訳ありの双子
人気アナウンサーが、命の声を枯らして一年で一番の繁忙時期にいきなり仕事を辞めた。
衝動的に5年間の全てを捨てた私は、まだこれから先どうするのかまだ決めていない。
身の回りの最低限の荷物をスーツケースにまとめて、私は地元に帰ることにした。
祖母に地元に戻ることを伝えると、歓迎はしてくれなかった。
心優しく私を育ててくれた祖母でも、無責任な行動をとった孫に情けなくなったのかと思った。
もちろん母には何も言っていない。
彼女は私達が産まれる前からずっと水商売をしており、今や自分の店を持っていて、実家に帰らず寝泊りしていることが多い。
不倫の事実を知る前からも、10代で双子を産むとすぐに子供を祖母に預けた過去から元々あまり仲は良くなかった。
母の存在さえ無視できればまた実家にいることもできるが、間に入る祖母には迷惑がかかるだろうと躊躇っていた。
しかしとりあえずは実家に帰省した私は、夕方に実家の戸を開けた。
「お帰りなさい。」
「おばあちゃん、ただいま。」
久しぶりに会う祖母はまだ現役で働いてるせいか、以前と変わらぬ姿でとても安心した。
私はその場で思わず抱きつき、しばらく抱擁を交わした。
そしてふと、玄関に男性用の靴があることに気付いた。
祖父は自分が産まれる前に亡くなっていたし、祖母や母の恋人など浮いた話は聞いたことがない。
「誰か、男の人が来ているの?」
「先月、泰人が帰ってきたの。」
「え…。」
泰人は事件後、裁判にて実刑判決が下り刑務所に入っていた。
彼は高校を中退し実父の家を出てからは、建設関係の仕事をしながら交際相手との子供ができ結婚をした。
しかし同居していていた妻の両親と上手くいかず離婚をし、偶然にも私の住んでいた地方で働いていたようだった。
それは祖母が刑務所に何度か彼と会いに行ったときに聞いた話だった。
私は突然13年ぶりに弟と再会することに戸惑ったが、リビングに彼の姿は見えなかった。
「身寄りのない孫を引き取ったはいいものの、出所してから引きこもりがちでね。食事も一緒にはとってなくて、部屋で昔のゲームをしているのよね。最近は時々友達が遊びにくるけど。」
祖母はそう話し、ため息をついた。
唯一の双子の孫たちが、罪を犯し挫折して戻ってきた。
変わらず自由奔放に生きる娘もいて、祖母の心配事は計り知れない。
私は自室に荷を解いてから、恐る恐る泰人のいる隣の部屋のドアの前に立った。
仲が良く大好きだった弟の最後の記憶は5才…彼は素直で甘えん坊だった。
13年の月日が経ち、大人になった彼にどう対応をしていいか迷うが、とりあえず顔を見て話をしたかった。
「泰人?入ってもいい。」
「誰?」
「咲良だけど。」
「姉ちゃん?」
「そうそう。ダメ?」
「うん。」
しかし私は案外簡単に拒絶されてしまった。
引きこもる泰人に双子とはいえずっと離れていた私が強引に、側にも心の内にも入ってはいけないだろう。
祖母が心配しながらも見守ってきたのだから、私も一先ずそうしようと退散した。
結局彼に会うタイミングもなく、その日は終わった。