第26話「対決、チーム獣人③」
俺はベッドに横になりながら、状況を整理する。
ヤチヨを仲間に勧誘したら、なんかギンジロウと戦う事になった。
大事な弟子を預けるのだから、彼女をちゃんと守れるという事を証明しろということだろう。ギンジロウ、ルーナ、ヤチヨの3人が俺達の戦う相手だ。
ギンジロウは奥の手として、「月明かりの丸薬」で完全な先祖返りをすることができる。
俺達は獣王化と呼んでいるが、それによって獣人族は獣の力と闘争本能を取り戻し、一騎当千の強さを見せるという。
その対策の為に、俺達は動き出した。
こちらの戦力は、防御魔法と回復魔法の得意な元シスター、メル。
降霊術を扱う事のできる錬金術師、セリア。
もう自身の身体を武器に変化させる事はないだろうが、高い身体能力と魔力を秘めたホムンクルスの少女、レミ。
そして、さらに明日にでも勧誘しに行くつもりだが、竜人族の鍛冶師ヴァルトをメンバーに加えたいと考えている。
というか、男が俺一人なのは、正直落ち着かないのだ。
「なんだか変わった奴だったしなぁ」
あいつがいたら、メンバーの空気もまた変わりそうだ。
新たな風を呼んでくれそうな気がする。
何気なく右手を天井にかざすと、手首には心気の腕輪がつけっぱなしだった。
今日購入した盾を呼び出したり、戻したりしてみる。
「…改めて、すげぇ武器だな」
あいつがいれば、メンバーの装備が貧弱問題も解決しそうだ。
「ふわぁ~…眠いな」
まだまだ考えたい事があったが、もう頭が回る気がしない。
段々と重くなる瞼に従って目を閉じると、俺の意識はそこで途切れた。
「ん」
次の日の朝。
何やら鳥の鳴き声が聞こえる…なるほど、これが朝チュンか。
ていうか、本当にチュンチュン鳴いてる、そんな鳥いたのか、この世界。
カーテンの隙間から、暖かい日差しが差し込んでいる。
「おはよう、俺」
今、この部屋には一人しかいない様で、誰かにおはようと言ってもらえなかった悲しみを自分に挨拶する事で紛らわせてみたが、虚しさが増しただけだった。
…もうみんな起きてるっぽいし、俺も早く準備するか。
既に各自行動を始めている様で、レミが朝食の準備をして俺を待っていた。
「おはようございます、マスター。よく寝ていましたね」
「…寝坊助でごめんね」
「いえ、メル様がそのまま寝かせておいてあげましょうと仰ったので…とても気持ちよさそうな寝顔でした」
「…恥ずかしいからあんま見ないでくれ」
他のメンバーは既に行動を開始しているらしい。
俺はいただきますと手を合わせて、レミの用意してくれた朝食を楽しんだ。
「レミ、今日は新メンバーの勧誘に行くぞ、一緒に来い」
「新メンバー…ですか?」
「おう、新メンバーだ」
まぁ、首を縦に振ってくれるかそうかは分からないが。
俺はレミを連れて、トウキチさんのお店に向かった。
お店に入ると、入り口にあるカウンターにトウキチさんがいた。
何やら新聞を読んでいる。
「お…いらっしゃい。武器のメンテナンスなら終わっとるぞ」
「仕事早くないですか?」
「昨日は客も少なかったもんでな、すぐに片づけてやったのよ。持ってくるから待ってろぃ」
「分かりました、それで、今日ってヴァルガ来てます?」
「奴なら奥におるが…何の用だ?」
「んー、面白そうな奴だし、男メンバーも欲しかったところだし、仲間になってくれないかなって思って…まぁ、勧誘ですね」
「あいつを仲間に?変わった奴だなぁお前さん」
戦えるに越したことはないが、最悪、戦闘力は別になくてもいいと思っている。
自分だけのユニオンを作るとなったら、鍛冶師は絶対に欲しいところだからだ。
だが、竜人族という事であれば、戦闘能力に期待は出来そうだった。
