第9.5話「些細な疑念」
ちょっとした幕間の話。
この子はやっぱり明るい子だった。
「むぅ~…」
アルメリアが装備を物色するのを、僕は黙って見ていた。
僕は、今回一緒に遠征することになった新米冒険者の2人と師匠の4人で、師匠の知人が営んでいる武具店に来ている。
彼らの装備があまりにも整っておらず、このままだとその辺の弱い魔物一匹にすら負けると判断したからだ。
師匠は、ソウマがこことは違う世界からやってきた、いわゆる勇者候補の一人だという話を聞いて、何やら彼に預けてみたいものがあるとのことで、ソウマと二人で店の奥へと消えてしまった。
僕はというと、ソウマのただ一人のパーティメンバーことアルメリアと一緒に、彼女の装備を選んでいた。
出来るだけ軽量且つ頑丈な胸当てと、やや重いが、物理攻撃のみならず魔法攻撃のダメージも抑えてくれるマジック効果がエンチャントされた、彼女の腰ほどの長さの青いローブ、モンスターの革で作られた戦闘用用の動きやすいブーツ、液体金属を糸状にして、モンスターの毛と一緒に編み込ませて作られた、耐久性のある衣服数着、手元にチャージしたマナのコントロールを助ける効果を持つ白いグローブや、各種回復薬や食糧品などを入れるためのバックパック、装備やいくつかのアイテムを準備しておけるのベルトなど、基本的に必要なものは買えたと思う。
最低限必要なものだけでも、いいものを買おうと思ったらかなりのお金がかかるので、普通は簡単なクエストをこなしながらお金を稼ぎつつ準備を整えていくのだけど…今回はその時間がないから、師匠もここでお金を使うと決めたんだろう。
パーティ構成的な話で言えば、後衛がメルしかいないのがちょっとかわいそうだ…普通、荷物を持つのは後衛の仕事になってしまうのだが、彼女一人では無理な話だろう。
何より体力が持たなそうなので、今回の遠征ではみんなで分担して持つことにしようか。
あと見る物はなんだろうか、と考えながら、アルメリアに声を掛けた。
「メル、あとは何が見たい?大体の物は見たと思うんだけど…」
「そうですね…防具周りは流石にもう大丈夫かと思いますが、その…」
「ん?どうしたの?」
彼女は何か申し訳なさそうに購入の決定した品々を抱えている。どうしたのだろうか。
「こんなに買ってしまって大丈夫なのでしょうか、ギンジロウさん」
彼女は購入品の総合金額を気にしていた。確かに、ポンと買うにはちょっと見たくない額をしている気がする。
少なくとも、5万は超えているだろう。
なるべく良いものを、そして出来るだけ安いものを買おうと、慎重に選んだつもりではあるが…それでも多少は値が張ってしまう。
ソウマには、いずれ仲間に鍛冶師や彫金師を入れることを勧めておこう。
工房持ちの彼らがいれば、良いモンスター素材を拾った際には立派な装備にしてくれることだろう。
こちらは自分で素材を用意するという手間があるが、コストカットには繋がるし、何より信頼性はこちらの方が断然高い。
値段の安さだけで適当に選んだ品を使い、生きて帰れなかった冒険者は腐るほどいるのだ。
何より店売りの物を買うと、単純に高い。
だが、お金を掛ければ良い装備が手に入る。この辺りは一長一短だ。
問題は、今回、それなりにお金をかけてしまった事だが…僕は自分の師匠の財力を信じることにして、彼女を安心させるために肩をポンポン叩く。
「大丈夫大丈夫。あの人現役の冒険者だから、結構稼いでるし。これくらいなら全然痛くないと思うよ?」
「そうですか?ならいいのですが…あと一つだけ、見たいものが」
「そうなの?」
「はい。その、短めの杖が欲しくて」
「あぁ、なるほどね。確かに、メルちゃんは武器を持ってないもんね」
いくら後衛だからといって、防具だけで戦場に立たせるわけにはいかない。
「杖は…あっちかな、行ってみよう」
「はい」
そうして僕らは、大小様々な杖の立ち並ぶ一角へ着いた。
