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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第31話「天使ではない彼女の事情」


「俺の回復魔法じゃ、やっぱり応急処置程度にしかならないな」

「別にいいわよ。出血は止まったし…事情は移動しながら話すわ。あの子はどこ?」

服が破れ、傷跡が露わになった脇腹を撫でて、彼女は立ち上がる。

治療の為にしゃがんでいた俺も、同じように立ち上がって答えた。

「メルは…多分、あっちかな。ここから西の方に移動してるみたいだ」

心気で気配を感じ取ると、メルとレミの気配、そしてもう一人分の気配を感じた。

そこそこ距離が離れている事と、当事者が気配を薄めている事もあり、誰かまでは特定できなかったが…恐らくヤチヨだ。

ファルズフ…いや、今はセラと呼んだ方がいいか。

セラは俺の指示した方向を一瞥すると、かなりの速度で走り出した。

俺も慌ててその後を追い、彼女に並走する。

「…確かに、あの子の気配を感じるわ。よくもまぁ、こんなにすぐに心気による気配感知を身に付けたものよ。流石は勇者候補といったところなのかしらね」

「男の子だからな、妄想やイメージの類は得意なんだよ…それより、なんでメルを魔王候補から守る必要が…いや、それよりも、なんでお前があの子を守るんだよ?」

そう、疑問は尽きないのだ。

なぜ、メルが魔王候補に狙われているのか。

いや、魔王候補だけじゃなく、他の連中、とも言ってたか?

「まず、あの子の正体だけど…アルメリアは、魔王軍技術開発局による、とある実験の成功体、その一人なの」

「…は、はぁ!?」

俺は驚いた。

それはそうだろう、あの子が何かの実験体だなんて、全然思わない。

見た目も中身も、あの子は普通の女の子だ。

冷静さを装い、セラに疑問をぶつける。

「2つ質問。魔王軍技術開発局と、そのとある実験ってのは?」

「魔王軍技術開発局は、数十年前に作られた魔王軍の組織で…魔王軍に賛同した亜人の中でも、優れた魔導科学者、技術者等が集まって出来た組織よ。この世界の亜人差別の歴史は知ってるかしら?」

亜人差別…まさか、その単語がここで出てくるなんてな。

図書館で歴史の本を読んだから、知識の上では知っている。

元々人と亜人は区別されていて、かつて勇者が魔王を討伐した。

その勇者の仲間に、かつて亜人と呼ばれ、蔑まれていたいくつかの種族の中から、魔王軍との戦いに貢献した者達がいたのだ。

さらにその勇者の仲間達や勇者自身の行動、常に争いが近くにあるという現実から、いがみ合うより手を取り合う方が良いと判断した。

以降、多くの国々と差別を受けていた亜人族の何種類かは、お互いに歩み寄りを見せた。

しかし、その差別意識は人々の心の奥深くまで根付いてしまっており、完全に差別意識を拭い去れないまま時が過ぎた。

やがて初代勇者とその仲間達、初代魔王がこの世を去り、再び争いの世の中になった今でも、完全な和解とまではいかず、問題の改善に向けて動いているという話だ。

「…とまぁ、俺の知ってる亜人差別に関する歴史については、こんなもんだ」

「そうね、合ってるわ。でも、その話には続きがある」

話の流れから、なんとなく、この後の話は予想がつく

「俺の予想だけど、多分、魔王軍側についた亜人族がいたんだよな?そこから、人間や亜人たち種族の持っていた技術が、魔王軍に漏れた…」

「正解よ。理由は人間側の根強い差別意識の強さと、各種族の持つ、自種族に対する強すぎるプライドね…当時の魔王軍は狡猾で残忍な一面もあるけれど、本当に友好的な者達に対しては慈悲を見せ、迎え入れたと聞いているわ。裏切りは絶対に許さないという、鉄の掟があったという事もね」

「…その鉄の掟も、時の流れた今となっては無くなっている、って理解でいい?」

「そうね。どいつもこいつも、如何にして寝首を掻き、自身が成り上がるのかを考えるやつらばっかりだったわ。初代の魔王軍幹部も、今は行方不明だし」

俺達は話しながら、自然と走る速度を上げていった。

ストーム・ルーラーを使わないのは、魔力を温存しての事だった。

なんとなく、この後に必要になる場面が来る予感がしたからだ。

「それで、とある実験って言うのは何だ?」

俺は話の先を促した。

まだ気になる部分もあったが、全てを質問していては本筋から逸れてしまう。

「魔王軍側が劣勢になっている事に危機感を覚えた、当時の技術者たちは、かつてこの世界にいた、とある強大な力を持った存在に目を付けたの。」

「強大な力を持った存在?」

「今もこの世界を、外側から見守っているという連中…神よ。アンタ達勇者や、どこからともなくやってくる、強力な異能を持った魔王候補も、神や邪神といった連中が他の世界から呼び寄せているでしょ?」

