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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第25話「対決、チーム獣人②」


宿に戻り、3人と合流した俺は、情報を共有した。

「結論、奥の手の発動自体は避けられないのね?」

両目をグッと閉じて眉間を揉みながら、露骨に嫌そうにセリアが言った。

その気持ちはよく分かる。

「そうなるなぁ…」

答える俺の声色にも、少々諦めに近い感情が乗った。

「でも、やっぱり完璧な能力なんてないんだな…この奥の手、仮に獣王化と呼ぼうか。これには体力を著しく消耗するという欠点がある」

「つまり、相手のスタミナ切れを狙うと?」

レミが俺の意図を察してくれて、テンポよく会議が進む。

「うん。あれを使われたら、真っ向勝負なんてしない方がいいだろうな。力を解放されたら逃げの一手で、魔力も体力も温存する」

「ですが、相手もその欠点を承知してるのではないでしょうか?」

「そこなんだよなぁ」

メルの指摘は正しい。

そこを認識しているなら、その欠点を補うための戦い方をしてくるはずだ。

「…なら、相手にその奥の手を使わせるか」

「使わせる…ですか?」

レミが首を小さく傾けながら聞いてくる(可愛い)。

「あぁ、そうだ。獣王化の力を使わざるを得なくなる状況を作る」

「でも、あの3人をそこまで追い込むことが出来るのでしょうか…」

それもそうだ。

敵戦力の内、ヤチヨとルーナは1人で抑えられるだろう。

ギンジロウに残りの2人を充てるべきだ。

「…そうだな、俺がヤチヨを、セリアがルーナをそれぞれ倒す。メルとレミの2人は、それまでギンジロウがこちらに来ない様にしつつ、持ちこたえてほしい」

「…アタシがルーナを倒す?簡単に言ってくれてるけど、あいつはアタシのゴーレムを一撃で破壊するような奴なのよ?」

「確かに、ルーナはスピードとパワーを兼ね備えた強力な戦士だけど…それを削いじまえば問題ないわけだよな?」

「…何か考えがあるの?」

「一応ね。お前には明日、ある物を作ってもらう。それとお前の魔術があれば、あいつの電撃を封じ、且つ機動力をも抑えられるかもしれない」

「いいわ、あとで具体的な指示を頂戴」

「メル、お前は結界術…防御の魔法を強化して欲しいんだけど、出来そうか?」

「や、やってみます」

「レミ、お前は…明日は俺と一緒にトウキチさんの武器屋に付き合ってほしい」

「それは構いませんが…私は何をすればよろしいのでしょうか?」

「お前はまず装備を見に行こう。自分の身体を武器に変形させて戦うのは、どうにも危なっかしくてな…俺のイメージする武器があればいいんだけど」

あとは、可能であればもう一戦力欲しいが…そんな人材に丁度良く出会えるだろうか?

本気のギンジロウを相手にメルとレミの2人だけというのは怖い。

あの人はそれだけ強いんだ…遺跡の戦いでも、たった一人で数十人を抑えた人だからな。

ギンジロウでも壊せない強度の防御の手段はメルに任せる。

彼女が攻撃を防いでいるところにレミが仕掛ける…というイメージだったが、これをやるためにはもう一人、ギンジロウと正面から打ち合えるほどのフィジカルを持つ前衛メンバーが必要だが、そんな奴いるのか…?

