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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
20/39

第16話「仲裁」

ユークリッドの街を発ってから5日目。

特に戦闘でも苦戦するような事はなく、万事順調に遺跡へと近づいていた。

このまま進めば予定通り、明日の夜には遺跡へ辿り着くだろう。

…正直、これまでの戦闘で新技をお披露目する機会が無く、少しだけそれが残念だったが。

「思ったよりも順調だね」

俺の右前を走るルーナに声を掛けられる。

この遠征が順調な理由なんて、火を見るよりも明らかだろうに。

「そりゃあ、ギンジロウがちょっと本気出してるからな…」

そうなのだ。

俺たちだってもちろん戦っているのだが、この前と違いギンジロウがちょっと本気を出しているから、苦戦することなく戦えてしまっている。

俺ももう少し貢献しないとな…と気を引き締める。

ちなみに今は魔物の気配がないから、心気で周りの気配を探りながら走っている。

安全であるのはいいことなのだが、俺は一つ、気掛かりな事があった。

「ギンジロウ、何か変じゃないか?」

「この辺りに、魔物がいない事か?」

「うん。流石に、魔物の気配すら感じないのはおかしい」

「儂も同じことを考えておったが…原因が分からない以上、気にしても仕方がないわい」

「どういうことでしょうか、ソウマ様?」

後方にいたメルが隣に並走し、問いかける。

「簡単な話だよ、メル。ここに来るまでに、魔物の気配を感じなかった事は一度もなかった…つまり、襲ってくる襲ってこないに関わらず、魔物は俺達の感じ取れる範囲には必ずいた。ここは魔物の群生地帯の1つなんだから。今みたいに、気配すら感じないって状況はおかしいんだよ。」

