王都へ
「我々は異邦人です。」
低めの落ち着いた声が響いた。
「異邦人?」「2人ともか?」「落ち人じゃないのか」「落ち人で女は珍しいんじゃないのか?」「落ち人じゃなくて異邦人だぞ」「どちらにしろ異世界人なら2人で火龍討伐も可能か」「美人なら俺も踏んで欲しい」
ザワザワしてるね。最後におかしいのがいたけど。
オズワルド総団長様がサッと左手を挙げると、騎士達が姿勢を正し口を噤む。
「落ち人ではなく異邦人か。我々に敵対する意思はあるか?」
「えーっと、こちらに敵意を向けないなら、という事が前提ですが。ありません。
私たちは森の奥から南の方向にある国を目指していて、その途中でこの龍に会いました。かなり殺気立っていて、このまま進めばその国に被害が出ていたでしょう。善良な人達が住むと聞いたその国に被害が及ばないように龍を倒しました。重ねて言いますがあなた方に敵対する意思はありません。
そもそも初対面ですし。」
なるほど、と総団長様は呟き思案顔。
今のところの印象としては誠実そう。上に立つ人物として納得って感じ。
元の世界での私と同世代くらいかなぁ.....今は私の方が断然若いけどねっ。
「この辺り一帯は我々の住まう国、サウザード王国だ。
王城を中心に城下町が広がり王都と呼ばれている。多種多様な種族が共に助け合い暮らしている国だ。
貴殿らが目指してるのはサウザード王都ということであれば我々に同行してもらいたい。
細かな事情も聞かせて欲しいのだが、可能だろうか。」
見ず知らずの、身元不明で不審人物の私たちに対してなんて丁寧な対応‼︎
さすが『神様』おススメの国の人だわ。
チラリとシュバルツを見れば、うむと頷いてみせた。
なんか偉そう弟のクセに。
まぁ私たちに否やはないので大人しく付いて行きましょう。
「龍、どうします?」
「後で取りに来させよう。洗浄と解体、運搬に人手が必要だが今は騎士しか来ていないのでな。
王都に戻ったらギルドに依頼すると良い。依頼料がかかるが火龍ともなれば皆喜んで受けてくれるだろう。」
「その方がいいですか?解体も運搬も二人で出来ますけど。」
「出来るのか?それは凄い事だが.....出来ればギルドに依頼を出して欲しい。龍の素材ともなればなかなかお目にかかれない貴重な物だ。この辺りは他の国に比べて希少価値が高い魔獣が多いが、それでも龍は滅多に出ない。確か前回は100年近く前か。ギルドや冒険者にとって貴重な経験となるだろう。どうだろうか。」
それまで無表情で無言だったシュバルツが突然口を開いた。
「別にいいんじゃないの?龍の素材も今必要な訳じゃないし。これからお世話になるかもしれない国なんだから、総団長様のアドバイスに従っておこうよ。」
少し恩を売っておこうって事ね。
「……と弟が申しておりますので、そのようにさせて頂きます。」
にっこりと微笑み総団長様に告げる。
マントの下は痴女スレスレのボロボロだし若干龍の血が臭ってるけど!ゴメンね‼︎
「弟?」「弟だってよ!」「誰だ夫婦って言ったの」「よく見ろよ顔立ちが似てるじゃないか」「夫婦だって似てるヤツらいるだろ?」「独身か?」「知らねぇよ!」
なんだろう騎士ってもっとカッチリしてるんじゃないの?面白いからいいけど。
異世界転移定番のモテ期到来か?
「浮かれる前にやるべき事が山積みだからな。」
シュバルツさん心読まないで。そんな魔法あったっけ?
「昔から顔見りゃ何考えてるかだいたい分かる。」
この前までお母さんだったのに、親だったのになんか立場弱くなってない?
若返ったら私の精神年齢まで下がったのかしら。
そんなやりとりが落ち着いた頃、騎士団側も今後の行動が大筋で決まったらしい。
「ではご案内させていただこう。サウザード王国へようこそ異邦人方。」