女と犬
なるほど、この変態女と獣人は魔将軍というわけか。
「ご主人様、お友達の魔族の人がまた来たよ。しかも、変態さんとワンコだよ」
メルが俺の横で嬉しそうに声を上げる。
「お友達……ついに俺たちはそんな深い関係になったんだな」
メルの言葉を聞いたケイオスは、感激した様子で涙を拭いた。
そして、
「でも、友達だからって許してやらないからな! てか、友達だからこそ殺す!」
と言って、再び俺にバスターソードの切っ先を向けてきた。
こいつとは一生友達にならないでおこう。
「ふっ、ついに俺相手に魔将軍3人がかりとはな。だが、それで俺に勝てるとでも?」
俺は事もなげに言い放ってやった。
魔将軍はいずれも一騎当千のつわもの揃いと聞いている。
その証拠にケイオスは戦闘力2588の実力者だ。
魔族一の剣の使い手はだてじゃない。
戦闘力は攻撃や魔法、防御、素早さなどの総計を数字で表したものだ。
ちなみに、俺の戦闘力は7897ある。
はっきり言って魔将軍1人ごときには、負けない自信がある。
だが、ケイオスの左右に陣取るこの巨乳と獣人がケイオス以上の強さだと、少しばかり苦戦するかもしれない。
戦闘の前に、スキル「能力値開示」で新手の2人の戦闘力を測っておく必要がある。
その時間稼ぎのために、俺はわざとらしく眉根を寄せて思案顔を作った。
「アランちゃん、どうしたの? もしかてビビってる?」
巨乳の変態ダークエルフが口元に手を当てながら嘲笑した。
引っ掛かりやがった。
これで会話を続けながら「能力値開示」でお前らの戦闘力を測るとしよう。
「ビビってんのは巨乳ちゃんの方だろうが。すぐに3人まとめて返り討ちにしてやるよ巨乳ちゃん」
「巨乳、巨乳って言うな! 私は召魔将軍ベイルーナ様よ!」
「キャンキャン吠えるな巨乳ちゃん」
そう言いながらスキル「能力値開示」を使って巨乳ダークエルフの戦闘力を測った。
俺だけに見える数字が女の頭上に浮かぶ。
――戦闘力1393。
騎士団長クラスが100人がかりで戦えば万が一に勝てるレベルだ。
つまりは全然たいしたことない。
心配して損したじゃねーか。
「……アランよ。減らず口はそこまでた」
今度は人狼が重低音の声を静かに響かせた。
「口の聞き方に注意しろよワンコ君」
人狼の戦闘力もスキルでチェックする。
狼の耳の上に数字が浮かぶ。
――戦闘力2472。
おっと、こいつはちょっと危険!
ケイオスとこの人狼が同時に攻撃してくると厄介だな。
「……我が名はワンコにあらず。獣魔将軍ポチだ」
いや、ワンコじゃん。
「ポチ! おーい、ポチ!」
人狼の名乗りを聞いたメルが大喜びで手を振った。
「ポ~チ。こっちおいで~、なでなでしてあげるよ」
ニコニコの超絶笑顔でポチ将軍を手招きするメル。
「……人間ごときが拙者に触ろうなど無礼千万」
ポチ将軍はくだらなそうに視線をメルからそらした。
ただ、大きな尻尾がパタパタと左右に揺れているので、案外と嬉しいのかもしれない。
しかし、メルはこの緊迫した雰囲気でも朗らかなままだな。
やっぱり聖剣ゆえの強さと自信から来る余裕なのだろうか。
そうだ俺にはメルがいるじゃないか!
伝説の聖剣であるメルが一緒に戦ってくれれば楽勝だろう。
「メル。解放した途端の仕事で悪いが、さっそく戦闘だ!」
「戦闘? この3人は敵なの?」
メルがキョトンとした顔で3将軍を見比べた。
聖剣に見つめられた3人はその戦闘力を警戒するかのように半身を引いた。
「ご主人様、分かったよ」
メルが俺にほほ笑みかけてきた。
「そうか、一緒に戦ってくれるのか!」
俺の心が大きくときめいた。
何せ聖剣を使った戦闘こそが勇者の本領発揮だ。
幼い頃からこの瞬間を何度夢見たことか。
「聖剣の姿に戻って俺がメルを振るうか? それとも、メルはこのまま人間の姿で戦いたいか?」
「うーんとね」
俺の問いにメルが小首を傾げた。
「俺はどっちでもいいぞ」
「うーんとね。どっちもナシかな」
「はい?」
「どっちも面倒くさいからムリだよ」
「全然、分かってねーじゃねえかあああああ!!!!」