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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第35話「母と私の真実」


ファルズフ様の後を追い、路地裏を抜けた先。

そこで私が目にしたのは、荒廃したスラム街だった。

「うっ…酷い臭い」

「そう思うわよね…でも、信じられる?ここ、央都なのよ」

「えぇ!?ここが央都オルダヤルクなのですか!?」

噂に聞いていた話とは随分違う。

央都はとても発展した豊かな街で、人々も何不自由なく暮らしていると、央都に行ったことの無いユークリッドの街の人々はそう語るし、新聞にもそういった面しか取り上げられていない。

国王は歴代の中でも最も民を愛し、国民に寄り添った政治をする事でも知られた、名君と名高い人物だと知れ渡っている。

ファルズフ様は話を続ける。

「あなたはまだ行った事がないから分からないでしょうけど…ここは国王が放逐してから久しい、央都のスラム街の一角なの。この国の根深い闇の1つね。本来は立ち入り禁止区域として、他の綺麗な区画から隔絶された場所なのよ」

治安があまり良くないのか、出歩いてる人はほぼいない。

ただ、そこかしこの窓から人の気配を感じるので、家の中に閉じこもっているのだろう。

見渡す限りの建物は全てボロボロの、木造の建築物ばかりだ。これでは暴風雨など来た際には、恐らく耐えきれないだろうと思う。

ちらほら見かける住民と思しき人達も、穴の開いた、長く洗っていないだろうような薄汚れた服に、キツイ体臭…差別意識の無いメルですら、その不潔さに思わず一歩引いてしまう程だった。

「いつかあなたは央都に行く日が来るだろうから、覚えておいて。この国は…深い、深い闇があることをね。そして、自分の目で確かめてきなさい。自分の戦うべき本当の敵を…」

