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蒼の勇者と代行戦争  作者: 夜光猫
第1章 新米冒険者 編
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第8話「師匠現る」

強者、出現。

俺とアルメリアは、ルーナという女拳闘士と出会った。

そして、彼女に連れられて、先程の路地裏から徒歩10分の場所にある酒場に入った。

店の名前は「バッカニア」というらしい。

「席は取ってあるから心配しないでいいよ」

迷わずに2階へと上がるルーナ。

俺とアルメリアが2階へ上がると、ルーナは一番奥の隅にある席へ座る。

「ほら、座った座った!」

「…はいよ」

俺は右側の椅子を、音を立てないようにして引いて、そのまま右手でアルメリアにその席を譲った。

「あ、ありがとうございます」

「うん」

俺は左側の席へ静かに座り、ルーナと向かい合った。

両手で頬杖を突きながら、からかうように言う。

「へぇ、紳士なんだね?まだ若いのに、教育が行き届いてるなぁ」

「確かに俺の身体は15歳だが、年齢は24歳だ…こっちに来る時、なぜか若返っちまったんだよ」

「こっちに来る?…あぁ、君は転生者なんだね」

やっぱり、知ってるのか。

この世界の冒険者にとって、異世界転生というのは常識らしい。

アルメリアも、俺の話をすんなりと受け入れている。

この辺りの話も聞いてみたいが、本題はそこではない。

「まず、ルーナ。君は俺たちが魔王候補と戦ったという話を聞いて、ギルドを介して俺たちにコンタクトを取った…それは間違いないよな?」

俺の質問を、彼女は大きく頷いた。

「うん、そうだよ。僕はこの街に魔王候補が来たという話を聞いて、それを探っていたんだ」

メイド服のようなウェイトレスの服を着た女性が、俺たちの前にお冷を置いて立ち去る。

メニュー表を開いて、どれにしようか考えていると、先程の質問にアルメリアが問い重ねる。

「あなたはなぜ、魔王候補をお追いになられているのですか?」

ルーナはその短い白髪の毛先を弄りながら、複雑そうな笑みを浮かべる。

「うーん…申し訳ないけど、実は僕が追いかけてるのは、魔王候補じゃないんだよね」

ルーナは眺めていたメニュー表を閉じる。

アルメリアの注文が決まったかどうか隣を見ると、彼女も既にメニュー表を見てはいない。

「では、どうして魔王候補の噂を調べていたんだ?」

そう問い質しながらテーブル上にあったベルを鳴らし、店員さんを呼ぶと、先程とは違うお姉さんが俺の注文を確認する。

俺が注文を終えて、アルメリア、ルーナの順で注文を終えて、お姉さんが立ち去る。

ウェイトレスのお姉さんの背中を一瞥し、距離が空いたことを確認したルーナが答える。

「それは…うん、今回の話の、まさに本題の部分になるんだけど」

そこでルーナは一度言葉を切り、さっき机の上に置かれたコップの入った水を持つと、そのままお冷をグビグビと飲み干して、ぷはぁっと大きな息を吐いた。

「僕は、魔王軍についた友達を追いかけてるんだ。その子を連れ戻すためにね」

一息にそう言った彼女の目は、俺たちを見ているようで、どこか別の遠くを見ているようだった。

その穏やかな口調に、懐かしい日々を想う郷愁のような想いを感じ取ったのか、アルメリアは、まるでルーナを労わる様に口を開いた。

「そうですか、お友達を…」

アルメリアは心配そうにルーナを見ている。

俺はふと気になって、あることを確認してみようと考えた。

友人を心配する気持ちは理解できるが、円滑に話を進めたい。

「なぁ、ルーナ。俺はこの世界に来てからまだ日が浅いから、確認したいんだが…魔王軍ってのは、一体どんな組織なんだ?」

思えば奴らに対しては、この世界で悪事を働く悪い奴ら、くらいの認識しかないのだ。

まぁ、ファルズフとの交戦によって、倒さなくてはならない敵だと実感することはできたが…今後も戦っていくのであれば、少しでも奴らを知らなくてはならない。

俺の初歩的な質問に、しかしルーナは親切に答えてくれた。

「そうだね、まずはそこからか。まず、魔王軍のトップには、当然ながら魔王がいる…いや、いた、って言い方の方が正しいね。数十年前、魔王が老衰によって死に至り、それによって魔王が不在となった頃から、魔王候補と名乗る者たちが現れるようになった」