そう、俺達が駆けているこの森は、遺跡への最短ルート上にある、魔物の群生地である深い森林地帯。

道に迷ったり、俺達の様に意図的に入らない限りは近づかない場所なのである。

「なるほど…確かに、それは変ですね。私も周囲には気を配るようにします」

俺の説明は正しく理解してもらえた様で、メルも気を引き締めた。

そこから更に走る事1時間と少し。

最短ルートを突っ走ってきた俺達の眼前に、開けた景色があった。

「…森を、抜けたのか?」

少し息を切らしながら、俺は現在地の確認のため、地図を持つメルに声を掛けた。

メルは慌てて懐から紙の地図を取り出して広げ、じっくりと眺めていく。

「今は…この辺りにいると思うよ」

メルの左に移動したルーナが、メルに現在地の場所を教えてあげていた。

辺りを見回してみると、ここは遺跡の近くなのか、朽ちた石柱や手入れの行き届いていない道がある事に気付く。

「ソウマ、その道を真っ直ぐ正面に行くと、目的の遺跡があるよ」

ルーナが次の方向を教えてくれた。

俺は安全を確かめる為に、意識を集中して辺りの気配を感じ取る。

しばらく集中していると、遺跡の方向とは反対側であるここから少し離れた場所に、

人の気配を感じた、その直後。

ドゴォォォォン…という何かが崩れるような破壊音が鳴り響き、地面を揺らした。

「何だ!?」

「あっちじゃのう…誰かいる様じゃ、それも2人」

ギンジロウが示すのは、俺が気配を感じた方向と同じだ。

ルーナがメルの前に立ち、その方向を警戒する。

「誰かが、戦ってるのか…?」

俺はパーティリーダーとして考える。

遠征途中に発生した異変を調べに行くべきか否か。

この辺りにも魔物の気配はないから、少なくともその線の襲撃は薄いだろう。

なら、リスクとして存在しているのは正体不明の振動ただ一つ。

「…よし、ちょっと行って確認してくる。ルーナは一緒に来てくれ」

「ソウマ様!?」

メルが驚愕の声を上げる。

「わ、私も行きます!」

メルは今回の遠征、「絶対に役に立ってみせます!」と張り切っているからなぁ…。

しかし、メルの能力は何かあった時に心配だし、偵察に行くなら少人数で機動力に長けたメンバーで行った方がいいと思うのだ。

「俺は大丈夫。ちょっと行って、すぐに戻ってくるから、ギンジロウとここで待っててよ」

「で、でも…」

俺たちの身を案じるメルが、心配そうな表情で訴える。

気持ちはすごく分かるんだが…参ったな。

俺がメルに対してどう言葉を返そうか悩んでいると、ルーナが一歩前に出て、メルの耳元で何やら囁いた。

「ソウマが無茶しようとしたら、僕がぶん殴って止めてでも連れ帰るからさ…ここは友達を信じてほしいな」

俺の説得にルーナが加勢してくれたのが効いたのか、メルは何も言わず、なぜか少し拗ねたような表情だったが、納得してくれたようだ。

「それじゃあルーナ、よろしく頼む」

「了解」

俺とルーナは、まだ見ぬ何者かの方向へと駆け出していった。


「いた…ソウマ、隠れて」

指示通りに隠れ、可能な限り気配を薄める様、自らの心気で働きかける。

「あれは…男と女か」

3つの刃を持ち、中心が持ち手の部分となった妙な武器を扱う、目深に深い緑色の帽子を被った男が、その武器を投擲する。

手元から放たれた武器は、目にも止まらぬ速度の回転を伴い、反対側で杖を携える少女へと向かっていく。

しかしその少女も唯の人ではなかったらしい。

持っている杖を真っ直ぐに振り下ろすと、その赤い杖が爆風を放ち、自らへと襲い来る刃を吹き飛ばした。

地面に転がる直前、その武器は光と共に消え、男の手元へと戻っていた。

「あれは…ブーメランなのか?珍しい武器を使うもんだな」

「向こうの女の子も、さっきの爆風は魔法で発したものじゃなさそうだね。魔力を何も感じなかった…なんだろうね、あの杖」

草の影より様子を探る俺達。

向こうの2人は戦いに夢中なのか、こっちには気づいていないらしい。

彼らの周囲を見ると、既に争いの真っ只中の様だ。

「…」

見たところ、両者共に遺跡を狙っているという盗賊団とは別な気がした。

周囲には彼らの仲間らしき人物の気配は微塵も感じられないし、二人とも目的があっての旅なのかもしれない。

何より、彼らは獣人族の特徴らしき耳や尾も見受けられないしな。

なら、彼らの争いは無益なものである可能性が高いだろう。

「ちょっと行ってくる」

俺は即座にチャージ・解放したマナを爆発させ、自身の身体を吹き飛ばした。

「あ、ちょっと!?」

ルーナが制止する声を無視して、真っ直ぐ両者の間に入る。

タイミングよく割って入れたらしい。

男の投げたブーメランを愛剣で弾き、左手だけ剣から手放すと、腰の鞭を引っ掴んだ。

もう片方の女の子の手元目掛けて鞭の動きを制御して、彼女が構えていた短い杖を叩き落とした。

そのまま放っておいて拾われてしまっても意味がないと踏んで、即座に鞭で地面に転がった杖を絡め取り、引き寄せ、キャッチする。

「おぉ…結構重いな、この杖」

「なっ…なんですか、あなたは!?」

「お前は…」

よし、二人の視線が俺に集まったな。

上手く気を引けたなら、次は説得か。

