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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
11/39

第9話「武具店訪問」

ソウマ、元陽キャ説。

今回の話で、改めてそう感じました。

次の日の朝。

ゆっくりと身体を起こすと、辺りを見回す。

ベッドを見ると、やはりアルメリアは俺よりも早く起きている。

目覚めたばかりの身に襲い来る眠気と戦いながら、俺は身支度を進める。

「昨日は飲んだからなぁ…眠くなるのはしょうがないか」

身支度を終えても、まだちょっとウトウトする。

もう一回顔を洗ってくるか。

俺が再び洗面所に向かうと、ガチャリ…と部屋の扉が開く。

入ってきたのはメルだ。

俺は目を擦りながら、フラフラと洗面所に向かう。

「あっ」

「っと…ごめん」

気が付けばちょっとぶつかりそうな距離にいたアルメリアに謝罪すると、彼女はにっこり笑って、なぜか俺の髪に触れる。

場所的には、俺から見て真ん中右上くらいの位置。

「寝癖、ついてますよ?」

「…直してくるよ」

やだ!すごく恥ずかしい!!もっとちゃんとしなきゃ!!と少し急ぎ足になるも、一緒に洗面所に入るアルメリアに対して疑問符を浮かべる俺。

「可愛い寝癖ですけど…私に直させてください」

寝癖に可愛さ感じる女の子っているんだな…。

そんな女の子はバーチャルな存在だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

部屋に備え付けの櫛と霧吹きをそれぞれの手に持ち、やる気満々だ。

そんな様子を微笑ましく思いながら、俺は洗面所の鏡の前にあった椅子に座る。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「フフ、お任せください」

俺はしばらくの間、彼女の手が触れる感覚に身を任せていた。


俺はこの世界に来てから買った、麻で出来た紺色のシャツを着て、ライトブラウンのハーフパンツを穿く。

荷物を持って部屋を出ると、入り口にはアルメリアが待っていた。

昨日と違いフリルはついていないが、今日は白ではなく薄い桜色のスカートに、日本ではいわゆるカットソーと言われている白いシャツを合わせている。

シャツをしまっているだけで、彼女の腰の細さが分かってしまうのがなんだか恥ずかしくった俺は、ちょっとだけ目を逸らした。

具体的なサイズは知らないが、この子、腰の細さに対して結構胸があるように感じる。

この前密着された時の柔らかい感触を思い出してしまうが、それをなんとか振り払い、俺は彼女に声を掛けた。

「ごめん、お待たせ」

「いえ、私も今来たところですから」

え、何そのデートみたいなやり取り。

でも、勘違いしてもらっては困る。この子はパーティメンバーであって、恋人ではない。

何より、俺のようなちんちくりんは彼女の好みではないだろう。

しかしこの子、こういう清楚系な服装、マジで似合う。

首からぶら下がった十字架のネックレスに、左手首に嵌められた茶色のバングル。

…なんかこの子、渋谷とか原宿とかにいたとしても、違和感がないな。

自分の服装はただのシャツに膝下丈の短パン。アクセサリーなどで着飾ってはいない。

この子を連れ歩いても違和感が無いように、俺もファッションを勉強せねば!

新たな目標を打ち立てる結果となったが、まずは挨拶代わりに彼女の服装を誉める。

「そういう清楚な格好、メルにはやっぱり似合うよなぁ、いいと思うよ」

「そ、そうでしょうか?ありがとうございます」

少し耳が赤く染まり、視線は下を向いている。

どうする?仮にこれが、男を誑かす演技だったとしたら。

俺はこのまま騙されてもいいと思います!!

