第10話「ファースト・クエスト①」
ソウマ、初クエストへ。
俺とギンジロウは、トウキチから例の腕輪を受け取ろうとしていた。
小振りな木箱に入れられている様だ…トウキチからそれを受け取ると、それなりの重量を感じた。
木箱の重さを差し引いたとしても、いい感じの重さなんだろう。
「開けてもいですか?」
「別に構わないが…気を付けろよ?その腕輪は、人の心気を吸うからな」
俺は、心気ってなんぞや?と首を傾げたが、それはまた訊くとして。
俺は木箱を開いて、その腕輪を手に取った。
銀で出来た腕輪。だが、この腕輪からも並々ならぬ何かを感じる。
装飾として、小さな鎖がいくつかジャラジャラと付いている。
そして鎖とは別に、瞳と胸元に黄色い石が嵌められた一人の女神が刻まれている。
いや、いくつかある鎖の中にも、同じ石が嵌められている。
「ん?」
と、その腕輪を見たトウキチは、俺からその腕輪を引っ手繰った。
そして、驚愕の声を上げた。
「トウキチよ、どうかしたのか?」
ギンジロウが尋ねると、驚きの答えが返ってきた。
腕輪を俺に突き返し、俺がそれをキャッチすると、トウキチは震える声で言った。
「腕輪の装飾が…変わっている」
「!?」
え、そうなの?
…まぁ、前のデザインを俺は知らないんだけどね!
しかし、前はどんなデザインだったのだろうか?
俺の心中を察したわけではないだろうが、トウキチはその疑問に答えてくれた。
「前は、そもそもこんな鎖も、こんな女の装飾なんてなかった。何もない、真っ新な銀の腕輪だった筈なんだ」
…なるほどな。
そうであれば、今のこの人の表情にも納得がいく。
なんか、化け物を見る様な、奇異な目で見られている…俺が。
「ふむ…なるほどのう。儂の考えは間違っていなかったようじゃの」
何故か嬉しそうなギンジロウの言葉を聞きながら、俺は躊躇いなくその腕輪を右手首に嵌めた。
…今のところ、何ともない。
「ちなみに儂、前にその腕輪を嵌めた時は、付けた瞬間心気を吸われまくって意識を失ったぞい」
「ヒィッ!?」
何それ怖い!!
…あれ?付けた瞬間?
俺、なんともないんだけど。
「このタイミングでこの状況という事は、お主、相当何かに愛されているのう」
「もしかして、腕輪の変化って俺の所為?」
「そりゃそうじゃろう。少なくとも、こやつは思い当たる節はないって表情しとるし」
トウキチを指差しながら言うギンジロウ。
ギンジロウは全然普通にしてるな…怖くないのか。
トウキチさん、めっちゃドン引きしてる。なんかごめんね?
俺は右手首に付けた腕輪を左手で擦る。
「で、この腕輪も貰っていいんだよな?…まぁ、どんな効果のある魔導具なのか分からんが」
言いながらトウキチに目をやると、彼はフンッと鼻を鳴らして腕を組む。
「そんなもんくれてやる…それで、他にはどんなもんを選んだんだ?」
「防具の方はまだですけど…武器の方は、これを」
答えながら、エニグマと銘打たれた漆黒の鞭を見せる。
「エニグマ…またも呪いの品か。お前、正気じゃないな?」
「そうですかね?」
少なくとも中身の奴は、そこまで悪い奴じゃなかったよ。
心の中でそう付け加えると、何かを訴えるかのように鞭が小さく振動した。
調子に乗るなって?分かったよ悪かったよごめんて…。
「まぁ、今言った通り、それも呪いの品だ…値下げしてくれてやるわ」
なるほどね、処分したかったのか。
てか、曰くつきだの呪いの品だの、多くない?
