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闇に足を取られた日常で  作者: うめー
伝家の宝刀
3/34

巣食う化け物

 勢いづいて地面に倒れるシヅキの背後で、灰緑色の触手のような物が揺れる。


「は、え? シ、シヅキくん!」

「なんだこいつ!?」


 混乱しながらもシヅキを助け起こすミタカ。

 一度は直したナイフを抜いて、フューは触手に嫌悪の籠る声を上げた。


「…………手?」


 擦り剥いた傷に顔を顰めながら、シヅキは自身を襲った触手の正体に瞠目する。


 それは骨などないかのように揺れながらも、先のほうには五本の突起があり、先端には爪に見える硬質なものがついていた。


「嘘…………人間、ですか?」

「こんな人間いるわけねぇだろ」

「でも、顔があるじゃねぇか!」


 灰緑色の化け物は、まるで軟体動物のように地面を這い、触手のような腕を振っている。

 溶けたスライムのように地面に広がる姿は決して人間などではない。


 しかし身の毛もよだつその姿をよく見れば、目玉と思えるものが二つ。鼻と思える穴が二つ。唇のような厚みのある穴の中には、黄ばんだ歯が前後左右規則を失くして並んでいた。


 それは決して人とは呼べない。

 けれど確かにその化け物には人間の面影を見つけることができた。


「くそ! 本当に化け物いるじゃねぇか!」


 一声叫んだシヅキはナイフを取り出しフューの隣に並んだ。

 恐怖を怒りに変えたシヅキの声に、固まっていたミタカとフューも態勢を整える。


「おい、見ろ。あの化け物、体に見たことある紙くっつけてるぜ」


 敵を観察したフューは、化け物の体に何か書かれた紙が貼りついていることに気づいた。


「ミタカ、ジジババ狙うひったくり捕まえた自慢のタックルの見せ時だぜ!」

「嫌、です!」


 シヅキの声に、ミタカは全身全霊で拒否した。


「おい、今のそういう雰囲気じゃなかっただろ」

「ノリが悪いぞ、どうしたミタカ?」

「あなたたちですね、あの、妙な色をした、人間のような、化け物に、体全体で抱きつきに行きたいですか?」


 冷静でありながら感情を目一杯に込めたミタカの訴えに、シヅキとフューは揃って舌打ちをする。


「ちょ、ひどくないですか?」

「よし、使えないミタカは無視してやるぞ、シヅキ」

「そうだな。化け物を前に丸腰の使えないミタカに期待しても無駄だった」


 言うや、身の軽いシヅキが走り抜けざま化け物にナイフを振る。


「お、こいつ鈍いぜ。避けやしねぇ」

「さっきの攻撃当てられたらやべぇぞ! 気を抜くな!」


 フューはシヅキとは反対側を走って化け物を警戒しながら切りつけた。

 痛みを感じないのか、化け物は黒っぽい血を流しながらも変化を見せない。


 かに思えた次の瞬間、触手のような腕が鞭の如くミタカに叩きつけられた。


「あ…………が!?」

「「ミタカ!?」」


 咄嗟に避けようとしたミタカだったが、化け物の腕のほうが早く脇をしたたかに打ち付けられた。

 その勢いのまま地面に叩きつけられ、ミタカは呼吸さえままならない様子ですぐには動かない。


「う、ぐ…………うぁー!?」


 衝撃にふらつきながら起き上がったミタカは、怪我を確かめようとしたのか、叩きつけられた箇所を無造作に触って自ら苦痛の声を上げる。


「何してんだ馬鹿!」

「大人しくしてろ!」


 シヅキとフューはまた走り抜けざま化け物を切りつけ傷を増やす。

 すると足の遅いフューのほうに今度は化け物の腕が伸ばされた。


「ぐぅ!?」

「フュー!?」


 咄嗟に腕で受けたフューは、軋むほどに腕を締め上げられ歯を食いしばる。

 その苦悶の表情を見たシヅキは、身を翻してまた化け物へと走り込んだ。


「いい加減にしやがれ!」


 シヅキが一度傷つけた場所をもう一度切りつけると、化け物は初めて反応を示し大きく揺れた。


「お、抜けた! 効いてるぜ!」


 腕を締め上げられていたフューは、力が緩んだ瞬間抜け出す。

 そしてシヅキに倣ってすでに傷ができている箇所を狙って切りつけた。


 途端に体液を噴き出した化け物は、灰緑色の表皮を激しく波打たせ、ほどなく、沈黙する。


「…………やったか?」

「生きてるかどうかも良くわかんねぇんだ。下手に近づくな」


 フューの忠告にシヅキはナイフを構えて化け物を警戒する。


「ミタカのほうは落ち着いて自分の手当てしろ」

「は、い…………」


 地面に片腕を突いたまま、ミタカは服を捲り上げて傷を確認した。

 強烈な殴打でミタカの胸の下は広範囲にわたって変色を始めている。


「これでわかったな。シヅキの弟が擦り傷や打撲を作ったのはこいつのせいだ」

「死んだ、みたいだな。紙、取るぞ」


 動かない化け物をナイフで突いたシヅキは、確かに死んでいることを確かめて貼りついた紙を剥がした。


