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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第20話「北の遺跡の戦い④」


「ふむ…」

倒れても倒れても立ち上がる冒険者達を見て、思考を巡らせる。

そろそろ彼らへの攻撃は避けた方が良いだろう。

例え、支配されていて物言わぬ状態だとしても、ダメージは蓄積されていく…彼らはもう限界に近い中、無理やり魔王候補の命令に従わされ、戦わされている様だ。

彼らの攻撃を紙一重で躱し続け、彼らが駆け付けるまで時間を稼ぐか。

そんな思考が頭をよぎった時。

「よし、作戦通りにいくぞ、みんな!」

「「「「了解!!」」」」

もはやすっかり耳に馴染んだ少年の声。

それに力強く答える少女たちの声。

振り返るまでもなく、誰が来たのかが分かった。

「…時間稼ぎなど、必要もなかったか」

藍色のコートを纏った若い冒険者が、目の前にスタッと着地する。

「待たせて悪いな、ギンジロウ」

「まったくじゃ。あまりジジイに働かせるもんじゃないぞい」

「まだ全然余裕ありそうじゃん」

彼はそう言って、眼前の敵を睨み付けた。

「さて…このバカ騒ぎ、そろそろ終わりにしようか」


「ソウマ」

セリアが俺の右隣に歩み寄る。

「作戦通り、私とメル、ヤチヨ、レミの4人はここに残るわ」

そう、作戦は至ってシンプルだ。

俺が一人であの魔王候補を倒す。

他のみんなで操られている連中を抑え込む。

以上!

