警察に捕まる
ビルオーナーのウィットは持ちビルの一つに足を向けた。
ガレージ予定だった一階は改装され、中華風のランタンが下がった古物商が店を開いている。
店の前に椅子を出してつまらなさそうに新聞を眺める男がいた。
「よぉ、ジウ。いつもどおり繁盛してるな」
「今月はまだ一つも売れてねぇから払えるもんさえないぞ」
ジウは皺の寄った新聞を畳むと、ウィットは笑顔で近づいた。
そんなウィットにジウは何か気づいた様子で目を眇める。
「いやいや、催促に来たわけじゃないんだ。ただこっちもビジネスでね。ただただ待つなんてフェアじゃない。だから待ってやる代わりに一つ手伝ってくれ」
「嫌だ」
「待て待て、早い。ちゃんと聞いてからだな」
「お前は妙なものを引き寄せる悪運の気がある。そんなのに関わると碌なことがない」
「そう言うなって。ちょっと力仕事の手伝いだけだから」
「余計に嫌だ。私のほうが年上で非力なのは知ってるだろ」
「まぁ、俺はスポーツは嗜む程度にやってるからな。でも体力はジウのほうがあるだろ」
ジウは一度畳んだ新聞を読むふりで相手しないポーズを取った。
「家賃待つのになぁ? こっちも善意なんだけどなぁ?」
「ないものを待たれてもない」
「ここの持ち主俺よ?」
「うちのガキどもに泣き落とされてぇか」
「お前ね、ちょっとふてぶてしすぎやしない? そういうことならこっちにも考えあるけど?」
「…………交渉下手すぎだ。脅すにもタイミングがあるもんだ。ここは私が少し退いてやろう。今月の家賃半分で手伝ってやる」
「それ俺が損するだけで交渉にもならないでしょ。こっちは手間賃くらいはつけてあげるつもりなのに」
「若造が上からすぎて不快。やり直し」
「本当にこのおっさんは!」
下手に出ていたウィットもジウの態度に腹を立て言い合いが始まる。
そしてその内罵り合いになるのに時間がかからなかった。
「だいたいお前が持ってくるのは厄介ごとが後からついてくる類の面倒ばかりで割に合わん!」
「こんな怪しいジウに善意で貸してあげてるのに!? 年上敬うのが文化らしいけど? この国ではそういうの老害って言うんですけどぉ?」
「危険度外視で厄介な物押しつけようとするくせにその自覚もない若いのが多すぎる! この前も曰く付きの刀押しつけようとしてきた若造が何もわからず処分しようと妙なこと考えて!」
「それ俺と関係ないでしょ。いっそジウの人徳の問題じゃないの? こいつなら面倒なことを押しつけてもいいや程度に思われるその人間性がさ?」
店先で喧嘩する大人二人に、少年と少女が覗き見をしていた。
「どっちもどっちヨー。しかもどっちも色気出すと失敗するネ」
「刀ちょっとみたかった、あ…………。まずい感じー」
少年が気づいて引っ込むと、少女も道の向こうを確認して逃げ出した。
ウィットとジウは気づかず言い争いを続ける。
その二人の肩を掴むように叩く背の高い刑事が現われた。
「やぁ、いったいなんの揉め事だい? 悪事の処理について意見が合わずに押し付け合い? 署でお話しするかい?」
現われたのは若手刑事のグラムだった。
「よぉ、グラム。ちょっと聞いてよ。このジウが家賃踏み倒そうとするんだよぉ」
「げ、面倒な若造が現われた。あーもー、元気が有り余ってるそいつ力仕事に連れて行けばいいだろ」
押しつけるジウにグラムは首を傾げる。
「うん? 俺は平和のために日夜忙しく働いているからね。君たちと違って暇じゃないんだよ」
「その割に相棒の刑事も連れずに一人でフラフラしてるだろ」
ジウが指摘するとウィットも気づいた様子で周囲に視線を配る。
「そう言えば、前にひったくり捕まえようとしたお前に突き飛ばされたって。足捻ったって言ってなかった?」
「うん、だから置いて来たぞ」
悪びれないグラムを責めても甲斐はない。
ウィットとジウは突っ込むことを放棄した。
「それで、そのお忙しい刑事さんが何しに来たのかな?」
呆れるウィットにグラムは笑顔で応じた。
「臓器売買とかで死体出てないかジウに聞きに来たんだ」
「そんなの知るか! お前まだ私をマフィアだと思ってんのか!?」
「だって君、たまに出入りする客が妙に羽振り良さそうだったり、堅気じゃない面構えだったり」
羽振りがいい客の一人はウィットだ。
見るからに育ちが良く、ジウのような相手と親しくなりそうもないと思える。
「どんな人間も当たる時には信じられないような厄介ごとに当たるんだよ」
「やっぱり何か社会の闇に関わってるんだろ!」
「違う!」
「まぁまぁ、グラム。なんで臓器売買なんてこと調べてるんだよ?」
ウィットが間に入ってグラムの目的を聞き出そうとする。