「俺は新人冒険者、ソウマ・カスガイという者だ。冒険者同士での諍いの空気を感じ取ったものだから、思わず仲裁に入っちまった…とりあえず、話を聞かせてくれないか?」


2人から話を聞いてみると、やはり誤解だった。

お互いがお互いを、遺跡を狙っている魔王軍傘下の盗賊団だと勘違いしたらしい。

男が不意打ちを仕掛け、それに応じた女の子が反撃して、さっきの状況に至る、という話だった。

「とりあえず、細かい挨拶は抜きにして、メルと師匠のところに戻ろうよ…その二人も一緒にさ」

俺が二人の仲裁に入った際に吹っ飛ばされたルーナは、ちょっと不機嫌だった…後で謝らないといけないな。

「そうだな、二人の話もしないといけない」

「…」

「あのよ…」

「…なんですか?」

俺とルーナの後ろで、女の子と男が話し合っている。

「さっきは、不意打ちなんて真似して、すまなかったな…この近くには魔王軍の連中がいるんじゃないかと、ピリピリしてたんだ」

「…そうですか。まぁ、もういいですよ。終わった事ですし」

「…あぁ、そうだな」

お互い水に流したみたいだけど、後ろの2人、超気まずいなぁ…。

出来ればこの後、彼らにも遺跡探索に参加して欲しいから、仲が悪いのはちょっと困る。

というか…

「…」

「…」

2人とも、仲裁に入った俺の事を酷く警戒している。

う、うーん…何かまずかったかな。

「と、とりあえず!俺の仲間のところに行こうか!」

ひとまず気を取り直すべく、俺は声を上げた。


その日の夜。

俺達は彼らに自己紹介と軽い挨拶を済ませて、敵ではない事を納得してもらえたらしい。

続いて、先程の2人の自己紹介だ。

「俺はクレイド・スクレイパー。トレジャーハンターをやってる」

「私はセリア・フォード・カルシュタイン…錬金術師です」

「トレジャーハンターに錬金術師か…なんだかすごい取り合わせだな」

「仲裁に入り、連れてきたお主がそれを言うのか…」

ギンジロウが呆れながら、メルの作ったスープを飲んでいる。

俺も空になった器にスープを入れようと、釜とお玉に手を伸ばした。

「あ、おかわりなら私がやりますよ、ソウマ様」

「そっか。じゃあ、お願い」

メルのお言葉に甘えて、やってもらうことにする。

「ねぇ、あなた…ソウマって言ったわね?」

女の子…セリアが俺に声を掛ける。

警戒はまだ解かれていないのか、少し目つきが鋭い。

「うん、よろしくな」

空いた右手を差し出して握手を求めるも、パシッと跳ね除けられてしまった。

悲しい…が、表情に出さない様に務める。

「さっき私の杖を奪った動き…本当に新人冒険者なの?私もそれなりに戦えると思ってたんだけど、反応できなかったわ」

「俺のブーメランにしたってそうだな。分身毎叩き落としやがった」

あー…そこな、うん。

確かに、一週間前の俺なら絶対に無理だったと思う。

しかし、伊達に神様代行に稽古をつけてもらっていない…俺は、着実に出来ることが増えてきている。

これも、修行の成果だ。

「冒険者になって…そうだな、もうすぐ3週間くらいかな」。

「「3週間!?」」

クレイドとセリアの驚きの声が重なる。

「俺は、元々この世界の人間じゃないんだ。元々いた所で死んじゃって、神様に拾われて、この世界にやってきた」

「なるほどな、勇者候補か」

「勇者候補…私は初めて会います」

「ソウマ様は、レベルが上がらない代わりに、ステータスの成長が人より早いんですよ」

「それも日々の努力があっての事だし、最近トレーニングをきつくしないと効果が薄いんだけどね…」

そうなのだ。

最近は簡単な修練だと、ステータスの上がり幅もしょっぱくなってきている…。

だから、練習メニューを考えるのに密かに頭を悩ませているのである。

まだ俺の常識内のトレーニングで済むからいいが、このままいけばいずれは、異世界流の方法で鍛えないと成長が見込めなくなるだろうな。

「…全ての勇者候補が、いい奴とは限らねぇ」

クレイドは小さく、だけど確かにはっきりとそう言った。

「お前は来たばかりで知らないかもしれないけどな…」

「なんとなく分かるよ。勇者候補の戦闘による間接的被害、勇者候補自身による人民への直接的な被害…そりゃあ、神様からチートを貰った連中なんて、大体元の世界じゃ燻ってた奴らばっかりだし、態度も大きくなるわな」

「知っていたのか?」

「図書館でちょろっとだけど調べたよ。そうしたら、魔王軍だけじゃなくて、一部の勇者候補による被害報告まで結構たくさんあって、びっくりしたもんさ」

そしてその一部の勇者候補は、今や指名手配犯として警告されている事もな。

中には口にするのも憚られる程の邪悪さを感じた事件もあった。

「…お前がそうした、悪しき冒険者でないという証明は出来るか?」

「無理だな」

「…」

「だからさ、とりあえず一緒にいようぜ。それでもし俺が道を誤ったら、その時はお前が俺を殺してくれよ」

「何だと?」

「お前が俺をどういう人間か気になったところで、判断するのはお前自身だよ。口や演技がすっげぇうまくて、騙くらかすようなのが得意な奴もいれば、滅茶苦茶腕っ節の強い奴もいるだろうさ」

