鍵のヒント
小川を見てサンドイッチを食べただけの三人は、収穫もなく屋敷に戻った。
「うー、この匂い…………」
グラムが正直に気持ちを声に出す。
言葉にはしないものの、ウィットとジウも溜め息で同意を示した。
「ともかく、このバスケット返しに行こうか」
ウィットの提案で三人は地下への階段に足をかけた。
すると厨房にはメイドのティゼ一人がいるだけ。
「あのコックはどうした?」
「お帰りなさいませ、お客さま。コックはただ今買い出しに出ております」
ジウにそつなく応じるティゼは、食器を片づける手を止めて応じる。
そしてバスケットを受け取って中身が残っていないことを確かめた。
「お味のほどは如何でしたか?」
「美味しかったけど物足りなかったな」
チーズのほとんどを食べたグラムの言葉に、ウィットとジウは顔を見合わせる。
「それは申し訳ございません。夕食では分量を多くお出しいたしましょう。それで、何か捜査に進展はございましたか?」
「それがさっぱりさ。ティゼちゃん、君は奥さんの旦那が死んだ時にはいなかったんだよね? どうして事故に遭ったとか聞いてない?」
「残念ながら何も。…………奥さまからはあまりよろしくない趣味をお持ちだったとは聞いておりますが」
何げない風を装って水を向けるウィットに、ティゼはそれとなくオカルト趣味について知っている様子を見せた。
「ご趣味としてはあまり声高に言えるものではございませんでしょうが、私は面白い方だと思っているのです」
意味深なティゼにジウは肩を竦める。
「客室に自作の絵を飾ってるくらいしか面白いところは知らないな」
「えぇ、あの絵も面白い仕掛けですよね。それに庭の仕掛けも」
試すようなティゼの言葉に、グラムはわかるところから応じる。
「庭の仕掛けってもしかしてあの配管? 壊れてるって聞いたけど?」
「調べられたいのでしたら、後で納屋にランプを置いておきましょう」
「へぇ、ずいぶん古風だね。懐中電灯はこの屋敷にはないのかな?」
ティゼの言葉にウィットは愛想笑いで、文明の利器を求めた。
そんな返しにティゼは笑って首を傾げる。
「雰囲気作りは大切にいたしませんと。宝を探り当てるのなら、少しくらいの不便が良いスパイスですから」
「面倒だな。もうそのまま聞くが、食事に毒を入れたのはお前か?」
最初から捜査に乗り気ではないジウの雑な尋問に、ティゼはいっそおかしそうに笑う。
「気づいてらしたのね。ご安心ください。即死するような毒物の混入はございません。あくまで誤食の言い訳を使える範囲です」
「…………犯行を認めるのかい?」
視線を鋭くするグラムに、ティゼは大袈裟に驚いてみせた。
「まさか。私ではございませんと申し上げておきましょう。こうして忠告して差し上げているのですから、私を疑ってはまた夜が来ますよ?」
ティゼの魂胆を読もうと見つめていたグラムは、不穏な一言に肩を跳ね上げた。
あからさまな反応にティゼも疑問符を浮かべる。
「夜? 怖いのですか? いえ、まさか窓の外をご覧に?」
「な、なな、何があるんだい!? 窓?」
「まぁ、ごぞんじないのでしたら知らないほうが…………」
「なんなんだい!? やっぱり出るのかいこの屋敷!? 廊下じゃなくて窓の外!?」
「どうどう、グラム。ちょっと黙ってろ」
バタバタと落ち着かない様子で足踏みをし始めるグラムを、ウィットが後ろから肩を押さえた。
「ティゼちゃん、俺たちとしても信じられる相手は欲しいさ。けど、俺たちが今信じられるのは一緒に来たこの三人しかいないんだ。毒物が混入されて、夜中に忍び寄る誰かがいて、窓の外には見てはいけないものがいる。そんな屋敷で暮らしている君を、どうすれば信用できるかな?」
「まぁ、選択を女性に委ねるだなんて狡い方」
「いや、もう知ってることあるなら話せ。本当に毒を盛る奴がいるならこんな所長居はしたくない」
「ちょっとジウ、空気読んでよ」
ウィットの抗議を聞かないジウは、笑うばかりのティゼを睨むように見つめる。
「ね、ティゼちゃん。俺たちとしては君が敵ではないと思うんだけど?」
「あら、味方じゃないのなら深入りすべきではないわ」
メイドとしての対応をせず、ティゼは場慣れした様子ですげなくウィットをあしらった。
そこには意志の強い人間性が垣間見える。
ティゼはその素顔を隠すように微笑んだ。
「では皆さまの熱意に答えてヒントを一つ」
指を口に当て、まるで秘密を示すかのように囁いた。
「あなた方が見つけたメモは、応接間の鍵ですわ」
言うと、ティゼはバスケットを置いて、中断していた食器の片づけを再開する。
洗い物の続きを始めた厨房は、水音で会話どころではなくなった。
「ありがとう」
