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闇に足を取られた日常で  作者: うめー
伝家の宝刀
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鈴の音

 シヅキが靴箱の上の紙を手に取ると、文面を読み上げた。


「『納屋には探せばなんでもあるみたい。だけど怖』って、こっちのほうが怖いわ!」


 また千切れてしまっている紙に、シヅキはやるせない思いを叫んだ。


「なんだか、ちょっと笑ってしまいますね。弟さんのメモは全てこんな感じなのでしょうか?」

「なんでもある、か。脱出方法もあってくれりゃいいんだけどな」


 フューの楽観的な希望にシヅキが答えようとした瞬間、それは響いた。


 厚みのある金属を叩く硬質で、余韻を残す音。

 決して澄んだ音ではないものの、振り鳴らすような力強い音はこの屋敷全体に響いていると即座にわかる音量だった。


「あのベルか!? けどなんで!」

「私たち以外に人が!?」

「さっきの縁側から見えるはずだな」


 フューはナイフを握ったまま素早く離れの内部へ入り込むと、壁沿いに縁側へと移動する。

 シヅキがミタカを支え後を追う中、ベルは三度音を立てていた。


 三度目の反響音が消える間際、三人は縁側から祠を垣間見る。

 風はなく、人もいない。

 けれど消えた音は確かにベルのような金属音だった。


「おい、地面だ」


 言ったのはフューだったが、三人ともに異常事態が起きていることを視界に収めていた。


 祠の周辺には黒い空から注ぐ光で短い影しかない。

 そんな影が水のように広がると三つの円を作り上げる。

 音もなく影が沸き立つと、そこからあの灰緑色の腕が這いだし、瞬く間に三体のあの化け物が姿を現していた。


「そん、な…………」

「化け物を呼ぶって、そういうことかよ」


 目の前の光景が信じられないミタカ。

 シヅキは弟が残したと思われるメモの意味を理解して吐き捨てるように呟いた。


 三体の化け物は互いを認識していないかのように、地面を這いながら思い思いの方向に動きだす。

 幸い三人がいる離れに近づく化け物はいなかった。


「…………もう一度あのベル確かめに行く。ミタカ残ってろ」

「一人のほうが死亡フラグでしょう。それに何故鳴ったのかを確かめなければ命に関わります」

「一回鳴るごとに一匹の化け物だと思っていいのか? くそ、あいつそういう大事なことは書いとけよ」


 三人は辺りを気にしながら一直線にベルへと向かって移動した。

 祠の周囲には倒した化け物の死体以外に何もない。


「実はさっきこの奥に…………うぉ!?」

「「あ!」」


 前屈みに祠を覗き込んだフューは、庭に広がっていた化け物の血に足を取られる。

 咄嗟に手を突いた先は祠の中で、伏せてあったベルにぶつかった。


 倒れたベルは無情にも一つ大きな音を響かせる。


「馬鹿! この馬鹿!」

「シヅキくん、気持ちはわかりますがまず逃げましょう!」

「やっべ! ミタカ、腕回せ!」


 語彙力のなくなったシヅキを急かすミタカを、フューが引き摺る勢いで引っ張り移動を助ける。

 祠から離れた影は離れのほうにできたため、三人は土蔵に向かって走ることになった。


 土蔵の手前で屋敷に沿って角を曲がった三人は、そっと祠を窺う。

 すでに湧き出た化け物は、離れに向かって這い進んでいた。


「あいつら、目や耳が機能してねぇのかもな」

「これだけばたばたして気づかれねぇんだ。たぶんすぐ近くの相手じゃなきゃわからないんだろ」

「じゅ、寿命が縮みましたよ、フューくん。何がしたかったんですか?」

「実は、さっき見てた時に祠の中のほうに紙あった気がしたんだよ」

「はぁ? それ早く言えよ」


 文句を言うシヅキを、フューが指す。


「言おうと思ったらお前が吹っ飛んだんだよ」


 化け物に襲われたため、確認が遅れたと言うフューだが、結局はベルを鳴らしたせいでまた確かめ損ねただけだった。


「化け物どもは動き遅いな。どうする? もう離れのほうには戻れねぇぜ」

「おい、フュー。次またやらかしたらお前のハンドルネーム馬鹿にしろ」

「それは要検討として、まさかあの土蔵に行くわけにもいきませんよね」