このウィット、以前曰く付きの物を押しつけられ処分に困っているところをジウに助けられたことがあるのだ。
「行方不明者が一人も見つからないのはばらされて売られてるんじゃないかと思って」
「あぁ、例の…………。うーん、それはちょっと考えたくないな。最近行方不明になった実業家、俺も知ってる相手なんだよね」
「そうなのかい? だったらプランツ夫人について知ってるかい?」
「もちろん。夫のドニーとは交流があって、その繋がりで行方不明になった相手とも知り合ったんだ。今日もちょうどそのことで夫人と話を」
「よし! 俺はなんて幸運なんだ!」
「は!? 痛い! ちょっとその馬鹿力で掴むな!」
突然全力で肩を掴まれたウィットが悲鳴染みた声を上げた。
「俺その事件を手伝うことになって調査に来たんだよ!」
「ちょっと! 話すのはいいけど、ジウ! 逃げるな!」
「若い者同士でゆっくり話すといい。私は仕事をしなければ」
「お前も関係あるの!」
逃げるジウにウィットが叫んだ。
するとグラムが体格の良さを使って逃げかけたジウも掴む。
「ぐ!? 巻き込むな!」
「いや、本当に俺、そのことでお前のところ来たんだって」
「まさか、その行方不明になった知り合い捜す手伝いだったのか?」
「いや、そっちじゃなくて。プランツ夫人のほうさ」
「ふんふん、それで?」
グラムだけが乗り気で相槌を打つ。
ウィットは嫌そうな顔を隠しもしないジウからグラムのほうへ顔を向けた。
「実は遺品整理の手伝いをお願いされてさ。いなくなった奴もその手伝いで行ってたらしいんだけど、書斎の鍵何処置いたかわからないらしいんだよ」
「他に何かそのプランツ夫人から怪しい証言は?」
「おいおい、あの人疑ってんのかよ? 線の細い小柄な女性だぞ? …………ジウよりは身長あるけど」
「うるさい! もうその女が怪しいなら捕まえればいいだろ!」
気にしてることを言われてジウは暴論を吐く。
「いや、だから無理だって。いなくなった奴、あんな女性一人でどうにかできるタイプじゃないから」
「あ、そっちのほうから行方暗ます理由なんかは? 借金とか女関係とかなかったのかい?」
「ないな。事業で躓いたなんてことも聞いてないし、遊ぶタイプでもなかった」
「他にも行方不明者いるのに、なんでその未亡人疑うんだ?」
最初からプランツ夫人を疑うグラムにジウは疑問を投げかける。
「いなくなった六人全員が最後に会ったのがプランツ夫人なんだ」
「あ、それは怪しい」
「無理だって。夫人病弱なんだから」
グラムに同意するジウに、本人を知るウィットだけが反論した。
「それで? ウィットはどうして遺品整理なんて手伝うことになったんだ?」
気にせず経緯を聞くジウにウィットは肩を竦める。
「困ってるって言われたらやっぱり男だし?」
「旨味のある話をしろ。でなきゃ時間の無駄だ」
「俺、お前のその実利重視のとこ嫌い」
文句を言うウィットにジウは鼻で笑う。
するとグラムは目を光らせた。
「後ろ暗い所があるのかい?」
「ないない! ドニーの資産を処分するなら回してもらえないかと思っただけだよ! 後ろ暗いなんてとんでもない! ただの人情的な繊細な話なだけ!」
「ははーん、女一人の所に理由つけて付け入るんだな」
「なんてあくどいんだ!」
「グラーム! お前の素直さは美徳であり欠点だ!」
「ありがとう!」
欠点という指摘は聞いていない。
「よし、そうと決まれば行こうじゃないか!」
「「は?」」
空に向かって指を差すグラムに、ウィットとジウは困惑の声を上げる。
「行方不明事件を解決するため、プランツ邸へ乗り込むんだ!」
「いやいや! 俺は遺品整理で夫人とお近づきになるんだって」
「金があるなら手伝ってやってもいいが、書斎の鍵探しに限る」
三人の目的は明らかにバラバラ。
それでも気にせずグラムは歩き出した。
「異論がないなら時間が惜しい! 善は急げだ!」
「異論しかねぇ」
ジウの言葉を聞き流すグラムの様子に、ウィットは諦めて首を振る。
「どうしてこう警察って適当な人選するかな。こんなだから実績上がらないんだよ」
そんな愚痴をグラムは取り合わなかった。
毎週土曜日更新
・ダイス目抜粋
1)プランツ邸同行
ウィット→ジウ:説得する70(79)失敗
ジウ→ウィット:値切る55(70)失敗…………家賃値下げに失敗
2)グラムの捜査協力要請(物理)
グラム→ウィット:筋力勝負70(45)成功
→ジウ:筋力勝負90(02)決して逃れられない
3)悪事への追及
ウィット→グラム:説得する70(64)成功
ジウ→グラム:値切る55(08)成功…………話を逸らせる