もしも素の反応だとしたら猶更、特別天然記念物として俺が保護しなくては!と謎の使命感に燃えた。

でも、もし演技でやっていたとしたら、昔を思い出してちょっと落ち込むかもしれない。

世の中にはいるのだ。自らの容姿を正しく理解し、明確な打算の下、それを「使いこなす」女の人が、確かにいる。

日本にいた頃の苦い記憶が蘇り、あまり良くない感情が湧き上がってくるのを感じた俺は、それを振り払ってアルメリアを眺め、その感情を浄化する。

その点、流石聖女といったところだ。

ここまでの浄化効果をもたらすことが出来る存在を、彼女とファブリーズ以外には知らない。

控えめに恥ずかしがる彼女の姿は、あまりにも尊かった。

「…行こうか?」

「はい、ソウマ様」

俺は無意識に彼女の右手を取り、そのまま1階へと向かう階段を下りていった。


宿屋の外には、既にルーナとギンジロウがいた。

ルーナはダメージの入ったデニムのショートパンツに、大き目なフードがついた半袖でグレーのパーカーをダボッと着ている。

着こなし的に萌え袖になっているから分かりづらいが、昨日同様白い指抜きグローブは付けているようだ。

彼女は所謂「クロー」と言われる武器と戦闘用のブーツを使うが、そのクローは腰にぶら下がっているのが見えた為、装備は肌身離さず持ち歩いているのが見て取れた。

また、彼女の履いている赤いブーツも戦闘用のもので、昨日と同じ物と思われる。

「おーい!」とこちらに気づいて両手を大きく振る姿が愛らしい。

ギンジロウはというと…昨日と全く同じ装備だった。

同じ服を何着も持っているタイプだろうか?

でも、ギンジロウみたいなおじいちゃんが滅茶苦茶お洒落だったら、それはそれでビックリするので、なんだか納得はできる。

「おはよう、二人とも」

「うむ、おはよう。時間通りじゃな」

「おはよ!いやぁ、昨日から思ってたけど、やっぱりメルは可愛いね」

「ふぇ!?い、いきなりなんですかルーナ様!?」

言いながら機嫌良くアルメリアに抱き付くルーナ。

まぁ、見た目の可愛さで言えば、彼女も負けてはいないよな。

俺よりも背が高いルーナにギュッと抱きしめられているアルメリアは、どうしていいか分からずに両手をワタワタと動かして、こちらへ「助けてください!」とアイコンタクトをしている。

が、可愛い女子同士の関わりはむしろ望むところなので、今回はその助けを無視した。

アルメリアとルーナの2人なら、きっと友達になれるだろう。

特に、ずっと教会に閉じ込められていた彼女には、ああした友人は必要だろうからな。

2人の絡みを遠巻きに眺めていると、思わず口が緩んだ。

「ニヤニヤしているところ申し訳ないが、ソウマよ、そろそろ出発しなくても良いのか?」

ギンジロウがそう訊ねてくる。

「おっと…そうだな。そろそろ行こうか」

俺は依然楽しそうに話す二人に声を掛けるべく、ゆっくりと歩きだした。


ステリア北部、ユークリオの街、武具市。

大小様々、造りもバラバラな店が立ち並ぶエリアの様で、辺りは冒険者で繁盛している様だった。

「はえー、人すごいなぁ…」

人混みに圧倒されている俺に、ギンジロウが自分の髭を撫でた。

「そりゃ、この街の半数くらいは冒険者じゃからな、人が多く見えるのは当たり前じゃ」

なるほど、確かに。

この街の半数が冒険者というのは知らなかったが、その半数がここにまとまっているというのであれば、密度が高くなるのも納得である…これは密ですね。ソーシャルディスタンスを守って欲しい。あとはマスク着用を義務付けて欲しい。俺?俺はマスクを買えるお金が無いです、マジで。

まぁ、こっちじゃ日本どころか、世界を騒がせたあの病気も無い事だし、そのルールは無いのかもしれないが。

「さて…まずは主らの防具を見に行こうかの」

「賛成!僕も可愛い装備見たい!」

可愛い装備なんてあるのか?という俺の疑問はさておき、防具を見に行くのは賛成だ。

「あの、私、鎧とか着られないと思うのですが…大丈夫でしょうか?」

店を探してキョロキョロしながら、恐る恐るといった感じでアルメリアがギンジロウに尋ねる。

ギンジロウはそんなアルメリアを見て、少し考え込むと答える。

「ふむ…まぁ、何もゴテゴテの鎧装備だけしか存在しないわけではないから、心配はいらんぞ?

