一番隊と異世界人
「サウザード王国」
大陸の南方にある大国。
人、獣人、ドワーフ、エルフ、そしてそれぞれの血が混ざり合っているダブルやトリプルと呼ばれるもの。
あらゆる種族が暮らす場所として有名な国。
温暖な気候に恵まれ作物が豊かに実る。
近隣の国とは友好関係にあり、山間の国からは鉱物資源が、海に面した国からは海産や塩が入る豊かな国。
サウザードから輸出されるのは主には魔獣の素材。
それと共にサウザードから有能な人材の派遣を望まれる事も多い。
サウザード国民は年齢や適性によって教育が受けられ、経済的に難しい家庭は、申請すれば国からの補助が受けられる。
この教育体制によって、近隣諸国より多種多彩な人材を育てる事が出来るのだ。
この教育体制に当てる国の資金。
これを支えるのが、サウザードの北に広がる鬱蒼とした森で討伐される魔獣の素材だ。
通称 火龍の森と呼ばれるこの森は、奥に行けば行くほど凶悪な魔獣が生息しているし、最奥に至っては世界四大龍といわれる最強種の一つ、火龍の群れが住み着いている。
火龍を頂点にたくさんの魔獣が闊歩しているのだが、腕自慢の冒険者にとっては実に稼げる場でもある。
全ては自己責任、生きるも死ぬも己次第。
腕自慢の冒険者は狩った獲物を持ち帰りギルドで売り、生計を立てる。
それを国が買い取り、他国との交渉材料にしたり贈り物としたり。
上手く回っているのだ。
国の境には一応壁が張り巡らせてある。魔獣対策だが、万全ではない。
特に国の北側、火龍の森へと続く街道付近は危険度が高い。
森は広大で、国土の倍はあると言われている。
サウザード国の北側は、森に隣接しているとあって魔獣の出現率も高い。
その為、森からはぐれ出た魔獣の、その警戒と討伐も兼ねて国営の騎士団が配置されている。
身体能力の高い獣人種やエルフなどの亜人種が配属されている第四騎士団の、さらに精鋭を集めた部隊。
通称『一番隊』と呼ばれる面々。
獅子獣人の血を引く隊長アデル・ランバートと
エルフ族の副隊長ミシェールが率いる総勢30名が、火龍の森からの脅威の防波堤であり、貴重な魔獣素材を主に国にもたらしていると言っても過言ではない。
もちろん冒険者も頑張っているが、一番隊がもたらす魔獣素材はその希少度が高い。
「なんか森が騒がしいっすねー」
狐獣人系のリックが耳をピクリとさせる。
隊の詰め所での休憩中、他の隊員も肌が騒つく感覚を覚えてソワソワしている。
音が聞こえる訳ではなく、気配というか予感というか。
獣人特有の感覚。今はまだ遠い。
なんだろうこれは。遠いのにこれほど強い感覚は初めてかもしれない。
「次の見廻りは人数を増やす。
今は……ミシェール達が出ているから次は俺が行く。詰め所には念の為に2人残そう。
後は装備着用で全員だ。」
何かがおかしい。
騒つく感覚がだんだん強くなり、気配が時間を追うごとに大きくなってゆく。
その時
詰め所の扉がバタンと吹っ飛びそうな勢いで開き、見廻りに出ていた隊員が1人駆け込んで来た。
「火……火龍ですっ!群れからはぐれたらしい火龍がっ!こちらに向かっていますっ!」