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消える死体

 コックから改めて話を聞くために、グラム、ウィット、ジウの三人は地下への階段を降りる。

 昨日と同じく厨房にはコックが一人でいた。


「あれ、どうしました?」


 コックは三人に気づいて手を止める。

 先頭を歩いていたグラムが片手を上げて挨拶代わりにした。


「ちょっと聞きたいことがあってね」

「なんでしょう?」

「実は俺、つい先日着任したばかりなんだ。それでできればもう少し詳しく行方不明者について聞きたいと思って」

「そうそう、確か獣に襲われたと思われてた人たちが、実は同じ行方不明事件の被害者じゃないかって警察もようやく疑い出したらしくてね」


 続いてコックに話しかけたウィットを、グラムは振り返った。


「なんで知っているんだい、ウィット?」

「お前を待つ間暇だったから、ちょっと警察署で聞いてみただけだ。危険な獣がいるなら獣避けの鈴なんか持ってこようとは思ったがな」


 ジウは不服そうに捕捉した。


 コックは同意の印に頷く。


「そうです。村では、林に住みついた大きな獣に食われたんだろうって言われてて。でも、私の友達は家出扱いなんです。その獣に襲われたかもしれない、この屋敷で行方不明になったかもしれない…………本当のところは、私も…………」


 コックは獣よりも生存の可能性のある屋敷での行方不明に賭けていた。

 グラムはそんな心情をわかっても特に触れることなく聞き取りを続ける。


「三人くらいいなくなったと聞いてるけど? 全員が獣に襲われたのかい?」

「最初の一人は、森の様子がおかしいと言った猟師でした。大型の獣が住みついたのか、林の動物がいなくなったって。それで正体を確かめると言って夜の林で張り込んだけれど、翌日戻らず、家族が見に行ったら寝袋と薬莢だけが落ちていたそうです」


 その時点では行方不明事件との関連は噂されなかったとコックは言う。


「まぁ、普通に考えて死体がないのは獣に食べられたからだろうな」

「けれど血が一滴も落ちてないのは何故か、村の誰もわからなくて、不気味だって林に近づかないようになったそうです」


 感想を語るジウにコックは不審点を挙げる。

 その頃村から離れていたコックは家族からの伝聞でしか知らない。


「次にいなくなったのは崖から足を滑らせて落ちたのを目撃されていた村の青年でした。一緒にいた兄弟が遠回りになりながらもなんとか崖下まで降りて行ったそうです。けれど、もうその時には姿が見えなくなっていたと」


 落ちて生きているとも思われない崖。

 けれど遺体は見つからず、崖下には血の跡だけが残っていたという。


「転落の目撃者がいるのに遺体が忽然と消えた、か。生きてるなら出て来るだろうし、怪我して無理に動いても大した距離じゃないだろうし」


 考え込むウィットに、コックは一度硬く唇を噛んだ。


「三人目が私の友達で、崖から落ちた相手に片思いをしていたんです。どうにか死体だけでも見つけてあげたいって私に電話で話してて」


 けれどなんの書き置きもなくある日、消えた。

 元から村から出たがっていたので家出と警察には断定されてしまったという。


「家出のはずないんです。確かに出たがっていたけれど、好きだった人を弔うまではって私言われたんです」


 コックは涙を浮かべて訴える。


 そんなコックにさらに突っ込んで聞こうとするグラムを、ウィットとジウが後ろから肩を掴んで止めた。

 そしてウィットが優しげな声で話しかける。


「手がかりがあったら必ず君に伝えるよ。俺も、以前ここにきて行方不明になった実業家、知り合いなんだよね」

「そう、だったんですか。心配でしょうね」


 コックは共感を示して気遣うと、ウィットは罪悪感から視線を逸らす。

 心苦しさから出た仕草を誤魔化し、ウィットはコックに情報を求めた。


「できればそいつの足取りを知りたいんだ。何かあいつが来ていた時に気になったこととか、ある?」

「そうですね、この屋敷が古い形式に忠実だとかで、何処かに隠し扉でもないかなんて冗談を言っていました」

「隠し扉…………」

「それで使用人の部屋を見せてほしいと言われて、私の使ってる部屋とワインセラーを」

「お前、もう少し歳頃の娘としての危機感持たないか?」


 ジウが思わずしかめっ面で口を挟む。

 けれどコックは意味わからない様子で首を傾げた。


 すると今度はグラムがジウの肩を掴む。


「それは俺よりデリカシーがないんじゃないかい?」

「痛たたたた!?」

「あ、気にしないで。お仕事中悪いけど、君の使ってる部屋見せてもらってもいい」

「事案かい?」

「痛たたたた!? 違うって! ちゃんと本人に立ち会ってもらうから!」


 ウィットもグラムに肩を掴まれ声を大にした。

 そんな騒がしい三人は、沈んでいたコックも笑う。


「どうぞ。何もないですが。…………そう言えば、以前この屋敷で働いていた方もいなくなってるんですよね」


 言ってコックは今さらながらに身震いをした。


「使用人部屋二つしかないので、もしかしたら私が使っているほうの部屋で行方不明なんてことも?」

「本当に隠し扉でもあればその可能性がないとは言えないな。だが、今さら怖がる必要もないだろう。大抵の行方不明者は屋敷の外から来た者だ。お前が消えるより先に私たちの誰かが消えるだろう」