モンスター素材の革装備や、軽いが頑丈な胸当て等様々じゃ。好きなものを選ぶと良い」

と、思いの外器のデカい事を言ってくれるギンジロウ。

その解答を聞いてホッとするアルメリア。

まぁ、確かにこの子が鎧を着るイメージはないな…。

俺としても、動きを阻害されるしガチャガチャと音が鳴りそうだし、鎧装備よりも軽装の方が好みだ。

まぁ、心臓や首は守らないとだけどな…多分。

「これから向かうお店は、師匠の古い知り合いなんだよね?」

ルーナがそんなことを言う。

「そうじゃな。気難しい奴じゃが、腕は確かじゃ。儂の装備もいくつかもそいつの作ったものじゃよ」

「へぇ、それは知らなかったよ!僕も装備を新調してもらおうかな?」

そんな師弟の会話を聞いて、俺はまたどうでもいいことを思った。

この爺さん、やっぱりすごい老人感溢れる喋り方をするな…。

案内されるがまま、俺達はその店を目指した。


冒険者ギルド公認武具店 「鎚くれ」

「ここじゃ」

辿り着いた店は、結構端っこの方にあった。

正直、借りている宿屋からはそれなりに距離がある。

この街は、俺が思ったよりも結構広いらしい。

レンガ造りの、それなりに立派な建物だ。周囲の店よりも一回り大きい。

なんだろう、例えるなら、一階建ての民家と二階建ての民家くらいの違いがある。

ギンジロウは扉を開きながら、誰かの名前を呼んだ。

「トウキチ~、おるか?」

「トウキチ?」

「この店の店主、さっき話した儂の昔馴染みじゃ」

なるほどな。

入ってみると、所狭しとこの店の商品であろう、立派な武具が並んでいる。

歩き回ってそれらの商品を見ていると、取り扱っているのは剣や鎧だけではなかった。

弓、盾、大槌、鞭、槍…店の奥には鎧などの防具が並べられているエリアの様だ。

アルメリアとルーナも、二人で店の武具を見て回っている様だ。

俺は店の奥へ進んでいくと、ギンジロウと誰かの声が聞こえる。

「おい、久しぶりに来たと思ったら、そいつらは誰だ?」

「儂と馬鹿弟子二人で、人探しに来たのだが…ちょっと人手が欲しくてのう。骨のある冒険者を探していたら、この者らの出会った」

ギンジロウが話している相手は、彼に劣らぬ筋骨隆々とした男だ。

身長は多分190センチはあるだろう、俺よりも遥かに高い。

本当に鍛冶屋なのか?多分、この人が戦った方が強いと思うんだけど。

この人がトウキチさんなのだろう。彼は俺の服装をジロジロと見て言った。

「ふむ。装備を見たところ、まだ冒険者になってから日が浅いな?

ギンジロウ、お前も人が好いな…こんなのに目を掛けるとは、耄碌したか?」

ごめんね、弱そうで。

でも、否定できないんだよなぁ。実際、まだ弱いし。

しかし、その言葉に対してギンジロウは、挑発的な笑みを浮かべる。

「それはどうかのう?まぁ、その話はいいわい。それより、あの魔導具はあるかいな?」

ミーティア?なんぞそれ?と、俺は知らない単語に首を傾げた。

店の店主、トウキチは突然怒鳴り散らすように言った。

「あれは魔導具ではないし、商品でもない!!…あれは神器だ。誰一人、使いこなせた冒険者はいない」

神器。

そう聞いて俺は思わず、背中の愛剣に視線をやった。

「確かに、どんな能力があるのかもはっきりしとらんからの。”心気の腕輪”と呼ばれた、曰くつきの魔導具…発見した儂も、いくら心気を込めても反応せんかったし」

心気?うーん、まだまだ分からない言葉が多いな。

ちくしょう、スマホがあれば一発で調べられるのに…なんて、異世界に来て言うセリフじゃないよな。

サムズアップするように立てた親指で、ギンジロウが俺を指す。

「こやつにそれを預けてみようと思っての。お前さんも、訳のわからん魔導具をいつまでも預かるのとか嫌じゃろ?」

トウキチは大きく溜め息をつくと、傍にあった椅子にドカッと座り、ガシガシと髪をかき回した。

「お前がそれでいいなら構わんが…いいのかよ。あれは元々、出自不明の遺跡にあった代物だろう?装備の1つも整ってない冒険者に扱える代物とは思えん。おい、お前、名前は?