「…」

「あなたは、何が言いたいの?」

セリアが俺の遠回しな言葉に、少し苛立ったように言う。

そうカッカするなよ、物事には順序があるんだからさ。

「つまりさ、この世界で勇者候補がしてきた事で、お前達が嫌な思いをしてきたことは分かったよ、でも、俺はお前と争いたくない。だからさ…今は俺を見ててよ。」

「ソウマ様…」

おかわりを持ったまま様子を見ていたメルが、心配そうに俺を呼んだ。

メルからおかわりのスープを受け取って、よく味わってから飲み込む。

「そうしたら、俺がただの…平和主義な一介の冒険者だって事が、よくわかるだろうさ」

「フン…なら、今は納得しておいてやるさ」

クレイドは矛を収めたみたいで、近くの切り株にドカッと座った。

この後も当然協力してくれるような言い方をしてしまったが…まぁ、彼女らの目的も、飯を食べながらゆっくり聞いていけばいいか。

「ていうかお前らもっと食えよ。メルの手料理は美味いぞ?」

「ふふ、ありがとうございます」

「公然といちゃつかないでよね…ていうかさっきの、僕が吹き飛ばされた技は何なのさ?」

「あー、あれはその…新技?」

「ふぅん…悔しいから今度教えてよ、やり返してあげるから」

「先程は大変申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」

スープをそっと置いて、ババっと土下座する俺。

ルーナは空になった器を俺に手渡した。

「おかわり」

「はい!直ちに持ってきます!!」

「…ソウマ様、ルーナちゃんに一体何をしたのでしょうか?」

「何かやらかして機嫌を損ねたんじゃろう…儂にも身に覚えがある」

「師匠、これ以上余計なことを言ったら、黒焦げにするよ?」

「いやいや、お口にチャックしとるよ」

「…私も貰ってもいいかしら?」

セリアがおずおずとメルに尋ねる。

「はい、もちろんです!」

メルは話しかけてきてくれたのが嬉しかったみたいで、張り切っておかわりを用意していた。

そんな俺達の様子を見ていたクレイドとセリアはひとまず敵ではないことは分かってもらえたのか、

「なんだか、気の抜ける連中だな…」

「そうですね…気を張ってるのも馬鹿らしくなりそう」

なんて会話をしていた。

こうして、夜は更けていった。


みんなが寝静まり、ギンジロウと見張りを交代する。

見張りをしながらトレーニングをするつもりでいたが、俺以外に誰かが起きているのか、灯り用のランプが灯っていた。

「誰か起きてるのか?」

俺が声を掛けると、その相手が振り向いた。

「あぁ…ごめんなさい、私よ」

「セリアか。休まなくても大丈夫なのか?」

単純に心配してそう訊ねたのだが、どうやらそのようには汲み取ってくれなかったみたいで、セリアは怪訝そうな表情を浮かべて答えた。

「まだ会ったばかりの冒険者を相手に、無防備な所は晒せないわ」

「いや、別に変な事とかするつもりは…まぁ、いいや」

これは信頼関係の構築に時間がかかりそうだ…。

彼女は何やら魔法陣のようなものを地面に描いており、その上に何やら見たことの無い石や粉、植物等を並べている。

「えっと…何してるんだ?」

「見て分からない?錬金術よ」

「え!?これがそうなのか?」

「えぇ、クレイドさんや魔物との戦いで、戦うためのアイテムが無くなってしまったものだから…これから予備の素材を使って作るつもりだったの」

地面に描かれた魔法陣は、恐らく木の枝か何かで描いたものだろう。

その上に素材となる石や植物、生物や魔物の身体の一部等を素材とするらしいことが、今の状態から理解できた。

「もしかして、錬金術を見るのは初めて?」

「うん、初めて見るよ」

そりゃ、この世界に来たばっかりだしな。

セリアは何やら液体の入ったフラスコを取り出し、その中身の液体を魔法陣に沿って流し込んでいく。

「…それは?」

「これは、魔力や心気を流すための触媒となる、液体金属よ。これにもいくつか種類があって、液体金属以外にも色々とあるのだけど…」

なるほど、作る物によって使い分けるんだな。

触媒となる液体金属を流し込むと、彼女はナイフを取り出して、自分の親指を切り付け、魔法陣のところどころに血液を垂らした。

「錬金術を使うには、代償が必要なの。血液や汗といった体液や毛髪等といった、錬金術師の血統の人間の、身体の一部がね」

「そ、そうなんだ…痛くないか、その傷」

