行方不明事件
周囲の表記は全て英語。
辺りは閑散とした中規模のビル街。
そんな中、中華風のランタンを軒に下げた一軒の商店があった。
雑多に物が陳列された店内は何処か古臭い。
古物を商うにしても客を選ぶだろう雰囲気が漂っていた。
「おーい、新聞何処だ?」
「ジウさん、老眼? レジに置いてるでショ」
英語に不慣れなアジア系の少女に適当に手を振り、ジウはレジに座り込んで足を組むと新聞を開く。
そのジウもまたアジア人の顔をしていた。
「また行方不明か。…………ふーん、今度は金持ちの実業家、か」
「え、それ今度こそ誘拐じゃん?」
住居になっている店の奥から顔を出す少年、彼もまたアジア人だった。
ジウは古物商の店主であり、少年と少女は留学生で遠縁の親戚。
アルバイトとして雇っているものの、親戚の親しさが勝る関係だった。
「これで五人目? この国怖いヨ」
「どうせ半分は家出じゃん?」
怖がる少女に少年は気楽に笑う。
そんな二人の声に、ジウは新聞から目を離した。
「年寄りの男、若い男、アルバイトの娘、中年の家政婦、旅行者の、男か? そして実業家で、六人だな」
ここ半年で出た行方不明者だ。
「一月に一人じゃん。相変わらず警察仕事しないって感じ」
「仕事されても困るヨー。ジウさんあくどいことするモン」
「人聞きの悪いこと言うな。私は持っていても困る相手から」
「買い叩くじゃん?」
「本当のガラクタ断るヨ」
少年と少女の的確な指摘にジウは黙る。
「でも妙に曰く付きの物引き当てるネ」
「ジウさん呪われてるって聞いたことあるしー」
「誰だそんなこと言った奴!?」
怒るジウに少年と少女は顔を見合わせた。
「「このビルのオーナー」」
「あいつか! あいつこそ変な物拾おうとしたところを止めてやった恩を!」
新聞を叩いて怒るジウに、少年と少女はまた顔を見合わせる。
「けど今月の分の家賃待ってもらってるじゃん?」
「余裕のある大人、かっこいいヨー」
「顔がいいしー小さくもないしー金があるのがいいじゃん」
「このビル、上の階はほぼ企業の物置だからジウさんに貸すの善意ヨ」
好き勝手言う年少者たちだが、言っていることは間違っていない。
だからこそジウ手元の新聞を見た。
「…………おめーらいいもん見せてやる」
そう言って新聞を折り始めるジウに、少年と少女は即座に反応した。
「それ知ってるし!」
「ハリセン嫌ヨ!」
少年と少女はジウの側から離れ住居へと逃げていった。
とある警察署。
「なんでこれだけ状況が揃ってるのに、容疑者を逮捕しないんですか!?」
若い刑事が上司にそう迫った。
すると上司は面倒そうに椅子の背もたれを軋ませる。
「グラーム、お前は若くて体力があってそのがたいだ。元気が有り余ってるのはよーくわかる」
「そうです! だから俺にこの行方不明者たちが最後に会っている未亡人を調べさせてください!」
「うんうん、その元気さをもう少し書類と向き合うことにも使おうなー。その未亡人の年齢と身長は?」
「三十八、百六十センチ」
「で、定期的に医者にかかってる持病持ちだ。一番最近の行方不明者は亡くなった夫の若い友人で、三十歳の百八十三センチだ。わかるか?」
悩むグラムに上司は溜め息を吐いた。
「小柄な未亡人が、どうやって、自分よりも重くて元気な若い男を、帰さないようにできる?」
「後ろから一発ドンと!」
「うーん、いい笑顔だ」
指でピストルを作るグラムに上司は乾いた笑い声を漏らした。
「弾痕や未亡人宅の銃火器はもちろん調べてある。弾痕はなし。銃火器も夫が死んだあと手入れもされていなかった。OK? もう一つ言っておくと、周辺住民も銃声は聞いていない」
一つ一つ指摘していく上司にグラムは不服さを隠そうともしない。
「それでも六人全員と最後に会ってるなんて怪しいです」
「怪しいなぁ。怪しいが犯行が無理な相手を捕まえて、どうするんだ? 下手なことすれば訴えられるぞ。やってないとは言い切れないが、やったとも言い切れない。わかるな?」
グラムは上司の諭す言葉を真面目に考える。
そして言い放った。
「つまり、俺が証拠を手に入れればいいんですね!」
「俺ぁ、個人的にはお前のその底抜けな前向きさ嫌いじゃないんだよなー」
上司は笑顔で諦めた。
「ま、若い内にする失敗は勉強だ。そんなにやりたいならいいだろう。ちょうど担当してた奴も行方不明者の実数が多いかもしれないとやる気なくしてたからな。どうも獣に襲われたんじゃないかと言われてた行方不明の周辺住民が複数いてな…………」
「わかりました!」