「あぁ、俺はあの魔王候補を倒すから、取り巻きはよろしく頼む」

「お主が支配された場合はどうする?」

ギンジロウから至極真っ当な質問が飛んでくる。

しかし、作戦会議の中でその結論は出ている。

「知らん。どうにかしてくれ」

「おいおい…」

そう、結構行き当たりばったりの作戦なのだ。

被害を最小限に抑えるために、俺が1対1で戦う事にしたのだ。

そして、いよいよ限界を迎えつつある、操られている連中を支配から解放する為に、この4人に残ってもらう必要があるのだ。

まだ余力を残しているとはいえ、ギンジロウも万全ではない…彼をサポートするメンバーも必要になるし、この人数を相手にするのにも頭数は必要になる。

この場に操られている敵は18名もいるのだ。

「お…俺はそろそろ逃げさせてもらうかな…!!」

と、敵の魔王候補はこちらに背中を見せてさっさと逃げていく。

「あっ、待て!!逃がすか!!」

俺はそのまま魔王候補の男を追うべくエア・ライドを起動し、空中へ飛び上がる。

「ソウマ、一旦下がって!!」

セリアの言葉に反応した俺は、エア・ライドの風で自分を吹き飛ばし、後ろへ下がった。

空中で姿勢を正し、攻撃があった場所を見据える。

「そうか…操られていても、魔法は使えるんだな」

思い返せばヤチヨとの戦闘でも、操られていた彼女は炎を使って攻撃してきた。

精神を支配されている状態でも、そうした身に付けている力は使えるわけだ。

自分がさっきまでいた場所に、バチバチと火花が散っていた。

「やっぱり厄介だな、あいつの電撃は…!」

どうしたものかと考えを巡らそうとした矢先、風切り音の様な音を聞き取った。

嫌な予感を感じ取り、反射的に愛剣で飛んでくるそれを防ぐ。

自分の頬に刃が掠め、指で触れてみると、その場所が浅く切られていた。

「掠めただけで血が出るとかお前…日本じゃこれだけでも殺人未遂だからな」

等と、バカな事を言っている場合ではない。

「ルーナにクレイド…あいつら、面倒臭いにも程があるぞ、全く」

「ソウマ様、行ってください!」

「メル?」

「作戦通りです!ここは、私たちが抑えますから!!」

「…了解!頼りにしてるよ!!」

愛剣を腰の鞘に納めて、最大速度で俺は空を駆けだした。


「さて…メルちゃん、支配解除の方は、任せていいのよね?」

私はメルちゃんにそれを確認する。この作戦がうまくいくかどうかは、彼女にかかっていると言っても過言ではないのだ。

彼女は力強く頷いて、腰に吊られていた杖を構える。

「はい、私が彼女たちにかかっている支配の権能を解きます。ヤチヨちゃんの身体から、操られていた時の痕跡を辿って、力の正体が掴めましたから」

「いつの間にあたしの身体を…」

ヤチヨちゃんは思わず自らの身体を両腕で抱くような仕草を見せる。

それを見て、メルちゃんは少しバツの悪そうな表情を浮かべた。

「ごめんなさい、いきなり『あなたの身体を調べさせてください』とは、とても言いづらくて…」

「いや、むしろちゃんと相談しなさいよ…そうすれば気にしなかったのに」

少し気にしているのか、ヤチヨが身体を抱いたまま恥ずかしそうに俯いている。

そんな私たちを見かねたレミが、仲裁に入った。

「まぁまぁ、皆様、その話は後程…ほら、敵が来ます」

私は一歩、前に出る。

動きの速い武闘家であるルーナちゃんの方は、何も言わずにヤチヨが引き受ける意思を示した。

なら、私の相手はあの男、クレイドか。

そういえば、あいつとの戦いはソウマ達に邪魔されたんだっけ。

「いいわ…あの時の決着、今ここでつけてやろうじゃない」


セリア様とクレイド様の戦いが始まるのを見届けた私は、消耗しているお爺様…ギンジロウ様のサポートに回ることにしました。

「動けますか?」

「ホッホ…心配無用じゃ、お嬢ちゃん」

「まぁ、お嬢ちゃんだなんて…私、これでも結構腕に自信はあるんですよ?」

「そりゃあ、見ればわかるわい…儂はこっちの連中を捌くから、そっちは頼めるかの?」

「もちろん、お任せあれ」

私の両腕を魔法陣が這い回ると、私の両腕の肘から下が剣に変化する。

その変化した2本の剣で左右から一人ずつ襲いかかってきた、操られている冒険者の得物を弾き、傷つけない様に回し蹴りで吹き飛ばした。

「こりゃあ珍しい…お前さん、ホムンクルスか」

「はい、長らくこの遺跡で眠っていたのですが…最近どうにも騒がしく、叩き起こされてしまいました」

小さく舌を出し、右拳をコツンと頭にぶつける。

