第13話「ファースト・クエスト:リザルト」
今回の冒険の結果です。お納めください。
夢を見ていた。
この世界に来る前の、日本で暮らしていた頃の夢だ。
高校の制服を着ている俺は、同じように制服に身を包んでいる誰かと並んで歩いている。
相手の顔は濃霧に包まれたようになっており、その輪郭すら把握することは難しく、俺が発した言葉に答えるその声は、ザー、ザー、というノイズに掻き消され、上手く聞き取ることが出来ずにいた。
それは、長い、長い夢だった。
1年、2年と、彼女と共に過ごす自分を、俺は眺めている。
3年目、彼女と病室で過ごす自分を見て、早く醒めてくれと強く思った。
この先へ進むことを拒む気持ちと裏腹に、時は流れていく。
俺は―――――――――――――――――――――――――――――――――
「っ!!」
飛び起きた。
徐々に現実である事を認識するにつれて、やはりあれは夢だったのだと悟る。
身体中が汗びっしょりになっていて、夢の事を忘れて、俺は今すぐ風呂に入りたい衝動に駆られた。
誰かが着替えさせたのか、寝間着が汗の所為で肌に張り付いて、とにかく気持ち悪かった。
「ソウマ様…!」
俺が勢いよく起き上がった事で、隣で突っ伏して眠っていたメルが目を覚ました。
「おはよう、メル…えっと、俺、もしかして寝てた?」
「えっと…は、はい。ゴブリンたちの頭がソウマ様を担いできて、最初はとても驚きましたが、ソウマ様に誓って人間を襲わないと、そう仰ったので」
メルは、俺と別れた後の経緯を話してくれた。
どうやら今日はフーザ達と激戦を繰り広げた、その翌日。
やはり相当な無茶をしていた様で、フーザとの戦いの後から記憶が無い…。
どうやら、意識を失っていたらしい。
傷の治療自体はメルがやってくれたとの事で、現在では普通に生活できるレベルには動けるまでになった。
俺が単独行動を取って以降、向こうも色々とあったらしいが…ゴブリンのリーダーが俺を担いできた事が一番の衝撃だったと、彼女は答えた。
街へ戻り、目を覚さない俺を抜いたメル、ルーナ、ギンジロウの3人で話し合った結果、今日と明日は各々自由な時間を過ごし、明後日に次のクエストへ挑もうという結論を出した…そして今に至る、という状況だ。
俺はメルに感謝の言葉を述べ、大汗掻いたので銭湯に行った後にステータスを更新する旨を伝え、一旦彼女と別れた。
そういうわけで、今日は久しぶりの単独行動である。
身支度を整えて部屋を出た俺は、ステータスを更新するべくギルドへ向かった。
NAME:鎹 蒼真
性別:M 年齢:15
レベル:1 冒険者ランク:Q
筋力:39→146(+107) 体力:31→193(+162) 魔力:24→80(+56) 精神力:78→265(+187) 敏捷:59→169(+110) 運:27→70(+43)
天恵:「lonry/1」 所持経験値:10256→46784
・レベル上昇不可。
・自身の行動、経験によるステータスの上昇。
・自身が得た経験値の数値化、蓄積可能。
・蓄積した経験の譲渡可能(対象:人、物、魔法、災害等の自然現象)。
天稟:「均衡の才」
・すべてのものに対して突出しない程度の才を持つ。
※ただし、自身の努力次第で才能を伸ばすことを可能とする。
パッシブスキル
・聖女の加護:
聖女からの想いの強さに応じて、加護の強さが変化する。
邪なオーラを持つ存在への攻撃力増大。
邪なオーラを持つ存在から受けるダメージ現象。
バトルスキル
・心気の心得:
心気による気配の感知(範囲:小 感度:中)
心気による敵意の感知(範囲:極小 感度:小)
・回避の心得:
敵の攻撃を回避する際、敏捷ステータス、動体視力、反応速度が上昇する(上昇率:極小)
・防御の心得:
敵の攻撃を防御する際、筋力、体力、精神力ステータスが上昇する(上昇率:極小)
魔法
「うおぉぉぉ…!!」
ステータスを更新した俺は、正直これほどの伸びを想像していなかった。
というか、バトルスキル3つも覚えとるやんけ!!