その辺りは理解できる。

魔王側の神…区別の為に邪神と呼ぶが、その邪神が、俺の元いた世界で死んだ人間たちの中から、生前悪事を働いた者達を魔王候補として召し上げ、次期魔王を決めようとした。

どのように魔王を決めるのかは、まだ分からないが。

「勇者候補と名乗る者達は、それより以前から現れているけれど…魔王軍と勇者候補達の戦いは、まだ続いている。もうかれこれ数百年くらい、戦い続けているみたいだね」

「数百年!?」

そんなに長い歴史があるのか、その戦いは。

「魔王軍側と勇者候補…または冒険者側だね。それぞれの戦いの中で、冒険者となる者もいれば、鍛冶屋などの職に就くものもいる。そして…」

「魔王軍側に付く者達もいる、ということか?」

俺の質問に、今度は無言のまま、ルーナは頷く。

なるほど、納得がいった。

それと、もう一つ気づいたのは、彼女が探している相手だ。

「君の言う通り、獣人族の中にも、僕のように冒険者になる者もいれば…魔王軍に付く者達も確かにいる。僕の友人も、魔王軍へ付いた者の一人だ」

「…!」

隣で、アルメリアがハッと息を呑んだのが分かった。

そりゃあそうだろう。話の流れで察しがついた俺でも、改めて驚いてしまう程だ。

強い意志と覚悟を感じさせるその眼差しに、気付けば俺は引き込まれていた。

「僕が君たちにしたい依頼は、今から一か月後、この街からさらに北東に位置する場所にある、遠く離れた遺跡に現れる、魔王軍傘下の盗賊団。それを僕と共に撃退して欲しい」

魔王軍傘下の盗賊団…なるほど、そんな連中もいるんだな。

「君の追う友人も、その盗賊団にいるのか?」

「それは間違いない。もっとも、盗賊団の一員としてではなく、その彼らを指揮している、魔王軍直属の暗殺部隊からの派遣だ。僕の友人を含めて3名いるらしい」

「…暗殺部隊と来たか」

物騒な単語に、アルメリアは怯えた表情を覗かせるが、すぐに気丈に振る舞う。

その様子を見ながら、俺は続けて確認をした。

「その盗賊団の戦力は?」

「そいつら自体は、ただのならず者の集まりだよ。多少人数がいるくらいで、僕らの敵じゃない」

こいつは何を持って敵じゃないと判断しているんだ?

「だが、僕らが1対1で彼ら一人一人と戦えるわけじゃないから…戦力は確かに向こうのほうが上だし、危険であることに変わりはないね」

向こうが少なくとも10人を超えるのに対し、こちらは現状3人しかいない。

戦力に差がありすぎる。

せめて、もう10人分くらいの戦力が欲しいが…。

「他に、戦力の当てはないのか?君がさっきの手合わせで本気を出していないことは分かってるけど…それでもたった3人でなんて、正直言って無謀だ」

負け戦に乗じるほど、俺は勇者候補という肩書に固執していない。

自分一人なら、それでも協力を惜しまなかったかもしれないが…今はアルメリアもいる。

仲間を巻き込んでまで、勝てる見込みのない戦いをするつもりはない。

しかしルーナは、俺のそんな考えも織り込み済みの様子だった。

既に俺を納得させるための条件は用意している…というような、ちょっと得意げな表情。

「その辺りは大丈夫。僕に考えがあるよ」

ルーナが偉そうに腕を組むと、一人称の割に女性らしく育ったそれが、組んだ腕に乗っかる。

思ったよりもあるんだな…、なんて極めてどうでもいいことを考えていると、こちらに足音が近づいてきていた。

そして、その足音の主は、こちらを一瞥してすぐに、どすんと四つ目の席である、ルーナの隣に座った。

彼の顔に刻まれたしわが、長い年月を歩んできた事をこちらに伝えている一方、その肉体は俺やアルメリアは疎か、俺より背の高いルーナをも上回っている。

「ルーナよ、こやつらがそうか?」

「うん、そうだよ」

「そうか…ふむ」

じっとこちらを見つめる老人。

彼の髪は銀色。その頭部には、ルーナと同じ様な獣の耳が生えている。

否、同じような耳ではない。ルーナは垂れ下がったウサギの耳だが、彼は犬のような耳だ。

「少年…儂は犬ではない、狼の獣人じゃ」

心を読まれた!?

だが、そんな彼の表情は変わらない。

「二人にも紹介するね。この人は僕の師匠で、ギンジロウ先生。ソウマの言うところの『10人分の戦力』だよ」

そんな紹介を受けた彼は、またも表情一つ変えずに挨拶する。

「ギンジロウという。姓はない。うちの馬鹿弟子が迷惑をかけてすまんが、よろしく頼む」

と、丁寧に深く頭を下げてくる。

なるほど、この鍛え上げられた肉体…ははーん、さてはこいつ強者だな?

正直、これはとても頼もしい。

俺はさっきまでの自分の心配が杞憂であった事に、そっと胸を撫で下ろした。

「メル、どうだろう?この依頼、受けてもいいか?」

アルメリアへ質問すると、即答された。

「もちろん、受けましょう!」

だよな。途中から、怖がりながらもかなりやる気スイッチが入ってたのは分かってたよ。

であれば、俺も断る理由はない。

「その依頼、受けるよ。二人とも、よろしく頼む」

俺はテーブル越しに、二人と改めて握手を交わした。

タイミングのいいことに、そこで注文した料理が運ばれてきたので、俺は景気よく、頂きますも言わずにかぶりついたのだった。


そして、料理を食べ終わった後、俺たちは引き続き今後の方針を練る。

「何?お前達、レベル1なのか?」

俺たちは冒険者になりたてであること、パーティメンバーが2名しかおらず、クエストを受けられない為にトレーニングをして過ごしていた事を明かした。

「そうなんだよ。戦力として期待してもらっているところ、申し訳ないけど…」

「しかも、ソウマ様は天恵の影響で、レベルが上がらないんです」

俺の開示した冒険者カードを眺めて、その長い顎鬚に指で触る。

そして、本当に訝しむ様な顔になって、一言。

「ふむ…中々変な奴だな、お主」

余計なお世話だ!!