隣でニヤつくギンジロウが俺の背中を叩く。
「さて、お前さんの防具を選びに行くとするかの?」
「そうだな…うん、結構時間かかってるし、さっさと決めちゃおう」
俺はトウキチへ感謝の言葉を伝え、歩き始めた。
そして、防具が並んでいるエリアを物色する。
胸当ては、とてつもなく固いと言われている鉱石で作られた、白くて軽量なプレートメイルを選んだ。
銘は『浮雲』。製作者の名前はない。
装備してみると、すげぇしっくり来たからこれに即決した。
もう一つ、戦闘する際の服だ。
色々見て回っていると、ズボンともジャージとも言えない、なんだか滑らかな素材で作られたであろう素材の藍色のパンツと、セットになっている同色のコート。
このコートの方は何かの革で作られている様だ。一体、何の革で作られているのか。
銘は『夜風』か。いい名前だ。厨二心をくすぐられる一品!
そこで、ギンジロウが隣から声を掛けてくる
「お主、本当に軽装が好きなんじゃな」
「ゴテゴテの鎧って、なんか動き辛そうでさ」
「なるほどのう…ふむ、見せてみぃ」
俺は言われるがまま、ギンジロウに夜風の装備を見せる。
しばらく眺めていると、何やら怪訝そうな顔でそれを突き返した。
「これ、何の素材が使われてるかさっぱりじゃな…この重さからすると、何らかの生物由来の革と、何らかの金属繊維かのう…」
「何らかの、ばっかりで俺も何を言ってるのかよくわからないが、デザインがカッコいいからこれにしようか…丈とかは後で直してもらうとして、あとは戦闘用ブーツと、グローブかな」
そして、俺は引き続き装備を選び続けた。
着用した人間に重力への抵抗力を与えるマジック効果がエンチャントされた革靴、筋力を強化するマジック効果のエンチャントされた、外套と同じ色のグローブ。
このグローブにはミスリルが編み込まれている、というのは、ギンジロウの言葉だ。
ミスリルは魔力やマナの伝導性が高い鉱石だ。個人的にポイントが高い。
ひとまず、これで一通りの装備を選べた。
「さて、メルちゃんの方も選べたみたいじゃし…会計済ませてクエスト受けるかのう?」
「了解。俺も、早く装備の感覚に慣れたいしな」
現在、丁度昼を過ぎたところだ。
昼食を食べた後、俺達は冒険者ギルドにて話し合った挙句、ゴブリンの群れを討伐するというクエストを受領し、その群れの壊滅を目的に街の外へ出た。
しかしゴブリンと言えば、RPGでよく見かける弱いモンスターの一種だ。
本当に強いのか?と、そんな疑問をギンジロウにぶつけてみた。
「ゴブリンは基本的に、複数で行動する亜人じゃ。1人いたら10人いると思え」
「なんかゴキブリみたいな言い方だな…」
「しかも、ゴブリン同士で連携が取れる…集団の規模に寄らず、結構厄介な連中じゃが、やれるか?」
「えぇ…何それ怖い…でもそういう事なら、一体ずつ確実に削っていくやり方なら勝てるか?」
俺がそう言うと、ルーナは苦笑する。
「まぁ確かに、極論言えばそうだね。でも、敵はゴブリンだけじゃない。当然、他の魔物だって襲ってくるし…だから、初心者向けのフィールドなんて存在しないんだよ、冒険者にはね」
そう話すルーナの声色は真剣だ。
なら、猶更周囲には警戒しないといけないだろう。
その為に、ギンジロウから新しい技術を教えてもらうんだ。
と、ここまで考えてから、ちょっと引っかかった。
「ん?ゴブリンって魔物じゃないのか?」
「いや、魔物じゃなくて亜人じゃよ。人間と共存しておるゴブリン族もおるからの」
なら、今回戦うのは共存していないゴブリン族か。
隣を歩くルーナが、ギンジロウの説明を補足する。
「ゴブリン族の集落はたくさんあってね。それぞれの集落でボスがいるんだけど、そのボスゴブリンの方針に沿って暮らしてる。基本的にはさっき師匠が言った通り、人間との共存を謳うゴブリンの集落と、魔王軍の側に立って人間を襲う方針の集落に別れているんだ」
…なるほどな、ここでも考え方が二極化してるわけだ。
平和か、侵略か。その二つに分かれていると、そういう事だ。
俺は、しばらく口を開いていないアルメリアに声を掛けた。
「メル、大丈夫か?」
「…」
駄目だ…これから戦いだし、緊張するのも無理はないけどな。
ともあれ、戦闘中にまでこのままでは困る。
俺はそっと彼女の肩を叩いた。
「メル?」
「ぁんっ…あ、そ、ソウマ様!?」
…なんか、すっごい艶っぽい声を出したな。
俺、肩を叩いただけなんだけど。それだけ緊張してたのかな?