あざとい仕草だと自分でも思いますが、こればっかりは、こんな風に私を造った方がいけないと思います。

「なるほどのう」

ギンジロウ様は敵の方に目もくれず、圧倒的な力技で敵の接近を許しません。

彼が想像以上に強い事が、もうそれだけでわかります。

何より彼はまだ、獣人族の持つ奥の手を見せてはいませんもの。

ですが、強いだけでは私のご主人様になる資格はありません。

私は、現時点で最もご主人様に近いその方が向かった方向に視線を向けました。

正直な話、彼の容姿はとても私の好みです。

そして、その人自身を表すと言われている魔力の波動の色も、とても美しく澄んだ深い青色。

その点も合格点です。

3つ目の優しさに関しては、彼が元々、出会ったばかりの冒険者である方の友人を、それも魔王軍相手から助け出すという話を聞いて、既に合格点に達しています。

それも、元々はたった4人で助け出す算段をつけていたそうです…中々度胸もあります。

最後の評価点である強さについて、今は評価をしている段階です。

ひとまずは魔王軍と戦う彼らに手を貸す事にしましたが、果たしてこれからどうなるのか。

「…期待していますよ?私の、未来のご主人様」


「くっそー、あいつ、どこに行った!?」

エア・ライドで空を駆けながら、逃げた魔王候補を探して森に入ってから5分程。

一旦魔法を止めて、近くの木の枝に着地した後、そこを飛び降りる。

その木に背中を預けながら心気で辺りの気配を探ってみるも、奴の気配なんてどこにも感じられない。

ザザァ…

「!」

集中している状態だったからか、真上からの木の葉が何かと擦れる音を聞き取った俺は、すぐにそこを離れた。

数メートル程の距離を取って、腰の剣に手を掛けながらその場所に目を向ける。

「チッ…やっぱり不意打ちはダメかぁ、気配は殺してたんだけどなぁ」

ボリボリと後頭部を掻きながらこちらに歩み寄る男は、先程逃げ出した魔王候補その人だった。

「一旦逃げたと思わせておいて、追いかける俺に不意打ちを仕掛けるとは、お前中々に手段を選ばない奴だな…名前は?」

「俺は柏田広司。お前と同じ様に日本から来た、魔王候補だよ」

へ、へへ…という卑屈な笑い方をして、こちらをニタニタと眺めている。

なんか不気味だな、こいつ…。

「俺と同じようにってのは違うだろ…俺は勇者候補としてこっちに呼ばれてるわけだし」

天城さんから聞いた話では、俺は神様、あいつらは邪神様に召し上げられてた筈だ。

つまり、ルーツは違う。

…まぁ、そんな話はどうでもいいか。

「お前を倒さないと、操られている俺の友達が解放されない可能性があるもんでな…大人しくやられてくれないか?」

魔剣を抜いて構える。

心気も全開にしているから、何かあれば感じ取れるはずだ…油断はしない。

「まぁ、そう言わずにさ…その剣、納めちゃくれない?」

「何!?」

俺は感知の心気を全開にしていたはずだった。

しかし、俺はそれを感じ取る間もなく、柏田を懐に入れている。

「しまっ…」

「もう遅い!」

柏田は俺の顔を真正面から覗き込むと、そのまま目を合わせ続けた。

その間、10秒程。

「さぁ、お前も俺の操り人形になれ…!!」

「…」

奴の目から直接、俺の身体にどす黒い力が働いているのが分かった。

俺は動けなかった。

動けなかったが、しかし、それだけだった。

「だが、断る」

俺は即座に奴の左腕を斬り上げ、切断した。

「ぐぅぅ!?」

「何故だ、って顔してるところ悪いけど、俺にも理由は分からないからな?」

あいつから何かが流れ込んでいる間はちょっと動けなくなるだけで、あいつの精神支配は俺には効果が無いみたいだった。

正直、もっと激しい戦いになると思ったんだけど…

「お前もしかして、人を操る事しかやった事ないんだろ?」

「ハァ…ハァ…痛ぇな、この野郎!!」

こいつ、キレやがった!!

どうやら図星だったらしい。

柏田の纏う雰囲気がガラッと変わり、彼の周囲に風が吹き始める。

俺が再び距離を取ると、奴の周りに風が吹き始めて、それが次第に目に見える形で変化していく。

やがてそれは周囲の木々を巻き込み、なぎ倒し、捲き上げていく竜巻となって、俺に襲い掛かってきた。

「ここからが本番ってわけか!!」

「畜生!!ぶっ殺してやる!!」

「竜巻とか、なんつー物騒なものを作り出してくれるんだ、お前は!!モブのヤンキーみてぇなセリフ回ししやがって…!!」

というか、俺も逃げなくては危ない。

やっぱりあいつの力は、人の心だけじゃなくて何でも支配する系のパターンだったか!!

