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最終決戦

「メル! 俺が囮になる。その隙にみんなを連れて逃げろ!」

 俺は魔王に向かって1歩を踏み出した。


「自ら死を望むか。よかろう、丸飲みにしてくれる」 

 魔王の口が再び広がり、無数の牙が光った。


 しかし、その醜悪な顔は、メルの背中によって隠された。

 メルが俺と魔王の間に立ったのだ。


「メル、どくんだ! 奴が俺を食って、体内に取り込んでいる間に逃げるんだ!」

「やだもんっ!」


「このままじゃ、5人とも死ぬんだぞ!」

「死なないもん! メルたちは、魔王城に来る前に勇者様から力を分けてもらったんだから!」


 力?

 魔王城に来る前?

 俺は、母さんがメルたちにキスをした様子を思い出した。

 もしかして、あの時に……。

 

 そして、母さんが分け与えられる力といったら一つしかない。

 スキル「アイテム化」だ。


 メルは勇ましく言い放った。

「だから、メルたちはご主人様と一緒に戦えるんだ!」


 突如、魔王の背後から三つの強力な光が生じた。

 茜色、黒色、そして金色の光だ。

 それらの光とともに姿を現したのは、クレンとキョウ、ライナだった。


 クレンの体は茜色に輝いていた。

 キョウは黒色、ライナは金色の光をまとっている。


 茜色の光の中で、クレンが口を開いた。

「魔法を極めし私は、全ての魔法をはね返す盾になりましょう」


 すると、茜色の輝きが増してクレンの体が見えなくなった。

 光が収まると、クレンの代わりに茜色の盾が空中に浮いていた。

 その盾は、俺に向かって飛んできて、左腕にピタリと装着した。


 キョウは不敵に笑った。

「生と死を司る余は、全ての物理攻撃を防ぐ鎧と化さん」

 黒い光が強さを増すと、キョウの代わりに漆黒の鎧が出現した。

 鎧はやはり俺に向かって飛んで来ると、俺の全身を覆った。


 ライナは楽しげに言った。

「空を支配する私は、光の速さで移動できるマントに」

 金の光が消えると、ライナの代わりに金色のマントが現れた。

 マントはふわりと浮き上がると、俺の背中にひるがえった。


「スキル『アイテム化』だと!?」

 動揺した声を発したのは魔王だった。

「またしても私の邪魔をするのか!? メリッサ!」


 メリッサ。

 母さんの名だ。

 2千年前に魔王を倒した伝説の勇者の名前。


「これで5人一緒に戦えるね」

 メルが振り向き、俺を見つめた。

 その身は七色の光に包まれている。


「聖なる私は、魔王を討ち倒すつるぎになるね」

 確かなほほ笑みを光の中に残し、メルの姿が消えた。 


 メルが消えた後、俺の右手は1本の銀色の剣を握り締めていた。

 いつの日か聖地で対峙たいじした聖剣だった。


 茜色の盾、漆黒の鎧、金色のマント、そして銀の聖剣。

 これらの武具とアイテムから、天と地から祝福されたかのような圧倒的な力を感じた。

 そのおかげで、俺の心から焦りや恐れ、不安といった負の感情が消え去って行く。


 戦える!

 胸に勇ましい、勇者としての気持ちが蘇ってきた。


「貴様を討つ!」 

 俺は聖剣の切っ先を魔王に向けた。


「不愉快だ!」

 魔王は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

「2千年前を思い出す! あの時のメリッサと同じ装備、同じ台詞せりふ。しかも顔までそっくりだ!」

「じゃあ、2千年前と同様に、人間ごときに討ち滅ぼされるんだな!」


 先に動いたのは魔王だった。

 奴が掲げた右手の先に巨大な白い球体が浮かんだ。

 クレンを倒した魔法だ。

 

 魔王が右手を振った。

 その動きに応じ、白い球体が俺を目がけて突っ込んできた。


「クレン! お前を信じる!」


 俺は左腕の盾を前に出し、白い球体に当てた。

 その瞬間、白い球体は盾によって弾き返された。

 