「…」
どうしよう!気まずい!!
そんな俺たちの様子を見ていたルーナが、ニヤニヤしながらアルメリアに声を掛ける。
「メルちゃん、もしかしてエッチな事でも考えてた~?可愛いなぁ」
「い、いえ!そんなことは!?ちょっと緊張してしまって、その!?」
真っ赤になって慌てる彼女を、改めて落ち着かせる。
「大丈夫だから、ちょっと落ち着いて?ほら、深呼吸」
「は、はい…すー、はー、すー、はー」
そんなアルメリアは、修道女のローブと同じ色の、しかしそれよりも長いローブ、銀の胸当てとブーツを装備し、腰には短い杖を下げていて、背中には大きなバックパック。
俺達も持てる荷物は持っているが、後衛の彼女のバックパックは大きい。
ゴブリンや魔物からドロップしたものを売る為、大きなバックパックを購入したらしい。
今後もこのバックパックは使わせてもらおう…。
アルメリアの緊張が引いてきたタイミングで、ギンジロウが要らんことを言った。
「ホッホッホ、メルちゃんはエッチじゃのう」
おい、なんてことを言うんだこのエロジジイ。ぶっとばすぞ。
「え、えっちじゃありません!!」
アルメリアは自分の身体を抱くようなポーズで、両目に涙を浮かべながら、耳まで赤くしてプルプル震えている。
俺は右手の平で顔を覆いながら、ギンジロウを睨み付けた。
「ギンジロウ…せっかく落ち着いてきたんだから、からかうのはその辺にしてよ」
「ソウマはメルちゃんの事になると怖いのう…」
アルメリアは申し訳なさそうに俯く。
「すみません、ソウマ様…」
「気にすんなよ。戦いは誰だって怖いけど、何かを怖いと思う事は、別に恥ずかしい事じゃないんだからさ」
左手でそっと彼女の髪に触れると、安心したように頬を摺り寄せるアルメリア。
ただ、そこまでは恥ずかしいから、ちょっとそのままにした後、すぐにその手を引っ込める。
「あ…」
やめて、ちょっとシュンとするのやめて。胸が痛い。
そんなやりとりをしながら、進むこと数十分。
「おるのう」
「いるね」
ギンジロウとルーナが声を揃えて、突然そんなことを言った。
俺とアルメリアの頭上には疑問符が浮かび、俺達は首を傾げる。
「お主らも集中してみぃ。自らの意識が、己を中心にして周囲に広がるイメージじゃ」
正直ギンジロウの言っている言葉の意味は何一つ分からなかったが、とりあえず試すことにした。
「うーん…やってみる」
「は、はい」
自分の意識。
俺は目を閉じて、まずは自分の呼吸を意識する。
吸って、吐いて、吸って、吐いて…しばらくそれを繰り返していくと、段々と仲間達の呼吸が分かるようになってきた。
この感覚を少しずつ広げていくと、何やら知らない呼吸が、ここから少し離れた位置にあるのが分かった。
3人、俺達以外の何かが、そこにいる。
さらに感覚を広げていけば、同じ様な気配が各所に散らばっているのが分かる。
その中には、同じく人型で、複数体で行動しているのがいくつかあった。
その数、約40程。
「…すっげぇたくさんいるじゃん」
「え、お主、一発で成功しちゃったの?」
「多分…40数匹くらい?」
「わぁ、すごいすごい」
俺がゴブリンらしき気配の数を伝えると、ルーナは音を立てない様小さく拍手をし、ギンジロウは何故かちょっと悔しそうな表情を浮かべている。
「まさか一発で成功するとは…お前さんが苦戦して、儂が更なるコツを教える事で上達する流れじゃったのに」
「いや、人が失敗するのを望むなよ、性格悪いぞ?」
