初めての火龍討伐
「あらヤダ大変」
森を抜けるべく一路南を目指していた私たちは、割とすぐ大きなドラゴンさんと出会いました。
ドラゴンっていうよりでっかいトカゲって感じ?翼も無いし。
鼻息荒く『やんのかオラ』感満載。
まだまだ人里までは遠そうなのに、倒すのに少々手間がかかりそうなドラゴンさん。
何故さん付けかと言うと、遠足のしおり…じゃなかった異世界の手引きに『龍種には知性がある個体が多く、温厚である事が多い。
大抵は群れで生活しており、ナワバリから出ることは非常に少ない。
稀に好戦的な個体が産まれる事があるが、その個体は群れの秩序を乱すとして、そのほとんどが群れから追放される。』とあったから。
知性があるなら呼び捨てはちょっとね。
でも追放された個体は目に入る生き物全てを敵とみなし、自身の命が尽きるまで暴れるんだって。
全てを敵とみなして見境いなく暴れるって……厨二かなぁメンドクサ。
しかもよ?手引きによるとこのドラゴンさんは火龍って種類らしく火ぃ吹くの!
森で!
火‼︎
森が燃えたら消すの大変じゃ無いのヤダー。
はぐれ個体って倒しても、元の群れからの報復はないみたいだし。
ほっといたら森の先の、私たちが目指してる国に被害が出るだろうし。
よし。やろう。
あ、ところで。
「ねぇ、名前どうする?」
「は?名前?俺らの?今?」
「だってさ、この世界の人に会う前に決めとかないと。元の世界の名前って訳にいかないでしょう?
どうしようか。」
「じゃ俺はシュバルツかな。黒髪黒目に因んで。」
「じゃあ私はマリアかなぁ。思いつかないからありがちだけど。」
「じゃあマリア姉さん、ドラゴン討伐行きますか。」
「行こうかシュバルツ。流石にドラゴンならレベルも上がるでしょう。」
森での修行でレベルを爆上げしたけど、流石に上がり難くなっていた私たち。
既に人外な強さだけど、更なる安心安全を求めてドラゴン討伐しちゃいましょう。
なんだか人里の方から生命反応が複数近づいてきているし、早めに決着を付けたいところ。
魔法による身体能力強化バフ盛り盛りで一気に片をつける!
ドラゴンにはデバフとなる守備力低下や視界を悪くする暗闇の魔法、あと聴力低下の静音魔法。
できる限りの対策をとるけど流石にドラゴン。
大人しく狩られてはくれないね。
その巨体をくねらせれば、周りの木々が薙ぎ倒されていく。
皮膚も赤黒い鱗に覆われ、簡単には刃が通らない。
それでも強化した身体で双剣を振るい、少しずつ傷を与えていくと徐々にドラゴンの動きが衰えてきた。
シュバルツも私に強化魔法を重ね掛けしつつ、自身も刃に魔法を乗せて敵の体力を削っている。
私もシュバルツも飛び散る血飛沫で汚れてきた。
怪我こそしてないけど、それなりに痛みは感じるから平気な訳じゃ無いんだなぁ。
ちょっとシンドくなってきた。そろそろ倒れてくれないと、今日中に森から出られないじゃない。
森の外から近づいている生命反応は、おそらくはこの世界の人たちだろうと思う。
ドラゴンがこれだけ大暴れしてるんだから、警戒かもしくは討伐に向かっているんだろうし。
この世界に馴染みたい私たちとしては、出来ればあまり凄惨な姿は見せたくないかな。
警戒されてもイヤだし出来れば嫌われたくない。最初から好かれようとは思わないけど。
困ったなぁ
「姉さん集中して!あと一息だから‼︎」
ヤバイこれ後で怒られるヤツだ……
よし!お姉ちゃん真面目に頑張るよ!
身体強化をかけ直し、双剣を軽く握る。
シュバルツがドラゴンの気を引く様に氷魔法を放つ。
気を引くだけでなくかなりの威力の氷弾は、ドラゴンの顔面を撃ち叩く。
思わず目を閉じたドラゴンは頭を下げ、氷弾を避けようとする。
私は全力で駆けドラゴンの顔の正面、ギリギリのところで思い切りジャンプ。
後頭部に降り立ち、渾身の力で双剣を延髄付近に叩き込む!
ズシンともドスンとも聞こえる重たげな音と共に、巨体が森の大地に沈んだ。
双剣を叩きつけた延髄付近からは、夥しい量の血が吹き出している。
私は息絶えたドラゴンの体の上で、上がった息を整える。
もちろん血塗れ。
シュバルツは動かないドラゴンの側に立ち、若干の呆れ顔で私を見上げていた。
もちろん血塗れ。
ドラゴンの血って、ちょっと臭いのね。ゴメンねシュバルツ、次は違う倒し方考えようね。
だからゴメンて。
呼吸が整ってからしばらくすると、周りの状況を確認する余裕が出てきた。
私たちの周りは円形に木が薙ぎ倒されていて、まるで広場のようになっていた。
自然破壊だわー。怒られるかなー。
その広場を取り囲む様に、騎士の様な方々が立っていた。
皆さん唖然といった表情だけど、とりあえず敵意はないと思っていいかな?