「本当の…敵?」

「…このまま真っ直ぐ進めば、このスラム街は抜けるわ。行きましょう」

「…」

私はその言葉の意味を考えながら、黙って彼女についていく。

「たしか…ここだったかしら?」

私達は、木で造られた壁の前で立ち止まった。

「行き止まり…ですか?」

「そう見せかけた結界よ。資格無き者には入ることすらできない…進むわよ」

その壁は幻だったようで、私たちはその壁をすり抜けて奥へと進む。

その瞬間、世界が変わった。

スラム街特有の悪臭が鼻をつくことも無くなり、新鮮な空気が辺りに満ちた、開けた場所に出る。

本当に、ここだけが隔絶された空間であるかのようだった。

後ろを振り返ると、ここに入ってきた時の入り口が消えていた。

あくまでも、ここは私の心の中にある、因子の中に込められた、ファルズフ様の記憶から形作られた世界…ということなのでしょうか。

黄金に見紛う程に美しい黄色の花が、辺り一面に咲き誇っている。

「綺麗…」

「あなたのお母さんが好きな花ね…あの丘の上、見える?」

ファルズフ様が指さした場所を見ると、家があった。

「あそこに…私のお母さんが?」

「えぇ、あそこでずっと、あなたを待ってるわ。行きなさい。」

「…」

そっと息を飲み、玄関のドアをノックする。

「はぁ~い、空いてますよ~」

「あの子ったら、相変わらず緊張感のない声ね…」

後ろに控えていたファルズフ様が、ため息を吐きながら扉を開いて、私の手を引いて家の中に入っていく。室内なので靴を脱ぎ、脱いだ靴を揃えてから上がる。

「お邪魔します…」

「いいわよそんな挨拶、ここ、あの子の家だし。」

「そこは礼儀正しさを褒める場面じゃないですか、セラ」

キッチンで紅茶を入れている、長い金髪の女性。

身長は私より少し高いくらいでしょうか。青くて美しい、大きな瞳。

服装は私と同じ、紺と白の、協会に認定されているシスターの正装。

「会いたかった…大きくなりましたね、メル」

「…あなたが、私の、お母さんですか?」

「そうですよ…って言われても、実感、ないですよね?」

私が静かに頷くと、彼女はふわりとほほ笑んだ。

私の母は死んだと、そう聞かされていたから…まさかこんな形で再開するなんて、思ってもみなかった。だから、どう反応すれば良いのか、分からない。

「まぁ、そりゃあいきなり、お母さんですよ~って出てこられても、リアクションに困るわよね。どうするのよこの空気。」

「何も感動の再開をするために、私とこの子を再開させたわけじゃないでしょう?」

「そうね。お察しの通り、この子の中の”女神の因子”が完成したわ」

「やっぱり…そうだったのですね」

二人ともかけて、と促されるがままに、私は席に座る。

ファルズフ様も私の隣に座った。お母さんは、私とファルズフ様の正面に座る。

「私もあなたも、この子の心の中にいる、仮初めの存在ってことですね。」

「そうね。メルの中の未完成だった”女神の因子”に込められたあなたの魂の欠片…私が引き継がせ、未完成のメルの因子に結びつけた”天の遣いの因子”。そこに込められた私の魂の欠片から再現された、記憶の中の世界がここ。」

「更に言えば私たちは、その魂の欠片の中核とも呼べる存在で、メルの中に溶けて、彼女の一部になった存在」

「と、いうことね。ここまでは理解できたかしら?」

ファルズフ様が確認してくる。

正直理解しきれない部分もあるけれど、その点は一旦出された紅茶と一緒に飲み下して、無理やり腹落ちさせる。

「…理解できない、と私が言っても、話を進めるのでしょう?」

「わかってるじゃない。そうね、今の私や、あなたのお母さんには時間がないの。完全にあなたの一部として溶けてしまう前に、伝えるべきことがある。」

「伝えるべき、こと?」

「手短に伝えるわ。一つ目は…いずれ央都オルダヤルクに向かうであろうあなたたちに忠告。」

「今の王家を、信用しないでください。彼らは今なお、あの国を腐敗させています。」

「王家が国を…?」

「その辺は、アンタたち自身の目で確かめた方が良いわ。こんな記憶の世界じゃなくて、本物の央都の真実と、その闇をね。」

「自覚はないかもしれませんが、あなたは私に瓜二つ…とまでは言いませんが、私によく似てとっても可愛く、美しく育ちました。」

「あんた、娘を褒める振りして自分を褒めてない?」

「つまり!あなたがあの国に立ち入り、王族やその関係者があなたの顔を見れば、一目で私の娘だということが判明し、狙われてしまう可能性が高いです!くれぐれも気を付けてくださいね!!」

「無視すんな!」

スパーン!!という音が部屋中に響く、お母さんがファルズフ様に、スリッパで頭を叩かれていた。

「あの…どうして私がお母さんの娘だと、央都の王族の関係者に露呈してはいけないのでしょうか?そもそも、お母様は一体、何者なのでしょうか?」

「…」

お母さんは、なぜか私の言葉を、目を閉じて聞き入っていました。

「…もう一回言ってください。」

「えっ?」

「もう一回!お母さんと!読んで!ください!!さん、はい!!」

「バカ言ってないで話を進めろ!!」

スパーン!!

迫ってきたお母さんを再び引っ叩くファルズフ様。

この人、本当に私のお母さんなのでしょうか…?

「すみません、取り乱しました…私は、央都オルダヤルクの先代国王の娘なのです。」

「それも、妾の子なのよ。なのに王族特有の聖なる力が一番強く発現したものだから、扱いに困って放逐されちゃったの。」

「つまり、そんな私の娘であるあなたも、王家の血を引いた存在として、命を狙われたり、悪しき者に利用価値を見出されて、その身を狙われたりする可能性が極めて高いのです。」

「…」

私は驚いて声も出なかった。

私が、王家の娘?

