燃え落ちる怪物
亡きプランツ氏が遺した庭の発火装置を稼働させ、行方不明事件の原因と思われる庭を焼いた。
そのことでトーテムポールのふりをやめた木の怪物が襲いかかる。
追われたグラム、ウィット、ジウ、ティゼ、そして気絶したプランツ夫人は屋敷の中へと火に巻かれながらも逃れることができた。
ウィットは応接間に猟銃を取りに、ティゼは窓から外に出て可燃物を取りに向かう。
プランツ夫人はコックと地下へと避難。
そんな中、木の怪物は屋敷を破壊すべく猛威を振るっていた。
「妻と夜中に話していたと言うから知能はあるんだろう。完全に庭に火を放ったのがお前だとわかっているぞ、グラム」
「そうなのかい? だったら、無駄な抵抗はやめて降伏しろ! お前はすでに包囲されている!」
ジウの言葉にグラムが定型句を叫ぶ。
無駄な警告と脅しに、木の怪物は荒々しく身を揺らした。
「よし、警告はしたしやるか!」
「なんですでに撃った後で警告した? しかもすぐばれる嘘まで入れた? あーもー! お前の相手などしていられるか!」
ジウはグラムの相手をやめて呼吸を整える。
手には三角に割れて尖った硝子。
バランスを取るように握りを確認したジウは大きく振りかぶった。
「しっ!」
強く吐き出した息と共に硝子を割れた窓に向けて投げる。
そこには見上げる巨体の木の怪物がいた。
ガラス片は鋭く飛ぶと、三角の鋭利な角を樹皮に突き立てる。
トーテムポールと見間違えた顔のような傷に刺さったようだ。
「――――!」
声にならない何かが空気を揺らす。
相対したグラムとジウにはそれが木の怪物の苦痛の叫びであることはわかった。
「おわ!? 君、今何したんだい?」
「何もしてねぇ」
「いや、なんで硝子があんな綺麗に刺さるんだい!? 何か忍術使ったのかい!?」
「私は日本人じゃねぇし、日本人でも忍術使える奴はいねぇ!」
「えぇ!? でも今バス! ってすごい落として刺さったんだぞ!? 何かしたんだろ!?」
妙に興奮して問い質すグラムに、ジウは相手をするのが面倒になった。
「あーあー、もうなんでもいい! 敵から目を離すな! 来るぞ!」
ジウが言った時、木の怪物は振り上げた枝を屋敷に打ち付ける寸前。
叩きつけられた枝によって屋敷全体が軋みを上げる。
壁は剥落し、天井からは建材が振って来た。
何処かの部屋で家具の倒れる音が続き、柱や梁からは耐え切れないような破砕音が響く。
グラムとジウは幸いにもそうした破壊の余波を受けることはなかった。
「あぁ!? うわー!」
「ウィット!? どうしたんだい!?」
突然応接間から聞こえるウィットの叫び。
グラムが銃口を構えたまま声を上げる。
「銃が! 応接間の銃がー!」
ウィットは応接間に入って壁に飾られた猟銃に駆け寄っていたのだ。
そこに屋敷全体を揺らす大きな衝撃が襲った。
壁は剥落し、天井の照明を支えるケーブルが幾つか千切れる。
それでも猟銃に近づいたウィットだったものの、猟銃の飾られた壁がもろともに崩落。
床に身を投げ出す形で崩落する壁の瓦礫を避けたウィット。
グラムの声に叫び返したのは、目的の猟銃を瓦礫の中に探していたためだった。
「お前の安否を聞いてるんだ、ウィット!」
「だ、大丈夫だ! 壁が崩れただけで、俺は無事…………あ」
ジウに叱責されて叫び返したウィットは、床に目を落として呟く。
猟銃は瓦礫と共に床に落ちていた。
けれどその長い銃身の真上には、厚い壁の建材が乗っていた。
「おいおい、嘘だろ? まさか…………」
嫌な予感に突き動かされてウィットは建材をどける。
現われた猟銃は、銃身が完全につぶれてしまっていた。
これでは発砲できない。
「何があった、ウィット!」
さらに状況報告を求めるジウの声に、ウィットは仕方なくありのままを答えた。
「今の揺れで猟銃が落ちて潰れた! 使い物にならない!」
「なんだって!? もう、使えないな!」
「それ猟銃のことだよな、グラム!?」
「いいから他の武器になりそうなもの探せ! ないなら私と一緒に適当な瓦礫投げてあの怪物の気を逸らせ!」
ジウの指示にウィットは記憶を探る。
「えーと、ちょっと待って。あ、そうだ! 仕事部屋にも護身で銃置いてるってなんかの話のついでに聞いた! ちょっと取って来る!」
ウィットは他の銃の在り処を思い出すことができた。
けれど向かう先の図書室は書架から落ちた本が散乱している。
「急いでる時に! ごめん! 踏む!」
