怪しい朝食
翌朝、同じ部屋で目覚め朝食のため食堂に降りたグラム、ウィット、ジウの三人。
プランツ夫人はすでに着席しており、三人の到着を待ってメイドとコックが給仕を始める。
「おはようございます。昨夜はお三方一つの部屋をお使いだったのね。何か他の部屋に不備がありまして?」
プランツ夫人が心配そうに聞いた。
グラムはその顔をじっと見つめて答える。
「話し込んでいる内に寝てしまって。…………騒がしかったですか? あまり眠れてないように見えます」
見るからに顔色の悪いプランツ夫人を、グラムは口で悪びれながら反応をじっくり観察した。
そんなグラムの視線に気づかないのか、プランツ夫人は目を彷徨わせて答える。
「眠りが浅いのは昔からなので。話し込んで寝てしまうなんて仲がよろしいのね」
初日にプランツ夫人を怒らせてしまったことのあるウィットは話しに加わらず。
給仕をするメイドとコックの動きに集中していた。
そして気づく。
昨日聞いた足音がすることに。
二つあった足音は距離があり別行動だと昨夜の内に推測した。
そして片方は踵を鳴らすくらい素人で、今聞こえる足音ではない。
「もう、グラムの奴の部屋に連れ込まれて大変。君は昨日よく眠れた?」
「ご配慮くださりありがとうございます」
ウィットはメイドに笑いかける。
メイドはそつなく答えて仕事を続けた。
急な声かけにも乱れない足音でウィットは確信する。
昨夜窺っていた一人はこのメイドであると。
そして消去法でもう一人はコックではなくプランツ夫人であることにもウィットは気づいた。
「今朝はベーコンとハム、ポテトと根菜から選んでいただけます。ご要望がありましたらオムレツを下げて目玉焼きもご用意できますが」
コックがジウへ取り分ける朝食の案内をする。
「ハムと根菜で。オムレツをもらおう」
皿に取り分けられた朝食は、他にパンとフルーツも乗せられている。
オムレツにはハーブが混ぜ込まれ、オムレツの横には入れたハーブらしきものが添えてあった。
そのハーブを見て、ジウはテーブルを見回す。
「これは庭にあった物か?」
「はい、今朝摘んだハーブになります。口に含めば香りを楽しめます」
口に入れなければ、この屋敷の中ではハーブの香りさえわからないだろう。
コックに頷いて、ジウはオムレツに手を付ける。
ただ目はウィットの皿に固定されていた。
ウィットもオムレツにハーブが混ぜ込んである物を食べている。
けれどハーブはハーブでも虫下しにも使われる物がウィットの皿に添えてあるのをジウは見つけた。
「…………死にはしないが、間違えたか?」
コックが離れたことで、ジウは一人呟いて食べるウィットを眺める。
考えるのは下痢止めなど持って来ていないこと。
そしてこの屋敷のトイレの位置。
そんなことを考えられているとは知らず、ウィットは目の合ったジウに首を傾げた。
そして朝食を終えてまた植物の絵のある部屋へ三人が戻ると、ジウはウィットに聞く。
「お前、腹は大丈夫か?」
「え、腹? 別になんとも。何、俺も顔色悪そう?」
腹具合を聞かれて顔を気にするウィットに、ジウは興味を失くした様子で顔を背けた。
「思ったより腹強いみたいだな。毒盛られておいて」
「「は!?」」
プランツ夫人の相手をしていたグラムも突然のことに驚く。
「別に死ぬような草じゃなかった。オムレツのハーブなんて漢方薬のように効能を引き出す手を加えられてもいないんだ。気にするな」
ジウはぞんざいに朝食の席で気づいたことを話した。
「お、えぇ? 本当に? お前の見間違いじゃない? 別に腹持ち悪くないよ?」
「うーん、事故にしても危ないなぁ。庭に毒物植えてるのかい?」
「薬のなんたるかをわからず言うな。漢方薬にも区分があって、効きは強いが毒性もあるという薬はいくらでもある。同時に薬の効きは個人差が出るし料理されてたら効き目が悪くなってても不思議じゃない」
「あ、良かった。その辺りわかっててすぐには言わなかったんだ。俺が死んでも気にしないとか言われたら、テナント料絶対ふんだくってるよ」
ウィットは胸を撫で下ろす。
そして自分が気づいたことも共有した。
「プランツ夫人が何してたって言うんだい?」
「さてな。寝に来た訳じゃなさそうだったし」
「位置的に未亡人が私たちを窺って、その後にメイドがついて来ていたか」
真意が知れない二人の動きに、それぞれが考え込む。
そしてグラムが指を立てて力強く言った。