「痛いけど、生き残るためだから。この程度、掠り傷よ」

それで準備が出来たらしい。魔法陣にセリアの魔力と心気が注ぎ込まれていく。

素材となった物に触媒の液体金属が纏わりつき、生きたスライムの様にそれが一つにまとまっていく。

しばらくその塊が溶けあう様を眺めて、10分程経った頃だろうか。

纏わりついていた液体金属が一気に蒸発していき、真っ赤な菱形の結晶が5つほど、魔法陣の上に残されていた。

「…はい、これで完了」

「ほえー…こんな感じなんだな」

「えぇ、こんな感じ」

何か気の利いた感想を言えればよかったのだが、俺にそこまでの語彙力は無い。

「ちなみに、この石は何に使うんだ?」

「強い衝撃を与えると爆発する石よ。護身用に」

「…マジで取扱いには気を付けてね?」

「大丈夫よ、慣れているもの」

「おぉ、プロっぽい雰囲気…さてはこの爆発物、いつも使ってるな?」

この子も怒らせない様にしとこう…信頼関係を築けていない今なら、尚の事。

しかしなるほど、ここから錬金術師の戦い方が少し見えてきた。

こういったアイテムを事前に自作して、戦闘に使うってわけだ。

物騒な赤い石をそっとカバンへしまってから、セリアは俺に言った。

「あなたは、私に何も聞かないのね」

「え?」

「旅の目的とか、そういうの」

「あぁ…いや、別に、意図して聞かなかったわけでもないよ。ただ、君から話してくれるのを待ってたっていうのはあるけど」

必要になれば踏み込むことに躊躇ったりはしないが、特に聞く必要もないだろう。

何より今日が初対面なんだし、彼女にとって何が触れられたくない事なのかが分からない。

だから少しずつ時間をかけて、関わっていくつもりだったのだが。

「大した目的はないわ。錬金術の修行の為に、私は旅をしているの」

…十分大した目的じゃね?というのが、俺の感想だった。

日本ではそもそも修行の旅なんてするような奴もそうはいないだろう。

少なくとも俺なら面倒臭くて絶対にやらない。

「…十分大した目的だと思うが、この世界じゃ修行の旅ってのは普通の事なのか?」

俺の疑問に、セリアはその長い赤髪を耳にかけながら、こちらを見ずに答える。

「そうね…あなたの元々いた世界ではどうだったのかは知らないけど、こっちじゃそんなに珍しくもないわね」

「そ、そうなんだ…」

この世界の人間、すげぇな。

世界が違えば価値観も違うのかもしれない。

「そういうあなたは、なんで冒険者なんてやっているの?聞いた話では、勇者候補の元々いた世界では、争い事が非日常になっている世界なんでしょう?」

手を止めたセリアは、地面に座ってこちらを見上げた姿勢で、俺に質問する。

どうやら片付けが終わったらしい。

「んー…俺の仲間とか友達とかを守る為、かな。あとは生活の為ってのもあるけどさ」

「前者は予想してた言葉ではあるけれど、後者は結構現実的な理由ね」

「だろ?でも、この世界でもお金は稼がないといけないからな…」

命の危険はあるが、日本にいた頃の仕事よりは前向きだ。

いや、戦いに面白味を感じているわけではないが…やること自体はこちらの方がシンプルだからな。

戦いという1つの事に集中できる分、こっちの方が自分に向いている。

「遺跡探索が終わったら、セリアはどうするんだ?」

「特に行く宛ては無いわね」

正直、自分より年下の女の子の一人旅は心配だ。

忘れているかもしれないが、俺は見た目は15歳、中身は24歳のおっさんである。

それに、この子を見ていると、日本に残してきた血の繋がらない妹を思い出すのだ。

死に別れる直前まででこそ仲は良かったが、当初はかなり嫌われていたものだ。

だから、この子ともきっと、友達くらいにはなれるはずだ。

「特に行く宛がないなら、俺達のパーティーに入ってくれると助かるな」

「…あなた、正気?出会って一日も経っていない相手を、パーティに誘うなんて」

「至って正気さ。錬金術の素材集めだって手伝うぞ?一人で危ない場所に行くより、3人で行った方がいいだろ?」

「3人?人数が随分少ないんじゃなくて?」

ん?…あぁ、ルーナ達も人数に数えているのか。

そういえば、その辺りの事情を話していなかったな。

「ルーナとギンジロウは、遺跡守護兼友人奪還クエストの依頼人さ。まだメンバーは俺とメルの2人だけなんだよ」

「なるほどね…それは確かに人手不足だわ」

セリアは少し考え込むと、囁くような声で答えた。