特別な木の枝を削り出して作られたものや、魔力伝導性の高いミスリルなどの鉱石を使ったものなどが一般的だ。
どうせここまでお金を使ったのなら、杖も手に馴染む良いものを選んでもらうとしよう。
「ねぇ、メルちゃん?」
「はい?」
僕は、なんてことない気持ちで、唐突に聞いてみた。
「メルちゃんってさ…ソウマの事、好きなの?」
「…はい!?」
アルメリア…ああもうメルちゃんでいいや、メルちゃんはそれはもう真っ赤になっていた。
可愛い。なんかたぎってきた。私はさらに攻めてみる。
「だってこの前のレストランの時も、すっごい紳士的だったし?とても15歳には見えないよね。顔立ちも結構可愛くない?」
正直見た目の話で言うなら、僕的にも結構好みなのだ。
ただし、僕は現状友達で良いので、メルちゃんとくっつけばいいなぁと思っている。
私がからかい続けていると、メルちゃんは持っていた杖を床に落としそうになり、ワタワタとキャッチして、それを元の位置に戻した。
この子の場合、男慣れしてないっていうのも理由の1つかもしれないけどね。
恋愛感情にせよ信頼感情にせよ、彼女はソウマを大層信頼している。
これについては目に見えた証拠がある。
彼女によって与えられたと思しき、ソウマのパッシブスキルである「聖女の加護」。
あれは僕が知る限りでは、滅茶苦茶なレアスキルなのだ。
なぜなら、この世界で加護を与えられるほどの聖女というのはかなり少ない…と、昨晩二人と別れた後で師匠が言っていた。
師匠曰く、この世界の力ある聖女達は、ある時魔王軍によって引き起こされた悲惨な事件によって、大半が命を奪われるか、捕虜にされたという。
そして、メルちゃんがその血を引いているのではないかと考えている様だった。
その名の通り、聖女というのは女の人でなければならない。
伝説では、聖なる女神の血の混じった人間の女性、それも処女で未婚の女性のみがなれると言われているという、希少な存在。
そしてその在り方から、彼女たちが聖女のまま子孫を残すのは困難を極める。
仮に人間の男性を愛してしまえば、多くの場合は神への信仰よりも愛情の方が大事になる為、神はその女性を聖女とは認めず、その資格が無くなってしまうから。
そして、これは悲しい事だが、強姦されるなどして望まぬ子を孕んでしまう聖女もいるという…この場合でも処女を失っている為、聖女の資格は剥奪されてしまう。
師匠は最後にこう締めくくった。
「ごく稀に、とてもつなく強い祈りの力を持つに至る聖女がいる。
噂通りであるならば…その強い力を持つ聖女が、神への信仰を強く抱いたまま、欲にも溺れず、目の前の男を愛さず、ただただ行為の最中、神への祈りを捧げ続けること…そうすることで、より強い聖なる力たる「神性」を帯びた子が生まれるのじゃ」
それらの話を踏まえるのなら、彼女の母親は、神への信仰を抱いたまま、メルちゃんをお腹に宿したということだ。それは、メルちゃんが聖女の加護をソウマに与えた事が何よりの証拠。
神にとって、信仰というのは愛と同列だと、昔故郷の本で読んだことがある。
だから、メルちゃん自身の中には神への気持ちと同じくらい、ソウマへの強い想いがある…それは疑いようのない事実だと、僕はそう結論付けた。
今後も彼女をパーティを組み続けるのであれば、ソウマはもっと強くならないといけないな…というか、彼女は聖女についてのこうした話を知っているのだろうか?
多分知らないで関わってるんだろうな、と思う。彼は自分の目の前で困っている人を放ってはおかないだろう。そういう人間だと、昨日の時点だけでもよく分かる。
「…ルーナ様?」
長々と考え込んでしまっていたせいかメルちゃんは心配そうに僕を見ていた。
僕はすぐに頭のスイッチを切り替えて、両手を腰に当てた。
「あぁ、ごめんごめん!何でもないよ、ただ、あまりにも露骨だったから、ついからかいたくなっちゃった」
「からかうって…もう、酷いです、ルーナ様」
むくれるところも可愛いなぁ、この子!