 ジウの下手な慰めを聞きながら、コックは厨房から隣のワインセラーへの扉を開いた。

 窓がないワインセラーからから、階段横にあるランドリーに出る。

 ランドリーから通じる廊下に出ると二つ並んだドアがあった。


「手前が私の使ってる部屋です。元は複数で使う部屋らしくて、それなりに広いんですよ」


 手前のドアを開いたコックは、部屋の中へと三人を招き入れる。

 ドアと体面に窓が一つあるものの半地下なので空は見えない。

 室内にあるのは簡素なベッド、一人で使うには大きなクローゼット、身支度の道具が並べられた卓があった。


「それじゃ、探索させてもらおうかな!」


 グラムは遠慮なく女性の寝室へ入る。

 ウィットもそれなりにやる気を見せて探り始めた。

 ジウだけが入り口付近で辺りを見回すだけに留める。


「ちょっと、ジウも手伝ってよ」

「そうだよ。隠し物得意だろ」

「おい、刑事が冤罪かけるな。だいたいお前ら何探してるんだ?」

「行方不明者の手がかり」

「隠し扉」


 全く違うものを上げる二人にジウは溜め息を深々と吐き出した。


「故意に隠された物を探すなら、家具の裏を探せ。隠し扉は適当に建材叩いて回れ」


 適当なジウのアドバイス。

 けれど手がかりなどないグラムとウィットは言うとおりにする。


 そしてグラムがクローゼットの引き出しの裏を見た。


「あ!? 何か張り付けてある!」

「「「え!?」」」


 アドバイスをしたジウも驚いた。


 グラムが引き出しの裏から剥がしたのは一枚のメモ。

 四方を粘着性のある物でしっかりくっつけられていたようだ。


「こ、こんなものがあったなんて…………。英語じゃないですよね?」


 見知らぬ言語が書き綴られたメモにコックは怯える。


 グラムの手元を覗き込んだウィットが声を上げた。


「これ、ラテン語っぽいな」

「なんて書いてあるんだい?」

「いや、語感でラテン語なのはわかるけど意味までは。辞書でもあればな」

「スマホで調べろ」

「ラテン語なんて出る?」


 ジウの言葉にスマホを取り出すウィット。

 スマホを起動させると画面には通知があった。

 習い性かウィットは調べ物の前にその通知をタップする。


「…………げ」

「どうしたんだい?」


 今度はグラムがウィットの手元を覗き込んだ。

 ジウも覗き込むと、つられてコックもスマホ画面を窺う。


 ウィットが開いた通知には文面からも興奮状態がわかる文章の羅列。

 どうやら行方不明の実業家の身内からのようだ。


「お前が息子を悪の道に…………ただの言いがかりじゃないか」

「ほぼ妄想でお前を悪逆非道のろくでなしだと断言してるな」

「うわー、仲間内でこの爆撃噂になってたけど、俺のところにも来たかぁ」

「え、あの、大丈夫ですか?」


 スマホを持ったまましゃがみ込むウィットにコックが声をかける。


「これは確かに来るなぁ。すっごい何かが削られた気がするぅ」


 ふいに叩きつけられた悪意にウィットは弱音を吐いてスマホを自分から遠ざけた。


「あ、そうだ」


 ウィットの落ち込みなど気にせずグラムが指を鳴らす。


「ここ図書室あったけど、あそこに辞書ってないのかな?」

「慣用句ならまだしもラテン語の辞書なんて普通ないだろ」

「ありますよ」


 即答したコックに視線が集まった。


「ラテン語って書いてある辞書、図書室で見たことあります」


毎週土曜日更新




*ダイス目抜粋

1)捜査

  グラム:使える知識75(15)成功→周辺の獣被害について

  ウィット:使える知識55(77)失敗

  ジウ:使える知識55(57)失敗


2)ラテン語

  ウィット:ラテン語訳51(65)失敗→ラテン語なのだけは見てわかる


3)用途不明なメモ

  グラム:アイデアを出す80(43)成功→図書室の存在を思いつく

  ウィット:アイデアを出す80(98)大失敗→全く関係のない嫌なメールを見てしまう

  ジウ:アイデアを出す70(90)失敗

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