もう知ってるかもしれんが、俺はトウキチ。この店で武具を売っている。自分で作ったものもあれば、店を持っていない鍛冶屋の装備を、ここで売ったりもしている」

この店にいる店員はこの人しかいなかったから、そりゃあなたが店主でしょう。

俺はひとまず、聞かれたことに答えることにした。

「俺はソウマ。ソウマ・カスガイです。冒険者になってから、えっと…大体1週間ちょっとくらいです」

「だが、冒険者になってすぐ、魔王候補を追い返した男じゃ。見どころはあろう?」

なぜアンタがドヤ顔で答えるんだ…しかも、俺は言う程大したことは出来ていない。

トウキチはそれを聞いて、驚いているのか、目を見開いた。

「こんなガキが?まさか、街で出回ってる噂ってのは…」

その噂というのは、ファルズフとの戦いの事だろう。

あの教会には、その後冒険者ギルドの職員が調査に入ったとも聞く。

きっと、それで街でも噂になったんだろうな。

「本当じゃよ。そもそも、あの場所に教会があったという事すら、この街の者は知りもしなかった。ソウマは知らず知らずのうちに、魔王候補の企みという氷山の一角を崩したことになるの」

それを聞いたトウキチは、腕を組んで少しだけ呻る。

「…いいだろう。お前が嘘を言うとも思わん。その話を信じよう。だが、あの魔導具を所有した者達が悉く死んだのも、また事実だぞ?」

え、何それ怖い!!そんな物騒なものを俺に渡そうとしてたのかよ!?

ギンジロウは笑いながら答える。

「ホッホッホ!そうらしいのう!まぁ、その時はその時じゃな!」

「ひ、酷い…」

「心配するでない。精々死なぬよう、明日から儂がみっちり鍛えてやるわい」

俺の背中をバシバシ叩きながら、まだ笑い続けているギンジロウ。

トウキチは無言で店の奥へと消えていった。

「して、ソウマよ?お主は剣一本で戦うか?」

突然の問いに少々戸惑ったが、なけなしの思考力を振り絞って答える。

「え?まぁ、武器がこれしかないし、そうなるのかなって思ってたけど…」

実際、そう考えていた。だから、どこかで誰かに師事して剣術を学ぼうとか、そんなことも心のどこかで考えてはいた。

だが、ギンジロウはそんな俺に、何かを見出してくれている様子だった。

「儂はお主を、器用万能な冒険者に育ててやろうと思ってな?これからの約1週間で教えようと思っていたのは、ルーナもしているような軽い動きと、基本的な体捌き、敵の気配の感じ方と、もう一つ、新たな武器の扱い方じゃ」

「そ、そんなに教えてくれるのはありがたいけど、覚えられるか不安だなぁ…」

「お主が覚えるのではない、儂が覚えさせるのじゃ」

おもちゃ扱いされている。

ルーナもこうやって鍛えられたのかな?

しかし、新しい武器種か。何を教えてもらえるのだろうか?

「トウキチの奴が戻ってくるまで、もう少し時間がいるじゃろうしな。お主の手に馴染む物を選びに行くとするか?」

「おう!…で、何の武器を見に行くんだ?」

「あぁ、それはのう…」


「これじゃ」

連れてこられたのは、先程の武器が並ぶエリア。

俺の目の前に並んでいる武器達は――――鞭だった。

「どうして数ある武器種の中、鞭を選んだんだ?」

単純に疑問だった。

あれ…というか鞭ってどんな武器なんだ?

