出発延期
「あれ? ジウさん警察にしょっ引かれたんじゃなかったノ?」
「今店仕舞いしようかって話してた感じだけど?」
ジウの下で働く少年と少女が戻ってきた店主にそう声をかけた。
「しょっ引かれるようなことはしてない。だが、店は閉める。お前らは大学行く時ちゃんと戸締りしろ」
「「はーい、いってらっしゃーい」」
ジウは嫌々を隠しもせず荷物を持ってグラムとウィットの下へと戻る。
「お前さん、何それ? 工具?」
「鍵開けの道具」
「え、俺の目の前で犯罪かい? 署で聞く?」
「違う。売りに来た物の中に鍵失くしたとか多いんだ」
グラムに疑われながらジウは辺りを見回した。
「ウィット、車はないのか?」
「今日はメトロ使って来たんだよ」
「二人とも俺の車に乗りなよ」
「「断る」」
勤務中のグラムはもちろんパトカーで来ている。
「もう、しょうがないなぁ。だったら一度家に車を、あ、でも署にも行く先連絡しろって言われてるし。そうだ、ここからなら最初の行方不明者宅が近いな」
グラムが悩むとウィットが諦めた様子を見せた。
「だったら不明者宅行って、署に車置いて、その後お前の家行けばいいだろ」
「ウィット、遺品整理だけなら不明者宅いらないだろ」
「あ…………」
「よーし、そうと決まれば行こう!」
ジウの突っ込みで気づくウィットを気にせず、グラムは二人を引き摺って歩き出した。
地下鉄を使って移動した三人は、グラムが持ってきた調査資料から住所を捜す。
「確か最初の不明者は庭師だったな」
「ジウも興味あるんじゃないか。そうだよ。プランツ邸の庭の手入れをしていた人で、その日はプランツ夫人に呼ばれて具合の悪い植物を見に行ったらしいんだ。でも、それ以降庭師の行方はわからないいだよ」
「何処か途中で事故に遭ってるんじゃないのか?」
ウィットの推測にグラムは肩を竦めた。
「庭師は道具と一緒に車でプランツ邸に行ったんだ。途中の道にブレーキ痕なんかは見らないし、もちろん事故車もない。だから庭師は何かしらの問題を抱えていて蒸発したと当初考えられていたそうだよ」
「車も見つかってないのか。だったらそのまま乗って家出が妥当だな」
「理由があるかどうかを今から聞き込みに行くんだよ! 誘拐なんかも視野に入れて怨恨の可能性もね」
結論を決めつけ事情聴取を回避しようとするジウに、いい笑顔のグラムは決定事項のように圧をかけた。
「ただ今さら感強くない? ちょっとそれは警察動きが遅すぎって相手から文句言われそうなもんだけど」
「俺が手伝いに回ったのが今日だからね! 遅くはないさ」
「どうせこれ、アポ取ってないぞ。こんなのに突撃される庭師の家族が可哀想だな」
憐れむジウを気にせず、グラムは見つけた不明者宅の玄関扉を叩いた。
「新たに事件担当になったグラムです。少々事件当日についての確認をさせてください。あ、あちらの二人はお気になさらず。事件関係者ですから」
勝手に関係者にされたウィットとジウは賢明に黙る。
「あら、まぁ。お互い心配ですね」
庭師の奥さんは素直に騙され、三人を自宅に招き入れた。
そして聞けたのは不思議な植物の話。
「どうもお屋敷の奥さんがイギリス旅行に行って珍しい花を手に入れたとかで大事に育てて。夫にも見せなかったのに、その日はなんだか見せる気になったみたいで。夫も気になってたとかで勇んで行きました」
「その時怨ま…………」
「あぁ、それ俺も聞いたことあります。イギリス旅行の後に庭いじりに目覚めたとか。プランツ邸に行ったことある奴らは花屋敷なんて呼んでますよ」
事件のことだけを聞こうとするグラムを押さえて、ウィットが話を膨らませる。
けれどプランツ邸に親しむような物言いのウィットに庭師の奥さんは懐疑的な視線を送った。
「えぇ、なんだかお庭の大改造をしたとかでうちに依頼がきまして…………」
「ずいぶん羽振りのいい話だな。プランツ氏よりも夫人のほうと旦那は親しかったのか?」
他人ごとのジウは気になったことだけをやる気なく聞いた。
「えぇ、まぁ。夫が一度漏らしたんですけど、なんだかあちらは夫婦仲が上手く行っていないようで。奥さんは花で寂しさを紛らわせているんじゃないかと」
「庭師の旦那さんがいなくなったのは、プランツ氏が亡くなる前でしたよね?」
「あら、あの方亡くなっていたの? まぁ、知らなかったわ」
グラムが振ると庭師の奥さんが同情的な表情を浮かべた。
グラムと違ってこの庭師の妻はプランツ夫人を疑ってはいないのが見てわかる。
めぼしい情報はなく、三人は庭師の家を後にした。
「うーん、調査書どおり庭師に失踪の理由はなし、か。よし、次は一番最近いなくなった実業家の!」
「やめろやめろ! あそこ今、両親兄弟が血眼になって捜してるから、下手に首突っ込むと警察批判で大変なことになるぞ!」
「ウィット、ずいぶん実感がこもってるじゃないか」
