだらヤバいことになるのか?」


 フューの答えにイツキは震える息を吐き出した。


「知らないなら、そのままのほうがいいと思う。庭には、怖い物しかないから」


 イツキが書き残したメモにもあった内容に、三人はそれ以上追及する気は起きなかった。


「質問ばかりで申し訳ありませんが、ここへ来た時の様子をお聞きしても?」

「俺が見た時には兄ちゃんの部屋には宝刀だけが箱の中にあったから、取り込まれたと思ったんだ。知らない人の靴が二つあったし、友達と一緒なのはわかってた」

「箱? 俺は刀を鞘から抜いたはずだぜ?」

「うん、けど鞘に収まってたんだ。俺が戻ってこれた時もそうだった」

「…………念のため聞いておきましょう。イツキくんと一緒に取り込まれた方の内、何人が戻れましたか?」


 ミタカの質問にイツキは息を整え痛みを堪えるように答える。


「四人だよ。一人で逃げた子がいたんだ。逃げるのもしょうがない状況だったんだけど、俺たち化け物と戦ってて追えなくて。一人の時に、化け物に見つかったみたいだった」

「ってことは、探せばそいつの遺留品でもあるのかここ? あとその言葉からして年下か女だな?」


 フューの指摘にイツキは次の間の向こうを指した。


「女の子だよ。裏のほうでたぶん。小山以外にないし、探さなくても見つかると思うけど? 俺たち死体見る勇気なくて確かめてないんだ」

「…………なかったぞ、そんなの。俺たちあの辺り通ったけど、死体なんて」

「どころか血の跡も見当たりませんでしたね。化け物は倒せば血痕は残っていたはずですが」


 不思議がるミタカに片手を上げて、フューは真面目な顔でイツキを見た。


「必要な情報はそこじゃねぇ。帰った四人の内、異変があった奴はいなかったか? あの化け物が毒を持っていたなんてことは?」

「それは…………実は、俺が一番軽傷だったんだ。それで、友達同士だった二人は怪我で入院が必要で、巻き込まれた中にお医者さんがいて、そいつは心の傷が酷くて別の病院に通院してる」

「お前のあの怪我で軽傷って…………いや、まぁ。一緒の奴が殺されてたんじゃ精神にも来るか」

「兄ちゃん、ごめん。持ち主が入院してるからって俺が宝刀預かったせいで」

「なんだかそれだけではないようなお顔とお見受けしますが?」

「…………うん、実は刀の持ち主、もう精神の病院から出られないかもしれないんだって。それで、その友達のほうが、退院したら姿暗ましちゃって。俺とお医者で宝刀について調べて、それでどうしようかって話をしてたところだったんだよ」

「なるほどな。長居は無用ってことはわかった。これ以上の話は戻ってからだ。イツキ、帰り方わかるか?」


 フューの質問にそれまで暗い顔をしていたイツキは力強く頷いて見せた。


毎週日曜月曜更新




前被害者

1)イツキ(美大生)

  元気で図太いところもあり、手先はとても器用で足が速い。

  けれど性格が臆病で恐怖に素直。情けない言動も感じればすぐに言葉にする。

  名前を覚えるのが苦手で、最初に覚えた相手の印象をあだ名に呼びかけることをする。


2)医師(♂)

  とても丈夫で大柄なイケメン内科医。ただし頭は固い。

  医師なので面倒見は良く真面目で、あまり運は良くない。

  情けない言動をするイツキの世話をしてメモを残すことを勧めた。


3)小説家(♂)

  ジム通いで体を鍛えているものの、精神的に打たれ弱いイケメン。

  浅く広く知識はあるものの、その分熱しやすく冷めやすい。

  伝家の宝刀の持ち主。作品のネタにネットオークションで買った。


4)俳優(♂)

  ジム通いで体を鍛えていて、精神的にもほどほど強いイケメン。

  まだ駆け出しの俳優で向上心があり活動的。好奇心も強い。

  ジム仲間の小説家に頼み、待ちきれず屋外で伝家の宝刀を見せてもらった。

5)エンジニア(♀)

  職業柄手先は器用で度胸もある。頭の回転は悪くないものの応用は苦手。

  あまり社交的ではないが愛嬌のある顔立ちをしている。

  率先して行動するタイプではなく、異性ばかりで打ち解けなかった。


*サイコロの出目で容姿も決まる(1~18)

 出目は上から11、14、12、13、12と平均以上のため美男美女揃い。


 ちなみにシヅキ、ミタカ、フューは13、9、9とイツキがイケメン。

 ただしサイコロを振る前になんとなく残念なイケメンという設定をフューにつけてしまったので、傷による容姿へのマイナスとしての9(フツメン)として描写。

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