自虐的なクリスマス
私はしばらく、ラウンジのソファーで項垂れていた。
この先の人生、どうしていこうかと漠然と考えていた。
私にとって浩二との別れは、仕事を辞めることを意味していた。
彼に対しては恋心などは全くなかったが、このまま彼と一緒に仕事をするのは苦痛だった。
それは私だけでなく、彼と彼の妻もそうだろう。
私は浩二の妻を傷つけた罪から償うことは求められなかった。
しかし2人が幸せな家庭生活を再建していくために、私が消えることが何よりの償いだろうと思った。
『そうだね、不倫相手と豪華なルームサービスを食べたよ。その後、奥さんと修羅場。忘れられないクリスマスでした。』
その晩、私はscoopyに自虐的な返事を返した。
初めて告げる不倫の事実にどう返事がくるのか気になったが、彼の返事はなんて簡素なものだった。
『お疲れ様。俺はぼっちじゃなかった。最近仲良くなった友人とひたすらゲームしてたよ(^^)』
ーただのお気楽な大学生。
でも私はそんな他愛無いscoopyの反応にまた救われる。
私は独り、クリスマス用に売られていた安いワインを何本も買って飲み干した。
そして私は命と同等の価値でもあった大切な透き通るような声は、音を失った。
『年末年始、実家に帰ろうと思う。会える?』
『いいよ。俺はいつでも暇だから。何する?』
『ゆっくりしたい。漫画喫茶とか?』
『いいねー、俺も読みたかった本があるから。』
私は次の日出勤すると局長室に行き、浩二に別れを告げて辞表を渡した。
そして周りの目など気にせず自分のデスクを片付け、その日の仕事さえ投げ出して、スマートフォンの電源を切った。
私はそうして一瞬で、5年間の呪縛から逃げた。
ー私にはいよいよscoopyと会う何よりの楽しみがあるから。
そして退社した私は清々しく、新たな出会いを楽しみにこの街からも出ることを決めた。