「やったー!なんかすげぇ強くなったぞ俺!」
「喜ばないでください!…もう、これはあなたが無茶した証拠でもあるんですよ?」
ギルドでの俺の担当官であるメリダさんが、俺の反応に対して溜め息を吐く。
というか、バインダーで頭を叩かれた…結構痛い。
「取得経験値が約36000…この能力の上がり幅に、バトルスキルを一気に3つも習得するなんて…一体どんな戦いをすれば、これほどまでに成長できるのでしょうか?」
いや、それは俺も知りたいよ。
だが、メリダさんの言葉を考えると、この能力の上昇率は確かに頭がおかしい。
いくら激しい戦闘を乗り越え、ゴブリンリーダーのフーザをも下したと言っても、こんなに一気に成長するのは変だと思う。
百歩譲ってバトルスキルはいいにしても、ステータスの上がり幅はやばい。マジでやばい。
…まぁ、どれほどやばいのかは、まだあまり良く分かってないけど。
「もしかして、あなたの天恵の副次効果なのでしょうか…ステータスが上昇しやすくなる、というような効果が含まれているのかもしれませんが、まだ決めつけるには早いですね」
興味深そうにフンフン頷きながら、サラサラとメモを執っていくメリダさん。
淡々としたところは相変わらずだなぁ。
ステータスの更新を終えた俺たちは、いつもの面談室で話し合っていた。
その中で、記憶にある限りの内容だが、昨日の戦いについて報告した。
「しかし…あなたは本当に無茶をしますね。単純に実力を伸ばすだけでは、あなたは死んでしまうかもしれません」
「なんて不吉な事を言うんですか。嫌ですよそんなの」
トントンと、持っているペンで口元を叩きながら考え込む彼女を、綺麗だなと思った。
綺麗な桜色の唇に目を奪われる。
ちくしょう、いつかこの人の本気の笑顔を絶対に見てやるぞ。
そんなことを思案しながら、ワイシャツの隙間から覗くメリダさんの鎖骨をチラチラと横目で見ていた。
…俺、この世界に来てから、なんか性欲が強くなった気がする。
いや、身体が15歳に戻った影響で、当時の異性に対する気持ちのような物まで戻っているのかもしれない。
そんな俺の邪な視線には気づいていないのか、メリダさんはメモとペンをテーブルの上に置いて、
「少し待っていてください」と言い残して、部屋を出て行った。
30分程待っていると、部屋の扉をノックする音が響く。
俺の返事を待たずにその扉が開くと、入ってきたのはメリダさんだった。
しかし、ギルド職員の服装ではなく、初めて見る彼女の私服姿である。
ヒールの高い黒のパンプス、上が白いニットで、下はベージュのスキニー、その上には黒いコートを着ており、グレーのストールを首に巻いていた。
白いニットと黒コートで厚着をしていても、押し上げられている胸元が分かるのがすごい。
というかこの人、やっぱり俺より背が高いんだなぁ。
俺がボーっと彼女を見つめていると、メリダさんは咳払いをして、入ってきたばかりの扉を開く。
「少し、付き合っていただけますか?」
え?告白?…いや違うか。
目の前のエルフの意図が分からず、俺は混乱する。
「…なぜ?」
「いいから、行きますよ」
どうやら、俺に拒否権は無い様だった。
「イエス、マム」
流れのまにまに、俺はエルフの背中を追いかけた。
冒険者ギルドから歩くこと20分程だろうか。
ユークリッドの街の北西に位置する場所。
メリダさんに付いていくと、そこには何やら大きな建物があった。
「着きました、ここです…入りましょう」
「合点でやす、姐さん」
い、いかん。さっきからメリダさんの雰囲気にのまれて、つい子分ムーブをしてしまっている!!
