彼の一言
次の日の昼、仕事が終わると私は機嫌良く自宅に向かった。
そしてマンションの宅配ボックスに、待ち望んでいた荷物が入っていた。
帰宅して小さな箱を開けると、年賀状数十枚とピラミッドのキーホルダーが入っていた。
「なんか普通すぎる。」
荷物の宛名はscoopy。
住所は地元の市役所、彼は個人情報をやけに隠す。
私が知っているのは、地元に住んでいる大学四年生で海外旅行が趣味なこと。
月に一回は海外に一人で行っていて、私にお土産を送ってくれる。
「起きてる?時差ボケ治った?」
「いつも真っ昼間に咲良さんが電話をくれるから、おかげさまで。」
「なんかもっと違うお土産を想像してた!」
「考えるの面倒くさくて。」
荷物を確認してすぐに電話をかけると、寝起きの彼が機嫌悪そうに出た。
もう大学の単位は取ったようで、卒業待ちらしく旅行に行ってない日はダラダラと生活しているようだ。
メールや電話で他愛ない会話で楽しませてくれ、小さな雑用を引き受けてくれる便利屋もしてくれる。
そんな謎が多い人とどうして私が親しくなったのか。
彼のことは親友の梨子が紹介してくれた。
彼女が入院中、外のベンチで日向ぼっこをしてたらうたた寝をしてしまい、地面に落ちそうになった時に助けてくれたのが彼のようだ。
彼は旅先で変なものを食べて腸炎を起こして、入院していたようだ。
気さくで明るい彼を、気晴らしにと梨子が半ば強制的に私に紹介したのである。
彼は私とは真逆の世界で生きている。
そして私が彼を知らないように、彼も私のこともよく知らない。
地方でアナウンサーをしている、くらいだろう。
私が彼に何も聞かないように、彼も何も聞かないから。
だからこうやって、毎日他愛ないことを気軽に話せる関係でいられるのかもしれない。
「年末年始はどこかに行くの?」
「今年は行かないよ。咲良さんは仕事?」
「そうね、年末年始はあちこちに駆り出されるの。」
先日悲惨な年末年始のスケジュールを渡された時、私は吐き気を覚えた。
自分で選んだ道だけれども、ここ数年は十分に休むこともできておらず仕事か不倫が私の日常だ。
「じゃあ、咲良さんは年末年始は地元には帰らないよね?」
「…そうだね。実家には帰るつもりはないかな。」
大学を卒業してからは、実家にほとんど帰っていない。
友人に会う時くらいで、実家自体に帰るのは母がいない時間帯を見計らって祖母にだけ会いに行く。
だからもちろん年末年始など帰りたいとさえ思わないのだが、彼の一言は私の人生を大きく左右することとなる。
「咲良さんに会いたいんだ。」
「え…?」
私からしたら彼は現実逃避、彼からしたら私は暇つぶしだと思っていた。
きっと彼が大学を卒業し社会人になったら、私のことなど忘れて自然に連絡がこなくなるだろう。
私はそれ以上を求めていなかった。
しかしそれもただ自惚れてるだけかもしれないと思った。
ー彼は私と会って話したいと、興味を持ったとか?
沈黙の中、頭の中をグルグルと考えを巡らした返事はこうだった。
「忙しいから、ごめんね。」
「わかった。」
彼はまるでこの話がなかったかのように別の話題に変えて、いつものように二人でくだらないことで笑い合う。
理由も聞かずあっさりと断ったくせに、私は彼の本心をそれからずっと気になって仕方がなかった。