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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第15話「魔法、そして遠征へ」

女の子3人と男1人という、地獄のような晩餐会から数時間後。

俺は3人に気づかれない様に部屋を出て、人気のない教会前で魔剣を素振りしていた。

素振りする中で、背中から腰に剣の場所を変えてみると、より抜刀しやすくなることが分かったので、今は鞘を左腰に吊るしている。

丁度回数的には、1500回を超えたところだ。

「…」

身体が温まったので、素振りをストップして剣を握る自分の右手に感覚を集中する。

自分の身体を流れる魔力が、魔剣に流れるのが感じ取れるようになっていた。

魔力の流れを感じ取れるばかりで、魔法の使い方は相変わらず分からないままだ。

「お困りですか?」

「!?」

背後からの声に心臓か止まるかと思った。

敬語だが、メルよりもほんの少し低めの、大人びた声。

「…天城さん」

「気配を殺していたつもりでしょうけれど、まだまだですね」

そりゃあ、あなたに比べたらまだまだでしょうよ…。

「先程も話していましたが…魔法の使い方が知りたい、ですよね?」

「全く持ってその通り」

俺はさっきの夕食の中で、天城さんに自分の現状を話していた。

俺の身体の中にある因子について、何か知っていることはないかと思ったからだ。

その時、彼女はこう返した。

「冒険者ギルドでステータスを更新すれば、その正体が分かると思いますよ」と。

ひとまず、ステータスの更新は明日に回し、今日の分のトレーニングをこなしに教会前へ向かい、今に至るというわけだ。

天城さんはスッと俺の隣に立つと、魔剣を握る俺の右手に触れる。

「今、掌を通して、魔力が剣に流れている感覚はありますか?」

「!?」

み、耳元で天城さんの声が…というか、息がかかってくすぐったい!!

しかも、背中からハグするように両手を右手に触れさせているから、胸が当たっている。

「…鎹さん?」

あっ、これは気付いていないやつだ!!

