生贄になりたい
『咲良さん、メリークリスマス。サンタさんはきてくれますか?俺は今年もぼっちクリスマス。母が買ってきてくれるケンタッキーを楽しみに待ってる(笑)咲良さんはご馳走食べてそうだね!』
クリスマス。
お昼前に、scoopyから連絡が来た。
しかし私は平凡な彼の日常に微笑むこともないまま、シャワーから戻った浩二に抱きしめられた。
そして返事をすることもなく、スマートフォンは床に落ちた。
仕事が終わってから、私たちはいつものホテルにきていた。
そして真っ昼間からルームサービスで豪華な食事と高価なシャンパンを開け、彼はすっかり恋人気分で私に接する。
「咲良、本当に君は綺麗だ。君と一緒にいられるなんて、最高に幸せな気分だ。」
にやけながら口説き文句を並べる中年男性を前に、私は鳥肌を隠しながら右から左へと受け流す。
そして虚な目をしながら、彼の欲望を拒まずに受け入れる私の罪は重なる。
不倫は残酷なものたと思う。
彼の妻はひと回り年下で、15年も連れ添っている。
彼女が短大卒業後すぐ結婚をし、専業主婦としてずっと彼を支えてきた。
私はつい大嫌いな母のことを思い出してしまった。
どうして母も妻のいる男を好きになり、不倫をやめられず、妊娠しても責任を取ろうとしない男の子供を産んだのか。
そしていきなり子供を一人盗られた時、どう思ったのか。
自分の侵した罪の償いだと思ったのか。
生贄は私の大好きな弟。
私は浩二の背中にしがみつき、見えぬところで止まらない涙を流していた。
こんなところで感情が露わになるほど、自分が弱り切っていることが分かった。
そんな私の感情など一生知ることもないだろう呑気な浩二は自己満足が終わると、ベッドのサイドテーブルにブランドの包袋を置いて帰ろうとしていた。
「5回目のクリスマスプレゼントになるね。愛してる。」
私に気持ちが悪くなるほど深い口づけをすると、振り返ることもないまま去って行った。
今日の虚無感はいつにも増して強い。
そんな自分も不幸だと酔っているようで嫌いだ。
ー私は彼に捨てられるまで、不倫から抜け出せないのか。そのころの私はきっと女として、アナウンサーとしての価値もない。
それなら私があの時、弟の代わりに生贄にならばよかった。どうせ玩具になるのなら。
私は包袋から高額なクラッチバッグを取り出すと、思いっきり床に投げた。
手提げ部分になっていた真珠の束が外れて、フローリング中に散らばった。
「偽物?それは私か。」
私は自虐しながらそのまま部屋を後にした。
そしてホテルから出ようとした時、名前を呼び止められた。
聞き覚えるのある声に恐る恐る振り返ると、背筋が凍った。
「お話したいことがあるんです。」
それは浩二が帰った場所にいるべき人ー彼の妻だった。
彼女はピンクベージュのフォーマルワンピースを着ていて、お腹が膨らんでいるようだった。
これから修羅場が始まるくせに、私はやっと罪が裁かれることに少し安堵感を感じながら彼女について行った。