でも、やっててなんだか面白くなってきたから、これからもたまにやろっかな。
当然ながら俺の様子がおかしい事に気づいている姐さんは、呆れたように嘆息する。
「あなたのその口調、さっきから何なのですか?」
「い、いや…なんか、謙らないといけないような気がして、つい」
だって、メリダさん綺麗だけど、たまにおっかないんだもん。
「お願いですからやめてください…それに、今はオフですから、もっと自然体でいいですよ」
「え、そうなの?」
オフなの?早上がり?
それともギルド職員の定時は早いのだろうか?
俺のその疑問を知ってか知らずか、彼女は答える。
「冒険者のサポートは仕事の内です…ですが、たまにはこうしたサポートも良いと、同僚から助言を頂きました。なので今日はこれから、あなたのお時間を頂きたいのですが…構いませんか?」
少しだけ、彼女の表情が緩むのが分かった。
今がオフだと言うのであれば、俺も気兼ねする必要も無いだろう。
何より、断る理由も特にはない。
「俺は大丈夫ですよ。何もなきゃ、一人で過ごそうって予定だったので」
俺の答えを聞いて、安心したように胸に右手を当てた。
「良かったです。では、入りましょうか」
「はい」
その施設に入ると、何やら受付のような場所が、まず目の前にあった。
一番奥には両開きの大きな扉があり、その手前…受付から見て右側前方に、どこかで見たような装置が設置してあった。
どこで見たんだろうと頭を捻っていると、メリダさんが受付の人と話している。
「カスガイさん、冒険者カードを受付に」
「あ、はい」
言われるがまま、受付のお姉さんに自分の冒険者カードを渡すと、何かの装置の上に置き、隣にあるパソコンのような端末を操作し始める。
数分それを見守り、「これで大丈夫ですよ」と冒険者カードを返された。
「私と同じように、カードをこの機械に触れさせてください」
と、メリダさんはいつの間にか首にぶら下げていたカードを、受付の右前方の装置にかざすと、ポーンという音と共に道を塞いでいた壁がシュッと引っ込む。
それを見て、これは所謂セキュリティシステムなのだろうと察した。
分かり易いシステムで言えば、電車の乗り降りの時に使うカードみたいなものである。
俺もメリダさんと同じように冒険者カードを触れさせると、ポーンという音と共に、先へ進むことを許可される。
先程見えていた奥の扉を開くと、そこはとても大きな図書館だった。
俺がいつか、モンスターの知識を学ぶために訪れたいと思っていた場所だ。
でも、一体なぜこのタイミングで、彼女は俺をここに連れてきたのだろうか?
「メリダさん、ここって…」
「はい、この街唯一の大図書館です。あなたにはこの図書館の利用許可を出しましたので、今日から好きなだけ、ここで知識を学ぶことが出来ますよ」
それは正直願ってもない話だ。
戦闘能力だけで生き残っていけるほど、外の世界は甘くないと思い知ったばかりだからな。
「ありがとうございます。でも、なぜ俺をここに?」
「あなたにお渡ししたいものがあるからです。少し、こちらで待っていてください」
と、メリダさんは迷いのない足取りで、図書館の奥へ進んでいってしまう。
待つこと20分程。
…なんだか今日は待ってばっかりだなぁと、そんなことを思っていると、メリダさんが戻ってきた。
分厚い一冊の本を右手に抱えて。
「初クエスト突破のお祝いです…どうぞ」
と、両手でその分厚い本を受け取る俺。
それは手に持ってみると、本と呼べるのかすら怪しいものだった。
表紙と呼べるものは、恐らく紙ではなく何かの皮で出来ている。
その本の両面と背表紙には価値の高そうな美しい宝石が嵌められており、その宝石はどうやっても取り出せそうにない程に本と一体化している。
内側のページ部分は紙と呼べるものの様だが、俺の知っているものより高価なものが使われている気配をひしひしと感じる。
「あの…この本、何ですか?」