「あいつ、竜人族なんですよね?…もしかして、戦っても強かったりします?」
「そりゃあ、竜人族は強靭な肉体と高い魔力を持つ事で有名な種族だからなぁ…一人で攻略難易度の高いダンジョンに潜っては優れた素材を入手し、鍛冶師としては邪道な武具を作りやがる。」
「邪道ね、確かに、あれはそう思われても仕方ないな」
購入したラウンドシールドを思い出す。
俺は違う世界から来た人間だから抵抗はないが、変なギミックの付いた装備はこの世界の冒険者には好まれないらしい。
変形は男のロマンの1つだと思うんだけどなぁ。
「あの黒い鞭といい、お前さんが昨日買った盾といい、奴は鍛冶師としての矜持がないのか?」
あれでは武器ではなく兵器だと、そう締めくくるトウキチさん。
これは話が長くなりそうだなと思った俺は、「工房入りますね」と声を掛けてから店の奥に向かった。
工房に入ると、ちょうどヴァルガが熱した金属を叩いて鍛えている所だった。
邪魔にならない様、俺達は工房の端っこに身を寄せた。
今のうちにもう一つの目的を果たすべく、隣にいるレミに声を掛ける。
「レミ」
「…なんでしょうか?」
「長くなりそうだから、店を見て回って気になる装備がないか見てきなよ」
そう、あくまで推測だけど、レミの持つ『身体を武器に変化させる能力』は、彼女自身に負担が掛かる可能性がある…例えば、武器化した彼女の身体が破壊された時、とかな。
錬金術師であるセリアにも話を聞いてみたが、ホムンクルスの身体については、現在でも研究が進んでいる、という話らしい。
だから、彼女には代わりになる装備が必要だ。
「構いませんが…買って下さるのでしょうか?」
「あんまり高額なものはキツイかもだけどな、とりあえず選んできなよ」
「かしこまりました」
レミは工房から出て、店の方へ向かった。
しばらくヴァルガの仕事ぶりを眺め、ひと段落したところで彼に声を掛けた。
「ヴァルガ」
「おっ…ソウマか。来てたなら声を掛けてくれればいいのに」
「集中してたみたいだからな」
「まぁ、中々に神経使う作業ではあるけどな」
首に掛けた手拭いで汗を拭いながら、俺を部屋の外に案内する。
確かにこの工房は暑苦しいからな…俺もここでは話したくない。
案内されるがまま、俺達は階段を上って2階のベランダに出た。
ベランダの手摺に2人で寄りかかり、2階からの景色を眺めながら、ヴァルガが俺の方を向いた。
「それで、今日は何の用だ?昨日の今日で新しい武器を覗きに来たってわけでもないだろ?」
「もう一人、一緒に来た子の武器を見に来たってのはあるんだけど、俺の用事は確かに違うな」
「お前のその用事ってのは?」
「勧誘」
「勧誘?」
「そう。お前さ、俺達の仲間にならない?」
同時刻、街外れの教会前。
私はメルちゃんと一緒に、街はずれの教会前の広い草原で、実戦方式の戦闘訓練をしていた。
メルちゃんは教会での祈りによって強化した防御の魔法、光属性の魔法を試す為に。
私は、新たな錬金術と、新しく作った道具の出来を試す為に。
私達は早朝からずっと、今の時間まで戦い続けてきたけど…流石にもう限界が来て、今はちょうど2人に地面で倒れてた。
「立てますか?」
「ごめん、無理」
「そうですよね…私も、魔力が切れて力が出ません」
周囲の地面はボコボコで、本当なら魔法で元に戻しておく必要があるんだけど。
「私も、魔力切れ…アンタ、固すぎよ」
「そういうセリアちゃんも、殺す気満々だったじゃないですか」
「いや、そうじゃないと訓練にならないでしょ」
今回、ソウマがヤチヨちゃんを仲間にする為の条件としてギンジロウさんから課されたのは、ギンジロウさん、ルーナちゃん、ヤチヨちゃんの獣人3人衆と戦って実力を見せる事。