「せっかく好き放題出来る力を手に入れたんだ!俺はもっとこの世界で、自分の望むように生きてやるんだよぉ!!」

俺のエア・ライドによる移動を上回る速さで竜巻が迫ってくる。

「怖っ!!」

俺も必死で逃げるが、間に合わない。

左側から一気に接近してきた竜巻が、俺を呑み込んだ。

ミキサーの中ってこんな感じなのかもしれない…逆らえない程強い風によって、グルグルと流され、吹き飛ばされ続けている。

「うぐ…流石に、やばい…!!」

しかも、どうやら石だの枝だのを巻き込んでいるため、風速の速さで飛んでくる石を身体に叩き付けられ、飛んでくる枝は俺の装備の布部分ごと切り裂いていく。

「うっ!!」

今も、側頭部に石が直撃した。

俺の身体に痣や出血が目立ち始めるが、竜巻は今なお容赦なく俺を巻き上げていく。

「なんとか、しないと…」

この状況を打開するには、竜巻に負けない風を纏って脱出するしかないか。

でも、俺の使える風属性の魔法はエア・ライドとスピニング・シールドぐらいしかない。

エア・ライドは突風によって自身を吹き飛ばし、風に殴られるように移動する未完成の魔法だ。

スピニング・シールドはヤチヨとの戦いで炎を防いだ時に使った、剣を高速で回転させて攻撃を防ぐ魔法。

しかし、今はどちらも通用しない。

「…エア・ライドを強化させるしかないか」

俺も、風を支配してこの状況を打開するしかない、という結論に至る。

「そうと決まれば、ちょっと集中するとしますか…」

早速それを実行するべく、俺は新たな魔法のイメージを練り始めるのだった。


敵はもちろんルーナとクレイドの2人だけではない。

他の操られている冒険者連中も、命令に忠実に私たちを始末しようと襲い掛かってくる。

「ああ、もう!いい加減に大人しくしてて!」

私はルーナの猛攻を躱しつつ、得意の忍術で敵を拘束して回っていた。

忍法・蛇縛りの術。

エネルギー体の蛇が相手に絡みつき、拘束する技。

それなりの数の敵を拘束し、行動不能にしてきたと思ったが…まだまだ向こうの方が数が多い。

よく見ると、私たちを追って遺跡の中にいた奴らがこっちに出始めているから、敵の人数が中々減らないのだと分かる。

「はぁ?うっざ…」

正直言ってげんなりする。

だが、自分を好き放題してくれたあの男に目に物を見せてやらなければ気が済まない。

その為なら、例え得体の知れない勇者候補であろうと利用してみせる。

正直な話、操られた友人を助ける事に注力したいところだけど…相手を拘束する技を持っているのは、このメンバーの中で私だけだ。

だから私はパーティリーダーのソウマから、あらかじめ操られている冒険者を拘束する役目を与えられいた。

「…まだ、全然余力はありそうね」

忍術は生命エネルギーと魔力を混ぜて使用する技だ。

まぁ、本来は生命エネルギーだけを使って行使する力らしいのだけれど…残念ながら、その方法は生命エネルギーに自身のある者でなければ使えない。

私も訓練を怠ったつもりはないが、生命エネルギー100%の純粋な忍術はまだ使えずにいる。

幸いなことに、蛇縛りの術はあまり生命エネルギーを消費しない便利な技だし、魔力も忍の持つ特殊な呼吸方法により体の中に魔素を取り入れて効率よく変換出来ているから、まだ持ちそうではあるけれど。

…起きたばかりの時は、なぜか魔力も生命力がカラカラだったから、ここまで回復出来て良かったわ。

「ただでさえ人数に差があるんだから…さっさとどうにかしなさいよ」

正直、まだ出会ったばかりで信用できる相手なのかは、よくわかっていない。

よくわかっていないが…あの老いぼれを助けようとしている姿勢には、嘘は無さそうだった。

何より、この状況を乗り越えるためには、私はこいつらと手を組むより他はない。

「まぁ…生きていたところで何なのかって話だけど」

私は忍、耐え忍ぶ事こそが本懐だ。

与えられた役目は、果たすとしましょう。

私は腰の忍者刀を抜き放って右手に逆手で持ち、自身に向かって振り下ろされる大剣に忍者刀を滑らせて受け流す。

すれ違い際に左手で印を結び、蛇縛りの術で大柄な冒険者を拘束した。

「次、さっさとかかってきなさい」

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