「…な、なんだって?」

確かに、俺も日本で死んでから、神様…の代理を自称する女の子に魂を召し上げられ、こうしてこの世界に生きている。

以前戦った魔王候補・柏田、そして俺を殺した通り魔・毒島愚も、魔王候補としてこの世界に存在している。

以前、天城さんが言い淀んでいたのは、もしかするとこの話だったのかもしれない。

勇者候補は神が、魔王候補は邪神が、それぞれ呼び寄せているならば。

それは一体、何のために…。

「いや…その話は後にしよう。俺が神様的な奴に、この世界に送ってもらったのはその通りだよ」

「そうね…それで、当時の技術開発局の連中は、魔王軍の戦力拡大の為に、ふと人間界に降り立った、名も知らぬ男の神を捕らえる様に、極秘に数名の魔王軍幹部に依頼したの。当時は魔王ではなく、まだ魔王軍のリーダーだった男…後に魔王と呼ばれることになる初代魔王と、残りの魔王軍幹部には内緒でね。これが、その極秘プロジェクトの切っ掛けよ」

初代魔王と数名の魔王軍幹部には極秘の研究…これはまた、すごい話だ。

その研究の成功体がメルという話だが…

「それで一体、それはどんな研究なんだよ?」

「まだ気づかないの?…その研究はね、魔王軍側に、神の力を持つ兵士を産みだそう、というプロジェクトだったのよ。アルメリアはその成功体の内の一人で、あの子の中には、神にも等しい力…あるいはその素養が眠っているって、当時のデータが魔王の極秘資料に残されていたわ」

「…」

驚きの余り声が出ず、俺はその場に立ち止まってしまった。

そんな俺の様子はお構いなしとばかりに、セラは話を続ける。

「そのプロジェクトの筋書きは、ふらりと人間界にやってきた男神を魔王軍幹部が数人がかりで捕まえて、次にその神と番になる、強い信仰心と深い愛情を持つ人間の女性を拉致し、強力な洗脳で操って子作りをさせる、という悍ましいものだったわ…」

「…っ!?」

洗脳、という言葉を聞いて、遺跡での戦いを思い出す。

支配の力を持った、柏田という魔王候補。

あの力で、自分自身が支配されていたら…操られ、自身がそんな悍ましい実験の研究材料にされていたら。

そんな考えが頭をよぎり、ゾッとして、思わず身震いした。

「まさか、その中で生まれた子どもっていうのが…」

「…えぇ、あの子よ。凍結睡眠の魔術で封印されていたところを、私が保護したの。私がまだ天使として活動していた頃からの縁でね。」

その言葉を聞いて、俺は思わずハッとした。

確かに、その部分は明らかになっていないからだ。

「そうだよ、お前は何で、魔王軍に潜入していたんだ?その縁っていうのは、一体何だ?」

俺がそう尋ねると、セラは悲しそうに目を伏せ、悔しそうに唇を噛んだ。

「それは…それは、その実験の為に攫われた、人間の女性っていうのが、私の友達だったからよ!!」

「!!」

当時の記憶を思い出してしまったのだろう、彼女はその場で泣き崩れてしまった。

女の子座りで、両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしている。

「天使族の掟で、私たちは人間に与する事が許されないの…でも、私は、友達が攫われるのを、ただ黙って見てるなんて出来なかった!!例えこの翼の色を喪っても、彼女をっ!!助けたかった…!!!」

