第19話「北の遺跡の戦い③」
ヤチヨとの戦いの後、意識を失ったヤチヨを部屋の端っこに寝かせてから、俺とセリアは彼女が守っていた部屋を探索した。
どうやらこの部屋は、この遺跡に備え付けられた何らかの装置群らしい。
装置『群』という表現になったのは、どうやら別々の機能を持った様々な装置やシステムが
この部屋にはたくさんあるからだ。
この部屋で確認できた、この遺跡の機能は大きく分けて3つ。
ワープ機能及びワープポイントの設定変更機能だ。
「ワープ…って、最初に私たちが部屋の中に飛ばされたのは、この機能の影響って事?」
「あぁ、どうやらそうらしい…これ、システムの中に転移した時のログが残ってる」
俺達が入り口から潜入し、一体いつ、どこに転移させられたのかが記録されているのを見つけた。
ここのシステムは日本にいた頃に操作していたものに近い様で、部屋を物色していた時に見つけたマニュアルの存在もあって、何とか動かし方を理解できた。
「冒険者ギルドは、このシステムの事を知らなかったの?」
「恐らく知らないだろうな。こんな部屋がある事すら、俺達は聞かされていない」
それどころか、派遣されたギルドの調査員や冒険者と連絡がつかなくなった事で、遺跡の調査が全然進んでいない…という話だ。
そして、何も言わずに襲ってくる冒険者達。
まぁ、操ってる奴がどこかにいるって事だよな。
そしてそいつは、このシステムを使って俺達を分断し、各個撃破しようとしたか、あわよくば戦力として取り込もうとしたんだろう。
この部屋にはガラス張りの扉や、何やら奥に別の部屋があるっぽい扉があり、どちらもどうやっても開くことはなかったが…どちらか片方はワープ関係のものなのではないかと考えている。
そして2つ目の機能。
「さっきのシステムを見た時に分かったんだけど、この遺跡のどこかには、誰かが眠っているらしくてさ…さっきのワープ機能は、その誰かを守る為のものなんじゃないかって思ってる」
話しながら、俺は端末を操作してこの遺跡の内部構造を画面に表示した。
誰がどこにいるかは残念ながら分からないが、どこにどんな部屋があるのかは、これで把握する事ができる。
俺はそのマップのある場所、この部屋の奥を示す場所を指差した。
その部屋の名前は…
「…子ども部屋?」
「そう、この遺跡にはおよそ似つかわしくない部屋の名前だよ…誰かがいるとしたら、ここしかない」
俺が自分の推測をセリアに伝えていると、
「正解です」
背後から、僅かに幼さの残る、鈴の音のような声がした。
その方向は、開かない扉がある場所…今指差した『子ども部屋』のある方だ。
「え!?」
「おはようございます」
さっきまで開かなかった扉が開いていた。
そこから、濃紺の髪の少女が歩み出てくる。
背中まで伸びたロングヘア。
その頭の上には白いフリルのついたカチューシャが乗っている。
服装は、そのカチューシャと同じ白いフリルのついた黒いエプロンドレス。
そう、メイド服である。
「ば、バカな…!?」
俺は衝撃を受けていた。
この世界にメイド服が存在しているだと!?
俺は震える指で彼女を指差し、尋ねる。
「あ、あなたはもしや…本物のメイドさん?」
という、見ればわかるであろう俺の頭の悪い問いかけに対して、その女の子は微笑んだ。
「はい、その通りです。仕える主は、まだ見つかっておりませんが…」
な、何だってー!?
「ちょっと!?しっかりしなさいよ!!」
セリアは思考がバグっている俺の肩を掴み、激しく揺らした。
「あの子が敵か味方も分かってないんだから、油断しないで!」
「いや、敵だったらとっくに攻撃を仕掛けてきてると思うよ」
俺達が気づいていない時点で、攻撃を仕掛けることは出来ただろう。
彼女はそれが出来るほどの実力を持っているのは、なんとなくだが分かる。
少なくとも敵ではないと見なし、俺は彼女に歩み寄った。
「初めまして、俺はソウマ・カスガイ。新人の冒険者だよ」
俺の挨拶に対して、彼女はスカートの端を摘まみ上げ、足を交差させて僅かに頭を垂れた。
「ご丁寧にどうも、ありがとうございます…私はレミントン・アーマライトと申します。あなた様の推測通り、この遺跡で眠っていたのは私です」
一人称が『わたくし』か。
本当にメイドさんなんだな。
「私は作られた生命体…所謂、ホムンクルスという存在です。あなたの様な勇者候補が来ることを、私はずっと、お待ちしておりました」
「…それは一体、どういう」
事だ、と続けようとした、その時。
ウィィィン!