ギンジロウは一つ一つ武器の具合を確かめながら、こちらを見ずに尋ねる。

「問いに問いで返す様ですまんがの。お主は鞭をどんな武器だと思っておる?」

「えっ?うーん…少なくとも、剣よりリーチは長いよな?不意をついて敵の手元を狙って、敵の武器を払い落としたりとか?」

「それも出来る。が、使い方はもっと多様じゃよ?…まぁ、それは修行の中で教えてやるわい。儂の教えを受ければ、主は化ける…と、思う」

「自信ないのかよ!?」

「いや、言い切ってしまって、もし出来なかったらと思うと…儂、詐欺じゃん?」

「変な所気にするな…いいんだよ、俺の意思で受けるんだから、すぐに結果が出なくても、いつか形になるさ」

正直、藁にも縋りたい想いなのだ。

だから、可能性があるならなんでも試す。誰かを責めている場合ではない。

それに…こういうのって、一朝一夕で結果が出るようなものでもないだろうからな。

俺の答えに納得したのか、ふむふむと頷くギンジロウ。

「まぁ、確かに、修行ってそういうもんじゃしな。分かっとるじゃないか」

「それよりさ、この中から俺の手に馴染む物を選べばいいんだよな?」

「うむ、手に持って試してみると良いぞ」

試しに、手前の白い鞭を手に取って、少し振り回してみる。

しかし、手に馴染むという感覚は感じない。

まだ銘の分からない愛剣は、思えば随分手に馴染んでいる。

きっと、その感覚に近いものを選べばいいのだと思うが…

手前の方の鞭は一通り試したが、求めている感覚はやってこない。

「ふむ…この辺りの軽い鞭では合わんかったか」

「初心者用とか上級者用とか、そういうのがあるのか?」

「無くはないが、あまり差はないぞい。物凄くざっくりした説明になるが、この辺りはゴム等の素材を使った、いわゆる一本鞭という種類じゃ。モンスター素材や金属を使っておらんから、軽いのよ」

な、なるほど…

俺はもしかしたら、重い武器や癖のある武器が合うのかもしれないな。

「まぁ、その辺りの専門的な話をしても仕方がないのう…モンスター素材や金属製のものを見に行くとするか。ほれ、ついてこい」

「あ、あぁ…」

店の奥へ。

そして、辿り着いた場所に並べられていた鞭は、先程並べられていた簡素なものとは違い、並々ならぬオーラを放っていた。

明らかにこっちの方が強そうだ。

「うげぇ…この辺の鞭は高いのう」

値段を見て苦い顔をするギンジロウ。

俺も手に取って値段を見てみると、100万frとか書いてあった。

100万!?嘘だろ!?

俺の反応を見て、ホッホッホと笑うギンジロウ。

「まぁ、このくらいなら払えるわい。儂、昔は冒険者としてブイブイ言わせてた名残で、金だけはあるんじゃ。だから安心して好きなものを選ぶと良いぞい」

ブイブイ言わせてたって言い方も、なんというか、典型的なお爺ちゃん感がすごいな。

俺は心配になって、思わず確認した。

「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃ。いざとなったらローンでも組むわい」

「お爺ちゃんになってから100万のローンはしんどくないか!?」

ていうか、この世界ってローンとかあるのかよ?

あれ?じゃあ銀行もあるのか?分からん…。

何にせよ、せめて、ちゃんと選んで大切に使おう…。


そして、悩むこと10分程。

「お…?」

俺はふとその鞭が目に留まった。

その鞭はとても長い、大鞭と呼んでも差し支えない程だった。

持ち手の部分は黄金色で、何らかの毛によって編み込まれており、ギュッと握っても痛くない…さっき革製のものを持った時はちょっと痛かったのに。

持っているだけなら大変しっくりくる。しかし、目算だがこれまでの鞭の中で最も長いであろうその鞭は、すこぶる重かった。

もっと筋力を磨いて、これを振り回せるようになったら、かなりの威力になるのではないか?

鞭部分は漆黒の何かで作られている様子で、興味本位で触れてみると、それは何かの鱗であることが分かった。

モンスター素材の鞭なのだろうか?

試しに振ってみようとするが、片腕では重すぎて、とても持ち上げることはできそうにない。

どうしたものかと悩んでいると、突如として辺りが一瞬で暗い闇に覆われ始める。

「うわわっ、な、何だ!?」

自分の身体以外は、何も見えない。

多分間違いなく、この鞭が原因だろうが…これ、どういうものなんだ?

考えていると、左手に握られた鞭がブルブルと震えている。

その振動が段々と大きくなっていくのが分かったが、俺はその手を離さなかった。

「お前、一体…」

思わずその鞭に話しかける。

バチィン!!!

