戦闘開始
俺がメルの両肩をつかんでゆさゆさと揺らしていると、ケイオスのいつもの甲高い声で大笑した。
「クッハハハハ。聖剣は戦う気がないようだな。アラン敗れたり!」
ケイオスはバスターソードを振りかぶって俺に突進してきた。
いつも通りの攻撃パターンだ。
俺はこの初太刀を難なくかわして、ケイオスにカウンターの一撃をお見舞いする。
そう……いつもならば。
しかし、今日は敵がもう2人いる。
「……覚悟!」
ケイオスの攻撃と同時に、ポチ将軍の巨躯が俺に向かってぶっ飛んで来た。
武器は持っていない。
ただ、その大きな拳を握り締めている。
こいつ、格闘家か!
俺はスキル「跳躍」と「飛翔」を使って大きく後方に飛びのいた。
ハヤブサのごとく空中を高速で移動しながら、2人の攻撃から距離を取る。
しかし、ケイオスとポチは、俺と同じように空中を飛びながら猛追してきた。
俺は素早く上位魔法を詠唱した。
「……神雷裂柱!!」
神の光が俺を追撃するケイオスとポチの頭上に落ちる。
……はずだった。
しかし、破壊をもたらす光の帯はケイオスとポチに届かなかった。
正確に言えば、2人に届く前に、別の1人の頭上に落ちた。
それは、小さな城ぐらいの大きさはある半裸の大男だった。
全身を彩る炎の入れ墨。
古に滅んだはずの炎の巨人がそこにいた。
神話において神と並び立ち反乱を起こした巨人は、神の光を受けても平然と立ち尽くしている。
「どこから現れたんだ……魔王軍の新手か?」
困惑して巨人を見ると、その巨大な肩にベルーナが乗っていた。
ベルーナは恍惚とした表情でムチを振るった。
「我がしもべよ。行けっ!」
ムチが肩を叩く音とともに巨人が俺に向かって手を伸ばした。
どうやらベルーナの意のままに動くようだ。
なるほど喚魔将軍ベルーナは召喚士か!
炎の巨人の戦闘力をスキル「能力値開示」で測る。
――戦闘力4057!?
あれ?
結構ヤバいんじゃね?
「よそ見してんじゃねーぞ、ゴラァああ!!」
バスターソードの一閃が俺の首を襲った。
空中で身をそらし、何とかケイオスの剛剣をかわす。
その瞬間、左の視界の端に疾風が現れた。
ポチの上段蹴りだ!
かわせない!
いや、ここでかわしてさらに体勢を乱すと、ケイオスの第2波に備えられない!
スキル「身体強化」と「超回復」を同時に発動。
ポチの蹴りを左腕で防ぐ!
そして、蹴られた勢いを殺さずに、そのまま右方向にぶっ飛んだ。
ここは一端、間合いを取ることが必要だ。
再び距離を取って体勢を整えた後は、最も戦闘力が低いベルーナから倒す……。
と思った直後、背後から激しい衝撃を受けた。
全身を襲う痛みとともに、俺の体が大地に向かって猛スピードで落ちていくのが分かった。
スキル「超回復」でダメージを回復した後、衝撃の原因を知るべく身を回転させる。
すると、さっき俺が飛んでいた場所に巨大な手の平があった。
巨人野郎が俺を叩き落としやがったという訳か!
瞬く間に大地が近づく。
衝突を避けるためにスキル「飛翔」をフル発動。
さらに風の上位魔法を唱えて、大地から向かい風を受けるようにした。
俺は難なく華麗に母なる大地に降り立った。
ふっ、さすが俺!
……と思ったら空が一気に暗くなり、巨大な物体が俺の頭上から振ってきた。
なんと、巨人の足の裏だった。
「フンガッア」
そんな鼻息をもらしながら巨人は、俺に向かって足を振り下ろした。
「なんのっ!」
俺は両手で巨人の足を受け止めた。
スキル「身体強化」と「豪腕」を発揮し、その巨大な力を押し返そうとした。
「これしきの力で、俺を踏みつぶそうなど、ぐっぎいいいい!!!」
しかし、さすがは忌まわしの巨人族だった。
これだけ力を込めても容易にはねのけられない。
俺は戦闘力では巨人を凌駕しているが、力という点では分が悪いようだった。
結果、大地に両足、巨人の足裏に両手を縫い付けられたように動けなくなってしまう。
「さよなら、友よ」
遠くのいるケイオスがバスターソードを振りかぶってこちらにぶっ飛んで来るのが見えた。
「……勇者殿。お覚悟」
その隣にはポチがやはり高速で飛翔してきた。
「アハハハハッ、私たちの勝ちね」
巨人の肩の方向からベルーナの憎らしげな笑い声が聞こえてきた。
ムカつく!
スキル「飛翔」と「跳躍」の力も使って巨人の足を押し上げようとした。
しかし、ビクともしない!
あっ、ヤバい。
死を直感した俺は反射的に叫んでいた。
「メル!!!!!」