「それは魔本。魔導書と呼ばれている物です。一冊に付き効果は一度きりですが、読めば魔法を覚えることが出来るという、とても価値の高いものです」
「えぇ…高そう。俺、借金するの嫌なんですけど」
「お祝いに送ったものなので、その心配は不要です…それは私が亡くなった母から頂いた物で、手元に置いておくのも不安だったものですから、ここで管理して頂いてたものなんです」
なるほど、つまり所有権はメリダさんにあると、そういう事だな。
そして、そんな大切なものを俺なんかに…。
「…いやいや!!そんな話聞いたらますます受け取れないでしょ!?大事に取っておいてくださいよ!?」
母親の形見なのだ。そう簡単に受け取れるわけがない。
だが、メリダさんは頑なだ。
「私が持っていたって、これは宝の持ち腐れですから。私の母も、かつて祖母からこの本を受け取った時、あなたが死なせたくないと思う相手に読ませなさいと、そう言われました。なので私も同じように、私が死なせたくない冒険者に、この本をお譲りしようと思ったんです」
俺はその言葉に対して、現時点で最大の疑問を投げかけた。
「でも、その相手がなぜ、俺なんですか?」
その質問に、メリダさんは。
「さぁ?なぜでしょうね?」
今までに見たことのない優しい表情を浮かべて、そう言った。
「えっ」
反応に困ったから、言葉を返せなかった俺を見てクスクスと笑った後、小さな弟に言い含めるように強く言う。
「とにかく、その魔本はもうあなたの物ですし、返却は認めません。いいですね?」
これは、これ以上何かを言うのは避けた方が良さそうだな。
「…合点でやんす、おやびん」
俺は少し項垂れながらも敬礼し、その本を両腕で抱くように抱えた。
「だから、その口調はやめてくださいってば!」
メリダさんに強めの注意を受ける。
そんな彼女も可愛らしいなと思った俺は、またも茶化す様に言った。
「メリダさん、図書館では静かにしましょう」
「あなたがそれを言いますか!?」
素直に感謝の言葉を告げるのが恥ずかしくなり、俺はしばらく彼女をからかい続けた。
その後、メリダさんと別れた俺は、次の冒険に備えていくつかの消耗アイテムを購入してから宿の部屋に戻った。
メルはまだ戻っていないらしく、部屋には俺一人しかいない。
「…」
俺は今なお両腕で大事そうに抱える魔導書を見つめた。
…今、読んでみるか。
明日か明後日か、その魔法について使い方を確認すればいい。
それに、こういうのは早い方がいいのだ。
大きく深呼吸をしてからベッドの上にドカッと座ると、自然と覚悟が決まった。
俺は本を開く。
どうも、夜光猫です。
ファースト・クエストのリザルトでした。いかがだったでしょうか?
今回の冒険でソウマは結構強くなりましたね!でも、まだまだ冒険者としてはかなりの伸びしろがありますので、これからも今後の成長にご期待ください!!
今回後書きで触れたいのは、魔導書についてです。
何なんでしょうね?本なんですけど、得体の知れない何かが秘められた、一回こっきりの…こっきりの…マジで何なんでしょうか?作者である私にも、まだまだ謎が多いアイテムの1つです。
ですので、そんな皆さんにヒントを1つ。
魔導書の他に、もう一つの呼ばれ方があったと思いますが…なぜ、もう一つの呼ばれ方があったのでしょうか?
ただ魔法を覚えるだけのアイテムなら、あのような呼ばれ方はしなくてもいいはずですよね?
まぁ、今後の物語で描く可能性もあれば、描かない可能性もありますので、「あれは…一体…ゴクリ」というように、考察の材料にしていただければと思います。
今回の結果はソウマのリザルトですので、次回はメルのリザルトを描きたいなぁと思います。
まぁ、もっと面白い方向が思いついたら、そっちへ変えるかもしれませんが…はてさて、次回の更新はいつになるのかなぁ…不安だなぁ。
それでは今回はこの辺で。
もし読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。




