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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第28話「対決、チーム獣人⑤」


頭上から、バサバサと鳥の羽ばたく音が聞こえる。

空から黒い羽根が落ちてきて、足元にそっと着地した。

空を見上げると、空撮用のドローンが何機か飛んで行くのが見えた。

その内1機は宙に留まって、こちらにアイレンズを向けている。

異世界にドローンがあるという事実を実感出来ずにいるが、今はその感情は置いておく。

ぽつんと一人、森の中に佇んでいた俺は、最初の行動について考えていた。

俺と同じように、仲間達も別々の場所に転移しているだろう。

まずは自分がいる大体の場所と、大まかな仲間の位置や距離を把握するところから始めようと、俺は意識を集中させて周囲を探りながら、移動を開始した。

徐々に索敵範囲を広げながら進み、10分程走った頃、複数人の気配を見つけた。

自身からかなり離れた位置に4人、そこに向かっているのが1人。

そして、ここからそう遠くない位置に接敵しようとしている2人。

気配の感じから、近い位置にいる2人は恐らくヴァルガとギンジロウか。

離れた位置にいる5人が残りのメンバー、メル、セリア、レミ、ルーナ、ヤチヨか。

この中で、俺が行くべき場所はどれか、考える。

僅かな逡巡の後、俺は自身の行く先を決めると、その気配の感じる方向へ走った。


「皆様と逸れてしまいましたね…」

気配を感じる訓練はしてきたが、まだ使い慣れていないのか、結構な集中力を消費してしまう。

拙いながらも周囲を警戒しながら、慎重に進んでいく。

「…」

突然、近くに急速にこちらに向かってくる気配を感じて、息を呑む。

足音を一切出していないものの、猛烈な速度でこちらに接近してくる気配が、2人。

1人は私の懐まで一気に入り込み、鞭の様にしなる脚が眼前に迫る。

もう一人は私の背後から、最小限の動作で切り掛かってきた。

咄嗟の判断で自身の内側から障壁を展開し、両者の襲撃をギリギリの所で弾くことが出来た。

「…い、いきなり物騒ですね、お二人とも」

冷や汗を流しながら、私は襲撃者たちに声を掛ける。

「ヤッホー、メルちゃん。襲いに来たよ。」

「回復役から潰す、か。理には適っているけれど…あの馬鹿師匠も容赦ないわよね」

ルーナちゃんとヤチヨちゃん。

1対1ならまだしも、それより悪い状況で出遭ってしまった。

「私、ピンチです!!」

状況は最悪に近く、迷っている暇は無かった。

私は全速力でその場から逃走した。

「ちょっ…逃げた!?」

「追うわよ!」

少し開けた場所から、木々の生い茂る森の中に入り込んでいく。

集中力は乱れ、周囲を一切警戒できず、敵に背中を見せて一目散に逃げだす。

真っ先に逃亡を選んだ自身の情けなさを恥じるが、すぐにやられてしまうよりマシだ。

「ハァ…ハァ…」

走りながら、私は今までの冒険を振り返る。

最初の戦闘では、魔物を相手に勝利を収めたものの、命を奪ったという感覚に耐えきれず、動けなくなってしまった。

遺跡の冒険では、操られていた冒険者相手に防戦一方だった。

「…っ!!」

悔しさが抑えきれず、私は手をグッと握っていた。

立ち止まり、再び集中して心気で周囲を探ると、2人とも私を追いかけてきている事に気付く。

私は新しくなった杖を構えて、大きく息を吐き、覚悟を決める。

「もう、足手まといにはなりませんからね、ソウマ様」

守られてばかりではいけない。

初めて会ったにも関わらず、私の事を守ってくれた優しい少年の隣にいたい。

その為には、困難に立ち向かわなくては。

「行きます」

両脚に心気を漲らせ、今度は敵に向かって走り出す。

先程まで逃げ回っていた相手がいきなり立ち向かってきた事に面食らうも、流石の判断で、今度は正面からは挑んでこなかった。

「ようやくやる気になったってわけだ?」

「私も、変わらなくてはいけませんからね!」

「上等!受けて立つよ!!」

ルーナちゃんが私の側面に回り込み、雷を纏った脚を振り下ろす。

杖で受ければ痺れるどころか焼け焦げてしまうので、正方形の障壁を張り、落雷の如き一撃を受け止める。

白い障壁が黄金色に変化したのを見るや否や、私は空いた左手で障壁を押した。

すると、白い稲妻を受け止めていた黄金色の障壁から雷が迸り、攻撃していたルーナが吹き飛ばされた。

「うわぁ!?」

「ルーナ!!」

吹き飛ばされて体勢を大きく崩したルーナをフォローしようと、ヤチヨが印を結ぶ。

身の丈程の炎の玉を6発こちらに発射し、さらに私の左側に回り込んで巻物を広げ、大量の苦無が私に殺到する。

恐怖を押し殺して左方向に駆け出し、炎の玉を躱す。

移動だけでは避けきれない苦無は障壁で受け、苦無が地面にバラバラと落ち始めるのを合図に、ヤチヨちゃん目掛けて走り出した。

「元シスターが、忍に接近戦を挑もうと言うの?」

「防御と回復しか取り柄のない女だと思われるのは、心外です!」

私は杖を頭上に掲げ、杖に光属性のマナを纏わせた。

杖の形状が変化すると、それは大きなハンマーになった。

「はぁ!?何よそれ!?」

女神を彷彿とさせる装飾の施されたそのハンマーは、魔法の力で一時的に杖を変化させたものであるため、見た目よりもずっと軽く、筋力に自身のないメルでも容易に振り回すことが出来た。