「痛ぇ!!」

突如左手に電流が流れ、あまりの衝撃に鞭を手放してしまう。

しかし、その鞭は下に落下することはなく、フワフワと浮いたまま、俺の正面にスーッと移動する。

そして、強烈な光を放ったと思うと、一瞬で目の前に人間が現れていた。

その姿は人間の女性の姿で、周囲にバチバチと電撃を放っている。

虎模様のパンツに茶色の羽織を着ているから、ちょっとでも激しく動いたら、胸とかポロリしてもおかしくなさそうだ。

髪は金髪でショートカット。目つきこそ鋭いが、美しい容姿をしている。

最近、つくづく美人と縁があるな、俺…。

どうコンタクトを取ったものかと思ったが、まずは挨拶することにした。

挨拶する度友達増えるね!という、懐かしきCMの言葉を信じて。

「こんにちは、もしかしなくても、君はさっきの鞭の化身…だったりする?」

と、当たり障りのなさそうな言葉を選びながら確認する。

目の前の女性は左手を腰に当て、右手で髪クシャっとしながら、呆れたように溜め息をついた。

「お前、第一声がそれかよ…もっと怯えるとか驚くとかしたらどうだ?」

至極真っ当な事を言うな、この人。

「まぁいいや…お前の言う通り、俺はあの鞭の中にいた魂。かつて鵺と呼ばれていた存在のなれの果てだ。お前、俺の所有者になるのか?」

鵺だって!?

あの有名な大妖怪が、なんで異世界に?

疑問は尽きぬばかりだが、聞かれたことには答えねばなるまい。

思考のスイッチを切り替えて、回答を絞り出す。

今のところ、敵意は感じない。

「え?うーん、どうだろう。手に持った感覚はすごいしっくり来たけど、滅茶苦茶重くてさぁ、とても振り回せるとは思えないんだよね…」

もうちょっと軽くなってくれればいいんだけどな。

俺が真剣に悩んでいると、何やら変なものを見る様な目で見てくる鵺。

「なんか、気の抜けた奴だなぁ…これを見てもそんなことが言えるか、試してやるよ」

「え?」

真っ黒な空間に、彼女を中心にして禍々しいオーラが満ちていく。

不穏な空気に、俺は身構えた。

背の高い女性のシルエットが膨張していき、それを見届けると、化け物が姿を現した。

猿の頭、狸の胴体、虎の手足、そして蛇の尾。

血のような真っ赤な瞳がカッと見開くと、辺りのオーラがより濃密になった。

「これが俺の真の姿だ。この姿なら、お前を今すぐ食っちまう事すら出来るぜ?」

「へ、変身した!?」

というか、何だろうな。

禍々しい気こそ満ちているけれど、やっぱりこいつ、俺に害を為す気は無いんじゃないか?

多分やれるなら、何も言わずに速攻やっているだろう。

そう思ったら、全然緊迫した状況じゃない様に思えてきた。

「格好いいなぁ…そんなことまで出来るのか。なぁ、ちょっと触ってもいいか?」

変身というロマン現象を目の当たりにして、俺はテンションが上がってきていた。

そんな俺の様子を見て、今度は少し驚いた様子の鵺。

「…本当に変な奴だな、お前。この姿を見てビビらなかった奴は誰一人いないってのに」

「んー…本当に俺を食い殺す気があるなら、すぐやれただろうしさ。何よりお前からは、敵意とか悪意とかを感じなかったから。本当に殺す気で来る奴って、もっとちゃんと怖い気がする」

魔王候補ファルズフ。

あいつが最後に向けてきた殺気は、本当に怖かった。

あの時俺が戦えたのは、守らなきゃいけないと思った子が後ろにいたからだ。

そうじゃなきゃ、もっと早く逃げていた。

あの時の悔しさが蘇り、ギリギリと歯を食いしばっている。

もし目の前の存在が、あの武器の中の魂なら。

俺に出来ることは一つだな。

「もし、俺がお前を使ってもいいなら…良ければ力を貸してくれないか?」

俺は気づけば、鵺に頭を下げていた。

鵺は日本では名の知れた妖怪の一匹だ。

彼女が人よりも上位の存在であるのなら、目上の存在である彼女には、本来はこういう立場でなくてはならないだろう。

「今はまだ冒険者になり立てで、雑魚極まりないんだけど…一つ一つちゃんと積み上げて、大妖怪のお前に恥じない様に、強くなるって約束する。だから、俺と一緒に戦ってほしい」

俺がそう言い終わると、少しの間の後、何やら笑いを堪えるような震える声で、鵺は言った。

「急に真面目になったな…妖怪に、しかも、魂だけの存在に頭を下げるとか、お前マジで変な奴だよ」

「そ、そうか?」

正直、今おかしな行動をした自覚はない。

これまでの所有者がそうだったのか?

