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5人一緒に

 七色の光が収まると、瞳に戸惑いと失望の色をたたえた魔王が目の前にいた。

「こ、こんなことがあっていいのか!? 私の血の支配が貴様の体からなくなっている! な、何をしでかしたのだ!?」

「スキル『擬人化』だ。俺はお前の血を捨て、人間になったんだ」


「私の血を? いや、それだけではないぞ! 神々の加護すらも感じとれなくなっているぞ!!」

 ああ、なるほど。

 それで、神々の加護のおかげで習得できたスキルや戦闘力が失われたのか。

 俺は、まるっきりただの人間になったって訳だ。


 魔王の瞳が怒りに燃えた。

「分かっているのか!? そのくだらないスキルの所為で、聖と邪が混じり合った最高のうつわが消え失せたのだぞ!!」


「それが目的だ」

 俺は口の端を上げて見せた。

「ざまーみろ。クソ親父」

「き、貴様ぁああああ!!!」


 魔王は俺の体を軽く空中に放った。

 奴が拳を握ったのが見えた。

 思いっきり殴られるのだと思った。


 しかし、殴られる以前に、弱体化した俺の体は魔王から発せられる障気に耐えられなかった。

 奴の拳が届く前に、俺の体は障気に弾かれ、あっと言う間に後方へと吹き飛ばされた。

 それも、まるで放たれた矢のような速度で。


 周囲の柱がどんどんと前方に過ぎ去っていく。

 そんな凄まじい速度で飛ばされながら、

 ――死んだ。

 と覚悟した。


 スキル「能力値開示」で測らずとも分かる。

 俺の今の戦闘力は凡人並みだ。

 このまま床に叩きつけられれば命はない。


 俺の体は、すでに魔王の姿が見えない距離まで飛ばされている。

 わずかに高さが低くなってきたことが分かる。

 俺の体は、そのまま大理石の床に衝突する……はずだった。

 だが、予想に反し、とても柔らかくて強く、温かいものに優しく受け止められた。


 俺の頭上に朗らかな声が降ってきた。

「ご主人様、大丈夫?」

「メル!?」 


 俺は背後からメルにしっかりと抱きかかえられていた。

「メル!! 生きていたのか!!」


 その事実が本当に嬉しい。

 自分の命が助かったことよりもだ!


「さっきまで気を失っていたけど、元気だよ」

「そうか! 良かった。本当に良かった!」


 俺は体を反転させて、メルと向かい合った。

 すると、メルが心配そうに俺の顔をのぞきこんだ。


「ご主人様は、どこか痛いの?」

「大丈夫。けがはない」

「でも、ご主人様、泣いてるよ」


 俺は目元をぬぐった。

 そこには確かに涙があった。


「これはうれし涙だ。メルが無事だったからな」

「なーんだ。心配して損しちゃった」

 メルがにっこりとほほ笑んだ。


 その笑顔を見て思う。

 まったく、俺はメルに命を救われてばかりだ。


 その時、背後からどす黒い障気が近づいてくるのが分かった。

 魔王がこちらに向かっている。

 だが、幸いにもメルが無事だった事実を奴はまだ知らない。


「メル、逃げろ。魔王の怒りは俺に向かっている。この隙にクレンたちを連れて逃げるんだ」

 俺はメルの目を真っすぐに見つめた。

 いつもはメルに命を助けられているが、今回は俺が犠牲になって助ける番だ。


 だが、メルは首を横に振った。

「イヤだもん!」

 メルはぎゅっと俺を強く抱き締めた。

「5人一緒じゃなきゃ、ダメなんだよ」


 俺とメルの頬が触れ合った。

 メルの頬には温かい涙が流れていた。


「分かってくれ。俺は弱くなった。もう戦えないんだ。こんな役立たずの勇者は捨てて、みんなで逃げるんだ」

「やだもんっ! そんなの、絶対にやだもんっ!」

「メル……」

 俺の流した涙とメルの涙が混じり合った。


 その時、俺の背後で足音が止まった。

 振り返ると、少し離れた場所に魔王がいた。

 憤怒の表情をそのままに、奴が口を開いた。


「アラン! 貴様を殺す。その身を八つ裂きにして食らい、我が糧とする!」

 魔王は俺を指さした。

「腐っても我が子だ。今の私の体を維持するぐらいには役だってもらう!」


「そんなこと、絶対にさせない!」

 メルが俺の左隣に立った。

「絶対にメルがご主人様を守る!」


 メル。

 ありがとう。

 でも……。


「クッハハハハハ」

 魔王は嘲笑した。

「聖剣よ生きていたのか。だが、無駄だ。貴様では私に勝てん」

 

 悔しいがその通りだ。

 先ほどの戦いで、メルのスピードは魔王に通用しないと判明してる。

 しかも、俺が戦力にならず、足手まといになっている時点で、先ほどよりも分が悪い。


 この際、俺の命などどうでもいい。

 メルを守りたいだけだ。

 だが、どうすればいい?

 いや、もうどうしようもないのか?

 

 絶望を感じ始めた俺の左手が急に温かくなった。

 メルは、俺の手を握ると、魔王に向かって力強く言い放った。

 

「勝てるもん! メルたちが力を合わせれば勝てるもん!」

「力を合わせる? アランがカスに成り下がったことすら分からんのか?」

 魔王は嘲笑を続けた。


「メルたち5人が一緒なら、絶対に勝てるもん!」

「5人だと?」

 眉間にしわを寄せた魔王の後ろに人影が現れた。


 一人は、黒焦げになった修道服姿の女の子だった。

「そうです。5人一緒なら勝てます。さすがはメルさんです」

 クレンだった。


 その隣に、ところどころ破れた軍服姿の小柄な女の子が並び立つ。

「魔王よ。余に恥をかかせた罪はつぐなってもらうぞ。絶対にだ」

 キョウがいた。 


 さらに1人、苦痛に顔をゆがめながら褐色金髪の女の子が歩んできた。  

「マジでムカつくんですけど。でも、次は本当マジ本気マジで行くから」

 ライナだ。


 それぞれに相当のダメージを受けているようだが、生きている!

 俺の胸に歓喜が広がる。

「みんな無事だったのか!」


 よかった。

 まだ、誰も死んでいない。


 5人で同時攻撃すれば、万が一に逃げるチャンスがあるかもしれない。

 わずかばかりの期待が生じる。

 

 しかし、魔王は余裕さを失わない。

 自分の後ろにいるクレンたちを振り返りもせずに嘲笑を続ける。


「クッハハハ。死に損ない4人とカス1人が集まって何ができるというのだ?」

 魔王を嬉しそうに俺を見た。

「聖剣たちの攻撃は、どれも私に傷一つ負わせられなかったではないか」 


 確かにそうだ。

 しかも、クレンたちは明らかにダメージを負っている。


 やはり状況は、先ほどより悪い。

 だが、それでも……。

 俺はメルたち4人の命を諦めない!

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