「だから、あなたの女神の因子が完成させられるまで、あの教会であなたを守っていたのよ」

「そういうことですね、生前の私との約束で、あなたをここまで導いていただきました…改めて、セラ。あなたに、心からの感謝を」

お母さんが、ファルズフ様にお礼の言葉を告げている時。

理解しきれずに困惑したままの私は、テーブルの上のティーカップに手をのばした。

カップの中は空になっていた。

お母さんがそっとカップに紅茶を注いでくれたので、それを一気に飲み干す。

「3つ目は…靴を履いて、外に出ましょうか」

「え?なぜ外に?」

「あなたに、”女神の因子”の力の扱い方を、教える為です。」

「私はここで待ってるから」

と、ファルズフ様はお母さんの家に残り、私とお母さんは二人で家の外へ出る。

先ほどの綺麗な花畑まで歩くと、「この辺りで良いでしょう」とお母さんが言った。

「さて…優しく教えても良いですが、タイムリミットは刻一刻と迫っていますね。少し、スパルタ気味で行きましょうか?」

ふわり、とお母さんの体が宙に浮いた。

いや、お母さんの背中には、よく見ると純白の翼が生えている。

宙に浮いたのではなく、飛んだのだ。

静かだが、強い殺気が向けられ、私は咄嗟に戦闘態勢に入った。

「よろしい。流石は私の娘です。可愛くて綺麗なだけでなく、戦いもこなせるまでに成長して…母親として、とても嬉しく思います」

「さっきからその胡散臭い口調は何なんですか!?」

「私に勝てたら教えてあげましょう!!」

まだ母親だと実感を持てない相手との戦いが、いきなり始まった。

私は最後まで、この人に振り回されっぱなしです。

「あぁ、もう!!ふざけないでください!!」

私は白い翼を羽ばたかせ、ありったけの不満とこれまでの鬱憤を晴らすために叫んだ。

私とお母さんの修業は、こうして始まった。


「…」

知らない夜空だ。

気が付いたら、俺は知らない夜空を仰向けになって見上げていた。

「ここどこだ?」

「さぁ?どこでしょう?」

「え」

俺は勢いよく身体を起こした。

暗闇の先にいる声の主を確認する為、光属性のマナを即座にチャージして周囲に散らし、辺り一帯を照らした。

「お~、結構、器用な事ができるんだ…?」

「お前は…?」

背中まで届く長い黒髪。日焼けしたような浅黒い肌の女の子。

ぱっちりとした大きな瞳に、ついさっきまで俺が見上げていた夜空の光を宿していた。

身長は俺より低く、156センチ前後だろうか。細身な体格だが、服の上から分かる程度には、出るとこが出ている。

「さて、誰でしょう?」

何だこいつ、まどろっこしいな。

「知るかよ、誰だよあんた…というか、ここどこ?」

俺が先ほど吸血鬼の野郎に負けた場所は、明らかに別の場所だ。

先ほどまでいたような森の中とかではなく、木の一本も生えていない草原である。

「ここはキミの心の中の世界だよ。ワタシは…これ」

と、そう言った彼女の右手に現れたのは、見覚えのある青い刀身の剣。

この暗闇の中でも、仄かな青い光を放ち、確かな存在感を持っていた。

「あっ、俺の魔剣!!」

「そう、ワタシは、これだよ?」

なるほど、状況を少し理解できた。

あの吸血鬼野郎に無様に負けた俺は、そこで意識を失った。

それを魔剣の中から知った、魔剣自身であるこの女は、俺の心の中の世界であるこの空間を使って、俺に何か言いたい事があるらしい。なんだろう、クレームか?

使用者のクーリングオフは、悪いが受け付けていない。むしろ俺はする側な気がする。そんなことをするつもりは一切ないけれど。

「クレームじゃないよ?キミはキミなりによくやった方だと思う…相手が悪かったね」

「慰めの言葉ありがとよ…でも、そんな事をわざわざ伝えに来たのか?」

俺がそう尋ねると、彼女は小さく首を左右に振った。

「違う。ワタシの用事は、これ。」

彼女は地面に青い魔剣を突き刺すと突き刺した魔剣が彼女の手元から消える。

すると、ジャキン!!!という音と同時に、大量の魔剣が地面から生えてきた。

「あぁ、本物ど~れだ?ってやつか?漫画で見たことあるよ」

「うん。ちょっとした遊び心。分かる?」

「これだろ?」

俺は少し離れた位置に突き立っていた魔剣を、右手で一気に引き抜いた。

彼女は目を輝かせながら、パチパチパチと小さく拍手して、俺を称えた。

「すごい。どうしてわかったの?」

「毎日振ってるしな。それに、こいつだけ微妙に気配が濃かった。」

目の前に中の人がいるんだ。彼女とまったく同じ気配を発する存在が、本物だろう。

何より、さっきからずっと自己主張をしてたことだしな。ワタシは、これ…ってさ。

「さすが、初めてワタシの声が聞こえただけの事はある。それじゃ、本格的に修業に移れそう…」

彼女が指をパチンと鳴らすと、他の偽物の魔剣が全て同時に砕け散り、夜空の星に還っていく。そのうち幾何かの光が彼女の手元に集まっていき、俺の右手に握られた愛剣とまったく同じ形を形成した。