彼らより実践経験が不足している私たちが、彼らと戦えるようになる為には…全員が出来る事をやらないと勝てない。
ソウマが色々と動いている中、私達は私達で、少しでも強くなっておきたかった。
何より、リベンジしたい奴もいるし。
「…私たち、本気のギンジロウさんに勝てるのでしょうか」
「案外、やってみなきゃ分からないと思うわよ」
「え?」
「うちのリーダーは勇者様のタマゴ…可能性の塊じゃない。何せ、単独で魔王候補を倒しちゃったんだからね」
彼は強い。実力以上に、圧倒的に強い意思力を持っている。
そして、彼の仲間、メルとレミも、かなりの伸び代を秘めていると思う。
せっかく仲間になったんだから、私も何か貢献したいのだ。
正直に言えば、あの時、彼が誘ってくれた事…とても嬉しかった。
長い間、ずっと一人で旅してきたから。
見ていてね、お母さん、お父さん。
私、この世界を生きてみせるから。
私は上体を起こして、メルちゃんに話しかけた。
「もう少し休んだら、この辺りを魔法で修復しよっか」
「はい」
「激しい戦闘の気配を感じたかと思って来てみれば、女が二人か。これ、お前らが戦った跡か?」
「え?」
正面から声を掛けられ、その声の主を見る。
外側だけ短く刈り、上の部分は伸ばしたような髪型をした、赤い髪の男。
背が高く、パッと見はやや細い印象を受けるが、よく見るとガッチリとした身体をしている。
「あんた誰?」
「セリアちゃん、初対面の人にそれは失礼ですよ?」
「いや、気にしないで大丈夫だ。俺はヴァルガ・バーミリオン。鍛冶師をしている。」
鍛冶師?
そんな奴がこんなところに一体何の用なのか。
あたしのその疑問を察したのか、ヴァルガは話を続ける。
「いや、俺もここで待ってろって言われて来たもんでよ。理由までは聞いてないんだ」
「…言われたって、誰に?」
「悪い、待たせた!」
「遅くなりました」
街の方から小走りでこちらにやってくるのは、うちのリーダーのソウマと、仲間のレミ。
「えっ…ソウマ様!?」
「レミまで…ねぇ、こいつは二人の知り合いなの?なんでここに連れてきたの?」
「あー、その話な」
ソウマは何事も無かったかのように、私達が予想だにしなかった言葉をサラッと答えた。
「こいつ、新しいパーティーメンバーだから。二人とも、仲良くしてくれよな」
「…はぁ!?」
「そうなんですか!?」
メルちゃんも、開いた口が塞がらないといった様子だった。
「勧誘したら二つ返事でOK貰えたんだよ」
「俺も、面白そうな誘いだと思って、ついな」
目の前の野郎二人は、何やら適当な事を言っている。
全く、これだから男ってのは。
「つい、じゃないわよ!もっとちゃんと悩みなさいよ!自分の入るパーティなのよ!?」
あたしはグリっと首を回してソウマの方を向いて、「あんたも!」と説教を続ける。
「せめて、あたし達に前もって相談するとかしなさいよ!!確かに、誰を誘うかの判断はリーダーであるあんたに任せてるけど、こっちにも心の準備とかあるんだからね!?」
「ご、ごめん、悪かった!悪かったって!いや、伝えようとは思ったんだけど、相談できるタイミングがなかったしさ!」
「勧誘するにも、あたし達に相談してからにするとか、すればよかったじゃない!」
「いや、確かにそうだったんだけど!今が誘い時だと思ったんだよ!」
「ま、まぁまぁ、セリアちゃん。気持ちは分かりますが、落ち着いてください」
メルちゃんに窘められ、一旦一呼吸入れる。
別に仲間が増える事にも、誰が加わろうと文句はないのだ、それがよっぽどの悪人でない限りは。
ただ、あたし達を仲間と思っているなら、一言相談は欲しかったし、自分一人で決めないで欲しかったなって、ただそれだけ。
