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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第3話「甘い香りに誘われて」

この男、異世界に来て早々、寄り道してやがる…!

さては楽しんでいるな!?

目の前の景色は、都会の喧騒とどこか似ていた。

足早にどこかへ向かっている者、タバコを吸っている者、恐竜のような生き物に引かれて、車と変わらない速度で行き交う、人力車のような乗り物。

通り行く人の中には、肌の色や耳の形が明らかに違ったり、尻尾や獣耳が生えたりしている人もいた。

さっきの人達、エルフとか獣人とかなのかな…なんて考えながら、少しずつ冷静さが戻ってくる。

「よし…」

まずはやることを挙げていこう。

そう決めて、天城さんから受け取ったバッグの中をガサゴソ探ると、筆記用具とメモが入っていた。

「さすが…気が利くじゃん?」

メモは社会人の基本だ。

それに、やることが分からなくなって、頭の中を整理する時にも役に立つ。

手帳型のメモを開き、削られた鉛筆の先に付いていたキャップを外して、俺は思考する。

まずやらないといけない事が、冒険者ギルドを見つけてそこに行き、正式に冒険者になることだろう。

登録料に必要なお金は天城さんから貰っている。

次に、当面の宿を探すこと。これも今日中に、マストで達成しないといけない。

メモ用紙に、「優先度:大」と記入し、その下に箇条書きで今の二つを追記する。

この二つより優先度は下がるけど、最低限の装備品や回復薬、水や食料の調達。

最悪、今日一日くらいなら食べなくても何とかなるから、後回し…あ、いや、水はいるな。

メモに「優先度:中」と記入し、戦闘の準備をメモに追記する。

「優先度:大」へ食料品の調達を記入。

あとは…パーティメンバーの募集か。

当然ながら、俺は右も左も分からない状況だから、この世界に詳しい誰かの協力が必要になる。

そうなると、良心的な冒険者の手を借りて、ノウハウを蓄積していくところから始めるべきか。

「何より、剣の握り方や振り方もそうだが…モンスター相手にどうやって戦えばいいのか分からんよなぁ」

そう独り言を呟いていると、あることに気づく。

そういえば…結局俺は、どんな天恵を貰ったのだろうか?

そして、俺の天稟はどんな才能になったのか?

これがもし仮にゲームの世界であれば、セレクトボタンとか押してステータス画面を開けば、一発で分かるだろうが…ここは現実、そう甘くはないってことか。

「優先度:小」と記入し、パーティメンバーの募集、自身のステータスの確認を追記。

あとは何かないかな…と考えていると、不意に冷たい風が吹いた。

自分のいた日本では、地球温暖化とか言われていたし、こんなに冷たい風は冬でもそうそう吹くことはないだろうなぁ。

最近の冬、結構暖かいと思います(個人の感想です)。

「…防寒着の購入も検討するべきか」

自分の見ている方向の向こう側には、雪が積もった大きな山が見えている。

そこまで距離は感じず、一日かければ麓までは辿り着けそうな距離だ。

だとすれば、俺が今いるこの場所は、かなり北の方という事か?

「…この国全体の地図がいるな。可能なら、世界地図も欲しい」

地図の入手、とメモに追記して、手帳を閉じる。

うん、これくらいでいいだろう。


[優先度:大]

・冒険者ギルドを探して、ギルドに登録して冒険者になる。

・宿を探す(可能なら当面の活動拠点の入手)

・水や食料品等の調達


[優先度:中]

・装備品等の、戦闘に必要な道具や武器の調達


[優先度:小]

・パーティメンバーの募集

・自身のステータスの把握

・防寒着の入手

・地図の入手


うん、こんな感じかな。

まずはギルドを探しから始めることにした俺は、可能な限り優しそうな雰囲気の人を探しに、歩き始めるのだった。


歩くこと10分。

…この街、結構広くね?

速く慣れないとヤバイかもしれない。

既に自分の来た道を覚えていないが、今は進むしかない。

自分の右足が一歩を踏み出した、その時。

「…ん?」

何やら、とてつもない甘い香りがした。

メープルのような香りだ。どこからだろう?

香りの元を探してみると、何やら出店があるのを発見した。

…ちょうどいい、あの人に聞いてみよう。

け、決して甘いものに釣られたわけじゃないからな!?

肌は適度に日焼けしており、大柄で、口の周りに立派なヒゲを蓄えたおじさんが何かを鉄板で焼いている。

空色のバンダナが、なぜだか様になっていた。

見た感じ、この人が店主の様だ。

俺はまず何を作っているのかを確認するべく、おじさんの手元を見た。

使用している鉄板には、丸い金属の凹み部分が10列分ほど作られている。

おじさんはドロドロとした生地を、金属の丸い凹みへ流し入れていく。

どうやら、丸い凹みは型だったようだ。

おじさんは慣れた手つきで10列全ての型に生地を流し終え、少し焼く。

そして、ある程度焼けたことを確認すると、おじさんは先ほどの香りの発生源であろうシロップらしきものを、俺から見て一番左側(左から10番目にある列だ)にある列の型に入れられた生地の真ん中へ入れていく。

