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闇に足を取られた日常で  作者: うめー
伝家の宝刀
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脱出条件

「ともかくお前ら無事か?」

「今のところ体に異常はありませんね」

「周りは異常事態だがな。この宝刀を抜いた途端に…………」


 シヅキの言葉に全員の視線が宝刀に集中する。

 移動した覚えもないのに、知らない場所にいるという信じがたい状況だが、三人ともここが本来いるべき世界ではないことを半ば確信していた。


「さて、転移転生ものは流行りではありますが。あれは少々物騒ですね」


 そう茶化すように言ったミタカは、刀かけのある床の間を指す。

 床の間には黒々とした墨で何やら書かれている。


「「読めん」」

「えー? フューくんはともかく、シヅキくんもですか?」

「漢文苦手なんだよ」

「確かに漢字ですけどそう難しいものではないですよ。そうですね、わかりやすく言うと…………邪悪な者を切り捨てろ、と書いてあります」

「切り捨てろ、ね。確かに物騒だな。状況からして、俺たちの中から一人悪者決めろってことか?」

「はー!? ふざけんな! こんな訳の分かんねぇところで殺されて堪るか!」

「大丈夫ですよー。私はちゃんとシヅキくんが更生して真面目に院試受けるくらい優秀な学生さんだと知ってますよー」

「う、ぅうるさい! くそ、なんでネカマに気づかず進路相談なんかしちまったんだ俺は!」

「自分がやられるかもしれないって思えるくらい反省してるなら、シヅキは邪悪じゃねぇよ」

「頭を撫でるな、フュー!」


 フューの手を叩き払ったシヅキは立ち上がる。


「ともかく、他に手がかりないか探すぞ! ボケっとするな!」

「はいはい…………ぐふ!? ぅう…………」


 立ち上がったミタカは、鈍い衝突音の後に苦痛の声を上げた。

 座敷と次の間の間にいたミタカは、立ち上がった途端欄間に頭を強打したのだ。


「よっしゃ。幸先いいぜ」

「…………ひどくないですか?」

「これってあれだろ? 行ったことが本当になるとかいう、コダマ?」

「言霊ですね…………。コダマはもののけ姫のマスコットです。まさか本当に頭をぶつける羽目になるとは。シヅキくん、恐ろしい子」

「ふざけてんなよ。おら、なんか書いてあるぜ」


 シヅキが見つけたのは短冊形に破かれたわら半紙。

 そこには炭で書いたような歪な文字が綴ってあった。


「『前の人の手記で助かったこともあったから同じように書くね。ここは』…………ち、使えねぇ。千切れてる」

「うーん、惜しい。ゲームならいい手がかりになりそうなこと書いてあったんでしょうけど」

「手がかりとしては悪くねぇだろ。俺たちでも読める文章を書く奴がここにいた。そしてそいつの前にもここに来た奴がいるってことはわかったんだ」


 フューも座敷を見回してみるがもう目につくものはない。


 打ち付けた頭を押さえるミタカは襖の開いた縁側へと移動を始めた。


「こちらから水の音がしますね。ちょっとハンカチを濡らして頭を冷やしたいです」


 見える範囲には十二畳ある座敷に、六畳ある次の間。

 室内には他にも部屋があるものの、シヅキとフューは縁側に佇むミタカを追った。


「おい、ぼうっとしてどう…………はぁ!? なんだこの空の色!? 黒!?」

「うわ、すげー。空は黒いのに昼間みたいに明るいぜ。もうこれ、異世界だろ」

「それはそれで面白そうですが、どうも先ほどから人の気配がないんですよね」


 縁側から見た庭先は、小川が作られているだけの簡素な砂利の庭。

 庭の向こうには壁。黒く塗られた基礎の上に白い漆喰が続き瓦が乗っていた。


「あれって祠か? なんでベルが飾ってあるんだ? 仏像とかがあるもんじゃないのか?」


 フューは靴下のまま庭に降りると、小川が迂回する祠に近寄って行く。


「ふむ、この小川はやはり人工物ですね。おや? 青い布が沈めてあるのはなんでしょう?」

「おい、ミタカ。また紙あったのフューが見つけた。あとこれ何かわからねぇか?」


 シヅキに呼ばれ、ミタカは小川から離れてベルの下へと向かう。


 ベルは黒ずんだ重厚な金属製で、握りの先が三股になって卵のような形を作っていた。


「あぁ、仏具にこういう鈴がありますね。錆びているんでしょうか。だいたいは金色の物で…………」


 何げなくベルに手を伸ばしたミタカを、フューが渾身の力で掴み止めた。


「フューくん?」

「触るな。それたぶんヤバいやつだ」


 そう言ってフューは見つけたわら半紙をミタカとシヅキに見せる。


「『鈴は化け物を呼ぶから鳴らしちゃダ』…………推測するにダメと書いてあったのでしょうか? しかし、化け物ですか」


 炭で書かれた現代語。

 座敷で見つけた物と同じ人物が書いたのは疑いようもなかった。


「ちょっと貸せ」


 真剣な顔をしたシヅキが、フューから紙を受け取り、座敷で見つけた物と見比べる。


「これ、千切れた部分この辺りに落ちてませんかね?」

「なんか重要なこと書いてそうな割に締まらねぇな」


 ミタカとフューはベルの置かれた祠の周りを捜してみるが、それらしいわら半紙は落ちていなかった。


「で、シヅキはいつまでその紙とにらめっこしてんだよ?」

「…………弟の字に似てる」

「え!? 弟さんって、あの宝刀の持ち主の?」

「炭みたいなもので書いてあるから、似てる、だけなんだけど」