ダメ元でギルドに相談してみるのも手だろうか。だが、すぐには見つからないだろう。

「…とにかく、今日はこんなところか。また明日も頑張ろう」

会議を切り上げて、俺は次の用事に向かった。


トウキチさんに武器のメンテナンスを依頼するべく、装備を一式まとめる。

最後に自分の愛剣を持ち上げた時、剣の柄尻が心気の腕輪に触れた。

すると、フォン…という音と共に、左手に持っていた愛剣が消えてしまった。

「え…」

目の前で起きた現象に時が止まるも、慌てる前に冷静になることにした。

俺の愛犬は腕輪に当たった事で消えたってことは、消えた原因は腕輪にしかない。

でも、触れたものを消し去ってしまうような物騒な力が宿っているとは思わなかった。

それとも、ただ消えただけではないのか。

俺は心気の腕輪を右手首から外して調べ始める。

腕輪には、祈りを捧げる聖女、フラスコを持った女の子、召使いの様な服装の少女の3人が刻まれている。

これも、この腕輪の力なのだろう。恐らくは俺と絆を結んだ相手がここに刻まれるのではないだろうか。

その絆の基準は、俺の認識か…パーティメンバーとして認識する事が条件、ってことでいいのかな、多分。

腕輪に現れた聖女の装飾を見て想いを馳せると、またも不思議な現象が起こった。

フォン…ガタンッ。

「うわっ」

消えたと思っていた愛剣が、突然手元に現れたのだ。

「これは…」

まさかと思いながら、魔剣をそっと聖女の装飾に触れさせてみる。

フォン…。

すると思った通り、先程と同じように剣がその場から消えた。

そして、今度は左手で、自分の剣をイメージしながら聖女の装飾に触れてみた。

フォン…。

目の前に出てきた魔剣を、右手でパシッとキャッチする。

同じ事をエニグマでもやってみたが、同様の結果になった。

これで間違いない。恐らくこの腕輪は、武器を出し入れする能力があるのだろう。

これは便利な能力だ。上手く使えば、自由自在に扱う武器を切り替えることが出来る。

「思わぬ収穫だな…これはトウキチさんに足向けて寝れないや」

「ちょっと!今いきなり変な感じがしたんだけど、一体何!?」

「おっと、ツグミか…いや、実はさ」

さっきの現象に驚いたツグミが声を荒げていたが、今の発見を伝えると、彼女は矛を収めてくれた様で、冷静に話を聞いてくれた。

「なるほどね、じゃあさっきのは、この腕輪の異空間に跳ばされていたって事か…確かに、近くにあなたがいないのに近くにいるように感じた…不思議な感覚だったわ」

「何にせよ、驚かせて悪かったな」

「いいえ、こっちも怒鳴っちゃってごめんなさい…ねぇ、ソウマ」

「ん?」

「お詫びというのもアレなんだけど、ちょっと試したい技があって…今の私達なら、きっとできると思うの。今からイメージを共有するから、今度試してみてくれない?」

「お、本当か?いいぜ、送ってくれよ」

そして、送られてきたイメージを映像として見終わる。

「どう?私の蛇の力を引き出した技なんだけど…」

「いいじゃん、今度の戦闘で使えそうだな!」

「よかった…ただ、魔力と生命力を結構吸っちゃうから、それだけは気を付けてね」

「了解」

ツグミとの会話も程々に、トウキチさんの武器屋へ向かった。


腕輪の発見があってから数十分後。

俺はトウキチさんのお店に来ていた。

「お…ヨルトか。聞いてるぞ、魔王候補を倒したそうじゃないか。デビューして早々に活躍するとは、驚いたぜ」

「こんばんは、トウキチさん…いや、別に俺一人で頑張ったわけじゃないからさ。それより、武器のメンテナンスをお願いします」

俺は自身の装備を一式渡す。

あと、腕輪の事で試したいことがあった。

具体的には、何個まで武器を収納できるのかを試したい。

「あの、せっかくなんで武器を見てもいいですか?」

「おう、好きに見てっていいぞ」

「ありがとうございます」

さて…さっき試した時は、一つずつしかやらなかったんだよな。

だから、複数の武器を格納できるかどうか試したい。

トウキチさんが奥に武器を持って行き、誰かに声を掛けているのを横目で確認してから、

俺は目の前にあったナイフを手に取った。

まずは聖女の装飾に触れさせ、腕輪に収納する。

次に、フラスコを持った少女の装飾に片手用の小振りな盾を触れさせる。

…これも成功。

続いて、近くにあった槍を召使の少女の装飾に触れさせる。

…成功。

なら、仲間の人数を超えた数ならどうか。

適当に手に取った片手剣を腕輪に触れさせる。

…これは失敗した。

なるほど、やっぱり仲間の人数を超えての収納は出来ないみたいだ。

「オーケー理解した」

収納した武器達を取り出して、元の位置に戻す。

さて、3つまで格納できるのであれば、あと一つは武器を持っていいわけだ。

何の武器を使おうかな?