「遺跡調査が終わったら決めるわ。今は明日の事に集中させて」

…少なくとも、すぐには断られずに済んだか。

「わかった。見張りは引き続き俺がやっておくから、やる事済んだら天幕に戻って休みなよ」

「そうさせてもらうわ」

そうして、俺と彼女の会話は終わり、しばらくしてセリアは天幕に戻っていった。

「さて…俺も自主練するかな」

俺は、いつも通り愛剣の素振りを始め、見張り交代の時間いになるまで精神を研ぎ澄ますのだった。


次の日。

俺達は遺跡の入り口に立っていた。

俺、メル、ルーナ、ギンジロウ、クレイド、セリアという、最終的には6人という人数になった事、そしてこの遺跡が予想よりも広い場所であることから、状況によっては二手に分かれたりなどして対応する方針となった。

俺達はいよいよ、本命の遺跡へ足を踏み入れた。

なお、立ち位置的には、一番先頭にギンジロウ、次に俺とルーナ、その後ろにクレイド、最後尾にメルとセリアの2人となっている。

「く、暗いなぁ…奥が見えない」

「ランタンを使おう、ちょっと待ってて」

俺とルーナがそんな会話をしていると、セリアが最後尾から声を掛ける。

「あ、私、灯りの道具を持ってるわ。3つくらいあるから、これを使って頂戴」

後ろから回ってくる灯りの道具。

それは、日本で良く見る懐中電灯のようなアイテムで、ボタンを押しながらそこに魔力を流すことで正面を明るくするというものだった。

滅茶苦茶便利である。

「これも錬金術で作ったのか?」

「そうよ。錬金術も馬鹿に出来ないでしょう?」

「昨日初めて会った時から、バカにしたことなんて一度もねぇよ?」

ありがとう、と最後に付け加えて、ライトに魔力を流し、起動する。

「…そ、そう。素直なのはいい事だわ」

そんな会話をしながら、最後尾のメルとセリアが同時に遺跡に入ると、突如異変が起きる。

視界がぐにゃりと歪んだ…いや、歪んでいるのは空間だ。

仲間達がその異変に驚く中、ギンジロウが警戒の声を上げる。

「空間転移系の罠じゃ!!皆、固まれ!!」

その指示に従い、咄嗟にルーナがメルの手を取った。

「君もこっちだよ!」

「くっ…仕方ないな」

クレイドがルーナに引っ張られていた。

俺はルーナと同じタイミングで、最後尾のセリアに向かって駆け出していた。

セリアは驚いたのか、大きめの声で俺に問い質す。

「あなた、あっちに行かなくていいの!?」

あっちとは、メルの事だろう。

だが、向こうにはルーナも一緒だ、彼女なら友人であるメルを、きっと守ってくれるだろう。

何より、あの子がただ守られるだけの女の子だとも、俺は思っちゃいない。

「あっちより、一人でいたセリアの方が今は心配だった。それだけだよ」

「そう…あっ、おじいさん!」

セリアが少し離れたところにいるギンジロウを気に掛ける。

「儂の事は心配無用。この中で一番強いのがジジイってのも、どういうことなのかのう?」

「あの調子ならギンジロウは大丈夫だ。それより、そろそろ飛ばされるぞ!!」

この罠は恐らく、先行して辿り着いていた連中が仕掛けた罠である可能性が高い。

この遺跡は元々、ギルドの調査の手が入っている場所だから、今更入り口の罠が起動するのはおかしいからだ。

後になって誰かが罠を仕掛けた…そう言う事だろう。

俺はこれから散り散りになるであろう仲間達に向かって、声を張り上げた。

「みんな、負けるなよ!必ずまた合流しよう!!」

「はい!」

「もちろん、こっちは任せて!」

「うむ、気をつけるのじゃぞ」

「…フン」

各々、返事がある中で、気が付けば抱きしめられる形になっていたセリアは

「…」

この状況で、何やら固まっていた。

俺はそのまま両目をギュッと閉じ、数十秒待ってからそっと開く。

「…ここは」

どうやら、何もない小さな部屋の様だ。

遺跡のどこかの一室に、俺とセリアの2人は飛ばされたらしい。

「セリア?」

「…大丈夫、何でもないわ」

「お、おう…そっか」

俺はバラバラになった仲間の無事を祈りながら、部屋の扉を開く。

遺跡探索、スタート。


仕事がまたも忙しくなってしまった…

でも、なんとか最新話がアップ出来てよかったと胸を撫で下ろしました。

次回から遺跡探索編、スタートです!

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