「プランツ夫人が誰を殺すか物色してたんだよ。次の犯罪に手を染める前に捕まえないと!」
「そうなると狙われたのお前になるけどな」
「昨日のことが嘘のように勇ましいな」
小ばかにして笑うウィットとジウに、グラムは笑顔を返した。
「物理で殴れるなら何も怖くないだろ!」
「殴るな! か弱いご婦人になんてこと言うんだ!?」
「いや、物理で殴るってなんだ? 拳じゃないのか?」
「人間は文明の利器を持ってるじゃないか、ジウ」
そう言ってグラムは服の下のホルスターに手をかける。
あまりに物騒な発言に、ウィットは慌てた。
「待て待て、早まるな! まだ夫人が襲いに来たとは限らないだろ。本人も帰りに消えてるのわかってるから心配して様子見に来たんじゃないのか?」
「殺気立ってたのはどうするんだ?」
「ジウまで。それは、ほら。俺たちまで行方不明になっちゃ困るだろ。完全に前呼んだ奴と同じ末路にさせるなんてあの奥さんが耐えられるとは思えない」
庇うウィットに、グラムも銃から手を離して考える。
「確かに体の弱さもそうだけど、気も滅入ってる感じがあったな。無理して笑ってるみたいな」
「自分の周りで行方不明事件起き続けて平気な顔していられるほど肝が太いようには見えないか」
ジウも納得の言葉を返したことで、ウィットは大きく息を吐き出した。
「で、ジウ? お前は昨日のこと合わせてどう思うよ?」
「そんなの今朝の様子を鑑みればメイドが怪しいだろ」
「あぁ、ウィットに毒盛った犯人? けどそれで言ったら庭の植物植えたプランツ夫人じゃないのかい?」
「グラーム、料理なんだぜ? だったらコックのほうが怪しいだろ」
三人とも昨日話したコックを思い浮かべた。
「あるか? ちょっと聞きのいいこと言ったら喋ったあの娘が?」
ジウは包み隠さずコックのチョロさを口にした。
他の二人も同じ思いなので窘める者はいない。
「そういう小細工しそうなのはあのメイドのほうだろ。ウィットの耳が正しければグラムに気づかれないほど足音を忍ばせられたんだ。怪しいよ」
「だったらなんで昨日はプランツ夫人の後ろから来たんだい、ウィット?」
グラムに聞かれてもウィットは答えなど知らない。
ジウも思いついた推論を口にする。
「ウィットが言うように様子見に来たなら先越されたか?」
「適当じゃないか。もっとまじめに考えてくれよ」
「私は書斎の鍵探しに来たんだ。行方不明者捜しじゃねぇ」
顔を背けて本来の目的を主張するジウを、グラムはすぐさま掴んだ。
「よし、それじゃコックに話を聞きに行こう」
「は!? おい、放せ!」
グラムに引っ張られたジウは、身長差もあって簡単に引き摺られる。
ウィットが見ているだけであることに気づいてジウは声を上げた
「私じゃくこっちを連れて行け!」
「あ、ちょっと服が伸びるじゃないか!」
服を鷲掴みするジウに、ウィットが文句を叫んだ。
数珠繋ぎ状態で、三人はそのまま部屋を出る。
「さぁ、今日も張り切って不明者探索と行こう!」
「私はそんなことのために来たんじゃない!」
「暴力反対ー」
まとまらない意見をものともせず、グラムはそのまま階段に向かう。
さすがに階段で騒ぐ危険を予測したウィットとジウは、抵抗やめて大きく溜め息を吐いた。
「で、何処行くんだ? 昨日は庭と二階だったしさすがに一階でも探そうぜ」
ささやかな抵抗として、ウィットは自らの望むほうへ誘導を試みる。
けれどグラムは気にしない。
「ウィット、聞いてなかったのかい? コックに話を聞きに行こうって言ったじゃないか」
「昨日だいたい話したと思うが。まぁ、意味深なことも言ってたな」
ジウは投げやりにグラムに相槌を打つ。
コックは泊まるなら気をつけてと言っていた。
そしてそのとおりに現れた不審な足音がしたのだ。
プランツ夫人とメイドであるなら、コックはその行動の理由を知っている可能性がある。
「はぁ、推測並べ立てるよりいいか。実業家が地下に行くとは思えないが鍵探しのついでと思えば」
ジウも諦める。
「また仕事の邪魔するのは心苦しいけどね」
ぐいぐい地下に降りて行くグラムに、ウィットとジウは肩を竦め合ってついて行った。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)プランツ夫人
グラム:心理を計る55(40)成功
2)昨日の足音
ウィット:聞き耳を立てる75(44)成功
3)皿の上のハーブ
ジウ:目星をつける75(04)大成功→効能も知っている毒草を発見