「へぇ、面白いモン持ってんな、それ、神器か?」

「ん?」

いつの間にか俺の後ろに立っていたのは、2メートルくらいはあるだろう男だった。

細いが鍛え上げられた身体に、赤い髪。

何より特徴的なのは、後頭部に生えてる真紅の角だ。

「エニグマの所有者ってのはお前か?」

「うん、まぁ、そうだけど…」

「そうかお前か!会いたかったぜ!あれは俺の作品なんだが…てんで買い手がつかないんで気を揉んでたんだ」

大きな手で頭をぐりぐりされる。

「えっと、あんたは?」

「俺はヴァルト・バーミリオン。見ての通り竜人族だ。たまにこの店で武具を売らせてもらっている、よろしくな、客1号!」

「い、一号?」

そんな陽気に肩を組まれても困る…ちょっと落ち着いてほしい。

初対面なのに距離の詰め方が結構えぐいが…トヴァルからはどこか体育会系の空気を感じる。

「俺はまだまだ鍛冶師として新人でな、しかも独自の武器を作るってんで、邪道扱いするやつも中にはいるんだよ…だから、今のところこの店以外で俺の作った武具を置いてくれる店がないんだ…」

「独自の武具?」

「例えばお前が買ってくれたエニグマは、かつての魔王軍幹部である鵺の身体を元に作った鞭でな。威力は強力で、使い手が正しい使い方をすれば無類の強さを発揮する…と思っていたんだが、鵺が本来持っていた呪いの力に耐えきれる程の奴でないと、その手に持つことすら難しい」

な、なるほど。

というか、そんな物騒な武器を店に置くな。

…買った本人が言うのもおかしな話だけど!