しかし、そろそろクエストを受けなければ、俺達の生活的にも危機なのは事実。

そこは明日からすぐにでも、解決しなくてはならない。

「しかも、装備もまだ整っておらぬではないか…そんなのでよく魔王候補と戦って、生きて帰れたな」

「た、確かに」

言われてみて気付いたが、俺はまだ自分の防具すら購入できていない。

今、最中に吊られている魔剣一本だけだ。

アルメリアにしたって俺と似たり寄ったり…いや、彼女は武器すら持っていないか。

俺達のそんな現状を見て、大きな手で自分の髪をガシガシとかき回すギンジロウ。

「仕方ない…儂のポケットマネーから、お前達2人の装備代くらい出してやるわい、感謝せい」

マジで!?

現在進行形で金欠なので、願ってもない話だ。

「それは助かるけど…いいのか?」

「どうせお前達では初心者レベルの装備品しか付けられんよ。大した額にもならん。明日、儂と合流して武具市に出るぞ」

武具市???

俺が頭の上で疑問符を3つほど浮かべていると、ルーナが答えてくれた。

「武具市っていうのは、大きな街ではどこでもある、武器屋防具、アクセサリーを売ってる区画そのものの事だよ。この街にもあるんだけど…まぁ、行ったことはないよね?」

「ごめん」

「私も、ずっと教会に閉じ込められておりましたので…」

俺達があまりの無知さに落ち込んでいると、ルーナは大きくかぶりを振る。

「あぁ、いいよ、しょうがない事だし。で、明日装備を整えたら、明後日から6日間、僕ら4人でギルドのクエストをこなして、一緒に戦う感じを掴んでいこう。二人の実戦経験にもなるし、お金の問題も解決するからね」

なんだろう。

この世界に来てから、俺は本当に、人に恵まれてるよなぁ。

メリダさん、ダニーさん、アルメリアにルーナ、ギンジロウ。

その事実に感謝しながら、俺は了解とばかりに頷いた。

「空いた時間は、儂がお主らに体術の基礎でも叩き込んでやるわい。ちょうど久しぶりに、誰かを扱いてやりたかったんじゃ」

言いながら、手をポキポキと鳴らしている。

正直、ハードなのは勘弁して欲しいのだが…死なない為には仕方ない。

「助かるよ。正直、どうやって身体を動かせばいいかもわかってなかったんだ…こちらこそよろしく頼むって感じだ」

「ふむ…そうか、こいつは鍛え甲斐があるのう」

そうこう話しているうちにラストオーダーの時間になり、「今日はこの辺で」と店を出た。

「明日、君達の宿まで迎えに行くよ」

ルーナのそんな言葉を最後に、俺達は別れた。

出立は一週間後だ。

それまでに、少しでも強くなるぞ!!

と、遠征を前に決意を新たにして、アルメリアと共に帰路についた。


どうも、夜光猫です。


7話の投稿から少し間が空いてしまいましたが、8話、無事投稿です。今回は少し、全快に比べると短いかもしれませんが、多分次回もこんな感じかと思います。


パーティメンバーの加入…ではなく、それを上回る、初の遠征が決定しました。この話は、初期段階から既に書くことが決まっていたのですが、まさかこんな序盤でやることになるとは思わなかったです。本当に、適当に「こんな展開やりたいな~」というのを思いつく限り挙げて、そこでどんなキャラを出して…という、適当極まりない設定の初期段階ですが。


ソウマは戦いの天才ではありません。なので、「戦いの中でメキメキ我流で成長していく」ようなタイプの主人公ではないので、彼を成長させるのには必ず”修行”の2文字が付きまといます。ファルズフとの戦いで彼がアルメリアと生き残れたのは、ソウマ自身が生きることを諦めなかったからなのであって、改めて、本当によく生き残れたなと思いました。


そして新キャラ・ギンジロウ登場。どこかで強者のオーラ漂うお爺さんキャラを出したいなぁ、と思って、その場の思い付きで生まれたのがこの人です。彼は今でもとても強いですが、師匠ポジションの一人でもあります。ソウマが彼に師事することで何を得るのか、それを書くのが今から楽しみでなりません。


それでは今回はこの辺で。

間が空いてしまい申し訳ない…!9話は既に書き始めているよ!頑張ります!!

読んでくれた方がいれば、その方に最大限の感謝を。

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