というか、呼び方がちょっと気になる。
僕は彼女をビシッと指差して、何かをあしらうような雑さを持った声で言った。
無意識に「しっし」と何かを追い払うようなジェスチャーまでやってしまう。
「あぁ、その様っていうのいいよ。呼び捨てで」
「え?でも、そうしたらなんとお呼びすればいいのか…」
いや、普通に呼び捨てでいいじゃん…とは言えなかった。
この子は本当に、あまり人と関わったことが無いんだな…。
魔王候補ファルズフが、この子を教会に隔離して何をしたかったかは分からないが…さっきも懸念した通り、彼女は今後も狙われる可能性が高いだろう。
僕も師匠と一緒にソウマを鍛えてやるかな?。
「ルーナとか、呼び捨てが難しかったらちゃん付けでいいよ!ほら、せーの!」
「えぇ!?えっと、る、ルーナ、ちゃん…?」
あぁ!いいよいいよ!その恥じらいの表情と上目遣い!!
あらゆる角度から撮影して部屋に飾りたい。
その意を得たりとばかりに、思わず指をパチンと鳴らした。
「イエス!あ、そうだ!次から僕を様付けで読んだら罰金にしよう、そうしよう!」
「そ、そんなぁ!酷いです!!」
メルちゃんが何やら非難と抗議の声を上げているが、全部ウサ耳を塞いで無視する。
今、この場においては僕が法だ。異論は認めない。
しかし僕は甘いので、ある程度の譲歩はしてあげようじゃないか。
「まぁ、敬語は勘弁してあげるからさ、まずは呼び方から。僕ら、もう友達なんだから。このぐらいの距離感でいこうよ!」
少しずつ意識改革はしていかないと、友人として今後、僕が苦労してしまう。
それに、いつまでもこんな態度取られるんじゃ、ソウマも大変だろうからね。
ただ、これは苦労しそうだなぁ。
「友達」という単語に感銘を受けたのか、それとも「罰金」という単語に反応したのかは分からないが、彼女は少し涙目で「が…頑張ります」と上目遣いで答えた。
その破壊力たるや、同性の僕から見ても、とても庇護欲に駆られるものだった。
余りの可愛さに、僕の中の時間は数秒程停止する。
「これはソウマもお世話を焼いちゃうよね」
今度時間が作って、ソウマと二人で話してみる必要が出来たな。
聖女周りの事については、折を見て、彼に伝えておこう。
そう心に決めた僕は、メルちゃんの杖選びに本格的に取り掛かるべく、考え疲れた頭をすっきりさせるために大きく伸びをした。
近くに設置してあった鏡に映るその姿を見て、兎というより猫みたいだな、と感じた。
どうも、夜光猫です。
10話…の前に、ここらで一つ投げておこうかなと思った、幕間の9.5話でした。
この子はきっと、可愛いものに目が無いんだろう…書いていてそう思いました。きっと一人称の割に乙女趣味なんだろうなとか、現実世界だったらペットボトルのおまけのストラップとか、真剣に欲しいものを探して奥のペットボトルまで探るタイプ。伝わるかな?
さて、今回は聖女周りの話がチラッと出てきましたね!!いやー、出したい出したいと思って心の中で駄々をこねていたけど、まさかこのタイミングで出るとは思わなかった!やっぱりこの子たちは生きてるなって思いました。既に初期構想からかなり大きく外れてますから、えぇ、本当にびっくりです。
そして個人的な話としては、ルーナの視点は結構書きやすくて、アルメリアの視点は中々難しいなと思いました。今回の話、メルの視点になる可能性もありましたから…両方書いてみて、ルーナの方が面白いやんけワレェ!!という自らの心の叫びと共に決定しました。
最近の悩みは、もっとキャラクター達をはっちゃけさせてもいいかなと思ってます。でも、あんまり調子に乗りすぎると物語が進まなくなる可能性大なので、難しいところですが…彼らがボケたいと思ったらボケさせてあげようと思います。
それでは今回はこの辺で!
もし読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。