 シヅキは不安そうに呟く。


 三人ともが最後に聞いたシヅキの弟の言葉を思い出していた。


「確か、抜いたら取り込まれるとか言ってなかったか?」

「正確には取りこま、までしか言えていませんね」

「いっそそれっぽいじゃねぇか。最後まで言えないのがこの最後まで書かれてないメモと同じだ」

「となれば、その紙を残したのが弟さんであったらいいですね。無事に生還できる手立てがあることになります」

「…………誰か、切り捨てて戻ったのかも」


 呟くシヅキにミタカとフューは顔を見合わせた。


「お前の弟、何やってる奴だ? そいつの周辺で死人出てるのか?」

「さすがに死人は聞いてねぇ。あいつ美大生で、ここのところ、様子がおかしかったんだ。階段から落ちたとかで、怪我して頭打ったって病院通ってて」

「つまりシヅキくんは弟さんの異変には心当たりがあると。…………私見ですが、あの時弟さんは私たちを止めようと必死に声を上げていたように感じました。殺人を犯してそんな反応するでしょうか?」

「だからこそ、次の犠牲者出したくなかったとか?」

「なんだよ、シヅキの弟って人殺しできるような奴なのか?」

「想像できねぇ。あいつ、すっげぇヘタレだから」


 ミタカとフューの質問に答え続けたシヅキは、納得したように頷いた。


「うん、あいつには無理だな。女の前でいい恰好しようとしてチンピラにビンタされたら、チンピラがドン引きする勢いで大泣きした奴だ」

「それは、なんとも…………」

「シヅキはそれ見て何してたんだよ」

「ドン引きしてた。その隙にこっそり後ろから女と一緒に逃げたからその後は知らない」

「兄弟そろってナンパしてたのは、仲がいいと言うことでしょうか?」

「けどはっきり今、弟見捨てたって語ったぞ?」

「いいんだよ、あいつは。なんでかヘタレのくせに女運だけは阿呆みたいにいいんだ」

「「私怨乙」」


 話に区切りをつけるため、ミタカは咳払いをした。


「その紙を書いたのが弟さんと仮定しましょう。そして殺人を犯さずともこの知らない場所から帰られたものと考えてはどうでしょうか」

「ってことは、あいつが書いたこの紙探せば、帰れるヒントがあるかもしれない、か」

「さっきから風も吹かなけりゃ鳥も虫もいねぇし、孤独を恐れない俺でもここは長くいたい場所じゃねぇ」


 恰好をつけるように言葉を選んでどや顔をしたフューは、ミタカとシヅキが反応を見せなくても気にせず続けた。


「となると問題は、シヅキの弟の怪我の理由だな。本当に階段から落ちたのか? それともここで何か大怪我を負う目に遭ったのか?」

「わかんねぇよ。帰ってきたら包帯巻いてたんだ。だいたい打撲で、飛び出たフェンスの針金でひっかき傷みたいなのができてるくらいしか聞いてねぇ」

「階段から落ちてできる傷と言えば打撲に擦過傷、あとは捻挫や酷いと骨折ですか? もしここでの出来事を誤魔化すためなら相当なことが起こるフラグじゃないですか」


 言いながら、ミタカはポケットを調べて持ち物を確認する。

 出てきたのは圏外になったスマホ、ライトのついたキーケース、ハンカチとティッシュだけ。


 シヅキは折り畳みナイフにヘアピンとヘアゴム。

 フューもスマホは圏外。他に持っているのはファイティングナイフにガム、メモ帳とペンくらいのものだった。


「はぁ、木の棒よりはましか」

「鞄を持って来ていられれば、刀剣関係の分厚い書籍が入っていたんですが」

「俺靴が欲しかったな。底に鉄仕込んであるから」

「お前は日本で何と戦うつもりなんだよ。いや、そんな靴俺の家に履いて来たのか?」

「シヅキくん、フューくんは移動する際は常にフル装備なんですよ。家、ないですから」

「なのにバックパックも靴も置いて来ちまったぜ」


 それぞれが取り出した物をポケットの直し込んでいると、ふとミタカは呟いた。


「状況確認をして、行動の指針となる思わせぶりなメモを見つけて、装備を確認して。なんだか、これがゲームなら次あたりは初戦闘のイベントでも起きそうですよね」

「これがゲームならクソゲーだな。もっとわかりやすい取っ掛かり作れよ」


 ミタカに同調してフューも異常な現状を笑い飛ばす。

 それはまさしくフラグだった。


 二人の軽いノリを諌めようとしたシヅキを突然背後から衝撃が襲う。

 ミタカとフューが異常事態に気づいたのは、シヅキが勢いづいて地面に倒れてからだった。


毎週日曜更新

十二話予定




シナリオの作り方

1)辞書とダイスを用意。

2)六面ダイスを振って出た数字に応じた回数辞書を適当に開く。

  例:4

3)百面ダイスを振って下一桁が奇数か偶数かで奇数ページを見るか偶数ページを見るか決める。

  例:07=奇数ページ

4)開いたページの先頭から数えて、百面ダイスで出た数の場所にある単語を選び出す。

  例:奇数ページの七つ目の単語「位相」

5)辞書から選んだ文字を眺めてネタが下りるのを待つ。

  例:「位相」=位置、現れ方、違う様相、境界

    「伝家」=代々その家に伝わること、伝家の宝刀など

    「被除数」=割り算の割られるほうの数

    「角落ち」=ハンディ、将棋用語

6)ストーリーを大まかに決める。

  例:伝家の宝刀を引き抜くと別の場所へ引き込まれる。脱出条件を満たして元の世界へ帰れ。

7)フィールドや敵、アイテムを決めて終わり。

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