鵺は先程の人間体に戻ると、左手を差し出した。

「いいよ、俺を使え。この握手を以て契約成立。俺の呪いのオーラを物ともしなかったお前なら、きっと呪われることもなく、正しく使ってくれるだろうよ」

鵺のその言葉を聞いて、俺はまたもテンションが上がった。

「いいのか!?ありがとう鵺!!」

そして、思わず抱き付いた。

妖怪のはずなのに、柔軟剤のいい香りがするってどういうことだ?

でも、こんなにいい匂いなんだから、やっぱり悪い存在じゃないよな!

鵺は少々慌てた様子で、俺の背中をポンポンと叩く。

「分かった!分かったから!ええい、離れろ馬鹿!!」

俺の腹に、鵺のボディブローが叩き込まれる。

「ぐはぁっ…」

俺は腹を押さえ、地面に伏した。

「ったくもう…だが、これでもう、俺を重くは感じないはずだ。現実に戻ったら振り回してみろ。それと使い方に困ったら俺を呼べよ?いつでも意思の疎通は可能だから呼びかければ答える」

「おぉ…すごい、そんなことまで出来るのか」

俺は、別れる前にこれだけはやっておかなければと、あることを思いつく。

「お前の名前…鞭の銘はちゃんとあるし、妖怪としての名前も鵺ってのがあるけど、呼び名みたいなのが欲しいな…」

鵺はトラツグミとかって呼ばれていた筈だけど、そのまま呼ぶと厳ついよな…。

数分間頭を悩ませ、俺は結論を出した。

「つぐみ、ってのはどうだ?呼び名。女の子っぽくて良くない?」

「いいよ、名前なんて何でも。好きに呼べよ」

プイっとそっぽを向いてしまったつぐみ。

あれ…あんまり嬉しく思われてない?良かれと思ってやったんだけど。

「じゃあ、それで!また何かあったら声かけるから!」

俺が早口にそう言うと、周囲の風景は元に戻っていた。


「…」

俺はすぐにお店の外の広い場所に出て、周囲に人がいない事を確認してから黒い鞭を構える。

「こんな…感じかっ!?」

上から下に、パシィン!!と軽く叩き付けるイメージを思い描きながら鞭を振るうと、不思議なことに、まさにその通りに黒い鞭がしなり、床を叩いて音が鳴った。

先程のような、手に持つことは出来るが振り回せないという不思議な重さは感じなかった。

「それにするかの?」

ギンジロウが俺の満足そうな表情を見て、声を掛けてくる。

俺は、今自分がいる場所から10メートル程先まで伸びきった鞭を丸めて、労わるように手に持った。

「はい、こいつにします!!」

声高に答えた俺を見て、ギンジロウは満足そうに頷いた。

「さて、そろそろトウキチの奴が戻ってきておる頃じゃな。戻るぞ?」

「オッケー、行こう」

愛剣と同様の頼もしい存在感を放つ黒い鞭を携え、俺はギンジロウの後を追う。

俺の装備選びは、まだまだ終わりそうになかった。


どうも、夜光猫です。

ようやく更新で来た9話、いかがだったでしょうか?

早く冒険に行けよ…という声が聞こえてこなくもないですが、ごめんなさい、もうちょっと付き合ってください!!

今回の遠征で、ソウマの冒険者としての地盤を固めたいと、作者としては思ったので、急成長させすぎでは?と思われても仕方ないレベルで、ソウマの強化を進めてしまっているかもしれません。

ですがご安心を。魔王候補は規格外な連中ばかり。例え優れた装備を得ても、今のソウマでは逆立ちしたって勝てません。

ソウマがファルズフに傷を負わせられたのは、彼女が舐めプをしていたからです。本当は彼女、とても強いんですよ?…本当ですよ?

早く修行を描いて遠征を開始したいよ!と自分の中の天使と悪魔が駄々をこねていますが、それをガン無視し、心を鬼にして彼ら彼女らの装備品選びを描こうと思います。

それでは今回はこの辺で。

読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。



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