何か気になる事でもあったのかと、心配そうな声を掛けてくる天城さん。

「は、はい、大丈夫です」

明らかに心拍数が早くなっていくのが分かるが、平静を装う。

「続けますよ?…一度、魔剣を手から離してみてください」

指示通り、俺は一度魔剣を鞘に納める。

そして、右手が剣から離れると、再度自分の中に魔力が循環するようになり、魔剣と自身とのリンクが無くなるのが分かった。

「もう一度、魔剣を持ってもらえますか?」

再び腰から剣を抜き、掌から魔力が魔剣に流れていく。

それと同時に、背中に柔らかいものが押し当てられ、耳元に天城さんの髪がはらりとかかり、この世の物とは思えない程の甘い香りが漂う。

「…」

俺は、銭湯で良く見かける男性冒険者達の、屈強な筋肉を頭の中に浮かべた。

広い肩幅、ゴツゴツとした上腕二頭筋、自分より二回りも大きい固そうな尻に、同性しかいない空間故に隠そうとしない局部…。

「…よし」

プラスにマイナスをぶつければ0になる…俺は今日それを改めて実感した。

そんな俺の(勝手な)苦労を知らずに、天城さんはレクチャーを続ける。

「魔法を実際に使用するためには、魔剣と同じように外界と自身との魔力を一時的に繋げる必要がありますので、この魔力が魔剣に流れていく感覚を忘れないでください」

なるほどね…うん、了解。

正直、天城さんの女性的な部分に(勝手に)惑わされて、話が半分くらいしか入ってこなかったが、魔法を使うために必要なことは理解できた。

「…やってみます」

外界の魔素の流れは感じ取れている。

恐らく、身体全体を外界と繋いでしまうと、ただ俺の魔力が外に出てしまうだろう…下手したら命に関わるかもしれないので、それは避けたい。

だから、身体の一部分。例えばさっきと同じ様に、掌だけを外界と接続する。

魔剣が掌と繋がっている時は、まるで剣自身が身体の一部と化したかのような感覚だった。

それと同じように、外界も自分の身体の一部だと思え、というイメージでいいのだろう。

まずは、魔力を外に出す。

「…」

しばらく集中していると、掌から少しずつ魔力が外界へ流れていく。

漏れ出るというより、這い出るという感覚に近いかもしれない。

正直、あまり長く味わっていたい感覚ではないな、これは…。

「くぅ…」

それをもう数十分程維持出来たところで、俺の集中力が途切れ、外界へ流れていた魔力が自分の中に流れ始めた。

「はぁ…結構しんどいですね、これ」

柔らかい草の上に、思わず倒れ込む。

慣れない感覚に、かなりの精神力を消耗したようだ。

「慣れるまではそうかもしれませんね…私も昔、出来るようになるまで苦労しましたから」

俺は息を切らしながら、天城さんの言葉に耳を傾けた。

天城さんの昔か。

「あの…天城さん」

「なんでしょうか?」

「天城さんって、本当に何歳なんですか?」

俺のその質問の直後。

仰向けになっている俺を覗き込む天城さんの笑顔が、凍り付いた。

「…ゴメンナサイ」

「今の質問は聞かなかった事にしますね」

どうやら彼女は、俺よりも遥かに「お姉さん」らしい。

「うーん…見た目はこんなに綺麗なのになぁ」

「今の言葉はちゃんと聞いておきます」

「なんて都合のいい耳なんだ…」

精神力を消費してヘロヘロになったまま、しょうもない返しをしてしまった。

「そう言う鎹さんも、可愛らしい外見になっちゃいましたからね」

「それは聞かなかった事にしておきます…」

「私の年齢より、それは難しいと思いますよ」

未だに起き上がれない俺の頭を少し浮かせると、後頭部に素晴らしい感触を感じる。

さっきまで仰ぎ見ることが出来た夜空は、天城さんのおっぱいに隠されて見えなくなってしまった。

なるほど、これが膝枕か。

「でも、私より物覚えが早そうですね、鎹さんは」

そうなのだろうか。

自分では地味な失敗をしたと思っているし、何にも面白くないのだが。

「普通は自身と外界を繋げるところで、もっと苦戦するんですよ。でも鎹さんは一発で成功したじゃないですか」

「…簡単じゃないですけどね」

「今日一日は、私が付きっきりでレクチャーしますから、出来るようになりますよ」

「そうだといいですね」

こんな真面目な話をしているが、俺が見ているのは天城さんのおっぱいである。

なんて締まらないんだ…ていうか、でかい。説明不要。

初めて会った時は分からなかったけど、流石女神だな。

「さて、もう少し休憩したら、また頑張りましょうか。目標は、集中力を割かなくても自身と外界を接続できるようにすることです」

天城さんの両手が俺の髪をワシャワシャとなでる。

「もし、そこまで出来るようになれば…」

「…なれば?」

「…私の身体でいやらしい気持ちになっていたことは、不問にしてあげますね?」

「気づいてたんならそう言ってよ!?」

思わず敬語を外して突っ込んでしまう俺であった。

悪戯が成功したことを喜ぶような、あどけない笑顔を浮かべるので、この怒りと羞恥は修行に込めることにした。


「…」

あれから更に数時間。

夜が明け始め、周囲が明るくなる頃には、天城さんの目標を俺は達成できていた。

少しずつ、自分の感覚を外界へ拡張していく感覚にも慣れてきた。

修行の最中、天城さんが教えてくれたのだが、外界との接続時に感じた不快感の原因は、外界から直接魔素を身体に取り込んだことが原因らしい。

通常は呼吸によって少しずつ取り込み、身体の中で魔力に変換していくが、魔法を使うためには魔素を直接取り込むリスクを覚悟で使わなければならない。

だからこそ、魔法の連発はリスクが高く、取り込んでしまった魔素を魔力に変換するまでのインターバルを必要とするのだ。

魔素を魔素のまま体の中に貯め込み過ぎてしまうと、乗り物酔いの感覚を何十倍にもしたような強烈な気持ち悪さが襲ってくるという話だ。

大切な事なので、こればかりは頭に叩き込んでおいた。

まぁとにかく、修行は次の段階に進むこととなった。

自身と外界を接続、の次は、いよいよ自分の魔力をマナへと変換する修行だ。

「鎹さんは、心気の基礎は身に付けたんですよね?」

「はい、この世界で出会った冒険者に、コツを教えてもらいました」

まぁ、心気については正直、魔法の何倍も簡単だったけどな…。

なんて、まだ一つの心気しか身に付けていない俺が言ってみたり。

「そうであれば、ここから先は簡単だと思いますよ。だって、あとはイメージ力と集中力の話ですから」

「えっと…どういうこと?」

「マナには、色んな属性があるのはご存知だと思います…例えば、雷なら雷を、風なら風を、炎なら炎を、それぞれイメージすればいいんです。もっと言えば、自身の魔力がマナに変わる強いイメージがあれば、魔力のマナ変換は出来ると思いますよ」

「なるほど…」

今は仮に出来たとしても…戦いながら、周囲に心気での警戒を行いながら、それをイメージして魔法を行使できるだろうか?