俺はようやく、セラの事情を理解した。

天使族にも鉄の掟があるのだ、恐らく、人族と深く関わってはならない、というような掟が。

しかし、理由は不明だが、彼女は人里に降りて、心の優しい人間の女の子と知り合った。

それがメルの母親。

彼女らは親交を深めたが、やがて魔王軍が例の極秘計画の為に、彼女に目を付けた。

俺は、目の前でただ泣き叫んでいるセラを見て、改めて悪人ではなかったのだと、認識を改める。

魂の奥底で、小さな炎が灯った様に感じた。

その炎から湧き上がる感情に従って、俺はセラの両肩を掴み、感情のままに言葉を紡ぐ。

「メルは俺の仲間だ。あいつがどんな奴でも、どれだけヤバい存在でも関係ない…俺が必ず助ける」

感情とは裏腹に、俺の言葉は落ち着いていた。

一通りの事に納得出来たからだろう。

なら、細かい疑問も、余計な感情も後回しでいい。

今はただ、この情に、突き動かされていればいいのだ。

俺の言葉を聞いたセラが、顔を覆っていた両手を離して、俺と目を合わせた。

「というか、お前に何を言われても、何も言われなくても変わらねぇよ。俺は俺のやりたいことをやって、一緒に居たい奴と一緒に過ごすって決めてるんだからさ。だから…」

俺は立ち上がり、膝についた砂埃をパンパンと払って、右手を差し伸べた。

「一緒に行こう。お前の友達…メルの母親の分まで、あいつを守るんだ、俺達でな」

そのまましばらく、呆然とした様子で俺を見た後、セラはハッとして涙を拭った。

「そうね…でも、改めてお願いするわ、ソウマ。あの子を助ける為に、私に力を貸して。」

セラは左手で俺の右手を取り、立ち上がった。

「もちろんいいぜ。俺の仲間とも、上手くやってくれよ?」

「善処するわ」

そのまましばらく無言の俺達。

…俺は真面目な空気に耐えられず、つい呟いてしまった。

「…前は年増とか言ってごめんね」

「うっ…でも、私もそこそこ長生きだし、否定できないし、それはもういいわ。というか、真面目な空気を返しなさいよ!それに、早くアルメリアと合流するんでしょ!?」

おっと、そうだった。

俺達が再び走りだそうとした、その時。


ガシャーン!!!


「な、何だ!?」

「この辺りに張られた結界が割れた!?まさか!?」

俺は気配感知の範囲を広げる。

北の方、そしてメル達の今いる西の端っこの方に、数多くの禍々しい気配を感じる。

「魔物だと!?それにこの数は…!!」

ざっと見積もっても、あの遺跡の時以上の数が攻めてきている。

それに、バカでかい力を持った気配が二つある、

それぞれ、北端にいる仲間と、西端にいるメル達のところに現れた。

同じ気配をセラも感じたのか、俺達は気を引き締めた。

「不味いわ!!もう追手が来た!!」

「メルを狙ってる奴か!?」

「ヤバそうな気配は二つで、その内の片方、北の方に来た奴は堕天使の気配…私の元副官だと思う。そいつの狙いはあくまで私であって、メルじゃないの」

「じゃあ、メル狙いの奴がもういるのか!?メルっ、聞こえるか!?」

慌てて通信機に問いかけるも、特に返事は無い。

「結界に閉ざされていたこのフィールドが壊された以上、その通信機は通じないわ。ジャミングもされてるわね…急ぎましょう!!」

「待った、こっちにすごい勢いで向かってくる気配がある!味方だ!!」

「味方!?」

バサッ、と翼の羽ばたく音が聞こえた。

「ソウマ!!」

ドラゴンの翼を背にしたヴァルガが、ギンジロウさんと一緒に降りてきた。

「ヴァルガ!無事だったか!」

「儂と一緒にな。なんじゃい、この物騒な気配は…急に結界が砕け散ったと思ったら、魔物共がワラワラと現れよったわい」

「ギンジロウさんも一緒か、よかった!」

俺は合流した二人に、急ぎ事情を説明した。

そして、俺達は即座に方針を決める。

「俺とセラはこのまま、メルやレミ、ヤチヨと合流する為に西に向かう。ヴァルガとギンジロウさんはこのまま北へ向かって、セリアとルーナと合流して…」

「危ねぇ!!」

俺がこの後の方針を伝えていると、ヴァルガが俺を、ギンジロウさんがセラを突き飛ばした。

「うわ!?」

「キャア!?」

俺とセラが立っていた場所には光の槍が2本、突き刺さっていた。

助けてくれた二人は無事だろうか?

「ヴァルガ!!ギンジロウさん!!」

「こっちは無事じゃい!」

「俺も問題ねぇ!!それより、お前らはさっさと行け!!」

ヴァルガの叫びに、俺は即座にストーム・ルーラーを発動し、セラの手を引いて空を駆けた。

「頼む!!」

「任せろ!!」

「おっと、行かせませんよ、セラ様。さぁ私と共に帰りましょう。」

気が付けば、先程まで地面に突き刺さっていたはずの光の槍を両手に一本ずつ携えた黒い翼の男が、俺達の目の前に先回りしていた。

「地を這い、そして燃え尽きよ」

そして奴は既に、無言のまま次の攻撃を放とうとしている。

狙いは俺、そしてセラか。

「その名を忘れし炎の蛟よ、我が前にその威を」

防御はもう、間に合わない…!!

「示せ!!!」

ごうっ、と。

目の堕天使を、赤い光が飲みこんでいった。

否、光ではなく、それは炎だ。

「行け、ソウマ!それとそこの女も!そいつは俺がやる!!」

その魔法の主はヴァルガだった。

なんという判断力だろうか、俺達が先回りされ、即座に呪文を唱えていたのだ。

「爺さんも、ここは俺に任せて北へ行ってくれ!!」

俺は頷いて、再び空を駆けた。

振り返ることは決して、無かった。

あいつなら負けないという確かな信頼が、そこにあったから。

「行くぞ!!」

「分かったわ、行きましょう!」

セラも先程の魔法を見て、任せても良いと判断したのだろう。

新たな戦いの始まりの合図かの様に、俺達の少し後ろで、大きな爆発音が響くのだった。


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