昼食
屋敷に戻って階段に足をかけたところで、グラムを先頭にした三人は声をかけられた。
「お客さま、そろそろお昼ができますが?」
そう言った相手は前掛けをつけたメイド。
ウィットが人好きのする笑みを浮かべて答えた。
「もうそんな時間かい。君は、ここのメイドかな?」
「これは申し遅れました。ティゼとお呼びください。ご用の際はお気軽にどうぞ」
整った顔立ちのメイドのティゼは、物怖じしない態度で受け答えをする。
「庭を歩き回ってちょうどお腹が減っていたんだ! いただくよ!」
元気に答えるグラムに、ティゼは口元を押さえて笑った。
「それでは食堂へご案内いたします」
ティゼは階段近くの食堂へと三人を案内する。
サロン室とは扉のない続きの間になっていた。
「何処から現れたかと思えば、玄関からは見えない階段下に地下へのくだりがあったのか」
食堂から振り返ってジウが気づく。
振り返ったのは逃避からのこと。
食堂もまた、むせかえる花の香りに満ちていた。
メイドのティゼはポーカーフェイスなのか鼻が麻痺してしまったのか。
気にしている様子は全くない。
「お待たせいたしました」
プランツ夫人が現われ、昼食が始まる。
「こちら熱くなっておりますので、お気をつけて」
「どうも。…………?」
コックの女性と一緒に給仕するティゼが、意味深に笑ってスープをジウに給仕する。
「庭はどうでしたか?」
食事を終えてコーヒーが来るまでの間に、プランツ夫人が世間話を振った。
「広いね。草花のことはよくわからないけれど、あのトーテムポールはどうしたんだい?」
「あら、素敵でしょう? イギリスから持ち帰りましたの」
グラムの着眼にプランツ夫人は上機嫌で応じる。
庭に見合わないトーテムポールを、プランツ夫人は気に入っているようだった。
「根が張ってるように見えましたが、あれは生きてるんですか?」
「えぇ、もちろん。まだまだ弱っているのでどうにか栄養を与えたいのですけれど、生き物ですから探り探りですわ」
ウィットに答えてトーテムポールについて語るプランツ夫人は、気づかわしげに見える。
庭に興味のないジウは午後の予定を振った。
「この後二階を調べることになっている。入ってはいけないところはあるか?」
「私の寝室には鍵をかけてあります。書斎の鍵がないので書斎も開きませんが、他はお好きに見てどうぞ」
そんな話をした後、三人は許可を得て二階へと上がるためにまた階段前に来ていた。
「そうだ、ジウ。こそこそやってたけど、なんだったのティゼちゃん?」
含みのあるウィットの問いに、ジウは首を捻る。
「零しそうに見えたんじゃないのかい?」
「そこまで爺じゃねぇ! 特に変わったことはなかったが、妙に近かったな」
ジウがグラムに怒鳴り返すと二階へついた。
階段広間があり、正面には右手に続く廊下。
廊下の左右に扉が七つあり、左手に四つ、右手に三つとなっていた。
「面白い話じゃないならなんでもいいよ。書斎は左の並びの一番奥だったな」
ウィットは他の部屋に目もくれず廊下を進む。
もちろんノブを回しても目的のドアは開かない。
書斎の向かいは部屋ではなく窓であり、近づかなければわからない場所にベランダへの扉があった。
グラムはベランダへ出て書斎のほうに身を乗り出す。
「うーん、窓はあるけど書斎の中見えないね。…………もうドア蹴破ったら?」
「こら、雑なこと言うな!」
「お前一人で修繕費出すなら止めねぇ」
鍵穴を確かめようと屈んだウィットは、動きを止めてグラムを叱る。
その時、後ろのジウがいつの間にか解けた自分の靴紐を踏んだ。
ジウは声を出す間もなくドアに顔面をぶつけ、瞼は閉じたものの目から打ち付ける。
ドアの前に屈んでいたウィットは、ジウに押されてドアに片耳を打ち付けた。
連続する音にグラムは口を大きく開いて…………。
「ぶ、ははは!」
「「笑うな!」」
一人無傷のグラムが決定的瞬間を目撃して腹を抱える。
ウィットとジウは負傷箇所を庇いながら仲良く叫ぶと、睨み合って顔を背け合った。
「あー、面白かった。もうこの並びの部屋適当に見て行こう。何処かに手がかりでも落ちていればいいな」
やる気のグラムは書斎の隣のドアを無造作に開ける。
「書斎の隣はバスルームだね。その次は、客室かな? その隣も、飾ってる絵が違うだけの似たような部屋だね」
バスルームの隣の部屋には古代ローマの一場面を描いた絵画。
その隣には鮮やかな彩色のされた三角の山の絵。
そして階段正面の部屋も客室で、陰影も書き込まれていない簡略化した植物の絵があった。
ドアから見ただけでは成果もなく、グラムは植物の絵の部屋に入る。