「おのれ!」

 続いて魔王は俺に向かって躍りかかった。

 魔法が効かなかったので、物理的に攻撃しようという訳だ。

 猛スピードの拳と蹴りの連打が俺を襲う。


 だが、俺はビクともしなかった。

 魔王の攻撃の全てを漆黒の鎧が防いでいた。


「チッ!」

 魔王は飛び退いて距離を取ると、両腕を広げた。

「私の攻撃が効かないのであれば、押しつぶしてやる!」


 途端に、俺の四方を取り囲むように巨大な黒い壁が出現した。

 見上げれば、上にも壁がある。


「潰れろ!」

 魔王が両手を合わせるのを合図に、周囲の壁が俺に向かって一気に押し寄せた。

 

 ――グッシャン!

 壁同士が派手な音を立てながら衝突した。


 だが、その中心にすでに俺の姿はない。

 金色のマントをひるがえし、一瞬にして壁の外へ移動したのだ。


「おのれ! おのれ!」

 魔王はありとあらゆる魔法を連発しつつ、同時に俺に向かって拳と蹴りを叩き込んできた。

 俺は超高速で動き回り、奴の大半の攻撃を避ける。

 そして、どうしても避けきれないごく僅かな魔法と拳だけを、盾と鎧で防いでいく。

 俺はまったくダメージを受けない。


 だが、まだ俺が一撃を入れられる隙は魔王にはなかった。

 俺は聖剣を両手で握り締めながら、超高速で魔王の周囲を回転し始めた。

 魔王の魔法攻撃が雨あられと降り注ぐが、全てを避け、盾と鎧で弾く。


「人間ごときが!」

 次第に魔王が焦り始めた。

 奴の心の動揺が手に取るように分かる。

 俺は聖剣を握り直した。

 

 一撃だ。

 たった一撃でいい。

 奴の体を聖剣で斬れば、それだけで倒せる。

 そんな確信が俺に胸に湧き上がる。


 そして、攻撃の機会は、突然に現れた。

 魔王の右手の親指が突如として崩れ落ちたのだ。


 ――この体は間もなく朽ちてしまう。

 先ほど、魔王が自分で言った台詞だ。

 奴は自分の体を維持できなくなっているのだ!


 俺はあえて動きを止め、魔王の前方に立った。

 魔王は、親指がなくなった自分の右手と俺を交互に見つめた。

 

 そして、咆哮した。

「早く、貴様の肉を食わせろ!」

 魔王は牙をむき出しにしたまま突進してきた。


 その焦った血走る目。

 直線的で単純な動き。

 全てが隙だらけだった。


「メル! 行くぞ!」

 俺は聖剣を上段に構えると、魔王めがけて走った。

 奴の両腕と牙が襲いかかってくるが、遅い!


 一閃!


 確かな手応えが両手に伝わった。

 魔王の姿は真っ二つになった。


 左右に斬り別れた魔王の顔が醜くゆがみ、それでもなお口を開いた。

「人間ごときが、1度ならず2度までも私の邪魔をするのか!」

 

 聖剣が触れた場所から魔王の体がちりのように砕け、どんどんと崩れさっていく。

 どうやら、聖なる力によって魔王の復活能力が無効化されているようだ。


「だが、これで終わりではないぞ! 力を蓄え、2千年後にまた復活してやる! その時こそ人類は皆殺しだ!」

「2千年後も人間が勝つ。なんせ、しぶといからな」


 魔王の、いや親父の体が塵となって消えていく。

 その観念したかのような顔は、どこか俺に向かって笑いかけているかのように見えた。


「アラン! 貴様を作り、育てたことは最大の失敗だったようだ」

「俺は感謝しているよ。それじゃあ、2千年後に会おうぜ、クソ親父!」

 俺がしゃべり終わると、魔王の体は完全に消え去った。 

 

 最後まで残った魔王の瞳は、俺の顔を確かに捉えていた。

 その瞳は、幼少期の俺を見つめていた時とそっくりだった。

 瞳はわずかにうるみ、少し寂しそうに見えた。

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