「できないお前さんをからかってやろうと、ちょっとウキウキしてたんじゃが、当てが外れたのう…なんじゃつまらん、面白い失敗すればよかったのに」
「なんてこと言いやがるこのジジイ!!」
俺とギンジロウのやり取りを受け流し、ルーナはアルメリアに歩み寄る。
「男2人は置いといて…メルちゃんは出来そう?」
ルーナがアルメリアに声を掛ける。
しかし、アルメリアは難しそうに眉根を寄せた後、そのまま地面にぺたりと座ってしまった。
内股気味の女の子座りである。可愛い。
「う~…できません」
「最初はそんなもんだよ。いきなり出来ちゃうそこの青い人がおかしいだけだから、気にしないで…ほら、僕がコツを教えてあげるから、もう一度やってみよっか?」
おい、人を頭おかしい奴みたいな言い方するなよ…マジで泣くぞ?
悲しくなった俺は、思わず憤慨する。
「ちくしょう!頑張ったのになんだよこの差は!?」
「野郎と可愛い女の子の差じゃな」
「分かってるよ!!わざわざ言わなくてもいいよ!!」
だがともかく、気配の感じ方の基礎は分かった。
ルーナがアルメリアにレクチャーしている横で、俺とギンジロウは作戦を立てていた。
「こうやって気配を辿って、各個撃破かな」
「それが良かろう…じゃが、今回はボスゴブリンがおるのが問題じゃな」
「ボスゴブリンは、他のゴブリンとは違うのか?」
「うむ、単純に強いぞい。筋骨隆々とした大柄な身体は、半端な攻撃ではダメージすら通さぬ…奴を倒すとなれば、お主の魔剣のような武器が必要じゃろうな」
「なるほどね…」
「戦う時は用心せい。奴は普通のゴブリンよりも戦い慣れておるから、駆け引きで負けても死ぬし、単純な力で負けても死ぬ。これだけ聞くとどうしようもないのう」
「本当だな。もうお家に帰りたいよ…」
でも、逃げてばかりもいられないし、受けたもんはしょうがない。
俺は自分を奮い立たせ、ギンジロウに尋ねる。
「勝つにはどうすればいい?」
「一つは、一人で戦わない事。もう一つは、さっき言った力、技術、もしくは駆け引きで圧倒する事じゃな。ゴブリンは集団での戦闘に慣れておるから、まずはさっきお前さんが言った通り、一体一体の雑魚を倒していくぞい。ボスは最後じゃ」
まぁ、増援を呼ばれても厄介なだけだしな。
ボスの周りに湧いてくる雑魚敵が厄介なのは、この世界でもゲームでも同じか。
「オッケー、それで行こう」
そして俺たちはこの方針に従って、近くにいるゴブリンから各個撃破していくべく、行動を開始した。
ちなみに、メルは結局、近くにいる仲間の気配を感じるまでしかできるようにならなかった。
俺も、この戦いが終わったら、もっと簡単に使えるように、修行に励むとしよう。
どうも、夜光猫です。
仕事の都合で、日曜日にアップできんかった…申し訳ない。
本当はこのファースト・クエスト、1話の中にまとめるつもりでしたが、分けました。
投稿ペースを考えて、ちょっと話を分割させてください。その代わり、頑張って面白くします!
ボツ案では、ゴブリンは亜人ではなく魔物でしたが…人の言葉を話せて、自我があって、知性があって…そうなったら、魔物より亜人かな?何て思いました。
良いゴブリンもいつかちゃんと書きたいなぁって思ってます。
とりあえず、短いけど今回はこの辺で。
読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。