ふと、疑問に思ったのでそれを投げかけてみる。

「あのさ、天城さん。もし、マナ変換…マナのチャージが成功した後って、そのチャージしたマナを維持する為にイメージ力や集中力って必要なの?」

天城さんに慣れてきたのか、思わずタメ口で話しかけてしまったが、彼女はそれを咎める事無く、俺に回答した。

「あ、その単語は知ってたんですね?一度マナのチャージに成功したら、そのマナはしばらくの間、あなたの手元に残るはずですよ…そのマナの維持にも、イメージや集中力は必要としないはずです。次にそれを必要とするのは…」

「実際に使う魔法のイメージを固める時、か。なるほどね」

俺は、外界に流れた手元の魔力に意識を集中する。

「…」

俺はここで、闇をイメージした。

あの空間で見た、黒い闇。

不思議とドス黒さを感じなかった、真っ暗な夜空のような闇。

「…」

数分程経った頃。

手の中の魔力が、イメージした通りの闇に変わっていき、やがて俺の右手は、漆黒の霧を纏っていた。

「できた、けど…この数分間はネックだな」

「そうですね。まぁその辺りは、この後の修行でどうにかしましょうか」

「えっ」

気が付けば天城さんは、黒い大鎌をその手に顕現させていた。

ヒュンッ!!という風切音が、俺の耳にまで届いた。

その禍々しい容貌の大鎌は、まるで死神を彷彿とさせた。

「あなたの今の実力に合わせる形で、手加減はしますのでご安心ください。心の準備が出来たなら…」

黒い大鎌の切っ先が、俺に向けられる。

一体、あの細腕のどこに、大鎌を片手で振り回す筋力があるのだろうか?

見た目にそぐわない強さを持つ奴は、いくらでもいるだろうけどな。

俺は深呼吸を一つして、腰の愛剣に手をやり、駆け出す。

ここから先は、多分地獄のような実戦だ。

俺は絶対勝てない事を理解しながら、目の前の怪物に戦いを挑んだ。

懐に入るタイミングで、鞘を少し引く形で剣を抜刀する。

「悪くないですね」

俺の初撃は、明らかに愛剣よりも重いその大鎌によって捌かれる。

捌かれた直後、俺は闇属性のマナのチャージを開始した。

「遅いですよ」

細くしなやかなその長い脚によって繰り出された回し蹴りによって、俺は吹き飛ばされた。

「いっ…!?」

数メートル程吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった後、どうにか体制を立て直し、左手を支えに素早く起き上がり、剣を構える。