そのまま一列飛ばしで、偶数列の生地の中央へ、同じようにシロップを流す。

それを終えてもうしばらく焼いていると、またもメープルのような食欲をそそる素晴らしい香りが辺りを包んだ。

やばい、口角が緩む…これ、日本の屋台よりレベルが高いぞ。

俺が空腹を感じ始めた時、おじさんが希数列のにあった取っ手部分を持った。

そしてそのまま(おじさんから見て)鉄板の手前に着いている取っ手部分を動かすと、一緒に9列目の型の台部分が持ち上がり、偶数列の型と重ね合わさるようにくっついた。

希数列の手前にはその取っ手が付いていたようで、同じことを4回ほど、別の奇数列でもやっていく。

そこまで見てようやく、俺はここで作られている物の正体に気づいた。

「こ、これは…大判焼き!?大判焼きじゃないか!?」

大判焼き。

今川焼きとも言われている、小麦粉ベースの生地で作られた和菓子である。

俺と同じように甘い香りに誘われたのか、周囲には人が集まっていた。

ふと、屋台の一番上を見てみると、何やら文字が書いてあることに気づく。

「Cerulean fregrant」…店の名前か?

なるほど、だから空色のバンダナなんだな。

…と、いつまでも一番前で黙っているのは、店の邪魔か。

「すみません、一つ買います。いくらですか?」

おじさんは顔を上げ、声の主である俺を見て、嬉しそうな笑顔を見せた。

接客スマイルではない、本当の笑顔だと俺は感じた。

「ありがとよ、一つで200frだ!」

という事は200円か、随分良心的…いや、日本でもこれくらいだったな。

この香りには、1000円くらいなら出してもいい…そう思った。

「大きいのしかないんですけど、大丈夫ですか?」

そう言って俺が取り出したのは聖銀貨。所謂1万円だ。

それを見たおじさんは、笑って答えた。

「ガハハハ!別に気にしやしねぇよ、焼けるまでちょっと待ってな」

この人、ガハハハって言った?

そんな笑い方リアルにする人、初めて会った。

「しかし、ここに来て早々、大判焼きに巡り合えるとは思わなかったですよ」

「坊主、珍しい奴だなぁ。こいつを見た時は大体、「これはなんていう料理なんですか!?」って道行く奴らがみんな聞いてくる程、知られてないもんなんだがなぁ」

焼き加減を確認・調節しながらおじさんが言う。

思わずギクッとなりながら、答える。

「俺の遠い故郷に、その料理は伝わっているんですよ。この料理、レシピはおじさんがご自分で見つけたんですか?」

「おうよ、って言いてぇところだが、違う。こいつは、俺の死んだ母親が教えてくれたもんだ」

「なるほど、それはこれだけいい香りがするわけだ」

「当たりめぇよ!自信作だからな!…よし、焼けたぞー坊主」

「おぉ、待ってました!はい、お金」

聖銀貨を1枚渡しながら、食べ歩き用の紙に包まれた大判焼きを受け取る。

おじさんは聖銀貨を受け取ると、お釣りを渡してくる。

聖銅貨が9枚、金貨が8枚だ。つまり、9800円分のお釣りである。

そこで、俺は本来の目的を思い出すと、おじさんに聞いてみた。

「そうだ、この街の冒険者ギルドって、どこにあるか分かりますか?」

「ギルド?お前さん、そんな若いのに冒険者になろうってのか?」

「えぇ、そうなんですよ。なんですけど、初めて来た街なものですから、場所が分からなくて、迷子になってしまいました」

俺は笑いながらそう言った。

おじさんは右側の道沿いを指示する。

「そこの道が大通りだ。この街の真北と真南を繋いでる道がここでなぁ。で、ここをしばらく真っ直ぐ進むと白鳥の宿屋って宿があるんだが、その角を左に曲がったまま真っ直ぐ進むと、冒険者ギルドがあるぜ」

白鳥の宿屋…当面の活動拠点の候補だな、ありがたい。

「分かりました、教えてくれてありがとうございます。また買いに来ますね」

「おう、また来い!」

良い人だなぁ…。

教えてもらった道を進みながら、買った大判焼きを齧る。

甘すぎず、香りも素晴らしい。

生地も外はカリカリで中はフワフワ…全てが程よい味であり、控えめに言って最高だ。

決めたぞ、絶対明日も食べにくる。

そう思いながら、俺は人の暖かみと大判焼きの暖かさに、心と体をホッとさせたのだった。


どうも、夜光猫です。

無事に3話目、書き終えました。ありがとうございます(誰も見てないけど)。


寄り道は人生の醍醐味だ、とはよく聞く言葉ですが、この話を書いていて改めて、寄り道することの楽しさを実感しました。

蒼真はどうやら、何事も楽しむスタンスの間らしい、という事も気づきました。

個人的に、店主のおじさんとの掛け合いがとてもリアルで、書いていて楽しかったです。

しかし、現実世界に換算すると、万札10枚しか財布に入れてない変な奴みたいになってますね、蒼真…この辺りが治安のいい場所で良かったなと思います。


今回みたいな日常回は、定期的に書いていきたいなと思います。結構好きなんですよ、バトル系作品の日常回。これがあるからこそ、非日常である戦いが際立つので。


第5話も、あまり間を開けずに投稿したいですね、頑張ります!

それでは、今回はこの辺で。

もし読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。


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