もう一つ、開かなかったガラス張りの扉が開いた。
「…キャアァァァァァァ!!!」
誰かが悲鳴を上げながら、その中から飛び出してきた。
「っと!」
慌ててその人を受け止める。
ハグするような形で受け止めた腕の中の相手に視線をやる。
「…メル!?」
俺の声に反応した彼女はパッと顔を上げると、すぐに俺の胸に顔を埋めて、グリグリと顔を左右に揺らして涙を拭った。
「ソウマ様ぁ~!!」
「お、おい、一体何が…」
しかし、まだ状況の変化は終わらない。
「ん…何よ、うっさいわね…」
その声は部屋の隅から聞こえた。
メルでもメイドさんでも、セリアでもない、女の子の声。
その方向を振り向くと、さっきまで眠っていた彼女も目を覚まし、身体をゆっくりと起こしていた。
「えっと…ここ、どこなの?あなた達は、誰?」
目を覚ましたヤチヨが、俺達に向けてそう言った。
少し怪訝そうなのは、さっきの戦闘の記憶を失っているからだろう。
「…とりあえず、状況を整理しましょう。」
セリアの溜め息交じりの声が、俺の冷静さを取り戻させた。
全員が自己紹介と状況確認を済ませたところで、自分の中でその情報を整理する。
メルからの情報では、一緒に転移して戦っていたルーナとクレイドが、支配の能力を持った人物によって操られ、一時的に敵になってしまった事。
そんな中で一人、状況的に不利だと判断したメルは一時撤退し、俺達と合流するべく走り回っていたところ、たまたまワープポイントへ飛び込みこの部屋に飛ばされたらしい。
ヤチヨの話では自身が最近入団した盗賊団が運悪く魔王候補に操られ、そこから記憶が無いという話だった。
その魔王候補はこの遺跡に来る前に盗賊団を全員操り、その戦力を以ってしてこの遺跡の調査チームを制圧・支配し、更にやってきた冒険者達も支配し…という行為を繰り返して、戦力を増やした様だ。
そして、その魔王候補が探していたのが、さっきのメイドさんことレミントン・アーマライト。
彼女は勇者候補と共に戦う為に生み出された存在で、日常生活や戦闘面のサポートをする機能を持つホムンクルスなのだと言う(本人談)。
今まで彼女が見つからなかったのは、彼女自身が眠っている間だけこの遺跡のシステムとリンクする様になっていて、『子ども部屋』の扉をずっと閉ざしていたからだと言っていた。
彼女が待っていた勇者候補は、ただ天恵や天稟を持っていればいいというわけでもなく…その中でも彼女が使えるにふさわしいかどうかが重要らしい(本人談)。
曰く、「私の好みかどうか」という言い方だったが…。
何はともあれそれらの情報から、俺達はその支配の力を持つ魔王候補を倒すという方針となった。
5人で作戦会議をした後、この遺跡の3つ目の機能を使ってその魔王候補の居場所を特定しようと、俺はシステムを操作する。
端末を操作しながら、ふと俺はあることを考えていた。
一人でこの遺跡のどこかに転移したギンジロウは、一体どこにいるんだろう?
「ホッホッホ…儂はその程度では死なんぞい。ほれ、もっと死ぬ気でかかって来んか?」
「う、嘘だろ…!?化け物か、あのジジイ!?」
ここは遺跡の外、入り口を出てすぐの広い場所。
儂は何やらたくさんの人の気配が集まっているのを感じ取り、この場所に駆け付けたが…馬鹿弟子とクレイドという男が、何やら身体を操られている事が分かった。
2人を含む、襲い来る冒険者たちを吹っ飛ばしては、その能力者であろう男へ近づこうとするが…人数が多く、倒れても立ち上がってくるので、近づけない。
一人では、誰も殺さずには、この状況を解決できない。
「ふむ…どうにかして、あの馬鹿者を懲らしめてやりたいが…儂一人ではのう」
だが、ここには未知の可能性を持ったあの男がいる。
噂を聞きつけ、戦力として期待した、冒険者になりたての男。
知れば知るほど面白い、儂の新しい弟子である。
「期待しておるぞ、ソウマよ」
この遺跡の3つ目の機能、監視カメラ。
いくつも設置してあるそのカメラの内、遺跡の外の映像に、ギンジロウを発見した。
「ソウマ様!」
メルがその画面を指差す。
その先には、俺が見知らぬ男が映っている。
「その男が、支配の能力を持った魔王候補よ」
「何!?」
ヤチヨのその言葉を聞いた俺は、すぐに部屋を出る支度を始めた。
「いくらギンジロウが強いとはいえ、一人であの数はまずいわね…」
「あぁ、俺達も急いで向かうぞ!!」
戦いは、最終局面へ向かっていた。