チャージしようとしたマナは、集中力が途切れた事によってチャージに失敗している。

「終わりですか?」

「…まだまだ」

俺は痛みに耐えながらそう答えて笑い、再びマナのチャージに挑戦しながら駆け出した。

そして、俺はまた吹き飛ばされた。


数時間後。

「ハァ…ハァ…もう、無理…」

俺は、全身の魔力という魔力、精神力、体力を使い果たし、仰向けのまま動けなくなっていた。

「お疲れさまでした。付け焼き刃ですが、この感覚を忘れなければ、実戦でもひとまずはどうにか戦えると思います」

「そ、そうですか…」

腕に力を入れて起き上がろうするが、起き上がれない。

挑んでは吹き飛ばされ、挑んでは吹き飛ばされを繰り返し、それでも何とか魔法を使おうと足掻いた結果、どうにか魔法の行使までは出来るようになった。

その代償として、何ヵ所も強く身体を打ち付けたけどな。

使えるのは闇属性1つか…せめて、遠征当日までにもう2属性は使えるようになっておきたいものだ。

だが、闇属性の魔法を使用可能になったことで、イメージのコツは掴めた。

どうやら、自分の中のイメージをはっきりと頭の中で形にしないといけないらしい。

まだ複雑な魔法や、高い威力を持つ魔法は、俺では制御もイメージも出来ず、魔力量も足りないから、使用することは出来ないが…未来の自分に期待だな。

俺が魔法について考えていると、汗1つ掻いていない天城さんが言った。

「さて…私は天界に戻りますが、あとはお一人でも大丈夫ですか?」

「仕事があるからと言われたら、引き留めらんないでしょ…あとは1人でどうにかしますよ、感覚は掴みましたから」

仰向けになったまま答える。

天城さんは、そのまま街の外へ向かって歩き始めた。

一目に付かないところで、天界へ帰るのだろう…いつもどうやって帰っているのかは分からないけど。

「ふふ、分かりました。では、私はこれで失礼します…遠征、頑張ってくださいね?」

「はい…ありがとう、ございましたぁ…」

絞り出した声は、かなりヘロヘロになってしまった。

結構強くなったと思ったけど、あの人にはまだ勝てないか…いつか倒す。

魔法の方はひとまずどうにかなりそうだとして…問題は俺の天恵の活かし方だ。

こちらも、遠征までに様々な使い方を模索しなければならない。課題は山積みだ。

「いいさ、やってやるよ。弱い奴は弱いなりに、知恵を絞って足掻いてやるさ…」

とりあえず、そろそろ起き上がりたいんだけど、その元気がないな…困った。

ヘロヘロになった両腕に無理やり力を入れて、何とか身体を起こすと、地面に転がされっぱなしになっていた愛剣を拾って、鞘に納めた。

やっぱり背中より腰の方が使いやすかったな…今後はやっぱり実用性重視で、このまま腰に吊るす事にしよう。

エニグマを拾い上げ、ツグミに心の中で「お疲れさま、ありがとう」と声を掛け、腰に戻すと、フラフラしながら自分の部屋を目指した。

今はとにかく風呂に入りたい。

後の事は、それから考えることにした。


修行でのダメージをメルに治療して貰った後、今後の自分の強化プランを練り、それに沿って行動する事、数日後。

今日はいよいよ遠征当日である。

既にメル、ルーナ、ギンジロウの3人は準備をして待っていた。

「遅くなってごめん、ちょっと色々準備に手間取っちゃって」

俺が謝罪をすると、メルは首を左右に軽く振って気にしていない事を示す。

ルーナも同様の反応だったが、ギンジロウは俺の装備を見て驚いていた。

「…お主、なんだかゴチャゴチャしとるのう」

「あ、やっぱりギンジロウもそう思う?」

左腰の魔剣、腰の後ろの黒い鞭の他にも、色々と小道具を用意したのだ。

この辺りは、少しばかり日本にいた頃の知識を参考にさせてもらっている。

「でも、どうにも付ける場所がね…ベルトとか、付けられるパーツを増やすためにより丈夫なものに換えたしさ」

俺自身で考えた強化プランが吉と出るか凶と出るかは分からないが、少なくともステータスはかなり上がったし、魔法も実戦レベルには持ってきた。

あとは俺と…その場の状況次第である。

俺は自分の冒険者カードを確認する。


NAME:鎹 蒼真

性別:M 年齢:15

レベル:1 冒険者ランク:Q

筋力:324 体力:412 魔力:268 精神力:646 敏捷:487 運:219

天恵:「lonry/1」  所持経験値:122937

この時点での俺の数値の総合力で、一般的な冒険者の30レベル程の強さがある…と、ステータス更新時にメリダさんは呆れていた。

レベルが1のままだから、成長も早い…という副次的効果が俺の天恵にある事に、ようやくになって気づいた形となった。

上がったのは数値だけではなく、覚えた魔法も数を増やし、冒険者カードに記載されている。

自身の確かな成長を噛み締めながら、冒険者カードをしまった俺は、仲間の後を追って一緒に村を出た。

少し歩くと、ギンジロウが改まった様に口を開く。

「さて、ここからは魔物達が当然の如く襲ってくるのじゃが…儂らは少人数であり、時間も惜しい。ここまでは分かるな?」

「なんならその先も分かるよ。最短ルートで目的地へ向かうんだろ?」

「そうじゃ。なるべく皆の速度に合わせて走るが…逸れたりする事だけはしない様に、気を付けるのじゃぞ」

「了解!」

「分かりました」

「もちろんだよ」

各々がギンジロウに返事をしたのを合図に、一斉に走り出した。

さぁ、冒険の始まりだ。


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