「うぅ~」と呻るあたしの頭を撫でながら、メルちゃんがソウマに話を振った。
「でも、どうしてこのタイミングで仲間を増やしたんですか?」
それは、今が大事な一戦の前に、一体なぜ?という疑問だ。
こんなタイミングでメンバーを増やせば、連携に乱れが生じてもおかしくないだろうし。
ソウマは「考えたんだけど」と、メルちゃんの質問に答えていく。
「多分、向こうは一緒に戦った仲なわけだし、俺らの手は知ってるわけだよな」
「えぇ、確かにそうね」
ソウマの言っている事は正しい。
向こうはそれを承知で戦い、作戦を組み立ててくるだろう。
「でも、それはこちらも同じことでは?」
ソウマの隣で静かに聞いていたレミが、可愛らしく首を傾けている。
そう、確かにこちらも向こうの戦い方を知っている。
「確かに、知ってはいるわね。でも全ての実力を見たわけじゃない、でしょ?」
「そういう事。俺達が短時間で強くなるだけじゃ、多分本気のギンジロウさん相手だと、厳しい可能性がある。だから、向こうの知らないカードを切る必要があると思ってさ」
なるほどね。ソウマの意図は理解出来た。
でも、もう一つの問題として…
「そいつ、強いの?そもそも鍛冶師なんでしょ?戦えるの?」
そう、こいつが戦力として足を引っ張らないかが問題だった。
当の本人はそう聞かれてもどこ吹く風といった様子だったが…
「そう、それがこいつとここに来た理由でもあるんだ」
「どういうことでしょうか?」
メルの質問を聞いて、ヴァルガが背中の大剣を抜いた。
右手一本で振り回すにはかなりの重量がありそうだが、彼は全くと言っていい程、それを苦にしていない。
私達から少し距離を置き、対峙するかのように大剣を中段に構えた。
「俺がどのくらい戦えるかは、これから直接確認すればいいじゃねぇか、そうだよなぁ、ソウマ!!」
「…本当、説明が楽で助かるよ」
ソウマもそれに応じるようにして青い魔剣を出現させ、腰の鞘から抜き放つ。
「3人とも下がっててくれ。あいつは竜人族…多分、手を抜いて戦える相手じゃないと思う」
「…メルちゃん、レミ」
あたしは二人を呼び、一緒に彼らから巻き込まれない様に距離をとった。
ソウマは言った、あの男が竜人族なのだと。
竜人族は優れた魔力量と頑丈で屈強な肉体を誇る種族だ。
どうして気が付かなかったのか、その後頭部の小さな真紅の角に。
竜人族の角は感覚器官で、感情が高ぶると輝きを放つ。
今のあいつの角は、まるで真っ赤に燃える炎を纏っている様だった。
ちらりとメルちゃん、レミの様子を見てみると、二人もあの男が強い事が分かったらしい。
空気がビリビリと震えている。
「俺が仲間になる条件、忘れてないよな?」
「あぁ、大丈夫だ。『俺が納得する様な強さを見せてみろ』、だろ?」
「OK、それじゃぁ、さっさと始めようぜ」
「…あぁ」
ソウマがそう答えた瞬間、空気の震えが止まった。
辺りは静寂に包まれる。
ジリジリと、数歩、二人が近づいた、その直後。
「…おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「フッ…来い、ソウマ!!」
今、二つの剣がぶつかり合い、彼らを中心に衝撃が放たれた。
「きゃ…!」
「メルちゃん…!」
私はよろめいたメルちゃんを受け止めた。
「ここでも危険かもしれませんね、もう少し離れましょう」
そう言ったレミが私たちを先導し、二人からより遠くに向かう。
怒涛の勢いで状況が変わり、動揺しているところもあるけれど…
彼が勝つと、そう信じて、私は呟いた。
「負けんじゃないわよ、ソウマ。ここで負けたら、あの忍者女は仲間に出来ないんだからね」
あたしの言葉に応えたのか、彼の魔剣がきらりと光った気がした。