「こんのぉぉぉぉぉ!!」

「くっ」

ヤチヨちゃんがいたその場所にハンマーが叩き付けられる。

魔法を解除して元の杖に戻すと、地面にはハートマークの跡が残っていた。

「やるね、メルちゃん…まさか、僕の攻撃が跳ね返されるなんて思わなかったよ」

「そのハンマーも…回避できなかったら危なかったわ。何なのよこの武闘派シスターは…」

「ハァ…ハァ…私も、修行しましたから。皆様と一緒に、新しい技を研究したんです」

ソウマ様とセリアちゃんの提案で、ただ攻撃を受けるだけでなく、攻撃を受けると受けた属性と衝撃を相手に跳ね返す障壁を編み出した。

レミちゃんやヴァルガさんと一緒に、魔法で杖を聖なる力を宿すハンマーに変化させる魔法を考え、形にすることが出来た。

まだまだ私は強くなれる…そう思える修行内容だった。

「例え負けたとしても、ただではやられませんよ?」

「これは…手強そうだね」

ルーナのボルテージが上がった事を示すように、身体からバチバチと火花が散った。

無言で黒いオーラを漂わせるヤチヨちゃんの目つきが、さっきよりも鋭くなった。

そして、そのタイミングで。

「お待たせしました」

「メルちゃん、怪我はない?」

セリアちゃんとレミちゃんが、私の隣に並び立った。

「3体2か…ソウマめ、本当に人数そろえてきたな?」

「馬鹿師匠がいるし、仕方ないわね…何より、ハンデとして認めたのはこっちだもの、文句は言えないわ」

そんな事を話す二人の声色は、むしろ楽しそうに弾んでいた。

きっとこの2人は、何度もこうしたピンチを潜り抜けてきたのだろう。

何より、二人はまだ全然本気じゃない。

「…レミちゃん、セリアちゃん。ここは事前の作戦通りに。」

「かしこまりました」

「了解!おいで、ギド!!」

セリアちゃんが錬金術により、土で出来た鎧の人型ゴーレムを作り出し、ギドの魂をそこに呼び出す。

彼女は『魔女の系譜』の1つである錬金術師を輩出する血筋と、降霊術を生業とする血筋が混じったことにより、このような芸当が可能らしい。

ギドと呼ばれた鎧の戦士がルーナちゃんに立ち向かっていく。

「あの時のリベンジマッチ、付き合ってもらうわよ!」

「なるほど、そう来るか!面白い、受けて立つよ!!そら、こっちだ!」

セリアちゃん、ギドくん、ルーナちゃんの3人は、場所を移動するべくすごい勢いでこの場から去っていった。

「勘弁してよ、私2対1じゃない…」

「これも戦いですので…我が主の勝利の為に、勝たせてもらいます」

レミちゃんが両手に武器を構える。

左右の手に握られているのは…白と黒の短銃だった。

「頼りにしてるね、レミちゃん」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

「上等。こっちも本気でいかせてもらうから、覚悟しなさい」

戦いの第2ラウンドが始まったのだと、私は気持ちを新たにした。

そして、まるで新たな始まりを告げるかの様に。

私達の周囲に、漆黒の羽根が舞った。


一方、メル達から遠く離れた場所。

「ホッホッホ…まさか、最初に当たるのがお前さんだとはな」

「そうらしい。早速だが、俺も役目を果たせそうだ」

俺とギンジロウは、既に対峙していた。

ソウマから聞いていた話の通り、彼からは歴戦の戦士である風格を感じる。

こうして対峙して改めて感じる事だが、人並み外れた竜人族の肉体や魔力があったとしても、勝てる可能性はほぼないかもしれないな…そんな底知れない強さを、彼からは感じている。

奴が近くにいると感じた時から、周りの空気がビリビリと震えるのを感じた。

座禅を組んで瞑目し、ただ敵を待ち構えるその姿は、まさに強者の佇まいとしか言いようが無く、俺の胸を期待に満ちていた。

俺自身、争い事は好まないと思っていたが…竜人族の本能として、強者との戦いを望んでいるのだろうか?

嵐の前の静けさにも耐えきれず、俺は身の丈程もある大剣を抜き放ち、肩に担ぐ様に構える。

「まぁ…もう言葉はいらねぇよな?」

ソウマと剣を交えた時の様に、少しずつ竜人としての本能が剥き出しになっていく。

無意識に頭の角が伸び、歯は鋭くなり、人間の皮膚は竜の鱗に覆われていった。

それはギンジロウも同様で、彼の筋肉は目に見えて膨れ上がり、先程よりも銀色の体毛に覆われていた。

空には1機、ドローンが飛んでいる。

こちらの戦いはあれで見られているらしい…ユニオン・ランブルに参加するのは初めてだったが、これは一種の見世物として成立しているのか。

まぁ、あのドローンは撮影しているだけなので、今は視界から外す。

もはや一匹の獣と呼んで差し支えない存在が、牙をむき出しにして荒々しい笑みを浮かべた。

「無論、お互いが倒れるまで…存分に戦い合うとしようぞ!!」

「おっしゃあ!!行くぜ!!!」

自身の大剣と、ギンジロウの爪が衝突する。

衝突によって生じた大気の震えに、周囲の鳥たちは空へと飛び立ち、小動物は危険を感じてその場から逃げ出し、そこは一瞬で強者だけの世界へと変貌する。

唯一他の生き物がいた証として、そこにはたった一枚の羽が、とり残されていた。


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