第5.5話「天界side:天城 凛」
初めての幕間話。
「あぁ~…やっと書類全部作り終わったぁ」
鎹さんがステリアへ旅立ってから1時間後。
天界とステリアでは時間の流れが違うから、きっと向こうでは1日経っている頃だ。
鎹さん…今、何してるのかな?
私はふと気になって、懐から拳大の大きさ程の水晶を取り出す。
日本では占い師さんがよく使っているのを見かけるが、それよりずっと上質で、魔力の込められた特別なものだ。
この水晶を使えば、勇者候補を受け持つ神は、自らの加護を与えた勇者候補の現状を確認することが出来る。
私が受け持っている勇者候補は鎹さんのみなので、彼を映し出すのは容易だった。
…まぁ、彼からの信仰の深さもあって、反応が大きいっていうのもあるけど。
鎹さんの場合、信仰じゃなくて信頼みたいなものなんだけどね…一人の人から向けられる信仰の深さを肌で感じられる身体になった今の私には、その感覚はくすぐったい。
彼は本当に人が好い。魂を保護するために魔力のオーラを「視た」私は、それをよく知っている。
とても澄み切った、深い青のオーラ。
夜の女神になった私だけど、あそこまで澄み切った魔力を持つ人は初めてだ。
初めて受け持つ勇者候補、綺麗な魔力のオーラ、彼から寄せられる信頼。
そのすべてによって、今後他の冒険者を受け持ったとしても、私は彼を贔屓してしまうかもしれない。
「うん、見つけた」
鎹さんの姿が映し出される。
ここは…どこかの建物の中?
後ろに女の人を下がらせ、誰かと対峙しているのが分かる。
その相手を見て、私は彼の危機を悟った。
「流石に、異世界に降り立ってすぐのあの人には、荷が重い相手ね」
魔王候補、ファルズフ。
私自身、何度か交戦したことのある相手だ。元々天界の使徒…天使だった人だけど、現実世界の人間、それも魔王候補に恋をしてしまい、”堕天”した。そのまま魔王候補として新たに魔王より授かった名前が、ファルズフ。天界に来てから目を通した資料にはそのように書かれていた。
彼女を含む魔王候補は、殺した勇者候補から神器を奪い、それを悪用している。
「…なるほど、そういう事なんだ」
彼が後ろに下がらせているシスターちゃんの装備品が厄介なんだけど、鎹さん、気付けるかしら?
というか最悪の場合、このまま死んでしまうかもしれない。それほどの相手だ。
「あぁ、もう!しょうがないなぁ…!」
私は重たい腰を上げて、準備に取り掛かる。
自分の名前の右隣、「自席」と書かれた部分をタブレットで操作する。「視察」の状態になった事を確認してタブレットを元の場所に戻すと部屋を出て、そのまま自分のロッカーを開けた。
「私一人しかいないし、ここで着替えればいいよね」
ロッカーから、戦闘用の服、胸当て、ブーツ、グローブ、黒い外套、白銀と漆黒の腕輪を1つずつ取り出す。私は軽装が好みだから、こんなもので良いと思う。
服を脱いで下着姿になり、そのまま装備を身に付けていく。
「天界規則違反になったら、私も追放されちゃうかなぁ…」
そうなったら、鎹さんのパーティメンバーとしてこの実力を発揮しようか。
…それも楽しそうね。
「まぁ、始末書一つで済むように頑張りましょう!」
大きな声でそう言って色々吹っ切れた私は、オフィスの鍵を閉めて、そのまま走り出すのだった。
どうも、夜光猫です。
今作、初めて幕間の話を書きました。元々は書く予定の無かった話なのですが、ちょっと掘り下げておきたい部分もあったりしたので、急遽ぶち込むことになったお話です。初めて蒼真以外の視点での話ですね。
凛がなぜ神様側なのに日本名なのか、ある程度描写しました。勘のいい人ならすぐわかるかもしれませんね。短い話ですが、どこかで書くくらいなら今やったろう!!くらいの気持ちで書きました、やってやりましたよ!
さて、このあと続けて6話をアップします。そちらも合わせてお楽しみください。
6話の後書きで会いましょう!!