第27話「対決、チーム獣人④」
俺は心気と魔力で筋力を強化した状態でヴァルガに切りかかったものの、初撃は大剣で受け止められてしまう。
こっちは全力を出しているというのに、奴はビクともしていない。
むしろ、少し口角を上げているその表情からは余裕すら感じられた。
流石は竜人族といったところか、その筋力は強化している俺の力を余裕で上回っている。
このまま鍔迫り合いに持ち込んだところで、押し切られて負けてしまうだろう。
「どうした?攻めてこないならこっちから行くぞ?」
俺の剣を受け止めたままの片手で無造作に振るった大剣に押し込まれ、予想通り身体ごと後ろに押し込まれる。
「ストーム・ルーラー!!」
吹き飛ばされるのを避ける為、俺は即座にストーム・ルーラーを発動して、ほんの少し真上に跳び上がる。
「フッ…!」
剣の腹の部分でヴァルガの大剣を下に叩き付けるのと同時に風を爆発させ、今度は大きく真上に跳び上がる。
「おっと…」
大剣を強く叩きつけられた衝撃で、流石に少しだけヴァルガがよろめいた。
心気と魔力だけじゃ足りないなら、高い位置から落下するエネルギーもそこに合わせたらどうか、試してみる。
さらに駄目押しで、その場で闇属性のマナをチャージして魔法を発動、剣に重力魔法をかけて限定的に重くする。
「こいつで…どうだ!!」
真上から風を爆発させて急降下し、魔剣を振るう。
「甘い!」
右手で無骨な大剣を握ったまま、向こうはこちらの攻撃を受ける体勢に入る。
こちらの攻撃に合わせて剣を振るい、受け止めてみせた。
しかし、先程よりも今の方が強烈なのは事実だったようで、今度は両手で大剣を支える形で受け止めていた。
「風よ!」
このままでは押し切れないと判断し、守りの空いた奴の真横に大きな風の拳を形成。
そのまま風の拳で奴を殴りつけた。
「うおっ!?」
「このまま…!!」
ストーム・ルーラーの効果で数メートル先に吹き飛んだヴァルガに追走し、そのさらに先に着地すると、俺は奴の側頭部目掛けて鋭い回し蹴りを放った。
奴のチャージした赤いマナの存在には気づけないまま。
「炎よ!!」
ヴァルガが鋭くそう発した直後、俺の視界が真っ赤に染まり、俺は熱に包まれた。
「ぐぅっ!?」
あまりの熱さに、俺は思わず退いた。
こちらが退くのと同じタイミングで、ヴァルガも受け身を取ってすぐに立ち上がり、構える。
「今度はこっちから行くぜ!」
その言葉を聞いた時、既に眼前まで刃が迫っていた。
背筋が凍るような感覚を味わいながら、重力魔法で身体を軽くしながら、紙一重のところで仰け反ってそれを躱し、ハンドスプリングの要領で大剣を握るその手を蹴り上げた。
「うっ」
俺の狙いに、向こうも僅かに声を漏らすが、もう遅い。
奴は大剣を取り落とした。
それを好機と見なして、もう一度攻勢に出る。
右手に握った魔剣をバングルの効果で異空間に収納し、新たに手に入れた赤銅色の盾を呼び出し、そのまま殴りつけた。
「ガッ!?」
流れるように2撃目に肘鉄を当てようとするが、それを受け止められた。
「…この野郎!!」
そして肘を掴まれたまま、今度は腕を抑えられ、背負い投げで地面に叩き付けられた。
受け身を取れず、背中から思いっきり地面に叩き付けられ、その痛みに歯を食いしばって耐える。
なるほど、人外の筋力で背負い投げされると、こんなにも強烈なんだな…!!