 土蔵は高い位置に窓があるだけの堅牢そうな建物。

 眺めただけで扉には頑丈な錠前がついていることもわかる。


「おい、向こう見て見ろ。あれ、納屋じゃないか?」


 シヅキが気づいて屋敷沿いの奥を指す。

 そこには木の板を接ぎ合わせて作ったとわかる他よりも簡素な建物があった。


「たぶんそうでしょう。ただ、手前にある黒い山はなんでしょう?」

「土盛っただけの小山だろ。何か埋まってるにしても掘るには道具が必要だぜ」

「今気にしなきゃいけねぇのはあの化け物に遭うかどうかだ。あの小山の裏からとかありそうじゃねぇか」


 シヅキの嫌な予想に、ミタカだけが小山から目を逸らした。

 瞬間、砂利を擦るような音と共に砂埃が舞う。

 目を見開いていたシヅキとフューは揃って砂が目に入り顔を押さえた。


「「目がー!?」」

「え、二人とも? あ! 化け物がいますよ! ちゃんと見てください!」


 砂埃を上げたのは、獲物を見つけた化け物だった。

 ミタカの警告でシヅキとフューも化け物の接近を知り身構える。


「逃げましょう!」

「向こうにも化け物いるぞ、ミタカ」

「おい、ちょっと待て」


 まだ離れ周辺にいる化け物をシヅキが確認すると、フューが迫る化け物を指差した。


「あいつも体に紙貼りつけてるぜ」

「あの化け物どもは紙を収集してんのかよ」

「体毛などはないようですから、貼りつくんでしょうね」

「どうする?」

「フューくん、まさかまた倒して手に入れようなんて考えてませんよね?」


 敵の一撃で重傷を負ったミタカの苦言に、聞いたフューも首を横に振る。


「やっぱり無理だよな。あいつ足遅いから横走り抜けるとかは?」

「無理そうです」


 心苦しい様子で答えるミタカに、フューは笑いかけた。


「じゃ、やることは決まった。俺があいつの気を引いてる間にお前はシヅキと逃げろ」

「何を言ってるんですか!」

「恰好つけてんじゃねぇよ、アメリカン厨二」


 暴言を吐きつつシヅキは手にしていたナイフを折り畳んで直した。


「俺に考えがある。協力しろ」


 シヅキの指示に従って、ミタカを支えたフューがあえて化け物の近くへと寄る。

 触手の届かないギリギリの範囲を計りつつ、化け物を反時計回りに誘導した。


 そんなフューとミタカに、化け物は地面をはいずりながら近づいていく。

 完全に化け物の認識の外に置かれたシヅキは、一息に走って化け物との距離を詰めた。

 瞬間、貼りついた紙をかすめ取って、すぐさま方向を変えて走り出す。


「おっし、成功! お前らも!」

「ミタカ、この山の段差使うぞ」

「よろしくお願いします」


 追ってくる化け物から隠れるように、小山を回ったフューとミタカは、そのまま小山を登って化け物のすぐ横を通り過ぎる。

 二人が消えた方向に回ろうとしていた化け物は、坂を下りる勢いを加えた速度に全く反応ができなかった。


「こっちだ!」


 母屋の雨戸の影に隠れたシヅキが二人を呼ぶ。

 三人は縁側に乗り上がって合流すると、見失った獲物を捜す化け物が去るまでじっと息をひそめていた。


毎週日曜月曜更新




戦闘の流れ

1)俊敏の早い順に行動する。

  例:ミタカ(12)シヅキ(11)フュー(11)化け物(10)

2)キャラクターがやりそうな選択肢を用意する。

  例:ミタカ、1)戦う 2)守る 3)逃げる 4)待機

3)サイコロを振って行動選択。

  例:ミタカ、2)守る

4)選択した行動とキャラクターに合わせてストーリー上の理由付けをする。

  例:化け物に抱きつくなんて絶許

5)敵の攻撃行動の選択。

  例:1)叩きつける 2)絡みつく 3)守る

6)サイコロを振って攻撃対象と行動選択。

  例:2)ミタカ 1)叩きつける

7)敵の攻撃に対する行動選択と成功するかをサイコロで決める。

  例:回避(失敗)

8)選択する必要もなく自然な行動であればサイコロを振らず行動選択。

  ただし成功にはサイコロに一定の出目が必要。

  例:ミタカ、応急手当(大失敗)→自傷

9)味方含む誰か一人が死ぬまで以下繰り返し。

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