「ワタシの使い方、教えてあげる。外にいるキミの仲間の力と合わせれば、それであの吸血鬼は倒せるはず」

ゆったりと、彼女は魔剣を構える。その立ち振る舞いには微塵も隙が無い。

俺は頭の中のスイッチを切り替えて、彼女に意識を集中する。

「助かるよ。ちょうど新しい力が欲しかったところだ…やっぱ勇者候補名乗るからには、ちゃんと覚醒イベントを挟まないとな。」

「何を言ってるのか、ちょっとよく分からないけど…行くよ」

俺と彼女の剣が打ち合わさって、火花と魔力が散った。

手首に嵌められた銀色の腕輪から、みんなが頑張っているのが伝わってくる。

メルも、ここではないどこかで、力をつけているのだと感じる。

俺も負けてはいられないな。

俺は無意識に口角を上げていた。対する彼女は無表情のままだ。

明後日の方向から飛んできた彼女の蹴りを、左手の甲で受ける。

「上等だ、楽しませてやるよ」


「…こいつは死んだか」

いや、正確にはまだ息があるが、このままならもう時間の問題だろう。

面白い男だった。あと1か月、こいつが本気で鍛えていれば、勝負は分からなかっただろう。それ程の可能性を感じる男だった。

俺はその身体を一瞥し、先へ進む。本来の標的を殺すために。

気配を感じる先に進もうとした、その時。

俺の背後と前方で、天に向かって光の柱が伸び、曇り空を突き破って夜空を露わにした。

背後の光の柱は、魔力で出来た青い柱だ。先ほどまで戦っていた男の、魔力の波動だった。

もう片方の前方の白い柱は、魔力とは異なる別の力だ。天使や堕天使の連中が使うような、変わった力の波動が、離れた位置にいるこちらまで強く伝わってくる。

俺の心境は複雑だった。

一つは、気に入った男がまだ生きていて、もう間もなく復活し、再び剣を交える事ができる喜びの感情。

もう一つは、魔王軍の任務に失敗したことを直感的に悟った、絶望感だ。

俺の様な魔族にとって、天敵のような存在が今、真の力を目覚めさせたのが分かったのだ。

どうせ死ぬならと、俺は魔王軍の任務を放棄し、最後に自分の楽しみを優先することにした。

「早く起きろよ、ソウマァ…」

「分かったよ、起きるよ…もうちょっと寝てたかったんだけどなぁ」

あくびをしながらゆっくりと、男が起き上がるのを確認する。

同時に、遥か向こうからこちらを目掛けて飛んでくる存在を確認した。

彼女はその男の隣に着地し、左手を隣の男にかざすと、まばゆい光と共に一瞬でその傷が完治する。

「遅れてごめんなさい、ソウマ様…」

「いいや、来てくれて助かったよ、メル。危うく死ぬところだった」

男の手元に瞬時に青い魔剣が現れ、それが彼の完全復活の証明となった。

彼はこちらに向き直り、先ほどと変わらない不敵な笑みを浮かべて、愛剣を構えた。

「本当、待たせちまったな…そろそろ終わりにしようぜ、ヴィレ」

「起きたか!嬉しいぜ、ソウマァァァァァァ!!!」

もう手加減は必要ないとばかりに、全ての力を開放する。

ソウマは横目で、白い翼の生えた少女を見る。

「今の俺の力と、お前の力があれば…あいつを倒しきれるはずだ。頼りにしてるぜ、メル」

「はい!行きましょう、ソウマ様!!」

この戦場における最後の戦いの幕が、切って落とされた。

その行く末を、曇り空の晴れた先で、満天の星々が見守っていた。


遅くなりました。本当にごめんなさい。

次の話もまた頑張ります。

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