「…………は?」

「なんだよ?」


 シヅキは寄って来るフューに紙に書かれた文字を見せる。

 するとフューも顔を顰めてミタカへと足を向けた。


「悪い、これ読めるか?」

「はい、拝見します。…………『土藏開ケルベカラズ』。なるほど、弟さんのメモとは別人のもの、ですか」


 最後まで書かれた短い文章。

 墨と筆で書かれたらしい文字は明らかに今まで見つけた物とは違っていた。


「なんか漢字違うし、カタカナなのはなんでだ?」

「思うに書かれた年代がそれだけ古いのではないでしょうか?」

「外人が書いたとかじゃないのかよ?」


 シヅキの指摘にミタカは首を横に振った。


「戦中までは日本の公用語はカナ書きだったと聞きます。きっとこれはその頃に書かれた物なのでしょう」

「戦中って、七十年以上も前だろ? マジか」

「なぁ、ドゾウって読むのかこれ? なんのことだ」


 土蔵自体を知らないフューに、ミタカは小川とは反対の屋敷の奥を指差した。


「あそこにあるのが土蔵です。土壁や漆喰で作られた、そうですね、この屋敷を囲む壁と同じようなあの建物がそう呼ばれます。物品の保管や食料の製造に使われることもある伝統的な建築物です」

「うわ、本当にありやがる。あれを開けるなってことは開けたらヤベーもんでも入ってるってことか?」

「あぁ、アケルベカラズって開けるなってことか」


 現代語しかわからないフューはようやく意味がわかった様子で頷いた。


「それでお前大丈夫かよ、ミタカ? ここ移動したほうがいいだろ?」


 手を貸すシヅキに、ミタカは痛みに顔を顰めながら立ち上がる。


「あのベルがこんな化け物を呼ぶのでしたら、ここにいるのは危険でしょうね」

「そこの座敷に戻ってお前休んでろよ、ミタカ」


 フューの指示にミタカは首を横に振った。


「そこは化け物に近すぎます。かといって土蔵に近づくのも危険でしょう。なら、あちらの離れに身を隠してはどうですか?」


 ミタカは小川の向こうにある建物を指す。


「一撃でこれはさすがにヤバいな。いきなり吹っ飛ばされたけど、俺の時はまだ化け物も本気じゃなかったってことか?」

「腕掴まれた感じ、人間の力じゃねぇな。ミタカも当たり所が悪かったら死んでたかもな」

「では、この程度で済んで良かったと思っておきましょう」


 冗談にならないと知っていて、ミタカはぎこちなく笑ってみせた。


 攻撃を受けた三人は、動きが鈍くとも化け物が命に関わる危険な存在であることを嫌というほどわかっている。

 ミタカを二人で支えるシヅキとフューの足は自然と早くなった。

 けれど三人は辺りへの目配りを怠らない。


 ベルの置いてあった祠近くの小川は、どうやら庭に作られた池から流れ出たもののようだ。

 障子を開けば座敷からも見える池の縁には目につく赤い花が咲いている。


「縁側開いてるぜ。そこから入るか?」


 離れを指してフューが提案する。

 離れの縁側の向こうには薄暗い座敷が広がっており、静まり返っていた。


「向こうの屋根の形たぶん玄関だろ。変に見晴らし良くてもまたあの腕だか触手だかで攻撃されちまうぞ」


 シヅキの指摘で三人は玄関へと向かった。

 離れの玄関に鍵はかかっておらず半開き。

 まるで今しがた何者かが閉め損ねて外へ出た。

 そんな印象を感じさせる。


「…………いないな」

「あぁ、あの化け物はいねぇ」

「やはり人もいないようですね」

「あ…………あいつの字だ」


 玄関に入って一息ついた時、シヅキが靴箱の上に一枚の紙を見つけた。


毎週日曜月曜更新(訂正)




ストーリーの進め方

1)フィールド内の探索場所に番号を振る。

  例:1庭 2母屋 3離れ(or茶室) 4土蔵 5鈴 6納屋

2)探索場所内部にまた番号を振る。

  例:2母屋・1取次の間 2座敷etc

3)場面で考えうるキャラクターの行動を書き出しサイコロで決定。

  例:1座敷探索 2屋敷探索 3外へ

4)フィールド探索の場合何処へ向かうかサイコロを振る。

  例:行動3外へ 探索場所5鈴

5)探索技能を選んで成功か失敗かサイコロの出目で決定。

  例:シヅキ・目星(失敗)

    ミタカ・歴史(失敗)

    フュー・目星(成功)

6)結果に合わせて行動を考える。

  例:シヅキ・屋敷で見つけたメモの筆跡が気になって周りを見ていなかった。

    ミタカ・水を求めて気に留めていなかった。

    フュー・一人真剣に祠と鈴を見ていた。

7)ギミック発動のためサイコロを振る。

  例:犠牲者選択=シヅキ

    シヅキ・幸運(大失敗)

    化け物からの不意打ちを受ける

8)以下繰り返し。

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