諦めたグラムの言葉を合図に、三人は応接間へと向かう。
ティゼに言われたとおり、応接間から食堂を見た壁には、収納らしき溝が走っていた。
四桁の暗証番号を打ち込むキーボードは、ちょうど花瓶の陰で隠されている。
「まずメモってのはどっちのことだ? 二階で見つけたやつか? それとも地下か?」
ジウの疑問にウィットが考えて答えた。
「ティゼちゃんは俺たちが二階でメモを見つけたと知ってるわけない。コックから聞いたとかで地下の…………いや、どっちも答えはシーザーだ。だったらどっちでもいいのか?」
自分で言ってウィットは迷う。
グラムはキーボードが数字と決定ボタンしかないシンプルな物であることを確かめて言った。
「四桁だし年号とかじゃないのかい?」
納得して手を打つウィットは、食堂とは反対の方向へと足を向けた。
「よし、だったら図書室行こう。シーザーについての書籍はいくつかあったよな」
「ここの鍵より書斎の鍵を探すべきだろ」
やはりやる気のないジウの言葉に、ウィットは視線を泳がせる。
「いや、その、ほら、前来た奴ももしかしたらこの屋敷のことを気になって調べ回ってさ。それでうっかり何処かに書斎の鍵直し込んじゃったり」
「苦しい言い訳すぎるだろ。なんだ、いなくなった実業家はウィットと同じで故人の遺産狙いだったってのか?」
「おっさんたち、退いてくれないかい?」
グラムの行く手を阻む形で言い合っていたウィットとジウ。
まだ言い合いを続ける二人を無視して、グラムは図書室へ一人向かった。
「あぁ、待て待て。俺も手伝うから。ほら、ジウ」
「面倒臭ぇ」
やる気がありすぎるウィットと無さすぎるジウが遅れて図書室へ向かう。
結局カエサルに関する年表が書かれた本を見つけたのはグラムだった。
「役に立たないなぁ」
「おい! ちょっと目端が効くからってそれはないだろ!」
「調子の良い時こそ謙虚にならねぇと痛い目見るぞ、ガキ」
「はいはい」
年長者二人の文句を受け流して、グラムは本を片手に応接間に戻った。
「えーと、賽は投げられたって言ったのが紀元前四十九年の一月十日?」
「0049か? 491、10ってしたら四桁にならないな」
本を見るグラムにウィットが思いつく数字を並べる。
ジウは手早く四桁を入れるも、鍵は開かない。
「違うな。そのシーザーって奴の生没年はどうなってる?」
「紀元前百年生まれ、紀元前四十四年三月十五日に死んでる」
「また四桁にならないな。メモの賽は投げられたってやつだとして、他に関係する四桁?」
「うーん、ウィット。年号は基本的に紀元前で二桁だ。で、昔の人だから日付はあまりないよ」
グラムは本を捲りながら主要な年号を上げる。
ジウは聞いた年号を適当に四桁にして入れ続けた。
幸いなことに、暗証番号を試す回数に制限はないようだ。
「0044、違う。0110、違う。賽は、49。そこから44って、五年しか生きてないのか」
言いながら適当に押し続けたジウは、突然響いた電子音に軽く跳びあがる。
「「え!?」」
グラムとウィットも開錠を報せる音に驚くものの、押したジウが一番驚いていた。
「ジウ、君なんて入れたんだい?」
「たぶん、4944?」
「あ、あぁ。そう言えば賽は投げられたは、最後までやるしかないって意味だって。そうか。賽は投げられたって言葉を言ってからシーザーの人生最後までの年号が暗証番号だったのか」
ウィットに言われてジウも他人ごとのように頷く。
グラムは本をウィットに押しつけて中を確認した。
「…………鍵だ」
そう言って振り返ったグラムの手には、一本の鍵が握られている。
「なんで鍵を開けたら鍵が出て来るんだ?」
「えー? 今度は何処の鍵よ?」
三人が手にした鍵は、片手に握り込んで隠せるほど小ぶりな鍵。
明らかに書斎の鍵とは違うことだけは確かだった。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)メイドを捜す
グラム:運頼り(04)
ウィット:運頼り(53)
ジウ:運頼り(26)
2)メイドから情報を引き出す
グラム:心理学的見地(98)大失敗
ウィット:説得する(35)成功
ジウ:値切る(68)失敗
*使わなかった設定
1)探索範囲
近くの村=行方不明事件の噂が聞ける。
主婦、農夫、目撃者の三人から聞けるが、見解はバラバラ。
近くの川=何もない。
ただのブラフ。
近くの林=周辺住民と出会い、野生動物の減少と行方不明者についての情報をくれる。
夜には怪物が出るから早く帰るよう促す。
林中の崖=目星、科学、ナビゲートなどの技能で事故現場を特定。
崖から落ちた者は確実に死んでいるとわかる。