「光よ!」
俺は両目をグッと閉じて閃光を発生させて目を眩ました。
これには向こうも怯んだ様で、掴んでいたその手が離れ、解放される。
地面をゴロゴロ転がって距離を取りながら、縦をバングルの異空間に格納して漆黒の鞭・エニグマを握る。
「やるぜ、ツグミ!!」
俺は鞭の中にいる魂、ツグミと名付けた少女に強く呼びかけた。
「了解!合わせるわ!!」
鞭の表面を黒いオーラが這い回り、意思を持ったかのようにしなり始めると、その先端がバカッと分かれた。
その先端には小さな水晶の様に輝く、粒の様に小さな瞳があった。
鞭の表面も変化しており、エナメル質の様な滑らかだった鞭は、爬虫類の持つ上質な鱗が持つ滑らかさに変わっていた。
自身の身体にも漆黒の瘴気が漂うものの、白く暖かなオーラが右手の指輪から放たれ、俺の身体を包み込んで瘴気から守られる。
メルとの絆がある限り、俺に呪いは効かない。
そして、この絆があるからこそ、ツグミと心を通わせることが出来た。
ありがとな、メル。
彼女への感謝の念を込めながら、口にした。
「顕現せよ、黒蛇!」
ツグミは元々、鵺という大妖怪だった。
それがどこかの冒険者に打ち取られ、その遺体の一部から作られたのが、この鞭だ。
なぜ彼女の人間だった頃の魂が封じ込められたのかは不明だが…。
鵺とは、猿の頭、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾を持つ妖怪。
彼女は呪いの力で、人間から妖怪変化となってしまったのだという。
この鞭も、使用者がたちまち瘴気にやられて気が狂ってしまったり、最悪の場合死に至る者もいたという経緯から、武器屋の端っこで無造作に寝かされていた。
今では俺の強力な武器の1つであり、ツグミも頼りになる仲間の一人だと思っている。
黒蛇は、その名の通り鵺の持つ蛇の要素を力として顕現したものだ。
鞭という形状の為、もっとも発現が容易であったが…これから先、他のイメージをどう作るかは難航するだろうな。
蛇の咢が大きく開き、その身をしならせ、大地を削りながら猛スピードで自らの敵に咬みつかんとする。
「オラァ!!」
しかし、赤き竜人はその剛腕を持って蛇の脳天へ拳骨を叩き込み、蛇の攻撃を歯牙にもかけなかった。
俺は一旦、鞭を元の形状に戻す。
「…お前、冒険者になってどのくらいだ?」
「1か月くらいだな」
「嘘つけ、その辺の冒険者よりも遥かに強ぇよ、お前」
「盾で殴りつけてピンピンしてるお前に言われたくねぇよ…竜人ってみんなそうなのか?」
「お前ら人族よりはずっと頑丈だよ。むしろ人族の癖に、竜人族相手に怯まず立ち向かってくるお前がヤベェ…大体一撃で戦意を喪失させられるんだが」
「は?お前ふざけんなよ?何なら今すぐ逃げたいが?」
「とか言って、どんどん戦意が高まってるじゃねぇか?」
「気のせい、気のせい」
「へっ、言いやがる…まぁいい、合格だ」
「はぁ?」
ヴァルガは大剣を背中の鞘に納めた。
…どうやら、彼は今のやり取りの中で、色々と俺を試しきったらしい。
「条件は『俺が納得する強さを見せてみろ』だ。お前はもう十分、俺を納得させてくれたよ」
「そうかよ…」
戦闘時の緊迫した空気感から解放され、俺は仰向けで大の字になってその場に倒れ込んだ。
「お前はまだまだ強くなる…お前のこれからの冒険の手伝いを、俺にさせて欲しい」
「じゃあ、仲間になるって事でいいか?」
「そう言ってるだろ?」
寝そべる俺に手を差し伸べるヴァルガ。
俺はその手を取り、立ち上がった。
「これからよろしくな」
こうして、俺達は4人目の仲間、赤き竜人の鍛冶師、ヴァルガ・バーミリオンを迎えた。
今日は対決当日。
バトルフィールドはモンスターも蔓延る森の中。
ユークリッドの入り口で、俺達は合流する事になっている。
ギンジロウ、ルーナ、ヤチヨの3人は、既にそこで待っていた。
最初にギンジロウが声を掛けてくる。
「ホッホッホ…結構鍛えこんできたのう。」
「まぁね。今日の為に、みんな特訓してきたよ」
「じゃろうな。これで儂も、前より本気で戦えるわい」
次に、ルーナが話しかけてきた。
「しかも僕らに勝つ為に、わざわざ新メンバーまで加えてきたんだね?」
「出会ったのはたまたまだけどな。俺自身の縁に感謝してるよ」
そして、最後に俺はヤチヨに話しかけた。
「この戦いで、俺達はお前を口説き落してみせるよ、ヤチヨ」
「フフッ…期待してるわ」
今回の戦いは、森の中での乱戦だ。
勝敗は、先に戦闘メンバーが全員リタイアした方が勝ち。
リタイアは自身で宣言するか、本人が戦闘不能になる事でリタイア扱いになる。