グラムはすぐさま資料を握って担当者のデスクへ走って行く。
突撃された担当者は頭を抱えた。
「おま、えー? お前なの? ちょっと人選間違ってやしないか?」
「それはどういう意味だい? 君、俺の能力を疑うのかい?」
「だってお前、人の話聞かないだろ?」
「それが?」
グラムは自覚した上で首を傾げた。
「行方不明者の関係者怒らせてもいいことないのに…………」
担当者は助けを求めて上司を見るが、やらせてみろと手で適当にあしらわれてしまう。
担当者は仕方なくグラムの相手をすることになった。
電話の着信音が響くのは、眺望が売りの高級集合住宅の一室。
裕福そうな金髪の青年が電話を取った。
「ハロー? あぁ、ご無沙汰して、あぁ、えぇ…………聞きました。そうですね。はい、何処へ行ったのかは俺も」
電話の相手は五カ月ほど前未亡人になった友人の妻。
そして十日ほど前に行方の分からなくなった同業者と最後に会った相手だった。
『実は、あの方には夫の遺品整理をお願いして、書斎の鍵を渡していたのですが、持ち帰ったのかも分からないまま行方不明になってしまって。ウィットさん、何かごぞんじないかしら?』
「すみませんね。旦那さんを挟んでやり取りしたことがあるくらいの相手で」
『そう、そうよね。ごめんなさい、他に頼る相手もいなくてこんなこと』
夫を亡くし不明者が出て心細い相手の心情は想像できる。
ウィットは当たり前に安請け合いを口にした。
「俺で力になれることがあれば言ってください。微力ながらお手伝いします」
『まぁ。では書斎の鍵を探してくださらない? 私はご存じのとおり体が弱くて、自分の家なのに歩き回るのも辛くて』
社交辞令にそんな返しは予想外だったウィットだが、即座に損得を計算して笑顔を浮かべた。
未亡人は夫の資産をまだ処分していない。
夫の仕事には疎かったはずで、税理士はいるだろうが情に訴えて資産の一部でも相場より安く買いたいところ。
この申し出を受け入れれば融通をきかせられるかもしれない、と。
「…………それはお困りでしょう。俺でよければそれくらいはできます」
『まぁ、嬉しい。私では夫の遺品を整理するのも辛くて。それにあの人、書斎にずいぶんな数の本を溜めこんでいるはずなの。片づけてくださるなら心強いわ』
「あー…………えぇ、喜んで」
遺品整理まで押しつけられたウィットは、電話の向こうにわからないよう溜め息を漏らしたのだった。
『もしお手伝いしていただけるご友人がいたなら一緒にどうぞ。泊まってくださっても結構よ』
「そうですね。…………えぇ、そうさせてもらいましょう」
相手と来訪について打ち合わせ、ウィットは電話を切る。
そのまま手にした電話で新たにかけようとして、やめた。
「あいつまだ帰国したって聞いてないしな」
片づけに使えそうな友人は、今西の海の向こう側。
ウィットは頭の中に面倒ごとに引きずり込めるような相手を思い浮かべて電話を直す。
「よしここはあそこに直接行って、今月分の家賃を待つ代わりにって正面から言ったほうが効くか」
そう言ってジャケットを取ると、ウィットは出かけていった。
毎週土曜日更新
主要人物
・グラム
見るからに鍛えた体つきと図太い神経の若手刑事。
頭は悪くないけれど、やらなきゃいけないこと、やってはいけないことは考えずやりたいことなら迷わずやる。弱きを助け強きを挫きたいため、警察になった。
・ウィット
男にも嫉妬される美貌が自慢のビルオーナー。
頭の回転が速くお金に困らない家に生まれたため、遊び暮らせるだけの資金は持っている。
なのに何故か運が悪く、命の危険に何度も遭遇しながら生き延びているギリギリ人生でグラムに目をつけられた。
・ジウ
それなりに経験を積んで並大抵のことでは揺るがない商売人。
ただなんの因果か取り扱う古物の中にヤバい物が不定期に紛れ込み、面倒ごとを抱えてしまったウィットと出会って恩を売る形で解決した。
無駄に顔が広いためグラムに裏取引を疑われている。
*ダイス目抜粋
1)能力値・筋力
グラム:18(誰もが振り返る筋肉)
ウィット:12(適度なトレーニング)
ジウ:10(普通)
2)能力値・精神力ー振り直し
グラム:7(人並み)→13(図太い)
ウィット:6(お豆腐メンタル)→9(人並み)
ジウ:8(人並み)→15(鋼の精神)
3)行方不明事件を知っているかどうか
*能力値・アイデア/能力値以下が出れば成功
グラム:80・76(業務上知ってる)
ウィット:80・31(被疑者が知人)
ジウ:70・37(新聞を詳しく読んでいる)




