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真打ち登場!

 困惑のあまり意識が一瞬、遠のいた。

 その一瞬で、聖都を出立してからの出来事が脳内で再生された。


 ふっ、まるで死の直前に見る走馬灯のようだ……。

 つまりは、かなりマズい状態だ!

 誰か助けてくれ!


「だんな様! このまま、みんなの前で結婚式するしかないっしょ!」

 ライナが幸せ満点の笑顔で俺の右手を引っ張った。

「まっ、待て! 結婚式なんてしないぞ!」


「そうだよ~。ご主人様はメルと結婚するんだよ~」


 妙に間の抜けたメルの声が響いた。

 ……メル!?


「メル!!!!!」


 俺は慌ててメルの声がした左側を見た。

 そこには、俺の左腕をギュウって抱き締めるメルの姿があった。


「メル! お前、どうしてここに?」

「え~とね。ドラゴンでお城に戻ってきたリューイさんが、ご主人様がピンチだって言うから飛んできたよ! 偉い?」

「偉い!!」


 リューイは逃げたんじゃなくて、応援を呼びに行ったのか!

 そして、メルは、ほぼ瞬間的に俺のそばまで飛んでこられる能力を使って、ここにいるって訳だな!


「わ~い、褒められちゃった! やったー! じゃあ、なでなでして」

「よし! なでなでしよう! 無限にしよう!」


 俺は右手でメルの頭を撫でようとしたのだが、その動きは思いっきりライナに阻止された。


「ちょっと、だんな様! この女、何!?」

 ライナがものすごっく不機嫌な剣幕で俺をにらんだ。

 すると、俺が答える前にメルが口を開いた。


「メルは、ご主人様のお嫁さんだよ」

「お嫁さん!?」

 ライナの顔が驚愕でゆがんだ。


「うん! 魔王をやっつけた後に結婚するって約束したんだよ」

「結婚を約束!?」

 ライナは口をパクパクさせて、メルと俺を交互に指さした。


 そして、その指を俺で止めると、絶叫した。

「う、浮気じゃぁぁぁぁあん!」


「いや、浮気ではないよね。そもそもライナとは、そういう関係ではないよね」

「じゃあ、この女とは、もうそんな関係なんだ!」

 ライナは聞く耳を持たずって感じで眉を釣り上げると、上位竜たちに話し掛けた。


「ちょっと、みんな聞いた? ひどくない?」

『仰せの通りかと』


「だよね! じゃあさ、この女のこと、やっつけちゃってよ!」

『仰せのままに!』


 上位竜たちは一斉にメルの方に首を向けた。

 そして、牙をむき、巨体を揺らし、尾を大地に打ちつける。

 上位竜たちがメルに攻撃をしようとしている!


「ライナ! やめさせてくれ! メルは何も悪くないだろ!」

「やだ! だって、ムカつくんだもん!」


 俺が必死にライナを説得する傍らで、メルは俺の左腕を離して軽やかに前へ一歩を踏み出した。

 メルは上位竜たちを見上げると、相変わらずにのんきな声を上げた。


「わ~、みんな大きくて立派できれいなドラゴンだね~」

「メル! 逃げろ!」


 俺の絶叫と上位竜たちの一斉攻撃は同時だった。


『死ね!』


 口を開いた上位竜たちが、するどい牙をむき出しにして、メルに襲いかかった!


「メル!」

 俺はメルの前に跳び出して、メルを守ろうとした。

 しかし、ライナにその動きを止められてしまう!


 ――ガッアアアアッン!!!


 大きな衝撃音がメルの前方で発生した!


「メル!!!」


 ……などと心配する必要はなかった。 


 メルは左手1本で6匹の上位竜の攻撃を受け止めていた。

 突き出した手の平の前方に展開された銀色の光にさえぎられ、上位竜たちはピクリとも前進できないでいる。


「う~んと。かわいそうでけど、バーンッてして、ドーンってするね」

 メルはそう言うと、右の拳を握った!


「メルメル~、パ~ンチ!!」

 上位竜たちに向かって、メルが拳を振るった!


 ――ドッッガガアアアアアン!

 派手な衝撃音が巻き起こる!

 

 その途端、  

『ギャアヤアアアアアア!!!!』

 城のごとき巨大な上位竜6匹が、まとめて世界の端へとぶっ飛んでいった!


 ――キランッ!

 上位竜たちが消えた空の向こうで星が光った。


 すごっく飛んだなあ……。

 メルの一撃って、上位竜6匹相手でも通用するんだな……。

 改めて思う。

 やっぱ、メチャクチャ強いじゃん……。


「なっ、なっ、なっ、なっ……」

 ライナがわなわなと震えだした。

「な、なんなの、この女! 強すぎじゃん!!!」

 それね。

 竜王でもそう思うんだね。


「みんな、飛んでっちゃった」

 メルがあっけらかんとした笑顔で振り返った。

 自分のとんでもない強さなど、まったく意に介していない様子だ。

そして、その笑顔のままライナを見た。


「ぎゃああああああ!!」

 ライナが絶叫した。


 そして、

「ご、ごめんなさい! 許してぇぇえぇ!!」

 と言うと、大粒の涙をポロポロと流した。


 メルは、そんな号泣する竜王に向かって黙って歩み寄っていく。

 これはメルメルパンチかなと俺は思った。


 おそらく、ライナもそう思ったはずだ。

 だからこそ恐怖で全身を震わせて、激しく泣いているんだ。


 メルはライナの目の前まで歩み寄ると、両手を振り上げた。

 「ひっ!」 

 ライナの身がギュっと固まる。

 

 メルは振り上げた両手をライナに向かって振り下ろす。

 そして、震えるライナの身を、そのまま優しく抱き締めた。

 

『え?』

 驚く俺とライナを尻目にメルは、申し訳なさそうに声を上げた。


「怖がらせてゴメンね。なでなでしてあげるから、許してね」

 メルはそう言うと、涙を流し続ける竜王の頭をゆっくりと何度も撫でた。


「ひっぐぅうう。わ、私のこと許してくれるの?」

「うん。というか、最初から怒ってないよ」

 メルのニコニコの笑顔を見て、ライナは一瞬だけ涙を止める。


「うわ~、メチャクチャいい子じゃん!!」

 ライナはそう言うと、メルを思いっきり抱き締めた。

 そして、別の意味の涙を流し、わんわんと泣きじゃくった。

 

 いい子か……。

 それな。

 俺も改めてそう思ったわ。

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