審判として、今回はメリダさんに立ち会ってもらうことになった。
流石に街の外に彼女が出るのは危険な為、街中からカメラ機能付きの魔導ドローンを操作してもらい、ドローンの機能でこちらを感知・モニタリングしてもらいながら、審判として立ち会ってもらう事になっている。
…この世界、ドローンなんてものがあったんだな、知らなかったよ。
戦場となる森のエリア内は、魔物避けの結界で覆われている。
そのエリアを抜けてしまっても、ルール違反として戦闘不能になる。
なぜこんなルールがついたのかといえば…2日前、ギンジロウさんからの提案によって、ギルドへ『ユニオン・ランブルの模擬戦』の申請をしたからだ。
正式なユニオンでなくとも、模擬戦なら申請が可能だったので、ギルドに今回の戦いの立会人になってもらう為、この申請をした。
ちなみにユニオン・ランブルとは、ユニオン同士の決闘の事で、聞いた話によると大会まで開かれているという話らしく、一大産業にもなっているみたいだ。
チラリと向こうを見ると、3人は何やら話し合っている。
メリダさんの指示なのか、近くに見慣れないギルド職員がいる事に気が付いた。
俺達の所に一人、ギンジロウさん達のところに一人。
今回の関係者なのかと確認するために声を掛けようとしたが、その前にヴァルガに話しかけられる。
「なぁ、ソウマ」
「ん?」
ヴァルガが俺の背中を軽く叩く。
「ほら、リーダーから何か一言ねぇのか?」
「え?特に無いんだけど…」
「「「「えっ」」」」
何かを期待するような目で俺を見ていた4人の仲間が、驚きで目を丸くした。
「でもまぁ、そうだな…せっかくだし円陣でも組むか。ほら、みんな丸くなれ」
「アンタ、ホント適当ね…」
「まぁまぁ、セリアちゃん」
俺達は丸くなって肩を組む。
「…それでマスター、掛け声はどうするのですか?」
左からレミから指摘を受ける。
確かに。円陣を組んだのはいいが、何も考えてなかった
「ちょっと待って、今考えてるから」
「おいおい」
「う~ん…」
「早くしてよ、腕が疲れてきたんだけど!」
うーん、何かいいのが無いかなと考えていたが、時間も無いので適当に。
「打倒ギンジロウさんだ!行くぞ!!ファイ!!」
「「「「オー!!」」」」
少し締まらないが、こんなのも俺達らしいか。
『皆さま、聞こえますか?メリダです。』
ギンジロウさん達獣人チームを含む、今回の参加者全員が装着している通信具(穴を空けずに付けられる、ピアスのような魔導具)を通じて、メリダさんから連絡が来た。
『参加者が全員そちらに揃った事を確認しました。これから皆さまを、バトルフィールド内のランダムな地点にへ転送しますので…』
俺達の近くにいたギルド職員が、こちらにも近寄ってきた。
『そちらに、ギルド職員がいると思います。両チーム、こちらが展開する魔法陣の上に乗り、フィールド内に転送される事になります。』
その説明と共に、ギルド職員のお姉さんが小さな一枚の紙を胸ポケットから取り出し、地面に置いた。
すると、その小さな紙を中心に魔法陣が展開される。
「…簡易型の転送魔法ね。メリダさんの話通り、その魔法陣から特定のエリア内に、ランダムで転送される術式になっているわ」
ご丁寧に、魔法陣の術式を見たセリアが説明を添えてくれた。
「え、お前、見ただけでわかるのか?」
「簡単なものならね。言ったでしょ?簡易型の転送魔法だって。」
「…ちなみに、お前らは分かった?」
俺は分からなかった。
「私は、遺跡で眠っていた間の睡眠学習で学んでいましたから、分かりました」
レミは知っていたらしい。
「なるほどな…メル、ヴァルガ、お前らは?」
「全然分かりませんでした…」
「まぁ、俺らが使うのは魔術じゃなくて魔法だしな」
だよなぁ、わかんないよな。
この戦いが終わったら、セリアとレミに魔術について基礎部分だけでも教えてもらおう。
ギンジロウさん達が魔法陣の上に乗ったのを見て、俺達も目の前の魔法陣の中に入った。
「全員、中に入りましたね…では、ご検討をお祈り致します。」
お姉さんが右手を挙げた瞬間、俺達は魔法陣と同じ、黄色の光に包まれた。
その眩しさに、俺は反射的に目を閉じる。
…数秒が過ぎた頃、気が付くと俺は1人で森の中にいた。
「…確かに、この近くには俺一人しかいないな」
ランダムな地点に飛ばされるというのは、こういう事か。
メリダさんの声が聞こえてくる。
『参加者が全員転移出来た事を確認しました』
俺は手首のバングルにそっと触れながら、緊張をほぐす為に深く息を吐いた。
『これよりAチームとBチームの模擬ユニオン・ランブル交流戦を開始します!』
戦いの幕が上がる。