ウィットとジウも続き、思い思いに室内を見回した。
「ベッドと壁に絵があって、サイドボードとクローゼット、窓が一つずつ。客室ならあいつが使った部屋に鍵置きっぱとかはないか?」
「この絵、右上の丸は太陽として、草? 蔦? 木か? あまり美術的な価値はなさそうだな」
絵を吟味するジウの言葉につられて、グラムとウィットも植物の絵を見た。
「あ、ここに書いてある名前、プランツ氏じゃないか?」
「あいつに絵を描く趣味があったとは聞いてないなぁ」
客室は綺麗に整頓されており、特に収穫ないと見限ったジウが呟く。
「鍵捜すんじゃくて、もう書斎が開けばいいんじゃないか?」
鍵開け道具を掲げるように揺らすと、グラムが笑顔になった。
「そうだね。君の腕前を見たいね」
「ジウ、やめとけ」
グラムの乗り気にウィットが忠告をする。
ジウも不穏なものを感じて頷くと、鍵開け道具を降ろした。
「よーし、次に探すべきは何処だ? 廊下の反対の部屋も一通り見ておくか」
ジウはグラムにあらぬ疑いをかけられることを警戒して、さっさと客室を出る。
そして階段に近いほうの部屋に無造作に手をかけた。
「ん? 鍵かかってるな」
「あ、そこ奥さんの部屋じゃない?」
ウィットに言われてジウは開けるのをやめ、隣の部屋へと足を向けた。
次に手をかけたドアは、ノブを回すと簡単に開く。
「ここは…………客室よりも広い。主寝室だな。こっちを使ってないってことは、旦那の思い出が辛いのか」
室内は長く人が使っていないらしい生活感のなさがあった。
そんな主寝室にウィットは感傷的な言葉を呟く。
そこへ遠慮なく踏み込んだグラムは首を傾げた。
「夫婦仲悪かったんじゃないのかい? 生前から寝室を分けていたのかもよ?」
「いや、うーん、上手くはいってないって当人も気にするくらいじゃあったけど、いがみ合ってたわけじゃないんだよ。イギリス旅行も旦那のほうが言い出して、当時は仲間内で奥さん喜ばせようって色々相談してさ」
「で、失敗したと」
ジウの非情な一言にウィットは黙る。
そのまま部屋にある書架へ近づくジウに、ウィットは死者を庇うように言葉を並べてジウを追った。
「いや、奥さんの趣味優先で街中の観光地よりイギリスの自然豊かな田舎に行ったくらいだ。そこで事故か事件かに巻き込まれたらしくて、決して仲が悪かったから失敗したとかじゃなくてな」
「事件? それは災難だね」
グラムはウィットの言葉を漏れ聞いて答えながら、窓から外を見る。
庭園の見える窓が二つあり、そこから見た壁には隣の部屋へ行くドアがあった。
「タイトルのないこの本はなんだ?」
「お、日記か。文字からして旦那のほうだぜ」
ウィットの声にグラムも書架の前へと移動する。
「日記って言うより日々の記録みたいな感じだね。誰と会ったとか、どんな仕事をしたとか。プランツ夫人のことも病院にいつ行ったみたいな記録じゃないか」
日記はイギリス旅行前日までが書かれていた。
ジウが何げなく次のページを捲ると、数日分白紙が続く。
けれど突然、行など無視する乱れた文字の羅列が現われた。
『見てしまった、恐ろしい、ありえない、なんだ、何かか? 何があった? どうして死んだ? 誰が殺した? どうして、どうして、どうして、どうして? どうやった? どうなった? 何を間違えた? あれはなんだった? あ れ は 人 で は な い』
最後のページには日付はないものの一言『イギリス旅行は失敗だった』と遺されている。
その文字を見つめて、三人は唾を飲み込む。
「…………なんだこれ? え? プランツ氏はどうしたんだい?」
「ウィット、これは尋常じゃない。どんな事件に巻き込まれたか聞いてないのか?」
「し、知らない。イギリス旅行が不調で、一時期屋敷に籠ってたことしか、俺は…………」
日記を持っていたウィットはもう一度乱れた文字に視線を落とし、反射的に閉じる。
本を閉じる音が妙に響くようだった。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)強制ダイス
シークレット:成功
ジウ:幸運75+10(83)成功→何ごともなく昼食を終える
2)書斎の扉を調べる
グラム:目星をつける70(40)成功
ウィット:聞き耳を立てる75(100)致命的失敗→負傷+以後翌日まで技能に-5
ジウ:目星をつける75(98)致命的失敗→負傷+以後翌日まで技能に-5
3)故人の日記を読む
グラム:図書を調べる25(57)失敗
ウィット:図書を調べる25(08)成功→異常な走り書きに気づく
ジウ:図書を調べる55(75)失敗




