ヒーローの正体
隣に座る泰人には雪が少し積もり、震えているのが分かった。
私は付けていた白のストールを彼の肩にかけ、つい本音を溢した。
「何でこんなところにいるの?」
泰人は真っ直ぐ街並みを見ながら、返事をしなかった。
私はふとこの山の麓から二人でそり遊びをしたことを思い出し、彼に言った。
「おばあちゃんが心配してるから、帰ろう。またここにいたら、怒られるよ。私たちはもう大人になったんだから。」
「大人…か。姉ちゃんさ、仕事はどうしたの?アナウンサーだったんだろ?」
「やめたよ。局長と不倫したのバレたからさ。」
正気のないような声で初めて口を聞いた泰人に、私はつい自分の愚かな現状を暴露した。
すると彼は鼻で笑って言った。
「やっぱ双子だね。愚図。」
「本当そう。泰人はなんで暴行事件なんて起こしたの?」
「俺も先輩の女好きになっちゃって、取っちゃったわけ。お前みたいなもんだな。」
「血は争えないね。母さんと。」
私達は目を合わせて、苦笑した。
13年ぶりに話した兄弟の会話にしては、最悪すぎた。
「どうやってこれから生きていけばいいんだろうね。」
「俺もそれずっと考えてた。」
泰人の目は儚く、まるでこのまままっすぐ山から滑り落ちていきそうだった。
そしてもし彼がそうしたら、自分も後を続くような気がした。
犯してしまった罪は消えない。
私たちは償って生きることさえも許されないような気がした。
しかしその時後ろから、聞き慣れた声が聞こえた。
「泰人さん、咲良さん。」
それは懐かしい、実家の隣に住んでいた五つ下の幼なじみだった。
確か最後に会ったのは10年前だったが、私は彼の顔をよく覚えていた。
「お前、何でここ知ってんだよ。ばあちゃんから聞いたのか?」
「そう、連絡が来たから探してたんだ。」
彼は泰人がいなくなってから隣に引っ越してきたはずなのだが、彼が一緒にゲームをする唯一の友人だろうと二人の会話から私は察した。
そして私はその彼を不可解に見つめていた。
「ごめんね、咲良さん。会う約束があったのに。でもここで会えて良かった。二人とも、家に帰りませんか。」
そう、彼がscoopyだったのだ。