誰とも知れない相手に謝って、ウィットは図書室へと踏み込んだ。
その間にグラムは構えた銃の引き金を引こうと奮闘していた。
「足元みろ、グラム!」
「もう! 瓦礫が邪魔! 窓枠も邪魔! いっそ壁が崩れないかな!?」
怪物によって揺らされる屋敷の中は、次々に落ちて来る瓦礫で足の踏み場にさえ困る状態だ。
そんな足元の悪い場所では狙いが定められず、グラムは引き金に指をかけたまま発砲できずにいる。
「馬鹿言うな! 壁がなくなったら、壁を粉砕した枝がお前の体をすぐにでも潰すぞ!」
「それはごめんだ!」
「だったら四の五の言ってないで集中しろ! 外すなよ!」
「もう、口うるさいな!」
グラムが文句を言った時、大きな崩落音があがった。
木の怪物の攻撃に耐えきれず壁が一部崩落したのだ。
硝子の割れた窓枠も外れ、大きな穴になる。
「グラム!?」
突然その穴に向かって走るグラムにジウは目を剥いた。
グラムは窓枠のあった場所に片膝をつくと銃を構える。
木の怪物からもグラムが良く見えた。
半面、グラムからもなんの障害もなく木の怪物が視界一杯にいる。
「どうせやられるなら、全弾撃ち尽してやる!」
宣言どおりグラムは容赦なく銃弾を発射。
連続する銃声にジウは遅れて耳を塞ぐ。
九発を撃ち終えた時、一瞬の静寂にグラムさえも息を止めていた。
「…………動かない?」
「あ?」
グラムの呟きにジウが聞き返す。
グラムの視線を追って木の怪物を見ると、木肌には九発の銃創が穿たれていた。
そして木の怪物はそのまま動かない。
枝を振らない。
上部にある口を向けてくることもない。
「死んだのか?」
「わからないけど…………」
グラムが立ち上がった時、外から声がした。
「ちょ!? 傾いてる! 怪物がお屋敷に向かって倒れてるわよ!?」
ティゼの声がそう警告する。
同時に収まっていた揺れがまた屋敷を襲った。
息絶えた木の怪物が安定を失くして屋敷に倒れ込んだのだ。
「もう! せっかく地下から急いで持ってきたのに意味ないじゃない」
「そっちは大丈夫かい?」
安否確認するグラムにティゼは外の様子を伝えようとした。
「お庭はまだ…………あぁ!」
「今度はなんだ!」
ジウが半ばうんざりして聞く。
「燃えてる! 庭から飛んで来た火の粉で今、燃え上がったわ! そこから離れて!」
「くそ、怪物か! ウィット! ウィット、戻るんだ! 屋敷が燃えるよ!」
グラムは奥に行ってしまったウィットを連れ戻そうと声を上げる。
ジウは窓に寄って外にいるティゼを確認した。
「何処か地下から玄関通らずに出られるのか!?」
「えぇ、厨房から出られるわ!」
「よし、こっちは玄関が塞がれてる。地下の二人を外に出すぞ!」
「わかった!」
ティゼは手に持っていた燃料らしい容れ物を置くと、窓を離れて走り出す。
ジウも地下に続く階段へ向かった。
「グラム! ウィットには声だけでいい! お前も逃げるためにこっち来い!」
ジウが声をかけた時、地下から揉み合うような声が昇って来ていた。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)ウィット、猟銃を探す
幸運に頼る(98)大失敗→運悪く屋敷の崩落に猟銃が巻き込まれる
アイディアを出す80(38)成功→別の銃の場所を思い出す
2)グラムの攻撃
銃撃(54)成功
何発入っているか1d10(9)
何発当たるか9(9)→全弾撃ち尽し
*ティゼの動き
以前の勤め先が冒涜的な事件によって潰れ、紹介状ももらえず職探しをすることに。
明らかに怪しいものの、覚悟を決めてプランツ邸へ住み込む。
自衛も兼ねてプランツ夫人を探り、行方不明事件の関与を疑う中、コックからは不審な動きがあると警戒されることになる。
夜間、プランツ夫人の接近に気づいて数度、その訪れを看破。
夜の庭でのプランツ夫人の不審な行動にも気づき、庭まで追うこともあった。
メイドとしての技能を使い、あえて地下への階段に音の鳴る細工を行う。そうすることでプランツ夫人の接近を必ず察知できるようにした。
ほぼ一カ月を屋敷の探索に費やしたためプランツ氏の遺した仕掛けさえも見つける。
狙いは自分かコックであると思っていたため、青年実業家が消えてから誰でもいいことに気づいた。
次に呼び寄せられた三人組には、青年実業家に仕掛けられた毒を見つける度に解毒剤を仕込む。
心理学的見地により観察した結果、グラムとジウは信用できるとみて事件解決の手伝いを申し入れた。