「今日も早速新作を作ったから、ウキウキしながら売りに来たんだが…多分売れないだろうな」

「…ちなみに、今度はどんなものを作ったんだよ?」

「こいつだ」

片手サイズの小さなラウンドシールドだ。

重量としてもかなり軽量だが、重さの割には頑丈そうだ。

だが、なんだろう、どこか機械的というか…。

「結構いい盾じゃないか」

「分かるか?この盾は、最先端の魔導技術も利用して作ったからな!」

「お前、鍛冶師だよな?」

「強力な装備の為には、どんな技術も俺は受け入れる!!」

なるほど、これは職人気質のおじさん達には嫌われるかもしれない。

鍛冶師としての腕一本でのし上がってきた人達から見れば、確かに邪道だ。

「…この盾は一体、何を使って作ったんだよ?」

「こいつか?これには西の古代遺跡から見つかった兵器の残骸から回収された、魔導兵器のコアを修理したものを流用して作ったものだ」

色々とすげぇなぁ、こいつ。

「持ち手の部分を握って、そこに魔力を流してみろ」

「おう…えっと、こうか?…うおぉ!?」

ガシャン!!というスライド音と共に盾が変形し、大盾と呼べる程の大きさになった。

それだけでなく、表面には魔力のコーティングがされているのか、特殊なエネルギーを纏っている。

大盾という表現をしたが、全然重さを感じない。

「こりゃあすごいな…っと、流石にきついか」

大盾の状態を維持できなくなり、魔力を流すのを中断する。

ガシャガシャガシャン!という大きな音を立てて、元のラウンドシールドの姿に戻った。

「こっちがシールドモードだ。で、もう一つ…ここのボタンを押しながら、持ち手の部分を回してみろ」

何だよこのギミック。

悔しいが、男心をくすぐられる。

ロマンを感じる。

ヴァルトに指示された通り、俺は親指で持ち手の左側側面に付いたボタンを押しながら、手首を捻って持ち手を90度回転させる。

「よし、そこで魔力を流せ!」

「了解!」

カシャン!と先程よりも軽い音を鳴らして盾が変形する。

盾を中心に、8本の小さな刃が飛び出てきた。

「チャクラムモードだ」

「お前、鍛冶師やめて発明家にでもなりな…?」

ハッキリ言って、この装備は確かに使える。

使えるが…魔力の消費が激しすぎる。

最近魔法を使い始めた俺としては、扱いに困る武器だ。

だが、使いこなせれば強い事に変わりはない。

「…この盾、幾ら?」

購入が決定した。


腕輪の実験と装備のメンテナンス依頼を済ませて、宿への帰路へつく俺。

「あいつ、竜人族なのになんで鍛冶師なんてやってるんだろう」

あの身体だし、戦えば強いはずなのに…次に会う機会があれば聞いてみるかな。

話してみると面白い奴だった。

何より、鍛冶師というのがポイント高い。

「…いいかもしれんな」

後でみんなに相談してみよう。

というか、この先ユニオンを立ち上げる事を考えると、鍛冶師は絶対に欲しいポジションである。

お店に行かずとも身内に装備のメンテナンスが出来る奴がいるのは、それだけで心強い。

ヴァルトの事をあれこれ考えている内に、宿に戻ってきた。

「お帰りなさいませ、マスター」

レミが宿の前でお出迎えしてくれた。

「レミ…うん、ただいま。そのメイド服、寒くない?」

「私はホムンクルスですから、寒さなんて…」

気が付けばもうかなり遅い時間だし、この辺りの地域の夜はそこそこ冷える。

俺はレミの肩に上着をかけ、背中を押しながら宿へ入った。

「メルとセリアは?」

「お疲れの様子でしたので、先にお休みになって頂きました。私はホムンクルスですので、疲れなんて感じませんから、こちらでマスターをお出迎えしたくて…」

「その気持ちは嬉しいけど、レミだって疲れてると思うよ」

「私は大丈夫です」

頑なだなぁ。

「でも、いつもピシッとしてるメイド服がちょっとしわが寄ってるし、リボンもカチューシャも付け忘れてるよ」

「えっ、嘘っ!?」

「うん、嘘。でも、慌てたってことは疲れてる自覚あるんじゃない?」

「…」

あ、ちょっと拗ねてるな、これ。

この子は自分がホムンクルスであって人間じゃないから、他の奴より頑張らないといけない気持ちが強いのかな。

ノブレス・オブリージュの精神に近い考え方は立派だけど、パーティリーダーとしては仲間が一人で問題を抱え込む見過ごせない。

「レミ、一個約束して」

「…約束、ですか?」

「呼び方はこれまで通りでいいけど、俺達とレミは対等な関係だから。痛いときは痛い、辛いときは辛いって素直に言う事。出来る?」

「なんだか…子どもに言い聞含めるような言い方ですね」

声色から、さっきよりも拗ねている事を感じた。

両手を後ろ手で組んで、明後日の方向を向き、俺と目を合わせるのを避けている。

「外の世界を知らないホムンクルスの女の子なんて子どもと大差ないんじゃない?良く分からんけどさ。」

「そういう、ものでしょうか」

「分からん。でも、俺だけじゃなくて、メルもセリアだって、お前が一人で我慢してたら心配するのは分かる。だからほら、指切りしよう」

俺は右手の小指を立てて、彼女の眼前でそれを揺らす。

「…指切り」

ゆらゆらと揺れている俺の小指を不思議そうに見るレミ。

…もしかして、誰かと指切りするのは初めてなのかもな。

俺は強引の彼女の左手小指に、自身の右手小指を絡ませ、上下にリズムよく揺らした。

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたらはーりせんぼんのーます!ゆーびきった!!…はい!もうこんな事はしないで大丈夫だから!」

「え?え?」

「返事は?」

「は、はい…」

ちょっと強引だったかもしれないが、こうでもしないと彼女はどんな無茶をするかわからんからな。

なだめる為に右手を彼女の頭に乗せて無理矢理部屋へと戻った。

「明日の為に、お前も休んでくれ。俺もシャワー浴びて寝る」

「…かしこまりました」

内容は聞こえなかったが、小声で何かを呟きながら部屋に戻っていくレミ。

彼女が部屋に入るのを見送ってから、俺も部屋に入った。


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