水を向けるジウに、ウィットは苦い表情で頷く。
「いや、まぁ。悪い薬でもやってたんじゃないかって、何人か親しかった奴が怒鳴り込まれてんだよ。グラム、言っておくけどそんなことはやってなかったからな」
「あ、調査書にも親族が興奮ぎみって書いてあるぞ」
呆れるジウは興味のない行方不明事件から最終目的地へと話題を変えた。
「ウィット、花屋敷ってのはどんなもんだ?」
「いや、俺その改装前しか行ったことないし。行っても庭見ずに仕事部屋で話し込んじゃって。ただ庭いじりが趣味みたいで奥さんのためにサンルーム作ったって聞いてる」
「そうなのかい? さっきの庭師の奥さんが言うには夫婦仲悪かったそうだけど?」
グラムにウィットは困った様子で首を傾げる。
「それが、奥さんが引っ込み思案なら、夫のドニーのほうは寡黙な仕事人間でな。ほら、イギリス旅行って言ってただろ。あれ、結婚二十年の記念にドニーが一念発起して計画したんだよ」
「ふーん、あ、そのプランツ氏の死体も妙なところがあるんだけど? 血がほとんど流れてしまってるなんて、いったいどんな死に方だい?」
「うわ、なんだそれ? それは殺人事件になってないのか?」
「いや、事故って聞いてる。川かなんかで骨折して動けないまま水に浸ってたって」
声を大きくするジウにウィットがまた聞きの状況を教えた。
グラムは不明者の調書を閉じて頷く。
「数日夫が帰らないというプランツ夫人の通報で捜したら、川に死体があったそうだよ」
「葬儀に参加したけど、夫婦仲が上手くいってないにしては奥さんずいぶん参ってたぜ?」
「はぁ、男女仲は面倒だ。考えても答えがあるとは限らない。ともかく次だ、次」
考えを放棄したジウの声で、三人は地下鉄で警察署へ向かった。
さすがに部外者は警察署の奥まではいけない。
ウィットとジウが待とうとすると、グラムに突進する刑事が現われた。
「お前ー! 勝手に関係のない事件に首突っ込んだ上に、俺を置いていくとはどういうつもりだ!」
顔は知らずとも発言でグラムの同僚だとわかる。
足元を見れば怪我を負っているらしく引き摺っていた。
怒る同僚をまとわりつかせて去るグラムを、ウィットとジウは他人ごとで見送る。
ほどなくグラムが向かった先からは別の怒鳴り声が上がっているのも聞き流した。
「…………で、警察署でいきなり乗り込むなと怒られ時間を取られたわけだが?」
ジウは暮れる空を見て嫌みを言った。
今いるのはグラムの家。
ウィットは諦めたように首を横に振る。
「さすがに未亡人の住まいに男三人、この時間から押しかけるのは無礼すぎるよ」
そう言って電話を出すとかける。
「ウィットですが、えぇ、すみません。所用でこの時間になってしまい。今日は…………え? いえ、悪いです。そちらお一人で? コックとメイド? ちなみに性別は? あ、女性ばかり。なるほど」
グラムは立ち上がってウィットの電話に耳を近づける。
「いえ、ダメですよ。そこはきちんとしましょう。明日必ず向かいますから。えぇ、はい。男三人です。力はありますから大丈夫ですよ。えぇ、えぇ、はい。では、はい、明日お邪魔します」
ウィットは電話を切って溜め息を吐き出した。
「どうしたんだ?」
ジウはグラムに聞いた。
「なんだかずいぶんとしつこく泊まるよう言われてたよ」
「…………ははぁん?」
「ちょっと、邪推しないでくれ。何度か会ってるけどそういうタイプじゃない」
一人わからないグラムは率直に聞く。
「どういうことだい? タイプ? 寝込みを襲うのかい?」
「違うってば。引っ込み思案だって聞いてるし、愛護活動に熱心な善良な奥さんだよ」
「こいつの言ってる寝込みは、色っぽいもんじゃないだろ」
「…………? 殺人の仕方に色っぽいってなんだい?」
ウィットはうっすら笑ってグラムを憐れむように見た。
「お前、お子様すぎて可哀想になってくるな」
「は!? それは何かい? 俺に喧嘩を売ってるのかい?」
即座に距離を詰めたグラムはウィットの肩を力いっぱい掴む。
「あーもー、うるさい。私は帰るぞ。明日ここに来ればいいんだろ?」
「あ、ちょ!? 見捨てないで!」
ジウは捕まったウィットを置き去りに、グラムの家から帰路についた。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)探索場所
何か所探索するか?→四か所
何処へ行くか?→ジウの店(任意のアイテムget)
グラムの家(任意の武器get)
行方不明社の家(庭についての情報get)
警察(事件の詳細情報get)
2)関係者から証言を得る
庭師の妻にグラム信用してもらう→50(07)成功、主導権を握る
ウィット説得する→74(93)失敗
ジウ目星を付ける→75(92)失敗
3)犯人の罠
犯人の幸運→50(00)致命的失敗、精神不安定に陥り罠どころではなくなる




